―――汝は己が乗り越えねばならぬ壁の高さに怯え竦みし弱き者か?―――
―――それとも己が乗り越えねばならぬ壁の高さに怯えず立ち向かう強き者か?―――
―――さあ、汝の強さを見せてみよ!―――
はやて達の活躍により見事に第三層を突破した一同は順調に進み第四層の試練場へと辿り着くと、暫く滞在していた。
第四層…此処を突破すればいよいよ神の領域に辿り着く事が出来る…
するとなのはの下にフェイトが駆け寄り話し始める、フェイトは次の試練は間違いなく自分達の番であると。
だがなのはの様態は未だに思わしくない為、ブラスターシステムを使用しないで欲しいと注意を促す。
するといつもの笑みを浮かべ快く了承なのは、しかしなのはの性格を知っているフェイトはその笑みに
深い溜息を吐くと二人の体が光に包まれ始め、試練が始まる印象を感じていた。
「やっぱり最後は私達か……」
「少し…緊張するね」
珍しく緊張をしている二人に対し、一同は激励を込めると少し解れたのか笑みを浮かべ、
二人は転送され、それを見守り無事を願う一同であった。
…フェイトが跳ばされた場所は金色に輝く空間で、辺りを見渡すと奥に続く下り道があり、
皆が話していたのと同じ造りに納得していながらも、道なりに進み広場へと赴く。
広場の中央には黒いウェーブがかかった長髪に黒いローブを纏った女性が後ろを向いて佇んでいる。
その姿に思わず息を飲むフェイト、其処には彼女が緊張する程の人物が立っていたのだ。
「まさか!何故アナタが!!」
「あら?どんな奴が相手なのかと思ったら、かつて私が作った“人形”じゃない」
そう言ってフェイトを“人形”扱いする人物、プレシア・テスタロッサその人である。
彼女はフェイトの生みの親で十年前のジュエルシード事件の張本人でもあり、
時の庭園の崩落の際、愛娘であるアリシアの遺体と共に虚数空間に飲み込まれたハズであった。
しかしプレシアは虚数空間の中を漂っていると、流浪の双神に拾われアリシアと共に此処で生活兼アルハザードへの研究をしていたところ、
神から一つの案が提示される。
その内容は今から転送される人物を倒せば、プレシアの念願でもあるアルハザードへの道を開いてくれるというものであった。
「だから…大人しく倒されなさい、操り糸が切れた“人形”のように…」
「アナタはまだ!そんな幻想を!!」
フェイトはプレシアに吐き捨てるかのように言葉を口にするが、さも当然のような口振りを見せるプレシア。
元々フェイトはアリシアの“代用品”として造られた存在、それが全てである。
使えなくなった“人形”はただ捨てられるだけ…しかし今回は“いらない人形”を捨てさえすれば
自分が欲しかった物が手に入る為、価値のある廃棄だと笑みを浮かべ語る。
「初めて私の役に立つのだからサッサと倒されて頂戴」
そう言って蔑むような目線を見せると、フェイトは怒りとも悲しみとも取れる表情を醸し出していた。
…プレシアは十年たった今でも一切変わってはいなかった、愛娘に対する愛情も…自分に対する憎しみも…アルハザードに対する縋るような想いさえも…
だが自分は十年前とは違う…一緒に過ごしてきた仲間や友、そして自分を拠り所としてくれる二人…
それら十年の経験を無碍にするようなプレシアの態度と言葉にフェイトはバルディッシュを起動させ強い眼差しで見つめる。
「残念ですが、もう私はアナタの“人形”ではありません、此方にも負けられない理由があるのです!」
「そう……やはり欠陥品は欠陥品のままね…」
そう言うと懐から一つの柄を取り出す、するとその柄の先から金色の細長い鞭が姿を現し、鞭からは稲光が走っていた。
ライトニングエッジ、魔力鞭で構成され剣にも変化する攻・防・縛の三種に対応した管理局時代から使っている愛用のデバイスである。
「だったら…実力でねじ伏せるしかないわね」
