きっかけは、ちょうど今から一週間前。
千雨が、凄く思いつめた顔をして、僕に詰め寄ってきたのが始まりだった。
『――――ザジ、お前、何かほしいものとかあるか?』
もうこれ以上はないくらい真剣な顔で、千雨はそう訊いてきた。
けれど、そんなこと突然言われても。
『・・・別に、ないけど』
と、答えるしかない。
だって本当になかったし、ほしいもの。
でも千雨はさらに僕に詰め寄って、
『なんでもいいんだよ、何でも。 私になんとかできそうなものならなんとかしてやるから』
そう言った。
『・・・なんでも?』
『そう、なんでも』
念押しした僕に、頷く千雨。
なんでもいいんだ、ふーん、なんでも。
考え込むふりをして、心の中でほくそ笑む。
千雨、『なんでも』なんて言葉はそんな簡単に使っちゃダメだよ?
たとえば――――――――――――
『・・・じゃあ、可愛い千雨がほしい』
『・・・・・・・・は?』
このときの僕みたいに、こういうイジワルだって、できちゃうんだから。
千雨が、凄く思いつめた顔をして、僕に詰め寄ってきたのが始まりだった。
『――――ザジ、お前、何かほしいものとかあるか?』
もうこれ以上はないくらい真剣な顔で、千雨はそう訊いてきた。
けれど、そんなこと突然言われても。
『・・・別に、ないけど』
と、答えるしかない。
だって本当になかったし、ほしいもの。
でも千雨はさらに僕に詰め寄って、
『なんでもいいんだよ、何でも。 私になんとかできそうなものならなんとかしてやるから』
そう言った。
『・・・なんでも?』
『そう、なんでも』
念押しした僕に、頷く千雨。
なんでもいいんだ、ふーん、なんでも。
考え込むふりをして、心の中でほくそ笑む。
千雨、『なんでも』なんて言葉はそんな簡単に使っちゃダメだよ?
たとえば――――――――――――
『・・・じゃあ、可愛い千雨がほしい』
『・・・・・・・・は?』
このときの僕みたいに、こういうイジワルだって、できちゃうんだから。
「アナタガホシイ」
「・・・ほら、こんなんでいいのかよ?」
顔を真っ赤にして、不機嫌丸出しの声で千雨が言う。
大して僕は上機嫌、にこにこ笑ってうんと答える。
あの日から一週間、今日は3月17日。
僕――――Zazie・Rainydayの誕生日に、千雨は、僕の目の前でルーランルージュのコスプレをしてむくれている。
僕、学祭のとき見逃しちゃったんだよね、千雨がコレ着てるトコ。
だから今日はわがまま言って、僕“だけ”のためにこうして着替えてもらっちゃった。
・・・僕“だけ”のためっていうのがいいよね、なんか。
こう、特別ー、って感じがしてさ、ふふ。
とかなんとか、軽い優越感に浸っていると。
「ほら、もういいだろ? 向こう行くぞ向こう」
まるで一刻も早く僕の視線から逃れたいのか、ぶっきらぼうにそういって、千雨が足早にリビングへと向かう。
もう、そんなに恥ずかしがらなくても。
苦笑いして、ふと考える。
千雨は『眼鏡がないと人前に出られない』という。
いわく、『自分に自信がないから』、だそうだ。
「・・・もったいない」
いつも思う。
あんなに可愛くて、あんなに優しくて、けれどとても不器用で。
そんな千雨を嫌う人なんて、いないと思うんだけど。
多分きっと、さっきみたいな、人一倍恥ずかしがりやなところが誤解されるんだろう。
確かに、ああいう恥ずかしがり方をされると、誤解して離れていく人がいるかもしれない。
・・・まぁでも、僕は千雨から離れないし、そもそも離すつもりもないのだけど。
そんなことを考えて、さっきまでとは違う、少し意地の悪い笑みを浮かべて、千雨の後を追う。
ドアを開けて左手には台所とテーブル、右手の向かい側にはテレビ。
