―――汝は過去の罪に引きずられし弱き者か?―――

          ―――それとも過去の罪に贖い立ち向かいし強き者か?―――

             ―――さあ!汝の強さを見せてみよ!!―――


                 リリカルプロファイル
                  第二十五話 三層


 エリオ達の活躍により見事第二層をクリアした一同は、第三層へと続く下り階段を下りていると、
 フェイトは二人から試練の内容を伺い、更には手に入れた力をも見せて貰っていた。

 二人が得た力は圧倒的で、エリオの力は自分がかつて使っていたソニックフォームと似た性質を持っていると感じ、キャロのその力は強大さを感じており、
 そしてスバル達の試練とは異なる内容に、どうやら一人一人異なる内容の試練を受けるのだろうという印象をフェイトは受けていたのであった。

 そして色々考察している内に第三層へのゲートが姿を現し、一同はゲートに足を踏み入れ三層へと辿り着く。
 第三層はピンクに似た紅い空間が広がる以外、他の場所と代わり映えの無い造りに
 どうやら試練を受ける場の造りはどこも一緒なのだろうと言う印象を受ける一同。
 そしてその場に暫く待機しているとはやてとヴォルケンリッターの面々が光に包まれ始める。

 「どうやら次は私等みたいやな、みんな!気ぃ引き締めてぇな!!」

 はやての言葉にヴォルケンリッターの面々は力強く答えると、完全に光に包まれ転送され、
 残された一同の中で、なのはは顎に手を当て何かを考え込んでいた。

 …今までの試練は二名ずつであった、しかし今回の試練ははやて達五名、リインを含めたら六名である。
 …もしかしたら今回の試練は熾烈なモノになるのではないのかと、ボソリと言葉を口にすると
 ディルナがあっけらかんとした口調でなのはの疑問に答える。

 「あぁ~多分、残り二層ですからペースを上げたんだと思いますよ?」

 残り二層、神の住まう場所は第五層である事を考慮すると残りの試練は一層のみである。
 だからこそ此処で一気に纏められたのだろう…と言うのがディルナの考えである。
 なのははディルナの答えに…自分の考えは杞憂過ぎたのではないのかと思い、溜め息を吐きつつ俯くのであった。


 一方転送されたはやては周りを見渡すと近くにはヴォルケンリッターの面々が姿も見受けられていた。

 「なんやぁ~、みんなも一緒やな」

 どうやら今度の試練はみんなと一緒のようで、今まで聞いていた話とは異なる状況に、
 警戒心を浮かべ皆に促すと、奥に進み始めるはやて達。
 そして広場に辿り着き足を踏み入れると中心から一つの影が一同の前に姿を表す。

 その姿は銀色の長髪に紅い瞳、頭には一対、背中には二対の漆黒の翼が存在し、服装ははやての騎士甲冑そのものであった。
 その姿に見覚えがある一同の中、はやてがゆっくりと…まるで確かめるように言葉を口にする。

 「まっまさか……“リイン”か?」
 「お久しぶりです、マイスターはやて」

 はやての問い掛けに頷く“リインフォース”、しかし“リイン”は十年前にはやて達の手によって消滅されたハズである。
 すると“リイン”は説明を始める、確かにはやての言う通り自分は十年前、闇の書と共に消滅した。
 だが消滅する瞬間“リイン”は此処に存在する神によって拾われ、更に本来の姿である夜天の書の“リイン”として復活させて貰い
 此処セラフィッゲートにてはやて達を見守っていたと話す。
 そう話をしていると“リイン”はリインに目を向け話し掛けて見る。

 「…貴女が私の生まれ変わりですね」
 「ほらっリイン、“お姉ちゃん”やで」
 「“お姉ちゃん”…ですか?」

 リインははやてを盾にしつつ顔だけ覗かせ“リイン”を見つめていると、“リイン”は笑顔で返す。
 すると“リイン”は、はやてに目線を変え先程とは異なり険しい顔になると、ゆっくりと言葉を口にし始める。

 「しかしマイスターはやて、いや…八神はやて、何故貴女は夜天の書を使わないのですか?」

 いや…正確に言うと夜天の書を使おうとしていないと指摘され口を紡ぐはやて。
 十年前不本意とはいえ、はやてを助ける為とはいえ闇の書の完成の為に多くの魔導師、魔法生物を犠牲にしてきた。

 はやての心の内には未だにその時の罪の呪縛が存在しており、それが枷となって夜天の書を使う事に躊躇していた。
 …確かにかつてはやては咎人であったが既に贖罪は済んでおり、いつまでも終わった罪を引きずって生きる訳にはいかない、
 それに…もしはやてが夜天の書を扱えていたら管理局の被害は軽く済んでいたハズだと“リイン”は語る。

