メイドさんと大きな銃(+花火)


「あれ? 桜ちゃん?」
「――っ!? 藤村先生…………」
森を歩いていた50番・藤村大河は、近くで1発の銃声を耳にした。
もしや自分の知人が襲われているのではないかと思い、支給品のサバイバルナイフを片手に大急ぎで銃声のした方へ駆けつけると、そこには散弾銃を持った間桐桜の姿があった。


(――まさか、いきなり藤村先生と出会ってしまうなんて…………)
桜は内心困惑した。殺し合いに乗ると決めた早々、いきなり知人が目の前に現れたことに。
(これも運命の悪戯というものでしょうか?)
そう思った桜であったが、次の瞬間、ふとあることを思いついた。

――それは『殺し合いに乗っていないと見せかけて自身の身を守る』ということだ。
支給品の散弾銃は自身の手に有り余る代物だ。だが、他の参加者から見れば、これは間違いなく『大当たり』の部類に入る武器である。
ならば、それをダシに使えそうな――すなわち『役にたちそうな』支給品とそれを持った参加者たちを集め、彼らに自身の身を守らせる―――つまり、『自身の盾となってくれる捨て駒を集めていく』というやり方である。

正直、先ほど緋紗子の亡骸に使った自身の魔術はこの島ではあまり役にたちそうとは思えないし、自身の身体能力では殺し合いに積極的に参加しても、男性はおろか姉である凛や同姓の者にすら及ばない。
桜自身、この殺し合いを1人で戦っていくということには限界があるということは判っている。
――ならば、非力な自身がこれ以外で勝ち残っていく方法があるだろうか?
――――正直言ってない。

それに、凛や義兄である慎二以外の人間は自分が魔術師であることなど知らない。というより知っているわけがない。
おそらく、この島で初めて会う人間も自身のことは『何も出来ない』一般人にしか見えないだろう。そこも上手く利用すれば、この殺し合い――有利に進むことが出来るかもしれない。

ならば桜がやるべきことはひとつだった。
(――あえて日常を、皆が知る『間桐桜』を演じる。それがわたしのこの殺し合いにおける戦法…………)





教会の聖堂を出て少し西に行ったところに小さな山がある。
そして、その山頂付近には山小屋のような小さな木造の建物が生い茂る草木に埋もれるようにして1つ存在する。
既に日は沈みかけている。なので、夜が明けるまで2人はそこで身を潜めることにした。



「これで……よしと」
大河は長く伸ばした糸をくくり付けた空き缶をそっと窓辺に置くと、ふうと息をついた。
「お疲れ様です、藤村先生。 ……でも、これはいったい何なんですか?」
コップに支給された水を注いで大河に渡しながら桜が尋ねた。
「ん? ああコレ? ちょっとした警報装置よ。この小屋の周辺半径数メートルくらいの場所にその缶にくくり付けてある糸を仕掛けたの。
そ・れ・で、誰かがその糸に引っかかると先にあるこの缶が落ちるって仕掛けよ。凄いでしょ?」
「は…はい。凄いです。まさか小屋で見つけた代物でそんなものが作れるなんて……」
「ふふん。そうでしょ~? ……まあ、実を言うと、これわたしがちょっと前に読んでたバトルなんちゃらってマンガから得た知識なんだけどね~……」
そう言って苦笑いを浮かべながら大河は受け取ったコップの水を一気に飲み干した。

――しかし、大河もまさか自分たちがその読んでいたマンガのような出来事に直面することになろうとは思ってもみなかった。
しかもそのマンガから得た知識がいきなり役に立つとは思わなかった。なんとういう皮肉な話だ、と大河は内心呟く。
(おまけに、貰ったデイパックの中には1リットルの水が入ったペットボトル2本にうちの学園の購買でも売ってそうなパン、それと島の地図とコンパスと参加者の名前と学年が記された名簿にナイフ……
そこまでマンガと忠実に再現しなくてもいいでしょうに……)
そう思いながら大河はもう1杯コップに水を注ぐ。