右手前には、その気になれば横になってぐっすり眠れる柔らかいソファ。
ソファの上にはこれまた柔らかいシーツが敷いてあってなんともさわり心地がいい。
テーブルの上にはさっき二人で食べたケーキのお皿。
一度だけだけど、千雨に『あーん』ってしてもらえて、凄く嬉しかったなぁ。
「じゃ、私洗い物すませるから」
そっけなく言うと、千雨はさっさと台所に行ってしまう。
一瞬だけのお別れ、けど今の僕にはそれさえ惜しく感じられる。
そんな気持ちをなだめすかして、ソファにぼすん、と勢いよく腰掛ける。
『ソファが壊れるからやめろ』と千雨にいつも言われるけど・・・まぁいいか。
かちゃかちゃと、洗い物のこすれる音を聞きながら、じっと待つ。
そう長く待たずに、洗い物をすませた千雨がソファのほうへとやってきた。
「テレビつけるか?」
千雨が尋ねる。
「・・・いい」
僕が断わる。
せっかく千雨と二人っきりなんだから、とことん二人っきりのままでいたい。
それが、僕の正直な気持ちだった。
変な奴、といいつつ、千雨が僕の隣に腰掛けた。
・・・うん、コスプレした千雨がソファにちょこんと座ってるってだけでもう可愛すぎてぎゅーってしたくなるね。
でもね、でもね千雨。
僕、今日はもうちょっと積極的になってほしいんだよね。
「・・・・・・・なんだよ」
「・・・・・・千雨、こっち」
にっこり笑って、自分の膝をぽんぽん、と叩く。
見る見るうちに、千雨の顔が耳まで真っ赤になる。
「な、な・・・お前・・・・・ッ!?」
わなわなと震えながら、何かを言おうとした千雨の耳元に口を寄せ、こっそりささやく。
「――――今日は、“なんでも”、してくれるんだよね?」
「――――――――ッ!」
きっ、と睨みつけてくる千雨の視線に、意地悪な、凄く、凄く意地悪な笑顔で答える。
千雨には悪いけど、今日はとことん意地悪をさせてもらおうと思う。
だって、こういう日でないと・・・色々できないわがままもあるし、ね?
しばらく僕を睨み続けていた千雨だけれど、ついに観念したのか、そっぽを向いたまま、僕の膝の上に座ってくれた。
ふふ、ホントに素直じゃないんだから。
・・・いや、ちゃんと座ってくれたんだから素直なのかな?
まぁ、どっちにしても可愛いことに変わりはないのだけど。
千雨はまったく僕のほうを見ようとしない。
怒ってるという意思表示なんだろうけど、やっぱり淋しいなぁ。
といっても、ここで下手に何か言っても逆効果だろうし。
・・・というわけで。
「・・・ひゃあっ!?」
抱きしめてみました。後ろから。
ああもうその驚き方も可愛いなぁ!
・・・変態くさいとか言わないで。
「こ、この馬鹿っ、何すんだいきなりっ!」
首だけで振り返り、うがー、というのがぴったりな勢いで抗議する千雨。
んー、何すんだ、といわれても。
「・・・千雨がこっち向いてくれなくて、淋しかったから」
素直に答えるしか。
「なっ・・・ばっ・・・このっ・・・・・・・!!」
僕の答えを聞いた途端、千雨はさっきまでの勢いもどこへやら、またうつむいてもじもじと。
くすくす、と笑いながら、千雨の頭を撫でてあげる。
最初は体を硬くしていた千雨だけれど、しばらく撫でてあげていると、まるで飼い主に擦り寄る猫みたいに体を寄せてくれた。
多分、無意識だと思うけど。
そうして頭を撫で続けて、また千雨の体をぎゅーって抱いて。
もうコレ以上ないってくらい幸せだなぁ、と思ってた、そのとき。
「・・・なぁ、ザジ。 お前、私といて、楽しいか?」
不意に千雨が、そんなことを聞いてきた。
「・・・楽しいに決まってるじゃない」
至極当然に、そう答える。
そうでなかったら、こんな風にわがままを言ったりしない。