 「…元々夜天の書は神の力を模して作られたデバイスですからね」
 「なっなんやて!?そりゃどういうことや!」

 “リイン”の思わぬ告白にはやては問い掛けると、その問い掛けに答えるには
 先ず真のベルカの歴史を紐解かないといけないと“リイン”は話を続ける。

 …かつてベルカと呼ばれる先史時代より遙か前、彼の地に一人の邪悪な神が存在していた。
 その神は愛する者と生を分かち合う為、自らの世界を作り出し、彼の地を滅ぼそうとしていたのだが、
 邪悪な神は愛する者と、その者の仲間の手によって打ち倒され彼の地は救われる事となった。

 そして愛する者は自らの世界へと帰り、仲間の一人はヴォーダンと名を変え、世界の行く末を見守っていた。

 …時は経ちヴォーダンは「世界に最早、神は必要ない」という考えに至り、一族を率いて世界を後にする事となる。
 それから悠久の時が流れ世界は様々な変革が起き、その後その世界はベルカと呼ばれるようになった。

 そして当時のベルカ王は配下から一つの資料が渡される、それは神の力が描かれた碑文であった。
 王はその碑文を元に一つのデバイスを作り上げた、それが夜天の書なのである。

 だが当時の夜天の書は魔力タンクと収集した魔法のデータベースの役割を持つストレージデバイス、
 それらの魔法を行使する為の強固な砲台代わりのアームドデバイス、
 そして魔法制御の為インテリジェントデバイス以上の魔力制御を誇るマスタープログラムが主であった。

 しかし何代にも分け夜天の書は使われいく内に、様々な魔法の情報や強化などが施されていき、
 作成されてから100年後、一人の領主が夜天の書を盗み出し無謀な強化により
 今まで蓄積されていた魔法情報や魔力が暴走し闇の書と名を変え世界から忽然と姿を消した。
 そして夜天の書を無くした当時のベルカ王は、後に聖王と呼ばれる一族の手よって討ち滅ぼされ
 その後一族は当時でもロストロギアとされた戦船を駆り世界を越権したという。

 そして聖王の一族は後にゆりかごと名を変えた戦船にてミッドチルダに攻め込むが敗北、
 あらゆる平行世界を巻き込みながらベルカは崩壊し、生き残った民はミッドチルダでひっそりと暮らす事となったのだ。

 話は戻し現在、夜天の書は破片を元にレストアされた物である、しかし今のままのはやてではその力さえ制御出来ないと“リイン”は語る。

 「今の貴女では夜天の書に振り回されるだけ、だから私がその力の使い方を体で教えます」

 そう言うと右手にはシュベルトクロイツを左手には夜天の書が姿を表しシュベルトクロイツではやてを指差す“リイン”
 その姿に“リイン”の本気を見たはやては、気を引き締めヴォルケンリッターと共に対峙するのであった。

 双方は一歩も動かず辺りは静寂に包まれる中、最初に動き出したのはシグナムであった。
 シグナムは“リイン”の頭上まで飛び上がると鞘からレヴァンティンを引き抜き
 カートリッジ一発を消費、刀身は炎に包まれると、紫電一閃にて一気に振り下ろす。

 「シュベルトクロイツ、モードソード」

 “リイン”は一言言葉を口にすると、シュベルトクロイツの柄が拳二個分にまで縮み
 先端の剣十字を囲む円が小さくなりそこから左右に伸びる切っ先が伸び鍔に変わると
 上に伸びる切っ先が更に伸びて広がり両刃の長刀に変化する。
 すると足元に三角の魔法陣が展開されると刀身は炎に包まれ“リイン”はシグナムを見上げる。

 「紫電……一閃!」

 そして“リイン”が放つ紫電一閃が交差し、シグナムを紫電一閃ごと吹き飛ばす。
 するとヴィータがラテーケンハンマーの準備を行っておりそれを目撃した“リイン”は――

 「シュベルトクロイツ、モードハンマー」

 と言うと今度は柄が元の長さに戻り剣十字が巨大化すると、右先端の剣先も合わせるように太く巨大化しハンマーのような姿に変わる。
 そして右先端部分は魔力で覆われ始め左先端部分には魔力が収束していた。

 「スレイプニール起動、ラテーケンハンマー」

 そして“リイン”はハンマーの先端を対象に向け横に構えると、背中の四枚の翼から魔力が放たれ加速し、それに合わせるようにハンマーから魔力が推進力として放たれ
 更に加速しヴィータの目の前にて振り抜かれると、ヴィータはまるで弾丸を思わせるような勢いで吹き飛ばされる。

