天の杯をもう一度
「……」
間桐桜は足元の物言わぬ躯をただ見つめる、優しそうな女性の亡骸だ、どことなく藤村先生に似ているなと思った。
もしかすると彼女も教師なのかもしれない、だからだろうか?
もう自分は戦うと決めたにも関わらず…それでもその身体は震えていた。
ここに来た時はまたあの夢の続きかと思った、だから自分の愛する男を見ても素直にその胸に飛び込むことは出来なかった。
しかし…桜は後悔している、何故あの時たとえ泡沫の夢であるのを覚悟の上で彼の前に…衛宮士郎の前に姿を現さなかったのかと。
桜は己の胸を押さえる…あの戦いからもう1年以上が経過しているというのに、まだ欠片の残滓は感じられる。
だがこの疼きが教えてくれる、あの神父が言う聖杯は己の胸に埋め込まれている「聖杯」とは違う…なら叶うかもしれない。
あの夢がもう一度…。
もう帰ることの無い愛しき人を待ち続ける日々の中…時々夢を見ていた。
その夢の中では魔術師もサーヴァントも誰一人傷つけあうことなく平穏な日々を過ごしていた…もちろん自分も。
だが所詮は夢、縁側を吹き抜ける夜風に目を覚ますと、ただ花壇の花だけが揺れている。
そんな過酷な現実に何度も涙した…だから。
「もしも…叶うのならば私はあの夢をずっと見ていたい…それが無理ならせめて」
全てが始まる前に時間を撒き戻して貰いたい。
そうすればきっとあの悲劇を食い止めることが出来る…誰も殺さずに傷つけずに済む。
これが己の犯した罪と孤独に苛まれ続ける彼女が出した結論だった。
罪を犯すのはもうここが最後…どうせ穢れた自分だ、ならば、それに勝ちさえすれば全てが無かったことになる。
太陽が西へと傾き始めている…もうすぐ夕暮れだ。
緋紗子の亡骸をちらりと見て、桜の口がたどたどしく動く。
自分は魔術師として正規の修行を積んでいるわけではない、ただ夢の中でライダーと共に戦っていた自分を倣うのみだ。
ドイツ語の詠唱が終わると影が現れ、亡骸をそのまま飲み込んで消える。
「野ざらしではあまりにも気の毒ですから、せめて」
実際に使うのは初めてだったが思ったよりも上手くいった、
だがそれでも夢の中のようにはいかない。
こうして風変わりな埋葬を済ますと、桜は夕日に向かって歩き出す、目的のために。
重々しいショットガンをちらりと見る、試しに撃ってみたが衝撃で肩の骨が外れそうになった、
この武器は自分の手に余る…出来れば代わりを手に入れたい…そうしたら。
(ごめんなさい姉さん、先輩…私は耐えなくてはいけないと分かっていてももうこれ以上あの日々には耐えられません…
だから今度出会ったら殺します、全てを振り出しに戻すために)
――だが、その目的は早くも頓挫しようとしていた。
「桜ちゃん、あそこに小屋があるわよ」
自身の目の前にいるのは在りし日の藤村大河。
やはり自分と同じく、もはや生きる屍と成り果てた藤村大河ではなく……
緊張感ゼロの大河を目の前にして桜は辛そうに目を伏せるのだった。
間桐桜
【場所:山小屋へ移動中】
【装備:レミントン M870(12番ゲージ6/6) 】
【所持品:予備弾(12番ゲージ)×24、支給品一式】
【状態:健康】
【思考】
1・聖杯を手に入れてホロウ世界へ、それが不可能なら第五次聖杯戦争以前に戻り
全てをやり直す、そのためなら士郎や凛を手にかけるつもり。
2・ショットガンをもてあまし気味、別の扱いやすい武器(ナイフなど)を入手したい
藤村大河
【場所:山小屋へと移動中】
【装備:サバイバルナイフ】
【所持品:支給品一式】
【状態:健康】
【思考】
桜と夜が明けるまでは山小屋で身を潜める
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最終更新:2010年06月27日 15:43