そう言うや否や魔力鞭を二回程床を叩き、魔力鞭をフェイトに向けうねりながら伸ばすと、
フェイトはハーケンモードに切り替え魔力刃にてプレシアの攻撃を防ぐ、
するとプレシアは大きく円を描く動作を行い、魔力鞭がうねりをあげバルディッシュごとフェイトを縛り付けた。
そしてプレシアは床にフェイトを叩き付け更には左右の柵、床を削るように振り回し遠心力が掛かったところで縛を外し上空へと吹き飛ばした。
しかしフェイトは空中で体勢を立て直し更に急降下、床ギリギリまで降りると這うようにプレシアの下へ向かう。
するとプレシアは迎撃の為にフォトンランサーを展開、槍の形をした無数の魔力弾が雨のようにフェイトに襲いかかる。
その中を縫うようにして迫るフェイト、そしてフォトンランサーの群を抜けるとソニックムーブにてプレシアの背後を捉え、一気に振り抜く。
しかし既にフェイトの動きを予測していたプレシアはフェイトの動きに合わせ左手をかざすとサンダースマッシャーを撃ち抜きフェイトを飲み込んだ。
だが跡地にはディフェンサーを展開させているフェイトの姿があった、飲み込まれる直前にバルディッシュがディフェンサーを展開させて事なきを得たのだ。
「やはり…十年も立てば“人形”でも力を付けるのね……」
そう一言呟くと魔力を高めフォトンランサーを撃ち出す、すると今度は上空に逃げ込みハーケンスラッシュをプレシアに向け撃ち出すが、
プレシアはサンダースマッシャーで迎撃すると今度は左手に環状魔法陣が展開され、
加速増幅されたサンダースマッシャー、プラズマスマッシャーを撃ち抜く。
プレシアのプラズマスマッシャーをソニックムーブで回避したフェイトは左手をかざし
カートリッジを消費しトライデントスマッシャーを撃ち抜くが、ディフェンサーを展開され攻撃を防がれてしまう。
そしてフェイトの一撃により辺りは魔力の残滓が舞いプレシアの姿を隠していると、
床から突き抜けるように金色の魔力鞭がフェイト目掛けて伸び迫ってきており、それに気が付いたフェイトは縦横無尽に逃げ惑うが、
魔力鞭は徐々に距離を詰めバルディッシュの魔力刃に纏わりつくと一気に引き寄せられ、四方あらゆる場所に叩きつけられるフェイト、
このままでは危険だと感じたフェイトはハーケンモードからライオットブレードに切り替え、魔力鞭を切り裂き難を逃れる。
その様子を見たプレシアはこのままでは少しキツいと感じ魔力を更に高めると服装が変化し始める。
プレシアが着ていた黒いローブは黒いハイレグカットされた軽装に変わり足元は高いヒール、
両手には黒い皮の手袋が付けられており、長い髪はポニーテールとして纏められていた。
その姿はかつて管理局時代に活躍していた姿で、フェイトのソニックフォームを彷彿としていた。
「この大魔導師、プレシア・テスタロッサの実力を見るがいい」
そう呟くとソニックムーブにてフェイトの目の前まで近づき膝蹴りを腹部に打ち込み、くの字に曲げるとライトニングエッジを剣に変え一気に振り下ろす、
だがフェイトはブリッツアクションにて全身のスピードを高め、なんとかして攻撃を防ぐ。
しかしプレシアはライトニングエッジを鞭に変えると一瞬にしてフェイトを縛り上げ更に電撃を与えた。
「う…うぁぁぁああああああ!!!」
「そう言えば十年前も、こんな事したわね…懐かしいわ」
そう言って感傷に浸りながらフェイトにバインドを掛け魔力鞭の縛を解くと、何度も何度もフェイトの身を打つ。
フェイトの身に打ち込まれる度に声を上げ苦しむ姿を堪能したプレシアは上空へと移動すると
左手をかざし徐々に魔力が集い圧縮されていくと閃光のように輝き始めていた。
「墜ちなさい!フォトンバースト!!」
撃ち出されたフォトンバーストは真っ直ぐフェイトの元へ向かい飲み込むと一気に爆発、
辺りは閃光によってまばゆく光り、プレシアはその光景をじっと見つめるのであった。