 ヴィータを迎撃する為に敵陣の中心まで移動した“リイン”を後目に、ザフィーラははやての護りに入り
 シャマルがバインドで“リイン”を拘束しようとすると
 “リイン”の足元が魔力の渦に覆われ瞬間移動のように後方へと移動する、フェアーテと呼ばれる高速移動魔法である。

 するとシグナムとヴィータが雪辱を晴らすとばかりに“リイン”に飛びかかるかのように襲いかかるが
 シグナムの一撃をパンツァーシルト、ヴィータの一撃をプロテクションでそれぞれ防ぎ、
 シュベルトクロイツをソードに切り替えると衝撃波にて二人をはやての方向へ吹き飛ばし、シュベルトクロイツを杖に戻す。

 一方吹き飛ばされた二人は姿勢を直し床に着地、“リイン”を睨みつけると“リイン”は杖で地面を一つ思いっきり叩いている姿を目撃する。
 するとはやて達がいる床から魔力の楔が襲いかかり次々と体に突き刺さる。

 「これは……鋼の軛!?」

 “リイン”の鋼の軛は強固で中々外せずにいると、リインの頭上に巨大な漆黒の球体が姿を表す。
 それははやて、そしてヴォルケンリッターもまた見覚えのある代物であった。

 「アレはまさか?!」
 「…遠き地ににて、闇に沈め……デアボリックエミッション!」

 撃ち出されたデアボリックエミッションは、はやて達を飲み込みそれを見つめている“リイン”
 デアボリックエミッション、十年前の闇の書の頃から存在する純粋魔力による広域攻撃魔法である。
 そして撃ち出された跡地にははやて達が倒れていたが、うつ伏せの状態からゆっくり起き上がるはやてとザフィーラに、
 仰向けの状態からシグナムとシャマルとヴィータがゆっくりと起き上がり“リイン”を睨みつけシグナムとはやては愚痴を零す。

 「なんて強さだ!」
 「…それだけやない、魔法の詠唱が早すぎる!」

 本来広域攻撃魔法は10~15秒、範囲によれば20秒ほど時間が掛かるのだが、
 “リイン”のそれは5秒も掛からず撃ち出しており、本来なら有り得ない速度であるとはやては指摘する。
 すると、それを聞いていた“リイン”がはやての疑問に優しく答える。

 夜天の書は大きく分けて三つに分かれている、魔力タンクの意味合いを持ち魔法のデータベースとも言えるストレージデバイスの夜天の書
 魔法の特徴や性質によって変化するアームドデバイスのシュベルトクロイツ
 そして魔力・魔法を管轄、制御するマスタープログラムのリインフォースである。

 この三種はそれぞれ単独に使用することが出来るのだが、
 使用者またはマスタープログラムの意志により個々のデバイスをリンクさせる事で様々な効果を発生させる事が出来るという。
 先ずは夜天の書に蓄積された膨大な魔力と使用者のリンカーコアをリンクさせる事で
 魔力に循環に近い流れを発生させ、無限に近い魔力の供給を誇る事が出来る。

 次にシュベルトクロイツはその魔力に耐えきれる程の頑丈さを持つアームドデバイスで、
 使用者意志や使う魔法に応じて姿形を変える事が出来るようになっている。

 最後にマスタープログラムによって蓄積された魔法技術の応用、複合などを行う事ができ、
 更には三種のデバイスの詠唱処理などをリンクさせる事で詠唱を高速化させ、最速で魔法を撃つことや威力を高める事も可能であると告げる。

 これらの能力は夜天の書の頃から持つ能力で、これを応用すれば守護騎士達に魔力を供給したり、共用したりする事が出来るのだが、
 レストアしたはやての夜天の書は不完全な為、難しいと告げられる。

 そして今の“リイン”には使用者が不在な為、自身の能力と二種のデバイスの能力のみ使用しているのだが
 それでも今のはやてとヴォルケンリッター以上の能力を持っている事になる。

 「くぅ…ホンモンの夜天の書がこれほどのもんっちゅうのか…」
 「どうしたのです?怖じ気づいたのですか?」

 夜天の書の実力がこれほどの物とは思っても見なかったが、
 このまま“リイン”に倒され地を這い蹲るままでは部下に顔向け出来ないと、決意あるの瞳で見上げ立ち上がるはやて達。
 此処で自分達が負ければ部下達の今までの苦労が水の泡である。

 それに力を使えない未熟さは、今此処で補う!“リイン”もまた同じ事を考えているだろう…
 ならば此処で倒れている訳にはいかない!…そう自分を鼓舞するとリインに命じる。

