尊人オルタナティブ


「さて。スタートしたのはいいけど、教会の周辺に冥夜たちはいないみたいだし、これからどうしようかな?」
鎧衣尊人(60番)は森の中を1人歩きながら、これから先どうしようか考えていた。

もちろん、彼(?)の最優先目標は武たちと合流することだ。
その次に優先する目標は、もちろんそれまで絶対に死なないことだ。

冒険家である父にことあるごとに拉致される形で世界の様々な秘境や魔境を経験し、制覇してきた自分の知識は多分少しは武たちの助けになるだろう。
それに、自分が貰った支給品は間違いなくこの殺し合いが行われている殺伐とした島では大変重宝するはずだ。

「行くとしたら、やっぱり人が集まりそうな場所かな?」
地図を広げて人が集まりそうな場所を確認してみる。
(やっぱり、人が集まる場所といえば村か新都が一番かな?)
そんなことを考えていると、彼の近くにポトリと音をたてて何かが落ちた。
「ん? なんだろう?」
目を向けると、そこには1つの小さな鉄の塊が転がっていた。
「…………え~と……これって……うわっ!? 逃げろーーーーっ!!」
尊人がソレが手榴弾であることに気づき、その場から逃げ出すと同時に、落ちていた手榴弾が轟音と爆風を周辺に響かせた。
「うわわわわっ!?」
尊人は1メートルくらい軽く吹っ飛んで2、3回地面をごろごろと転がったが、すぐに立ち上がり、そのまま真っ直ぐ駆け出した。
「ここは逃げるのが一番の得策だよね、うん!」


「くそっ。やっぱり確実に仕留めるなら銃のほうがいいみたいだな……無駄弾を使わせやがって……!」
そう言って茂みの中から姿を現したのは、先ほど薪寺楓を殺害したばかりの間桐慎二だった。
「だけど、反撃してこなかったってことはろくな武器は持ってないってことだよな? まあいいや。今のうちに1人でも多く殺しておいたほうが後々楽だしねっ!」
慎二はズボンの腰に差していたシグ・ザウエルを手に取ると、尊人の後を追った。



「あっ。出口だ」
5分ほど走っていると前方から夕焼け空が尊人の目に入った。つまり、森を抜けたということだ。
尊人はすぐさま外へ飛び出したが、その先には――――道がなかった。
「う、うそ……?」
尊人の目の前は崖と言っても間違いではないほど高く、急な斜面になっていた。
さらにその下には、また森が広がっていた。

(高さは大体十メートル弱ってところかな? これは、もし足を滑らせたらタダじゃ済まないかも…………)
尊人が斜面の下を見下ろしていると、背後からカチャリという音が聞こえた。
「!?」
慌てて振り返ると、そこにはシグ・ザウエルを構えた間桐慎二の姿があった。
その銃口は確実に尊人を捕らえていた。
「残念だけど、鬼ごっこはお仕舞いだよ」
そう言う慎二の顔は勝ち誇った笑みを浮かべていた。
「うん。そうみたいだね」
そんな慎二に対して尊人は臆することなく笑って言い返した。
それが慎二の癪に障ったようで、次の瞬間には慎二の顔からは笑みが消え、代わりに苦虫を噛み潰したような表情が浮かび上がった。
「くっ……ふざけているのか!? おまえの命はもう僕が握っているようなものなんだよ!?
びーびー泣きながら頭下げて命乞いをするっていうなら命だけは助けてやってもよかったのに、馬鹿な奴だ! 決めた。絶対に殺す!!」
そう叫ぶと慎二は手に持つシグ・ザウエルの銃口をさらにずいっと尊人に近づけた。
「――だけど、僕だって別に鬼じゃあないさ。このまま撃たれて死ぬか、それともそこから飛び降りて死ぬか、好きなほうを選ばせてあげるよ!」
そう言って慎二はまたニヤリと口元を吊り上げた。コロコロと表情を変える子だな、と尊人は思った。