場所は変わり、なのはは桜色に輝く空間へと転送され先に続く緩やかな下り階段を下りていた。
その中でなのははフェイトとの約束を思い返していた、それはブラスターシステムの使用を禁ずるものである。
なのはの体は万全とは言い難く魔力に至っては未だ回復の兆しを見せてはいない、その為の処置であった。
しかしこの先の試練でブラスターシステム無しで立ち向かえられるのかどうか不安もあった。
…もし現状の能力で不可能であれば、使わざるを終えんだろう…そう考えている内に広場にたどり着くなのは。
広場の中心には一人の男性が佇んでおり、年は自分と同じぐらいだろうという印象を受けていた。
そして男はなのはの存在に気が付き振り向くと、その瞳は鋭くなのはを見つめており、その目線に懐かしさを覚えていると男の口が動き出す。
「次の相手はお前か…」
「アナタは一体?」
「私か?私の名は不破士郎、御神流の後継者だ」
士郎の言葉に目を見開くなのは、御神流と言えば兄や姉が父に習っている剣術である。
するとなのはは士郎の目をじっくりと見る、そしてどうりで見覚えがあるハズだと感じていた。
何故ならあの目は道場で兄達に稽古をつけている時の父と同じ目であるからだ。
では今目の前にいるのは若かりし頃の父、士郎なのではないのか…なのはは動揺を隠せないでいた。
…だが実は彼は、なのはの知る士郎ではなく、“同一人物”で“別人”の士郎なのである。
彼はなのはの出身世界である地球の平行世界から来た人物で
一人で修行している中に神に誘われ、此処で鍛錬をしていたところになのはが姿を現したのである。
話は戻り、未だ動揺を隠せないでいるなのはを後目に、士郎は更に話を続ける。
「此処に来て様々な奴と戦ってきたが、女…しかも人間の女を相手にするとはな」
士郎は此処に来てから様々な相手をしてきた、頭が三つもある猛獣、蛇が髪の毛のように生えた巨大な目玉、金属で出来た巨人など
その中で次の対戦相手が女である事に疑問を感じるも、もしかしたらかなりの実力者なのかもしれないとも考える士郎。
「では…そろそろ始めるか……」
そう言って腰に抱えている小太刀を引き抜き構えると、なのはもまたレイジングハートを起動させて構える。
そして対極に対峙する中で、なのはが最初に動き出しアクセルシューターで士郎を牽制しようとする、
だが士郎は手に持っている小太刀を振るい次々とアクセルシューターを切り裂き、更になのはに迫り右の小太刀を振り払う。
しかしなのははラウンドシールドで士郎の攻撃を防ぐと流石の士郎も驚く表情を見せる。
「ほぅ…そんな能力も持っているとはな」
そう言って不敵な笑みを浮かべると右手に力を込め一気に振り抜くとラウンドシールドが真っ二つに切り裂かれる。
その光景になのはは目を丸くする、何故ならば自分の防御魔法の中で最も強固なラウンドシールドがいとも簡単に切り裂かれたからである。
なのはの驚きを後目にに士郎は左の小太刀を振り下ろそうとした瞬間、なのははとっさに後方へと飛ぶが士郎もまたついて回り
士郎の斬撃をプロテクションにて防御していると、士郎が左に力を込めるのを察し、
左の一撃に合わせて士郎の右後方へと移動、すぐさま振り向きカートリッジを消費させディバインシューター六発を士郎に纏めて撃ち込む。
しかし士郎は迫ってくるディバインシューターに対し右の小太刀を逆手に持ち替え左回転にてディバインシューターを弾き飛ばす。
なのはは士郎の動きに驚く一方で士郎がなのはの下へ真っ直ぐ向かってくるのを見て、
地上戦では此方が不利と感じ士郎の左の突きをギリギリで回避し上空へと逃げ込むと、
更にレイジングハートをエクシードモードに替えカートリッジを消費、ディバインバスターを撃つ体勢に入る。
「なるほど、考えたな…だが、対空用が無いとは言ってないぞ」