 「リイン!ユニゾンや!!」
 「分かりましたぁ!!」

 はやての命に答えたリインは、はやての中に取り込まれるように消えると、はやての瞳が青くなり甲冑も黒から白へと変化した。
 そしてヴォルケンリッターに命じると力ある瞳で“リイン”を見つめ構えると、“リイン”もまた呼応するようにはやて達を見つめ構える。

 先ずはヴィータが牽制とばかりに八発のシュワルベフリーゲンを撃ち抜く。
 シュワルベフリーゲンは上空と左右に二つずつ弧を描くように“リイン”に襲いかかり、残り二発は正面から真っ直ぐ“リイン”に向かっていた。
 しかし“リイン”はパンツァーヒンダネスにてシュワルベフリーゲンを受け止め四散させると、そのタイミングに合わせてザフィーラが突撃

 右拳を握り締め魔力で覆われると勢い良く振り抜く、しかしそれも“リイン”のラウンドシールドにて防がれてしまう。
 するとシャマルがバインドで縛り上げようとするが“リイン”はフェアーテを用いて上空へと逃げ込む。
 しかしそれを見通してシグナムが居合いの構えにて“リイン”を見上げており、刀身から二発の薬莢が排出される。

 「飛竜一閃!!」

 鞘から抜き出された連結刃には魔力と炎が乗っており真っ直ぐ“リイン”に向かっていく、
 一方“リイン”は動じることなくシュベルトクロイツを剣に変え弓を引くように突きの構えをとると刀身には魔力と炎が纏始めていた。

 「飛竜一閃!!」

 “リイン”もまた飛竜一閃を撃ち出し互いの一撃がぶつかり合うと炎が辺りを覆うかのように爆発した。
 その中シグナムは連結刃を刀身に戻し苦虫を噛む表情で見上げていると“リイン”はまるで当たり前かのような表情で見下ろしていた。
 その時“リイン”は、はやての姿が見当たらない事に気が付き探していると、はやては遙か上空にてシュベルトクロイツを“リイン”に向け詠唱を始めていた。

 「来よ、白銀の風、天より注ぐ矢羽となれ!」

 すると投射面にミッド式の魔法陣が展開され一気に発射される。
 着弾地点から炸裂し周りを巻き込んで殲滅する砲撃魔法フレースヴェルグである。
 撃ち出されたフレースヴェルグに気が付いた“リイン”は見上げる形で見つめていると
 剣状態のシュベルトクロイツに魔力と炎が纏わせ始め突きの構えに入るる、しかしその炎と魔力は飛竜一閃以上であるのは一目瞭然であった。

 「これが、飛竜一閃の広域攻撃魔法!火龍一閃です!!」

 そう叫ぶと剣を突き出し巨大な炎がフレースヴェルグへと向かって伸びていく。
 火龍一閃、強大な魔力を誇る夜天の書の魔力により強化された飛竜一閃で、撃ち方によっては広範囲に攻撃を与えることが出来る中距離型の魔法である。

 “リイン”の放った火龍一閃はフレースヴェルグを相殺し辺りは魔力の残滓が舞い散り、
 暫くして残滓が晴れると“リイン”の目の前では杖状態のシュベルトクロイツの左右の先端から魔力糸が伸び
 円を描いて空間が造られており、上の先端部分からは白い鎖が伸び円の中を通していた。
 その光景にシャマルは見覚えがあり、問いかけるように言葉を口にする。

 「まさか…旅の鏡?!」
 「えぇ、はやてが遠くにいるので…ね」

 そう言うとはやての後方に旅の鏡で造られた空間が開き、中から白い鎖が姿を現すとはやてを縛り上げそのまま空間に引きずり込む。
 そして空間の出口でもある“リイン”の下まで引き寄せられるはやて、
 必死に鎖から解き放たれようとしているが目の前にいる“リイン”は既にシュベルトクロイツをはやてに向けている。
 そして魔法を撃とうとする瞬間、ヴィータとザフィーラが左右から姿を現し一撃を振り抜き“リイン”を吹き飛ばす。

 しかし“リイン”には大したダメージを与えることは出来ずただ吹き飛ばすのみであった。

 その頃ユニゾンしているリインが、はやてのバインドを解析、解除するとはやてはブラッディダガーを命じ
 リインは快く了承すると魔法の詠唱を短縮し始める。

 「……詠唱終了!いつでもどうぞ!!」
 「いくでぇ!ブラッディダガー!!」

 はやてが使うブラッディダガーの数は百を越えており、それらを全て“リイン”に向け撃ち抜く。
 無数のダガーが迫ってくる中“リイン”は目の前にプロテクションを展開し
 それに合わせるように次々と障壁が重なり合わせ強固な障壁となって無数のダガーを弾き返す。
 その障壁は十年前に見た事のある障壁で、思わずシグナムとはやては息をのんだ。