ちらりと尊人は慎二の目を見た。
――間違いない。この目は人殺しのソレだ、と尊人は直感した。
――ならば、尊人が選ぶ選択はただひとつであった。


「そうかい? それなら遠慮なく――」
「?」
「生存率が高いほうを選ぶよボクは」
そう言うと、尊人は振り返ることなく後ろに飛び、そのまま斜面を一気に滑り降りた。

「な……!? て、てめぇっ! そうやすやすと逃がすか!!」
慎二は慌てて斜面ギリギリの所まで駆け寄ると、即座にシグ・ザウエルを構え直し、斜面を滑り降りていた尊人に向けて2発発砲した。
その弾の1発は尊人の右わき腹に命中し、そしてもう1発は――――それでバランスを崩してしまった尊人の胸に吸い込まれていった。
「がっ!?」
次の瞬間、尊人はがくっと足を滑らせ、そのまま斜面をごろごろと転がり落ち、やがて斜面の下に広がる森の中へと消えていった。

「フン、クソが……! ま。とりあえずこれで早くも2人脱落ってことでよしとするかな?」
そう言ってすぐに気分を替えると、慎二は調子よくその場を離れ、自身が来た道へと戻っていった。





「圭さん、今の音……」
「ええ。間違いなく銃声ね……」
森の中を歩いていた2人の少女――小鳥遊圭(40番)と高根美智子(41番)は突然聞こえた銃声に慌てて足を止めた。
「――つまり、もう殺し合いに乗ってしまった方がいるってことですよね?」
「そうなるわね」
圭は自身の手にある支給品のMP5(本当は圭のではなく、美智子の支給品だ。圭の支給品は竹刀だった)を軽く握ると、一度周辺を警戒する。
「……? ねえ、何か聞こえない?」
「え?」
圭がそう言ったので美智子も慌てて耳をすませてみると、確かに、近くから何やら音が聞こえた。


それはバキバキと木々が折れる音だった。
しばらくすると、ドーンと何かが地面に落ちる音がして、それから何も聞こえなくなった。
「なんでしょう、今の音?」
「……こっち」
そう言って圭が指差す方へゆっくりと歩き始めたので美智子も慌ててそれに続く。


2人が音源と思われし場所に来ると、そこには大量の折れた木々と落ち葉の中に埋もれるように倒れている鎧衣尊人がいた。
どうやら近くの斜面から勢いよく転がり落ちてきたようだ。
「け、圭さん……この人……」
「大丈夫。まだ生きてるわ」
圭はそう言って慎重に尊人に近づくと、彼の頬を数回叩いた。
「う…ん……?」
すると尊人はゆっくりと目を開いた。

「……大丈夫?」
「ん? あ。君たちが助けてくれたのかい?」
尊人は上半身をゆっくり起き上がらせると、圭と美智子に一度頭を下げた。
「助けたというより、偶然貴方があたしたちの近くに落ちてきたのよ」
「ああ、そうなの。ええと……ボクを起こしてくれたってことは、君たちは今のところ殺し合いに乗ってはいないんだよね?」
「はい。私と圭さんは瑞穂さんたちを探しているんです」
「瑞穂さん? ああ。ボクの2つ前にスタートした子だね?」
「え? ということは……」
「自己紹介がまだだったね。ボク、鎧衣尊人。デイパックに入っていた名簿だと60番だったかな?」
「尊人さんですか。私は高根美智子といいます。そして、こちらは小鳥遊圭さん」
「よろしく」
「圭……? ああ、字は違うけど彩峰と同じ名前だね。じゃあ呼ぶときは小鳥遊でいいかな?」
「ええ。構わないわ」



「――つまり尊人さんはそのワカメみたいなヘアスタイルの人に襲われたんですね?」
「うん。まさか本当に撃たれるとは思わなかったよ」
苦笑いを浮かべながら尊人はこれまでのことを2人に説明した。
「――でも尊人さん、撃たれたわりには随分と元気そうね」
尊人に対して圭がさらりと疑問を口にした。
そう。尊人の制服の上着の胸元と右わき腹には彼の証言通り撃たれた銃弾の跡がくっきりと残っている。
普通ならそれは間違いなく致命傷だ。それなのに、当の尊人はピンピンしている。疑問に思って当然だ。

「あっ。そういえば言ってなかったね。それは、ボクの支給品がコレだから」
尊人がそう言って上着を脱ぐと、その下から1着の黒っぽい地味な色をしたベストが姿を現した。
「あ。それってもしかして……」
「防弾チョッキ……」
「うん。それもかなり高性能なやつみたい」
そう言って尊人はデイパックから説明書を取り出し2人に見せた。確かに、説明書には『マグナム弾も防ぐ』と書かれていた。