そう言うと持っていた小太刀を仕舞い懐から一本の棒手裏剣、飛針を取り出すとなのは目掛け投げつける。
一方なのはは既に魔力チャージを始めており一歩も動けない状況の中、飛針はなのはの肩を掠める程度に終わり悔しがる表情を垣間見せる士郎。
「ちっ…距離を見誤ったか」
そう言うと懐から六本の飛針を取り出すと、なのはの急所目掛け投げつける。
六本の飛針がなのはに迫る中、ディバインバスターのチャージが終わりすぐさま撃ち出すと、ディバインバスターは飛針を飲み込み士郎に迫る。
その勢いに驚きの表情を見せる士郎を後目にディバインバスターは床に突き刺さり爆発、辺りには魔力の残滓が煙のように舞うと、
その光景を上空から見つめるなのは、すると煙の中から切り裂くような勢いで四本の飛針が飛び出す。
それをラウンドシールドにて弾いた瞬間、足に違和感を感じ見てみると、足には鋼糸がまとわりついていた。
そして煙が晴れていくと其処には不敵な笑みを浮かべ鋼糸を握る士郎の姿がいた。
「捕まえたぜ!そらぁ降りて来い!!」
そう言って士郎は鋼糸を床に激突するように引き、なのはは背中から床へと激突、なのはの身には悶え苦しむ程の衝撃を受けていた。
しかし士郎の行動は終わらず、自分の元へなのはを引き寄せると鋼糸を手放し左手で顎を掴み、そして右手で小太刀を引き抜く。
「これで終わりだ」
そう一言口にするとなのはの心臓目掛け突き刺す体勢をとる士郎であった。
場所は変わり上空でフェイトの様子を見つめるプレシア、するとフェイトのいた場所から金色の魔力が現れ、中心には身なりが軽くなったフェイトの姿があり、
その手には二本の剣が握られており、柄の端は魔力の糸で結ばれていた。
これがフェイトの切り札、真・ソニックフォームとライオットザンバー・スティンガーである。
真・ソニックフォームは防御を一切無視し速度を重視した超高速特化形態で、
スティンガーはライオットブレードの二刀流の事を指し、柄が繋がれている事で安定した切れ味を実現したものである。
「チッ!…さっさと倒れればいいのに!」
「私は負けない!私にはその理由があるから!!」
自分には自分を待つ人がいる、自分は戻らなければならない場所がある、だから此処で倒れるわけには行かない!
そう力強く言葉にするフェイトを苛つきの目で見つめるプレシア、
そしてフェイトはカートリッジを消費すると瞬間移動ともとれるような速度でプレシアの懐には入り右の魔力刃を振り下ろす。
しかしプレシアはブリッツアクションにて右手の動きを速めフェイトの一撃を止めると魔力刃を縛り上げる。
だがフェイトは左の魔力刃にて魔力鞭を切り落とし更にプレシア目掛け振り下ろすが
プレシアはソニックムーブにて後方へと回避、フェイトの刃はプレシアの前髪を掠める程度に終わった。
するとプレシアは左手をかざしプラズマスマッシャーを撃ち出すが、フェイトはソニックムーブにて難なく避け背後を捉えると両手を振り上げる体勢をとる。
しかしプレシアは既にフェイトの動きを予測しており、振りかざした瞬間を狙って二本纏めて魔力刃を縛り上げた。
「二刀流とは考えたわね、でもこうやって二本ごと縛り上げれば意味ないんじゃない」
「まだまだぁ!!」
そう言うとスティンガーの鍔を合わせ一本の巨大な大剣へと姿形を変える、
ライオットザンバー・カラミティ、二刀のライオットブレードを合わせる事で生まれる破壊力重視の大剣形態である。
そしてカラミティの巨大な刃に耐えきれず魔力鞭の呪縛が断ち切られるとそのまま振り下ろし、プレシアは弾丸のような速度にて床に激突する。
プレシアが激突した辺りは舞い上がった塵に覆われており、上空からその光景を見つめていると
魔力によって塵を吹き飛ばしフェイトを見上げるプレシアが姿を現した。
「おのれ!このクソガキがぁ!!」