 「アレはまさか?!」
 「多重魔法障壁やと?!」

 それはかつて十年前の闇の書戦の際に張られた五重の魔法障壁で、
 “リイン”の能力の中に存在する魔法の複合によってこの魔法は作られたのである。

 しかしそんな事で臆する訳にはいかない、それにアレの対処は出来ており、はやては念話にて作戦を指示、
 それぞれが配置に付くとシュベルトクロイツを“リイン”に向ける。

 「今はこの夜天の書を使いこなさなあかん!いくでぇリイン!!」
 「撃ち抜いて進みます!!」

 リインの力強い返事をきっかけに先ずはヴィータがギガントフォルムに変えたグラーフアイゼンを抱えて突撃し、振り抜くとバリアが一枚砕くと、
 “リイン”はお返しとばかりにシュベルトクロイツをハンマーに変え、ヴィータの横っ面を叩き吹き飛ばす。
 次にシグナムがボーガンフォルムに変えると、その切っ先を矢尻にした矢に魔力が覆われ始める。

 「翔けよ隼!シュツルムファルケン!!」

 撃ち出されたシュツルムファルケンはバリアを二枚破壊すると“リイン”は火龍一閃にてシグナムを迎撃、
 すると今度はザフィーラとシャマルが合わせ技で鋼の軛を撃ち残りのバリアを砕くが
 “リイン”は反撃とばかりに鋼の軛を二人の身に打ち込む。
 そして正面では詠唱を終えたはやてが、シュベルトクロイツを“リイン”に向けていた。

 「遠き地ににて、闇に沈め……デアボリックエミッション!!」

 それは“リイン”が先程撃ち抜いたデアボリックエミッションであった。
 すると“リイン”もまたシュベルトクロイツをはやてに向けるとミッド式の魔法陣を足下に展開、
 そして目の前には魔力が収束し始めており、まるで流星が集まっていくように思えた。

 「スターライトブレイカー発射!」

 “リイン”は三種のデバイスをリンクさせる事で魔法詠唱の短縮高速化し更に強化も加えたスターライトブレイカーで迎撃
 見事にデアボリックエミッションを撃ち抜きはやてに迫ると、
 プロテクションとパンツァーシルトの二重障壁を張るが、無惨にも打ち砕かれ魔力の奔流に飲まれていく。

 …その流れの中ではやては自分の事を考えていた、自分は周りから最後の夜天の王や歩くロストロギアなどと呼ばれ、
 その通り名は幸か不幸か様々な人達を呼び自分には部下が付き、更には自分の夢でもある自分の部隊を持つ事が出来た。
 そして部隊の仲間と共にミッドの安全と平和を護る事、
 そして仲間がピンチな時、自分の力で仲間を救う…それが自分の力の正しい使い方だと考えていた。
 しかし実際は夜天の書を使いこなす事が出来ず、部下どころか自分の身一つ守ることが出来ないただの小娘であると実感していた。

 (アカン……もう…ここまでや……)

 自分の無力さを不甲斐なさを噛み締め、はやての瞳にはうっすらと涙が滲み始め心の内で呟くと、一つの念話がはやての脳裏に響き渡る。

 (主はやて!諦めないで下さい!!)

 その声の正体はシグナムであった、…自分は守護騎士である、守護騎士は主を護る為ならば決して諦めはしない、
 だから…主であるはやても諦めないで欲しいと力強く言葉を口にすると、次の念話がはやての脳裏に響く。

 (シグナムの言う通りだ!それにアタシ達ははやての戦う姿を見てきた!!)

 その声はヴィータであった、…はやては幼くして大きな十字架を背負う事になった、その十字架のせいでいらぬ誤解や問題が発生した事もあった。
 しかしはやては自らの罪を背負い問題や誤解を解き此処までやって来た、その姿を身直でずっと見てきたからこそ、
 はやての側にいる!と語ると新たな念話が届く。

 (我々は貴女の強さを知っています、だから信じて下さい自分の力を!)

 ヴィータの答えに呼応するようにザフィーラが言葉を口にする。
 諦めなければ必ず辿り着く、それが主と共に歩き過ごした答えであると。
 そのザフィーラの言葉にヴィータは賛同し頷くとはやては呟くように念話を送る。

 (せやけど私には―――)
 (いい加減にしなさい!はやてちゃん!!)