「――でも桜ちゃん、本当にその銃わたしが持ってていいの?」
大河は自身の足元に置かれている散弾銃、レミントン M870をちらりと見つめた。桜の支給品である。
「はい。それは先生が持っていてください。わたしだと多分もしもの時にも使えないと思うので……」
「なるほど……。わかったわ桜ちゃん。じゃあ、これは先生がしばらくの間預かっておくわね?」
「はい。 ――っ!? 先生!」
「!?」
突然、桜が大河の背後を指差し驚きの声をあげた。
何事かと思い、大河も急いで後ろに振り返ると――――つい先ほど仕掛けたばかりの缶がカランと音をたてて床に落ちるところだった。




「まさかこんな所に糸が仕掛けられていたとは……」
45番・月詠真那は自分の膝下に張られている糸を見ながら呟いた。
目の前の小屋からカランという音が聞こえたような気がした。
それとほぼ同時に散弾銃を持った女性が小屋の中から飛び出してきた。
「誰!?」
「!?」
すぐさま真那と女性の目が合う。
同時に女性の持つ散弾銃の銃口がきらりと夕陽の光を反射させながら真那を捉える。

「――驚かせてしまい大変申し訳ありません。私は御剣家に御仕えする侍従、月詠と申します。こちらに戦う意思はございません。どうか武器を収めていただけないでしょうか?」
「……それなら証拠として貴女の持っているものを全てこちらの1・2・3の合図と同時に前の地面に捨てて。わたしも一緒にコレを捨てるから」
「わかりました」
月詠は頷くと同時に肩に提げていたデイパックを手に取り大河に見せた。
「今私が持っている荷物はこのデイパックの中のもので全部です。そちらも準備はよろしいですか?」
「ええ。じゃあいくわよ? 1…2の……3!」

大河の投げた散弾銃と月詠が投げたデイパックが空中で交差し、やがて2人の間に落ちた。


「…………信用していただけたでしょうか?」
「ええ。疑って悪かったわね」
「それは仕方がありません。状況が状況ゆえ……」
大河がふっと笑みを見せると、月詠もふっと笑みを返した。
「――それに、もし私が怪しい素振りを見せたら貴女様はそのナイフを持って私に飛び掛って来ていたでしょうし……」
月詠はそう言いながら大河の腰に備えられていたサバイバルナイフを指差した。
「あ……ばれてたのね…………」



大河は散弾銃と月詠の荷物を持って小屋に戻ると、中で隠れていた桜に月詠が敵ではないことを説明し、彼女を小屋へ招き入れた。
「失礼いたします」
一度頭を下げてから小屋の中に入ってきた月詠を見て、大河は侍従というのは嘘ではなさそうだと思った。
というより、彼女の服装からしてそういう関係の仕事をしている人なのだろうと最初に彼女を見たときから薄々感じてはいたが……


「これが私に支給された代物です」
月詠は自身のデイパックから取り出した花火セットを大河と桜に見せた。

「花火……ですか?」
「はい。私自身も何度か確認してみましたが、間違いなく普通に市販されている花火のようでした」
「花火か~……あーあ。今がもし殺し合いなんて状況じゃなかったら、夜に士郎やみんなと綺麗な花火を楽しめたんだろうな~~……」
「そうでしょうね……」
「シロウ? それは名簿に乗っていた衛宮士郎様のことでしょうか?」
「はい。そうです……月詠さんは先輩とお会いしませんでしたか?」
「いえ。残念ながら……私は先ほどまで武様、冥夜様のご学友の方々や部下たちを探しておりましたが、途中一度も人にお会いしてはございません」
「そうですか……」
「だ~いじょうぶよ桜ちゃん! 士郎も慎二くんもそう簡単にやられたりするような子たちじゃないわ。それは先生もよ~く知っているから!!」
肩を落とす桜の背中を大河がどんと叩いた。


「……そうですね。先輩や兄さんたちを信じましょう」
そう言うと桜はにこりと笑顔を見せた。
――が、今の彼女は士郎や慎二に会いたいという気持ちは微塵も思っていない。
「そうそう。桜ちゃんにはしょんぼりした顔なんかよりも笑顔のほうがぜんっぜん似合ってるもの」
「――それで、藤村様たちはこれからどうするおつもりなのですか?」
「ああ。そうだった! ごめんね~月詠さん」
月詠のことをすっかり忘れていた大河は、彼女の方に向き直るとこれからの自分たちの行動方針を月詠に話した。