プレシアの表情は怒りによって歪み殺気を籠もった瞳で睨み付けるが、フェイトは冷静にカラミティからスティンガーに切り替える。
するとプレシアはソニックムーブを起動させフェイトの懐に入り、一気に振り抜くが紙一重にて攻撃を回避、だがプレシアはソニックムーブにてフェイトの後を追いかけると
フェイトは一度立ち止まりソニックムーブにて急転、プレシアに迫り右の払いを繰り出すとプレシアはディフェンサーにて攻撃を防ぐ。
その時である、防御により動きを止めたプレシアの隙をつき左のライオットブレードを繋げカラミティにしプレシアの障壁を砕くとスティンガーに戻す。
そしてカートリッジを三発消費し更にブリッツアクションを用いて体全体の速度を高め次々と斬撃を繰り出す。
その斬撃はまるで無限の剣閃と呼べる程でプレシアの体に続々と金色の軌道が描かれフェイトは振り上げた瞬間カラミティに替えプレシアの顔目掛け一気に振り下ろす。
「はぁぁぁああああああ!!!」
フェイトのカラミティを受け止めたプレシアの顔が徐々に歪む中、フェイトはプレシアを連れ一気に急降下、そしてプレシアごと床に叩きつけると床は大きく円形にへこんだ。
そのへこみの中心でプレシアは信じられないといった表情でフェイトを見上げていた。
「…バカな!この…私が……負ける…ハズが……」
しかしプレシアの目に写るのは凛とした姿で佇むフェイトの姿で、その姿に思わず口元が緩むと意識を無くし倒れるプレシア。
その光景を最後まで見届けたフェイトは、まるで糸が切れたかのように膝を突き頭の中が真っ白になりながら倒れ込むフェイトであった。
一方でなのはの心臓に士郎の凶刃が迫りバリアジャケットにふれた瞬間バリアジャケットが爆発、士郎の攻撃を相殺した。
リアクターパージと呼ばれる防御機能で対象において限界と思えるダメージが起きた場合、バリアジャケット自らが爆発しダメージを相殺するのである。
リアクターパージはなのはにとって最終的な防御手段、それを発動させる程の一撃を士郎は繰り出していたのだ。
それもそのハズ、士郎は徹と呼ばれるドラム缶を一刀両断できる技を繰り出していたからである。
士郎は自分の一撃を爆発によって相殺された事に驚きの顔を見せると、その隙をついてなのはは即座にショートバスターを撃ち抜く。
すると士郎は左の小太刀を抜き手前で交差させてショートバスターを受け止めるが見る見ると押されていき、50m程放されるとショートバスターを四散させる。
「ここまでやるとは驚きだ!…仕方がない“本気”を出すか」
士郎のふとした言葉に目を見開くなのは、士郎にとって今までの攻撃は本気を出してはいないというのだ。
そんなバカな…ただの強がりだ…そう自分に言い聞かせレイジングハートの先端に魔力刃を形成し鋼糸を断ち切ると、
士郎は小太刀を仕舞い、瞳から光が消えまるで人形を思わせるような瞳に変わり全身からなのはに向け殺気を放ち始める。
士郎の殺気になのはの全身は粟立ち頬からは冷たい汗が垂れ、左手が震え始める、
…飲まれるな!!そう自分を奮い立たせていると真正面にいた士郎が消え目の前に姿を現す。
そして士郎はなのはの左手を掴むと、なのはは回転しながら宙を浮き背中から床に叩きつけられる。
なのはは背中から来る衝撃と痛みに苦しみながら士郎を見上げると、士郎は右足でなのはの顔を踏みつける体勢をとっており、
とっさに右に転がり士郎の踏みつけを躱すとアクセルシューターを撃ち出す体勢に入る。
しかしその瞬間を狙って士郎は左掌底をなのはの胸元に突きつける、するとなのはの体の中に猛烈な衝撃が響き、
その衝撃によって傷つけられた内臓の出血により口から血を吐き出す。
すると今度は左拳を握り顎をカチ上げ脳を揺らすと、がら空きになった腹部目掛け右の掌底を打ち込み吹き飛ばす士郎。
御神流は何も剣術だけが取り柄ではない、表面を傷つけず内部のみを破壊する当て身や受け身がとれない投げ技なども存在し、