けれど千雨は――――今気づいたけれど――――どこか暗い声のまま。
「でも、でもさ。 私みたいな可愛げのない奴と一緒にいるより、もっといい奴がいっぱいいるんじゃないか? 椎名とか、大河内とか、茶々丸さんとか」
そういって、うなだれる。
「・・・どうして、急にそんなこと言うの?」
聞かずにはいられない。
「どうしても何もねぇよ――――ただ、せっかくの誕生日なのに、ずっと私に張り付きっぱなしで、お前はホントによかったのか、とか思っただけだ」
「・・・よかったよ? むしろよすぎるくらい」
そういっても、千雨は顔をあげないままで。
・・・うーん、どうしようか。
どうしてかはわからないけど、千雨は僕が楽しくないんじゃないかと悩んでしまってるみたいだ。
どうしてそんなふうに悩んでしまうかは、わからないけれど。
ていうか僕、そんな千雨を不安にさせるようなことしてないはずなのになぁ。
でも、千雨はホントに悩んでるみたいで。
僕は、なんとか千雨に元気になってもらいたくて。
そのためにはどうすればいいのかな、と考えることしばし。
「・・・じゃあ、見せてあげる」
「え?」
結論、論より証拠。考える前にまず動け。
というわけで、僕は、千雨がもう二度とそんな不安を抱えられないくらい、僕が千雨を大好きってことを教えてあげることにした。
具体的には――――――――抱きしめた千雨の体を、そのままソファに押し倒した。
「な、お前、何す――――むぅぅっ?!」
突然のことに目を白黒させる千雨の唇を、強引に奪う。
舌を無理矢理に押し入れ、逃げる千雨の舌を絡め取る。
「んむっ・・・むぅっ・・・んく・・・・・ふぁ・・・・あむぅっ・・・・!」
執拗に、貪欲に。
千雨の口内を、徹底的に蹂躙する。
千雨の口からもれ出る吐息と、舌が絡み合うぴちゃぴちゃという音だけが、静かな部屋に響き渡る。
千雨は逃げない、逃げられない、僕が絶対逃がさない。
きつく、きつく、抱きしめて、千雨の体を縛り付ける。
最初は必死で暴れていた千雨も、僕の舌が千雨の舌に触れたあたりで動きが止まり、僕が完全に千雨の舌を捕まえると、完全に抵抗しなくなっていた。
「んむ・・・くちゅ・・・・・・ちゅぷ・・・」
僕の舌を受け入れた千雨の口の中を、存分に貪る。
ぎゅっと抱きしめた千雨の体がどんどん火照ってくるのがわかる。
それと同時に、僕の心臓も、どんどんどんどん熱く激しく跳ね回る。
もう、止められない、止まらない、千雨の“スベテ”を奪うまで。
「・・・ぷは。 ねぇ千雨、知ってる?」
唇を離し、笑んで尋ねる。
「・・・・・・・・?」
熱に浮かされたみたいな顔で、虚ろな瞳をした千雨は、ぼんやりと、僕の笑顔を見つめている。
そんな、無垢な千雨に対し、僕は。
「・・・昔はね、太陽が昇ると新しい一日が始まった、って言ったんだって」
にこやかに、冷ややかに。
「・・・つまり、夜の間はまだ日付は変わらないって考えてたんだ」
穏やかに、けれど無慈悲に。
「――――今夜はまだまだ長いから・・・僕の誕生日の間、僕が千雨にシタイこと・・・“なんでも”、してあげるからね・・・・・・?」
――――愛しさと、欲望の入り混じった笑顔で、そう、宣言した。
顔を真っ赤にして、不機嫌丸出しの声で千雨が言う。
大して僕は上機嫌、にこにこ笑ってうんと答える。
あの日から一週間、今日は3月17日。
僕――――Zazie・Rainydayの誕生日に、千雨は、僕の目の前でルーランルージュのコスプレをしてむくれている。
僕、学祭のとき見逃しちゃったんだよね、千雨がコレ着てるトコ。
だから今日はわがまま言って、僕“だけ”のためにこうして着替えてもらっちゃった。
・・・僕“だけ”のためっていうのがいいよね、なんか。