ひとつは、もうじき外は日が沈んで暗くなるので、今晩はとりあえずこの小屋で身を潜めているということ。
士郎や慎二、そして学園の知人たちの身も確かに心配ではあるが、自分たちの身の安全には変えられないからだ。

もうひとつは、日が差してきたらこの小屋を去って近くの村へ行ってみるということだった。

「確かに、村には多くの参加者が集まる可能性はあります。しかし、逆に言えば殺し合いに乗った者たちもいる可能性が高いということです」
「まあ、それはもとより覚悟の上ってやつよ。そうでもしないと士郎たちと合流できないかもしれないし……ね?」
「はい。それに先輩はきっとこの殺し合いを止めるために仲間となってくれる人たちを探しているに違いありませんから」
「そういうこと。士郎はたま~に1人で突っ走りすぎて暴走しちゃう時があるから、お姉さんたちがしっかり面倒見てあげないと何をしでかすか判ったものじゃないしねえ。
あ。もしよかったら月詠さんも一緒に行動しない? 1人よりも2人、2人よりも3人の方がきっと安全だし、それに探している人たちも見つけられるかもしれないわよ?」
「――そのお気持ちはありがたいのですが、私は侍従――主に御仕えする身。一刻も早く冥夜様や武様たちをお探ししなければなりませんので、誠に申し訳ございませんがお二人とご一緒することはできません」
そう言って月詠は2人に頭を下げた。


「そうですか……あ。じゃあ、もしよろしければ月詠さんが探している人たちの名前と特徴を教えてくれませんか?」
「そうね。もし、その子たちがわたしたちと会うことがあれば月詠さんが探していたことを伝えておくから」
「わかりました。では私のほうも藤村様たちがお探しになっている方々の名と身体的特徴をお伺いしておきましょう」
早速3人は各自のデイパックから名簿を取り出し、それぞれが探している参加者の名と特徴をメモしていった。

(――御剣冥夜さんに白銀武さんですか……上手く利用できるかもしれませんね…………)
月詠の話を聞きながら桜は内心そう呟いていた。



「――では私はこれで……」
「気をつけてくださいね月詠さん」
「はい。間桐様たちも」
そう言ってまた一度頭を下げて礼をすると月詠は自身のデイパックを提げて行こうとしたが、そこを大河が呼び止めた。

「月詠さん」
「はい。何でございましょうか?」
「これ持って行きなさい」
月詠が振り返ると大河は先ほど桜から譲り受けた散弾銃とその予備の弾を彼女に手渡した。

「これは……よろしいのですか? これは藤村様たちが己が身を護るために必要なもののはず……」
「大丈夫よ。まだこっちにはナイフもあるし、それに正直言うとわたし銃よりも剣の方が得意だし……桜ちゃんも別にいいわよね?」
「はい。月詠さんには何も自身の身を護るためのものがありませんし、藤村先生がそうおっしゃるのであれば」
「…………わかりました。では、この銃は今しばらくの間大事に使わせていただきます。ですが必ずこれは藤村様たちにお返しいたします」
「うん。それでいいわ。――あ。じゃあ、その代わりと言っちゃ何だけど、月詠さんの花火を貸してもらえないかしら?」
「花火をですか? 構いませんが……」
「ええ。ありがとう」
月詠は花火セットをデイパックから取り出すと、それを大河に手渡す。


「月詠さん。これから先、探している人に会えても会えなくても、もしわたしたちに会いたくなったら2つ焚き火をして。
その煙を見たらわたしたちがこれを10分……いや。15分ごとに打ち上げるから、それを頼りにわたしたちのもとに来て頂戴」
そう言って大河が花火セットの袋の中から『炸裂! 30連発!!』と書かれた市販の打ち上げ花火をいくつか取り出した。