先ほど使用した飛針や鋼糸などもまた御神流の技の一つなのである。
一方、腹部に強烈な打撃を受けたなのはは士郎の強さを実感していた、御神流は力よりも速度を用いた武術、
その速度はエクシードを使用したなのはの瞳にすら映らぬ程の速度であった。
…今のままでは確実に殺される、しかし自分はこのまま殺される訳には行かない
自分には助けたい者がいる守りたい者がいる、自分の帰りを待っている人がいる。
だからこそここで負けるわけには行かない!するとなのははレイジングハートに命じる。
「レイジングハート…ブラスターシステム起動!ブラスター2!!」
しかしレイジングハートはなのはに注意を促す、今のなのはの肉体でブラスターシステムを起動させれば
二度と魔法が使えなくなる可能性があり下手をすれば死んでしまうと。
しかしなのははこう答える、今此処で負けれる事は死を意味する、今更自分の肉体に気を使った所で奴に勝つ事は出来ない。
たとえ自分の肉体に不幸な事故が起きたとしても、此処で自分が勝てば仲間達が先に進むことが出来る。
それに自分は死ぬつもりはない、そう笑みを浮かべ話すとレイジングハートは屈伏した様子でブラスターシステムを起動する。
なのはの身に大量の魔力に満ちるとA.C.Sドライバーを起動させレイジングハートに魔力羽が展開される。
そして魔力によって反応速度、胴体視力、加速を高め士郎の動きを見極めようとしていた。
結果は士郎の動き全てを見る事は出来なかったが、出だしの一歩を見極める事に成功、A.C.Sドライバーにてかろうじて回避する。
しかし負けじと士郎も追いかけるが、瞬間的に移動・回避しイタチごっこが続いていく。
「逃げてばかりでは勝てん―――」
イタチごっこに飽き飽きして言葉を発した次の瞬間、正面で構えるなのはとは別方向、
士郎を中心に右上後ろから桜色の直射砲が降り注ぐのに気がつき転がるように回避
攻撃された方向を見つめると其処には金色のブラスタービットが宙に浮いていた。
「チッ!小賢しい!!」
そう言って懐から飛針を三本取り出して投げ、ブラスタービットを破壊する。
これで安心と考えた矢先、今度は後ろから桜色の直射砲が撃ち抜かれ、小太刀にて受け止め切り払う。
そして鋼糸にて縛り上げるとブラスタービットは一瞬にしてバラバラとなった。
すると他のビットによって右腕をバインドで縛り上げられ左の小太刀にてバインドを断ち切ろうとした瞬間、なのはのディバインバスターが士郎に迫ってくる。
「チッ!…仕方がないな」
士郎はバインドを断ち切った瞬間、一瞬にして移動なのはのディバインバスターを回避、更に飛針にてビットを破壊した。
その動きを一通り見たなのはは、恐らく性質としてはソニックムーブと同じだが、速度は遥かに越えていると判断していた。
「チッ…いくつこれはあるんだ!」
「そんなの答える訳ないじゃないですか!」
なのはのもっともな意見に不敵な笑みを浮かべる士郎、
実際問題として、ここまでやれるとは想っても見なかったのだ。
しかしこのままジリ貧が続くのは戴けない、この状況を打破するには“アレ”を使うしかないと悟ると
小太刀を仕舞い前傾姿勢で構える士郎、その構えを見たなのはもまたレイジングハートを士郎に向け構えていた。
「これで終わりにする…」
そう一言呟くように口にすると辺りは静寂に包まれ重苦しい空気が二人の肩にのしかかる。
そしてなのはは士郎の動きを見逃さんとジッと見つめていると、一瞬にして士郎が姿をかき消える。
なのはは驚きともにどこに行ったのか?と脳が考え始める瞬間に後方でキンッと小太刀を仕舞う音が聞こえ、
その音が耳から消え去った瞬間、なのはの胸元は大きくバツ印で刻まれ、傷口から血が噴き出し膝をついて前のめりで倒れた。
神速…御神流の中で奥義と称される歩法で自らの意志で認識速度を高め、常人を越える判断能力・攻撃・速度の可能としている。