 はやて叱咤する声…それはシャマルであった、はやては最初に自分達と出会った時家族だと言った。
 その言葉は何百年に渡る主の中で最も異質で最も優しい言葉で、力を欲しない唯一の主でもある事を悟らせた。
 その主が手にした夜天の書と言う強大な力、しかもその力は他人の魔力を蒐集する事により得られる力
 それは優しいはやてにとっては皮肉とも言える力である。

 だが、そんな忌むべき力であろうとも皆を護る為には必要な力でもある。
 だからこそ、今こそ、その力を操れる様になって欲しいと、自分達を家族として受け入れてくれたはやてなら扱えると、力強く言葉を口にする。

 その言葉にはやては、目を瞑りじっと静まる、すると自分の中にヴォルケンリッターのみんなとの繋がりを感じ、
 それに呼応するように夜天の書、シュベルトクロイツ、リインフォースIIとの繋がりも感じていた。

 「そうか…これが精神リンク……絆っちゅう奴なんやな!」

 守護騎士達との感情の共有と夜天の書に存在する魔力の供給、
 そして三種のデバイスとのリンク、それら全てを知ったはやては静かに目を開き始めていた。

 「シュベルトクロイツ!モードソード」

 次の瞬間、はやての手に握られていたシュベルトクロイツが“リイン”と同様の剣に変化すると刀身には炎が纏っていた。

 「いくでぇリイン!」
 「了解です!!」
 『紫電…一閃!!』

 そしてスターライトブレイカーを切り裂くと中からはやてが姿を現し、その瞳には迷いが無く決意の色がが滲み出していた。
 その瞳を見た“リイン”は、はやてはきっと迷いを振り切ったのだろうと感じ、真剣な目つきではやてを見つめる。
 するとはやてを介して夜天の書の魔力が流れていき
 ヴォルケンリッターの姿はまるでリインとユニゾンしたかのように騎士甲冑は白く変化していった。
 精神リンクによりユニゾン効果を共用した結果である。

 そして最初にシャマルが動き出し両手を広げはやて達を見つめると、はやて達はオレンジ色の優しい光に包まれ始める。
 シャマルは夜天の書の魔力と自身の能力を併用して回復効果を持つ支援魔法を掛けたのである。

 その魔法を皮切りにシグナムが動き出し、左手には炎で出来た剣を携えていた。
 リインの火力上昇と夜天の書の魔力、そしてシグナム自身の能力が混ざり合った結果である。
 それを見た“リイン”もまたシュベルトクロイツを剣に変え炎を纏わせ始める。

 「行くぞ“リイン”!」
 「望むところです!」
 『火龍!一閃!!』

 両者が撃ち放った火龍一閃はぶつかり合うと徐々に“リイン”の方が押し返されていた。
 “リイン”は己の魔力だけで撃っているが、シグナムは仲間からの支援などにより少し上回っていたのだ。
 そして徐々にシグナムの火龍一閃が迫る中、危機感を感じた“リイン”は魔法を解除、スレイプニールにて更に上空へと逃げ難を逃れる。

 すると“リイン”がいる位置より高い位置に先読みしていたヴィータが陣取っており、グラーフアイゼンがカートリッジを消費させると
 ギガントフォルムとラテーケンフォルムの長所を持つツェアシュテールングスフォルムへと姿を変える。
 それを見た“リイン”もまたシュベルトクロイツをハンマーに変えるが、その大きさはヴィータのデバイスと劣らぬ大きさであった。

 「行くぜぇ!ツェアシュテールングスハンマァァ!!」
 「轟天爆砕!ギガントシュラーク!!」

 両者の一撃は辺りに強烈な衝撃を走らせ、更にぶつかり合うデバイスからは火花が散っていた。
 両者の一撃は互角だと思われていたのだが、ツェアシュテールングスハンマーの先端が
 ドリルのように回転し始めシュベルトクロイツの先端を打ち砕き、
 このままでは危険だと危機感を感じた“リイン”はハンマーから杖に切り替え後方へと退避、
 更に詠唱を始めブラッディダガーでヴィータを撃墜すると、次にはやてに杖を向け詠唱を始める。

 「行け!フレースヴェルグ!!」

 “リイン”から撃ち出されたフレースヴェルグは速度を増しつつはやてに迫ると、
 ザフィーラが行く手を遮り多重障壁を展開させ“リイン”の攻撃に対抗する。

 そしてフレースヴェルグの着弾と共に二人は光に包まれ、暫くして晴れると其処には無傷の二人が姿を現していた。
 多重障壁、先程使った“リイン”程の枚数ではないがパンツァー系に更に障壁を重ね合わせた四重の魔法障壁である。
 だがそれでも四重の内三重まで破壊させてしまっており、一つ舌打ちをすると、
 はやてがザフィーラの前に出て思わずザフィーラが止めに入る。

 「主!危険です!」
 「んなもんは承知や、けどなここで引いたら夜天の王の名が廃る、後は私に任しときぃ!」

 そう言って親指を立てるはやて、ヴォルケンリッター達は既に“リイン”の攻撃を何度も受けており体力的にも限界なのが分かっていた為の処置であった。
 そしてはやては“リイン”と対局の位置に佇みシュベルトクロイツを“リイン”に向ける。