こう、特別ー、って感じがしてさ、ふふ。
とかなんとか、軽い優越感に浸っていると。
「ほら、もういいだろ? 向こう行くぞ向こう」
まるで一刻も早く僕の視線から逃れたいのか、ぶっきらぼうにそういって、千雨が足早にリビングへと向かう。
もう、そんなに恥ずかしがらなくても。
苦笑いして、ふと考える。
千雨は『眼鏡がないと人前に出られない』という。
いわく、『自分に自信がないから』、だそうだ。
「・・・もったいない」
いつも思う。
あんなに可愛くて、あんなに優しくて、けれどとても不器用で。
そんな千雨を嫌う人なんて、いないと思うんだけど。
多分きっと、さっきみたいな、人一倍恥ずかしがりやなところが誤解されるんだろう。
確かに、ああいう恥ずかしがり方をされると、誤解して離れていく人がいるかもしれない。
・・・まぁでも、僕は千雨から離れないし、そもそも離すつもりもないのだけど。
そんなことを考えて、さっきまでとは違う、少し意地の悪い笑みを浮かべて、千雨の後を追う。
ドアを開けて左手には台所とテーブル、右手の向かい側にはテレビ。
右手前には、その気になれば横になってぐっすり眠れる柔らかいソファ。
ソファの上にはこれまた柔らかいシーツが敷いてあってなんともさわり心地がいい。
テーブルの上にはさっき二人で食べたケーキのお皿。
一度だけだけど、千雨に『あーん』ってしてもらえて、凄く嬉しかったなぁ。
「じゃ、私洗い物すませるから」
そっけなく言うと、千雨はさっさと台所に行ってしまう。
一瞬だけのお別れ、けど今の僕にはそれさえ惜しく感じられる。
そんな気持ちをなだめすかして、ソファにぼすん、と勢いよく腰掛ける。
『ソファが壊れるからやめろ』と千雨にいつも言われるけど・・・まぁいいか。
かちゃかちゃと、洗い物のこすれる音を聞きながら、じっと待つ。
そう長く待たずに、洗い物をすませた千雨がソファのほうへとやってきた。
「テレビつけるか?」
千雨が尋ねる。
「・・・いい」
僕が断わる。
せっかく千雨と二人っきりなんだから、とことん二人っきりのままでいたい。
それが、僕の正直な気持ちだった。
変な奴、といいつつ、千雨が僕の隣に腰掛けた。
・・・うん、コスプレした千雨がソファにちょこんと座ってるってだけでもう可愛すぎてぎゅーってしたくなるね。
でもね、でもね千雨。
僕、今日はもうちょっと積極的になってほしいんだよね。
「・・・・・・・なんだよ」
「・・・・・・千雨、こっち」
にっこり笑って、自分の膝をぽんぽん、と叩く。
見る見るうちに、千雨の顔が耳まで真っ赤になる。
「な、な・・・お前・・・・・ッ!?」
わなわなと震えながら、何かを言おうとした千雨の耳元に口を寄せ、こっそりささやく。
「――――今日は、“なんでも”、してくれるんだよね?」
「――――――――ッ!」
きっ、と睨みつけてくる千雨の視線に、意地悪な、凄く、凄く意地悪な笑顔で答える。
千雨には悪いけど、今日はとことん意地悪をさせてもらおうと思う。
だって、こういう日でないと・・・色々できないわがままもあるし、ね?
しばらく僕を睨み続けていた千雨だけれど、ついに観念したのか、そっぽを向いたまま、僕の膝の上に座ってくれた。
ふふ、ホントに素直じゃないんだから。
・・・いや、ちゃんと座ってくれたんだから素直なのかな?
まぁ、どっちにしても可愛いことに変わりはないのだけど。
千雨はまったく僕のほうを見ようとしない。
怒ってるという意思表示なんだろうけど、やっぱり淋しいなぁ。
といっても、ここで下手に何か言っても逆効果だろうし。
・・・というわけで。
「・・・ひゃあっ!?」
抱きしめてみました。後ろから。
ああもうその驚き方も可愛いなぁ!