しかし本人の肉体にも多大な負担を抱える為多用は出来ないが、その分一撃必殺ともいえる攻撃力を秘めているのである。
士郎の一撃はなのはに致命傷を与え、もはや立ち上がれないと確信に似た表情で士郎は振り向くと
其処にはレイジングハートを支え棒代わりに立ち上がろうとするなのはの姿があり、
思わず目を見開き驚きの表情を見せるがすぐに冷静な顔になり、なのはの行動に疑問する士郎。
「何故立ち上がろうとする?」
「……私には…負け…られない……理由…が…あるから」
自分には命を賭しても守りたい者がいる、自分を大切にしてくれる人がいる、大切な者を救う為に此処に来た。
だから此処で倒れている訳には行かない、たとえ気絶するような痛みでも、致命傷を受けたとしても、立ち上がらなければならない。
そう言って立ち上がり胸を張ると振り返り士郎を瞳を睨みつける、その瞳はとても半死人に見えず強い決意が滲み出していた。
そしてその瞳見た士郎は、なのはの中に母の強さを感じふと目を閉じる、其処には1歳とも見える小さな男の子が写り出す。
自分もまた、命を賭してまで守りたい者がいる、すると士郎の顔が暗殺者としての顔から父親の顔へと変化し、なのはに向け神速の構えに入ると
なのはもまたレイジングハートを向けA.C.Sドライバーの体勢に入るとブラスター3を起動させる。
それによって得た魔力を先ほど受けた致命傷部分に注ぎ覆う事で応急処置的に傷を塞ぎ、残りの魔力は反射神経・動体視力・加速のみに集中させた。
そして互いの間の空気が緊張に満ちていくと、士郎がその想い空気の中、口を開く。
「…何か言い残すことは?」
「無い…」
自分は負けるつもりは無い、だからこそ言い残す言葉など無いと力強く答えるなのは。
なのはの言葉に決意を見た士郎は、なのはの強さに感服するも全力で相手をすることを決めていた。
「行くぞ!我が奥義によって散れ!!」
「私は負けない!全力全開で立ち向かう!!」
そう言ってカートリッジを全て消費すると先にかき消える士郎、そして間髪入れずになのはもまたかき消えるように姿を消した。
そして互いが対峙していた中心にて周りの柵が揺れ床にヒビが入る程の強烈な衝撃が響く。
そして衝撃波の発生元では小太刀を交差させた士郎と魔力刃にて小太刀を受け止めるなのはの姿があった。
互いの一撃は強力で小太刀の交差した中心部分に亀裂が走り始めるが、レイジングハートは全体的に亀裂が走っており、砕けるのも時間の問題である。
「このまま砕け散れ!!」
「砕けはしない!レイジングハートは!私の心は!!」
そう言うと小太刀のヒビが徐々に広がりを見せ、とうとう小太刀を打ち砕くと
空になったカートリッジを抜き出し新しいカートリッジに入れ替え装填、レイジングハートに環状の魔法陣が展開され先端では魔力が増幅していった。
「不屈の心だからぁぁぁ!!!」
そしてなのはの決死のディバインバスターが撃ち出されると桜色の魔力は士郎を飲み込み、
なのはもまた自身が撃ち抜いた魔力の光に包まれるのであった。
場所は変わり一人倒れていたフェイトが気が付き起きあがると其処は白い空間が広がっていた。
その時である、先程まであれだけの激戦を繰り出していたハズなのに自分の身がとても軽いことに気が付き首を傾げていると、
目の前に一つの魔法陣が姿を現し中から黒いローブ姿のプレシアが現れ、警戒の眼差しで見つめていると、肩をすくめるプレシア。
「安心して…もうアンタに手を出さないから」
フェイトがここに呼ばれた理由はプレシアに勝った為、だから自分はこれ以上手を出すことは出来ないと。
神はフェイトの奥に潜む母への想い、そして憧れそしてフェイトの中にある母性の力が母より越えているのかという物であった。
結果、プレシアの想いよりフェイトの想いが強く母の陰を乗り越えたという事と判断したのだという。
