小っちゃな次期当主と大きなご令嬢


「………」
式守伊吹(32番)は不機嫌だった。
それは突然こんなところに連れてきたうえ殺し合いを強要した主催者への怒りだったり、口答えした少女が粉微塵に爆砕された時に不覚にも震え上がって何も出来なかった自分への憤りだったり、伊吹のマジックワンドであるビサイムが無いうえ強力な結界の所為で魔法の行使が出来ないことへの苛立ちだったり…………
理由を挙げると切りがないのだが、実のところ一番伊吹を不機嫌にさせているのは今の状況だった。

「沙耶と信哉はいったい何処におるのだ? 肝心なときにおらんのではどうにもならんではないか!! 
……ええぃ、この際すももでも良い。神坂春姫でも……まあ許そう。とにかく誰かおらんのか!?」

普段の伊吹ならまず出ない言葉が口を突いて出るほど彼女は困惑していた。
こう見えても世界有数の魔法使いの名家、式守家の次期当主である彼女。魔法戦ならたとえ一人であっても戦い、勝ち抜ける自信はあったが、その魔法が制限された状態での戦闘、それも何でもアリの殺しあいとなると話が変わってくる。
このようなサバイバルに適しているとはお世辞にも言い難い伊吹にとって唯一の頼みの綱といえば支給品の武器だが、これも伊吹にとっては頭痛モノだった。

「くそっ、あの言峰とかいう輩、私にこんなモノを押しつけおって!」
忌々しげに伊吹が睨み付けるディバックの中には黒光りする一丁の回転式拳銃――コルト・パイソンがあった。
普通の人間なら大当たりだと歓喜するところだが、銃器の取り扱いが大の苦手(ゲームセンターのガン・アクションものですら散々だった)な
伊吹にとってはこれ以上やっかいなモノは他になかった。
おまけに銃に疎い伊吹は知らなかったが、このコルト・パイソンはかなり威力が強い銃で、非力な伊吹ではまともに撃てるかどうかも危うい代物だったのだ。
銃を見た瞬間、拒絶反応を起こし、ディバックに押し込んだから良かったものの、もしふざけて片手撃ちなど試していたなら確実に手首を痛めていただろう。
いつのまにか危機を回避していたことなど露知らず、伊吹はずんずんと森の中を進んでいた。


余りにも常識はずれな事態やら、気の知れた従者や知り合いのこと、いま自分を苦しめている悪路、使えない上に重い支給品、その他もろもろに気をとられていた所為だろう、普段の彼女なら気付いたであろうそれに伊吹は気が付いていなかった。

「むぅ、これでは埒があかん、ここは一か八か探知魔法でも試してみるか…」
結界が張られているのは重々承知していたが、試してみる価値はある。
そう思った伊吹が、探知魔法を発動させようと意識を集中させたその直後だった。
突如として視界が黒いカーテンのようなモノに覆われたかと思うと、背後から伸びてきた腕が、胸元に回り込んできた。
(捕まる!?)
そう思った時にはもう手遅れで、その時には既に回り込んできた腕に伊吹の身体は締めあげられていた。

「なっ!? なっ、何奴だ!? いきなり何を……は、離せぇ~!!」
突然の襲撃に慌てふためきつつもどうにか脱出をしようと反撃を試みる伊吹。
だがしかし、余程の体格差があるのか抱き上げられた伊吹の足は地面から離れており、手足をいくらじたばたさせても虚しく空をきるだけで何の効果もなかった。
「離せと言うのが分からんのか!? この無礼者めっ!? は~な~せぇ~!!!! けほっ、けほっ…」
とうとう叫びすぎてむせ込む始末。万策つきたか…などと伊吹が思ったその時、背後から申し訳なさそうな声が聞こえてきた。

「ごめんなさい、なんだか可愛らしい娘が一人で歩いているのを見えたから、ついいつもの癖で抱き締めたくなっちゃって…」

声と共に締め付けが緩み、黒いカーテン(よく見ると髪の毛だった)も解ける様に引いていった。
ようやく開放された伊吹が呼吸を落ち着かせながら振り返ると、長身の女性――十条紫苑(33番)が、つい今しがた自分を締め付けた者とは思えぬほどたおやかな笑みを浮べてそこに立っていた。



話を少し前に戻す。

「さて、これからどうしましょうか?」
支給品を渡された紫苑が聖堂を出てからまず考えたのは、ごくごく普通な考えだった。
知り合いが出てくるまで、この辺りでじっとしているか、それともここから離れるか……

聖堂の中で見ていた限りでは呼ばれる順は五十音順だったから、同じさ行の周防院奏や菅原君枝辺りとならすぐにでも合流できるだろう。
「奏ちゃん…」
特に目に入れても痛くないほど可愛がっている奏とはすぐにでも合流してあげたい。そしてぎゅっと抱きしめ――いや、守ってあげたい。
しかし、今は殺し合いの真っ最中、奏たちをまっている間、誰かに襲われないという保障も無い。
それに加えて紫苑は病弱な身、奏たちと上手く合流できたとしても、発作など起こした日には逆にお荷物になりかねない。
瑞穂と合流できたなら話も変わってくるのだろうが、五十音順では瑞穂が出てくるのは大分後になるので期待できそうも無い。
「仕方ありませんね、少し離れたところで様子を見ることにしましょう」
結局考え抜いた挙句、紫苑は聖堂から離れることにした。

間もなく紫苑は濃緑の森の中でやけに目立つ銀髪の可愛らしい少女を見つけ、その少女――式守伊吹の寿命を削ることになった一歩を踏み出したというわけである。


時間:1日目・午後3時00分】
【場所:森の中】

式守伊吹
【装備:コルト・パイソン(.357マグナム弾6/6発)】
【所持品:予備弾丸(.357マグナム弾)×24、支給品一式】
【状態:健康、かなりびっくり】
【思考】
1・誰だ?というか今のは一体……
2・沙耶や信哉たちと合流。
3・この際すももたちでも構わん!

十条紫苑
【所持品:支給品一式(ランダムアイテム不明)】
【状態:おボクさまモード(解除されつつある)】
【思考】
1・可愛らしい娘ですね。
2・奏ちゃんが気になります。
3・瑞穂さんたちと早く合流したい。


【武器詳細】
  • コルト・パイソン
1956年にコルト社が開発した.357口径の大型リボルバー。仕上げのよさから「リボルバーのロールスロイス」とも呼ばれる。
S&W M19(コンバット・マグナム)より命中精度が高いように思われているが実際にはベンチテストでの差は無く、弾速が低い分ロングレンジを苦手とする。
弾速が低くバレル下にウェイトを持つため反動はいくぶん軽い。
分かりやすく言うと『シティーハンター』の主人公が使っているあの銃。




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最終更新:2010年06月27日 15:45