「わかりました。ありがとうございます。――では今度こ失礼いたします」
月詠はそう答えるてまた頭を下げると今度こそ2人のもとを去っていった。



「藤村様に間桐様……まだ信じられる人がこの島にはいてくれてよかった…………」
森の中を歩きながら月詠はそう呟いた。

――実は彼女はあの小屋に行く途中、爆発音と銃声らしき音を何度か耳にしていた。
直接見ていなくとも既に殺し合いは始まってしまっていると判ったとき、まさか自分の部下や武たちもと薄々考えてしまっていた。
だが、あの2人に会えたことで月詠の中に再び希望の灯が強く点り始めた。

「待っていてください冥夜様、武様。そして皆さん。月詠が今助けに参ります……!」
左肩にはデイパック。右肩には散弾銃を提げて月詠は薄暗くなりつつある森の中を前へ前へと歩いていった。



【時間:1日目・午後5時45分】

月詠真那
 【場所:森林地帯】
 【装備:レミントン M870(12番ゲージ6/6)】
 【所持品:予備弾(12番ゲージ)×24、支給品一式】
 【状態:健康】
 【思考】
  1)冥夜たちを探す
  2)士郎たちに会えたら大河たちのことを伝える
  3)ゲームには乗らない。乗っている者と接触した場合は戦う
  4)大河たちに会いたくなったら2つ焚き火をする
  5)大河たちと再開して散弾銃を返す

藤村大河
 【場所:山小屋(教会西側の山の山頂付近)】
 【装備:サバイバルナイフ】
 【所持品:支給品一式(水を少し消費しました)】
 【状態:健康】
 【思考】
  1)桜と夜が明けるまでは山小屋で身を潜める
  2)朝になったら近くの村(西側)に行き士郎たちを探す
  3)冥夜たちに会えたら月詠のことを伝える
  4)ゲームには乗らない。乗っている者と接触した場合は戦う
  5)月詠から合図があったら15分ごとに花火を打ち上げる

間桐桜
 【場所:山小屋(教会西側の山の山頂付近)】
 【装備:なし】
 【所持品:花火セット、支給品一式】
 【状態:健康。ステルスマーダー化】
 【思考】
  1)大河と夜が明けるまでは山小屋で身を潜める
  2)ゲームに乗っている者と接触した場合は戦う。乗っていない者と接触した場合、利用できる者は利用し、利用できない者、用済みの者は隙を見て始末する
  3)朝になったら近くの村(西側)に行き士郎たちを探す(桜本人は自ら士郎たちに会うつもりはない)
  4)冥夜たちに会えたら月詠のことを伝える(そして利用できるならある程度利用する)
  5)月詠から合図があったら15分ごとに花火を打ち上げる

【備考】
  • 山小屋から半径数メートルには警報装置の糸が仕掛けてあります(人の膝下くらいの高さ。丁度生い茂る草木で隠れるように仕掛けられています)


【ランダムアイテム備考】
  • レミントン M870
 アメリカ、レミントン社の代表的なポンプアクション式散弾銃。口径は12番ゲージ。
 操作性の高さと頑丈さが評価されて、狩猟はもとより警察機構の制式散弾銃としてよく使用されている。
 日本でも、狩猟用として販売されていたり、海上保安庁の特別警備隊に錆びにくいクロームステンレス製のマリーンマグナムと呼ばれるものが採用されている。

  • サバイバルナイフ
 米空軍のパイロット用などに用いられているタイプ。反射防止のため刃は黒く塗られている。濡れても滑らないように革製のハンドルを使用している。
 その名の通り、戦闘用としてだけでなくサバイバル用品としても極めて優秀。

  • 花火セット
 線香花火からドラゴンにロケット、打ち上げ花火まで様々な種類の花火が入っている花火の詰め合わせ。
 種類と使い方次第ではいろいろな使い方ができる。




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GameStart 月詠真那 めいどさん★すぴりっつ!?
天の杯をもう一度 藤村大河 その横顔を見つめてしまう?
天の杯をもう一度 間桐桜 吊り橋の果てに






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最終更新:2010年06月27日 15:44