「これで私の願いも終わりなのね…忌々しい……」
そう言いながら顔が緩んでいるように見えたがすぐにフェイトに背を向けるプレシア。
フェイトは哀しくも変わらないプレシアの態度に苦笑いを浮かべると転送され始める。
すると背を向けたままのプレシアから言葉が聞こえる。
「……じゃあね“フェイト”」
「えっ!?母さ―――」
最後の一言に驚いた表情を見せながらフェイトは転送される。
そして一人残されたプレシア、神によるアルハザードへの道は閉ざされた…
アルハザードへの道は自分で切り開くしかないか…そう諦めた様子を見せていると、プレシアの目の前に一人の金髪の少女が姿を現す。
「……お母さん?」
「アリシア!?」
その少女はアリシア本人であった、プレシアは目の前の愛娘に思わず抱きしめ、どうして此処にいるのか訪ねると、笑みを浮かべながら話し始める。
…今まで自分はとても長い夢を見ていた、その夢の中では母が一生懸命私を構ってくれていた。
ある日、母がいなくなり一人寂しくしていると、自分そっくりの少女と出会う。
少女は自分の“妹”だと名乗りそれから毎日“妹”と仲睦まじい生活を送っていた。
するとある日、“妹”がこう言った「そろそろ自分は行かないと」アリシアは一人にしないで欲しいと叫ぶと
“妹”は…もう一人じゃないから大丈夫だよ…と優しい笑みを浮かべ光の中に吸い込まれていき、自分は追いかけていたら此処に立っていたと話す。
「変な夢だった…私には“妹”なんていないのに……」
「………そうでもないかもよ?」
プレシアは一言を発し天を仰ぎ目をつぶると…神も粋な計らいをしてくれるものだ…と、
そう心の中で呟いていると母の行動に首を傾げ疑問の表情を見せるアリシア。
するとそれに気が付いたプレシアは満面の笑みを浮かべ、アリシアの手を取り光の中を歩み始めるのであった。
一方で光に包まれたなのはは一人立ち尽くしていた。
そして今まで受けていた傷全てが完治しており、当初から存在していた体の不調、魔力の低下も見られず、
寧ろ絶好調とも言えるコンディションであった。
一体自分の身に何が起きたのだろう?そう疑問に満ちた表情を見せていると目の前に士郎が姿を表す。
「落ち着け、もう戦いは終わりだ…お前の勝利によってな」
士郎の言葉に一瞬唖然とするが徐々に喜びに満ちた表情を見せるなのは。
するとその表情を見た士郎は頭を掻きながら完敗を宣言する。
正直、自分と此処まで戦えて更に自分が負けるとは思ってはいなかった。
その強さは恐らく守る者の力の差なのだろうと、肩をすくめ首を振る士郎。
「出来る事ならお前の名前を教えて欲しい…私に勝ったお前の名を」
「私の名前は……“なのは”です」
「“なのは”か……良い名前だ、覚えておくぞ…」
そう言うと時間切れなのか徐々になのはの体は転送されていき、その場を最後まで見守る士郎。
そしてなのはが完全に転送されたのを確認すると歩み始め、その道中で考え事をしていた。
…もし、自分に娘が出来たとしたら、その子に“なのは”と名付けよう…
……不屈の心を宿すその名を……
場所は変わり此処は海鳴市に存在する翠屋、時間は既に深夜を回っており、住民も寝息を立てている中
住人の一人である一人の男がふと目を覚ましベッドから起きあがる、すると隣で寝ていた妻である桃子が気付きふと声をかける。
「どうしたの?アナタ」
「いや…何でもない、少し夜風に当たってくる」
そう言うと男は妻を寝かしつけ部屋を出ていき、玄関へと赴く。
外は静寂に包まれ空は満天の星空に覆われており、ふと男は空を見上げると呟くように言葉を口にする。
「頑張れよ……なのは…」
…何故自分はそのような事を口にしたのかは分からない、ただ何故かそう思う父“士郎”であった。
最終更新:2009年08月24日 20:36