・・・変態くさいとか言わないで。
「こ、この馬鹿っ、何すんだいきなりっ!」
首だけで振り返り、うがー、というのがぴったりな勢いで抗議する千雨。
んー、何すんだ、といわれても。
「・・・千雨がこっち向いてくれなくて、淋しかったから」
素直に答えるしか。
「なっ・・・ばっ・・・このっ・・・・・・・!!」
僕の答えを聞いた途端、千雨はさっきまでの勢いもどこへやら、またうつむいてもじもじと。
くすくす、と笑いながら、千雨の頭を撫でてあげる。
最初は体を硬くしていた千雨だけれど、しばらく撫でてあげていると、まるで飼い主に擦り寄る猫みたいに体を寄せてくれた。
多分、無意識だと思うけど。
そうして頭を撫で続けて、また千雨の体をぎゅーって抱いて。
もうコレ以上ないってくらい幸せだなぁ、と思ってた、そのとき。
「・・・なぁ、ザジ。 お前、私といて、楽しいか?」
不意に千雨が、そんなことを聞いてきた。
「・・・楽しいに決まってるじゃない」
至極当然に、そう答える。
そうでなかったら、こんな風にわがままを言ったりしない。
けれど千雨は――――今気づいたけれど――――どこか暗い声のまま。
「でも、でもさ。 私みたいな可愛げのない奴と一緒にいるより、もっといい奴がいっぱいいるんじゃないか? 椎名とか、大河内とか、茶々丸さんとか」
そういって、うなだれる。
「・・・どうして、急にそんなこと言うの?」
聞かずにはいられない。
「どうしても何もねぇよ――――ただ、せっかくの誕生日なのに、ずっと私に張り付きっぱなしで、お前はホントによかったのか、とか思っただけだ」
「・・・よかったよ? むしろよすぎるくらい」
そういっても、千雨は顔をあげないままで。
・・・うーん、どうしようか。
どうしてかはわからないけど、千雨は僕が楽しくないんじゃないかと悩んでしまってるみたいだ。
どうしてそんなふうに悩んでしまうかは、わからないけれど。
ていうか僕、そんな千雨を不安にさせるようなことしてないはずなのになぁ。
でも、千雨はホントに悩んでるみたいで。
僕は、なんとか千雨に元気になってもらいたくて。
そのためにはどうすればいいのかな、と考えることしばし。
「・・・じゃあ、見せてあげる」
「え?」
結論、論より証拠。考える前にまず動け。
というわけで、僕は、千雨がもう二度とそんな不安を抱えられないくらい、僕が千雨を大好きってことを教えてあげることにした。
具体的には――――――――抱きしめた千雨の体を、そのままソファに押し倒した。
「な、お前、何す――――むぅぅっ?!」
突然のことに目を白黒させる千雨の唇を、強引に奪う。
舌を無理矢理に押し入れ、逃げる千雨の舌を絡め取る。
「んむっ・・・むぅっ・・・んく・・・・・ふぁ・・・・あむぅっ・・・・!」
執拗に、貪欲に。
千雨の口内を、徹底的に蹂躙する。
千雨の口からもれ出る吐息と、舌が絡み合うぴちゃぴちゃという音だけが、静かな部屋に響き渡る。
千雨は逃げない、逃げられない、僕が絶対逃がさない。
きつく、きつく、抱きしめて、千雨の体を縛り付ける。
最初は必死で暴れていた千雨も、僕の舌が千雨の舌に触れたあたりで動きが止まり、僕が完全に千雨の舌を捕まえると、完全に抵抗しなくなっていた。
「んむ・・・くちゅ・・・・・・ちゅぷ・・・」
僕の舌を受け入れた千雨の口の中を、存分に貪る。
ぎゅっと抱きしめた千雨の体がどんどん火照ってくるのがわかる。
それと同時に、僕の心臓も、どんどんどんどん熱く激しく跳ね回る。
もう、止められない、止まらない、千雨の“スベテ”を奪うまで。
「・・・ぷは。 ねぇ千雨、知ってる?」
唇を離し、笑んで尋ねる。
「・・・・・・・・?」
熱に浮かされたみたいな顔で、虚ろな瞳をした千雨は、ぼんやりと、僕の笑顔を見つめている。
そんな、無垢な千雨に対し、僕は。
「・・・昔はね、太陽が昇ると新しい一日が始まった、って言ったんだって」
にこやかに、冷ややかに。
「・・・つまり、夜の間はまだ日付は変わらないって考えてたんだ」
穏やかに、けれど無慈悲に。
「――――今夜はまだまだ長いから・・・僕の誕生日の間、僕が千雨にシタイこと・・・“なんでも”、してあげるからね・・・・・・?」
――――愛しさと、欲望の入り混じった笑顔で、そう、宣言した。
・・・・『月ヲ汚シテ、闇ハ嗤ウ』に続く。