 「これが最後の戦いやでぇ!行くでぇ“リイィィン”!!」
 「望むところです!はやて!!」

 そう言うと“リイン”は自身の手に持つシュベルトクロイツを再生させると、周囲にブラッディダガーの展開、
 そしてはやての周りにもブリジットダガーを無数に展開させ両者は一斉に放つとそれに遅れるように両者も飛び出す。

 互いのダガーが雨のように降り注ぐ中を両者は縫うように進み、
 お互いの距離を詰めると両者はシュベルトクロイツを剣に変え炎を纏わせる。

 『紫電…一閃!!』

 互いの一撃が同時に繰り出し交差すると鍔迫り合って火花が散る中、リインによる追加のブリジットダガーを撃ち出すが
 “リイン”はフェアーテを用いて加速し上空へと回避するとハンマーに切り替えコメートフリーゲンをはやて目掛け撃ち落とす。

 するとはやては迎撃の為にシュトゥルムウィンデを撃ち出し相殺、コメートフリーゲンが炸裂するのを確認すると
 はやては炸裂し光を放っている魔法の陰に入り姿を消しシュベルトクロイツを杖に戻し八方向に弧を描くようにして
 シュワルベフリーゲンを八発撃ち出すと今度は足元にミッド式の魔法陣を展開させた。

 一方“リイン”は炸裂したコメートフリーゲンを見下ろしていると八方向からシュワルベフリーゲンが襲いかかり、
 ハンマーを剣に変え一つずつ撃ち落としていると、中心から白色のディバインバスターが貫くように迫り“リイン”は多重障壁によって攻撃を防ぐ。

 「リイン!魔力量増加や!!」
 「はいです!!」

 はやての指示の元、夜天の書から更に魔力を引き出しディバインバスターを強化させると徐々に“リイン”を押し上げ始め、遂には多重障壁を打ち砕いた。
 しかし“リイン”は障壁が砕ける瞬間、スレイプニールとフェアーテを併用し瞬間的に加速する事により紙一重にてディバインバスターから難を逃れるのであった。

 するとディバインバスターを撃ちきったはやてはゆっくりと“リイン”のいる上空まで上昇すると間を空ける。
 そして両者は先程とは打って変わって静かに対峙していると“リイン”が静かにまるで何かを確かめるように言葉を口にする。

 「これで最後です、はやて」
 「せやな……」

 これ以上戦闘を続けても埒があかないと考えた二人は、お互い最後の一撃を繰り出すため更に間を空けると足元にミッド式、目の前にはベルカ式の魔法陣を展開する。
 そして正三角の各頂点上で魔力をチャージすると詠唱を始めシュベルトクロイツを目標向けた。

 『響け終焉の笛!ラグナロク!!』

 次の瞬間、三種の砲撃が放たれ両者の間で激突、その衝撃は凄まじく床にいたヴォルケンリッターの元にまで響き渡っていた。
 一方衝撃の大元では魔法を撃ち出す時に出る反動、魔法がぶつかり合うことで生まれる衝撃、そして相手の魔法の威力による衝撃に襲われる両者。

 その中でもはやての目は死んではおらず奥歯を噛みしめながら衝撃に耐えている。
 その苦しみを精神リンクによって感じ取ったヴォルケンリッター達ははやてを激励する為に念話を送る。

 (はやてちゃん!もう少しよ!!)
 (我々が見守っています!!)
 (行けぇ!はやてぇぇぇ!!)
 (主はやて!勝って下さい!!)

 シャマル、ザフィーラ、ヴィータ、シグナムの順にはやてに激励を掛けると徐々に均衡が崩れていく。
 しかしそれでも“リイン”の瞳には諦めの色は無く寧ろ負けまいと言う心が見えていた。

 しかし、はやてもまた此処で負ける訳にはいかない、此処でもう一度“リイン”を撃たなければならないとしても、
 進まなければならない道にいる、そして此処で自分の罪を本当の意味で乗り越えなければならない。

 「私はもう振り返らへん!勝つために絶対や!!」

 はやての堅い決意が込められた一撃は“リイン”の一撃を飲み込み“リイン”すら飲み込んで光に包まれると、
 光は大きく広がりヴォルケンリッターのメンバーをも飲み込むのであった。


 場所は変わり周りは白い空間が広がる中、はやてとリイン、そしてヴォルケンリッターの面々はその場に佇んでいた。
 そしてそれぞれの存在を確認し終えると、今までの疲労感が嘘のように無いことを感じた瞬間、目の前に“リイン”が姿を現す。