「――さて。ボクも急いで武たちを探さなきゃいけないからこれで失礼するけど、もし瑞穂って子たちに会えたら伝えておくことあるかい?」
「そうですね……では、私と圭さんは一緒に行動しているのであまり心配なさらないでください、とよろしければ伝えてください」
「わかった。――あ。じゃあさ、もし美智子たちが武たちに会えたら、ボクは村か新都に行ってるって伝えておいてくれないかな?」
「わかりました」
「うん。ありがとう。それじゃあまたね」
そう言って尊人はデイパックを提げ、2人に軽く手を振るとその場を後にした。
「――では圭さん。私たちも瑞穂さんたちを探しましょうか?」
「ええ」



【時間:1日目・午後5時15分】
【場所:森林地帯】

鎧衣尊人
 【装備:防弾チョッキ】
 【所持品:支給品一式】
 【状態:手足数箇所にかすり傷。数箇所に軽い打撲(行動に問題はない)】
 【思考・行動】
  1)武たちを探す
  2)自身の身の安全を守る
  3)瑞穂たちに会えたら伝言を伝える

小鳥遊圭
 【装備:MP5(9mmパラベラム弾40/40)】
 【所持品:予備マガジン(9mmパラベラム弾40発入り)×3、竹刀、支給品一式】
 【状態:健康】
 【思考・行動】
  1)美智子と瑞穂たちを探す
  2)武たちに会えたら伝言を伝える

高根美智子
 【装備:なし】
 【所持品:支給品一式】
 【状態:健康】
 【思考・行動】
  1)圭と瑞穂たちを探す
  2)武たちに会えたら伝言を伝える

間桐慎二
 【装備:シグ・ザウエル P228(9mmパラベラム弾9/13)】
 【所持品A:予備マガジン(9mmパラベラム弾13発入り)×3、支給品一式】
 【所持品B:手榴弾(×3)支給品一式】
 【状態:健康。マーダー】
 【思考・行動】
  1)ゲームに乗る。そして優勝する(できれば魔術師、魔法使いを優先的に殺していきたい)
  2)ゲームを破綻されるのを阻止する
  3)利用できそうな人間がいたら構わず利用する
 【備考】
  ※尊人を殺したと思っています


【ランダムアイテム備考】
  • 防弾チョッキ
 銃弾の貫通を防ぐほか、金属製のプレートで着弾時の衝撃をある程度分散、緩和する身体防護服。
 日本製のNIJ審査評価AAAタイプ。45口径弾(.45ACP弾)も防げる日本製の市販防弾チョッキでは最強の品で、実弾テストでは(外部に着用した場合だが)トカレフの弾も防いだ。
 防刃パネルは付いていないが、ある程度の刃物は抑止できる。胸部と腹部、背中を守るが腰部は守れない。
 .44マグナム弾までの弾なら防ぐことが出来る。(さすがに衝撃までは防げないが)

  • MP5
 正確にはMP5A4。H&K社が誇るサブマシンガンの代名詞MP5の改良型であるMP5A2のモデルチェンジ型。3バースト機構を搭載している。
 目標に『当てる』事ができる命中精度を持っており、特にセミオート射撃では拳銃を上回る性能を持つ。
 様々なバリエーションが存在し、日本でも90年代の終わり頃、海保の特殊部隊であるSSTがMP5A5を導入し、2002年のFIFAワールドカップの日韓同時開催に伴う警備強化を機に、警察庁がMP5Fをベースにした独自モデル(俗称MP5J)を導入している。

  • 竹刀
 日本の武道である剣道の稽古および試合で防具に対して打突する竹でできた刀の代替品。
 呼び名は、「撓(しな)う」ことに由来するという説がある。
 木刀とは違い鈍器としての性能は皆無だが、突きなどで相手を悶絶させる程度には充分な武器。




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前登場 名前 次登場
開戦直前 鎧衣尊人 どきどきビーチ! 胸騒ぎの予感
GameStart 小鳥遊圭 ノストラダムスに聞いてみろ♪
GameStart 高根美智子 ノストラダムスに聞いてみろ♪
Miss flying victory 間桐慎二 光を求めて







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最終更新:2010年06月27日 15:34