 「“リイン”?!此処は一体何処や!」
 「此処は試練を突破した者が来れる空間です」

 つまりはやて達は試練を突破出来たということである。
 そして今回の試練の内容を“リイン”が説明を始める。
 今回の試練ははやてやヴォルケンリッターの内に潜む罪の意志から脱却が出来るか否かを見定める事であった。
 ヴォルケンリッター達はその長い経験からか罪から逃げず、立ち向かい贖い今日に至っていると判断されたのが、はやてはそうはいかなかった。
 はやては若くそして根本的に優しい為、自分の力を出し切ることが出来なかった。

 それは自分の力は他人の犠牲から成り立つ力であり、それを我が物顔に振るう事は犠牲者に申し訳ないと感じていたからである。
 だからこそ今まで力を行使してこなかった、しかしそれははやての自己満足に過ぎなかった。
 はやては力を行使しない事が贖罪にして戒めとして来た、しかしそれでは犠牲者になった者達は浮かばれない。

 犠牲者の事を考えるのであればその罪を背負ってまで力を行使しなければならない、それもまた贖罪であると。
 そしてはやては自分の中に存在する自分自身への優しさ、つまり甘さを断ち切り自分の罪を再確認し、そして歩き始めた。
 それを神は認めたのだろうとゆっくりとした口調で話す“リイン”。

 「これなら私の中に存在する最後のデータを渡すことが出来ます」

 そう言うと“リイン”はリインの手を握るとデータを光に変え送り出し、それを受け取ると光はリインに取り込まれる。
 そしてリインはヴォルケンリッターに掛けられている本人達も知らないシステムを解放させるとそれぞれは輝き出す。

 シグナムは炎熱系の能力が高まり瞳は赤く両足首そして両手首から炎で出来た小さな翼が生え、
 持っているレヴァンティンの刀身はうっすらと炎につつまれ烈火の如く赤く染まり鍔から柄にかけて艶のある漆黒の色をしていた。
 これがレヴァンティンとシグナムの力でこの力によって火龍一閃も更に強化されると告げられる。

 次にヴィータであるが、赤い騎士甲冑は黄色に染まり瞳も黄色く体の周りには稲妻が音を立てて走り、右手には金属で出来ているゴッツい手袋がつけられており、
 グラーフアイゼンもまた金色に似た輝きを放ち柄と槌はうっすらと離れて浮いていた。
 ヴィータには電気変換資質が備わっており、魔力を電気に変えることで瞬発的な加速を生み、電気をグラーフアイゼンに乗せて打つ事が出来だけでは無く、
 フォルムに関係なく槌と柄の間を電気によって繋ぐことにより投げる、奥義ミョルニルハンマーが使えるようになったという。

 次にザフィーラであるが服装は濃い蒼色に染まり自身の周りには八枚の板の形をした刃、更には右手の手甲が巨大化し左手の二倍近くの大きさであった。
 ザフィーラは攻防支援に優れた刃に巨大化した右手の一撃、更にはそれらを複合させた奥義グリムマリスを放つことが出来るようになった。

 最後にシャマルであるが甲冑の緑の部分が淡く光優しさに包まれた力を纏っていた。
 シャマルは戦闘用と言うより護衛に適しており、支援魔法や治療魔法を薬剤師のように複合することが可能となった。

 これらの能力はヴォルケンリッターが個人で使用することができ、更には主であるはやてによって管轄・制御し操る事も出来るという。

 「私が出来るのは此処までです」
 「それで“リイン”はどうするんや?」

 はやての問い掛けに笑顔で此処で皆の安全を見守ると告げる“リイン”。
 その言葉に目を瞑り深く考えた後、決意を秘めた印象を抱えながら言葉を口にする。

 「さよか、なら此処で私等の活躍見といてな」
 「分かりました、みなさんの無事を祈っています」

 “リイン”の言葉の最後にはやて達は光に包まれると手を振るはやて。
 それに対し“リイン”もまた小さく手を振ると、はやて達は転送し静かにそれを見送る“リイン”であった。


 場所は変わり此処は第三層残された一同は、はやて達の帰りを今か今かと待ち望んでいた。
 すると中心が輝き出し中からはやて達が姿を現し集まっていく一同。

 「はやてちゃん!!試練は?」
 「無事乗り越えてきたでぇ!!」

 そう言ってVサインを出すと、奥に存在する扉が開き出し、
 ディルナの旗の下先に進む一同の中、はやては振り向き試練場を見つめていた。

 「頑張って来るでぇ!“リイン”!!」

 誰もいないフロアの中、はやての決意が込められた言葉が響き渡ると、その場を後にするのであった。






         ……神の住まう場所まであと二層……







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最終更新:2009年08月08日 21:50