die like a dog


「ふむ……」
時計を一瞥する言峰。17時50分。そろそろ放送の時間だ。
現在の死者数を確認する。当初の目算では最初の6時間でおよそ4分の1は淘汰されると踏んでいたのだが……
「なかなか健闘しているではないか。さて……」
執務室を出て、司令室へと向かう。――そんな言峰の背後を、伺うように進む影があった。
「――驚いたな。未だに潜んでいたとは」
振り返りもせずに背後へと声をかける。と同時に影が踊りかかった。無造作な手刀は衣を一枚剥いだだけだ。
「織倉楓……だったか?」
「…………」
特に感情を込めることなく呟く言峰だが、楓の姿を見て唇が僅かに歪む。

――織倉楓(8番)の身体には無数のコードと粘土状の爆薬がくくりつけられていた。
時限爆弾。これが彼女の支給品だ。
爆薬の量が心もとないが、それでも至近距離なら人間1人くらいなら軽く吹き飛ばせる。


――カチコチと爆弾のタイマーの音が無人の廊下に鳴り響く。
「ほう。考えたではないか」
「これしかなかった……貴方さえ殺せば終わるはずなんです!」
血走った瞳を言峰に向ける楓。しかし言峰はあくまでも余裕だ。
「油断しましたね、護衛をつけないなんて……」
教会への再侵入は思ったよりも上手くいった。鏑木邸のセキュリティと比較するとこの教会の防備はお粗末に過ぎる。
楓はゆっくりと構えを取る。あとは接近さえ出来ればいい。
相手は時限式だと思っているだろうが、実は違う。ポケットの中には起爆装置がある。近づいたらこれで一気に……自分もろとも奴はドカンだ。
「いきます!」
その言葉と同時に、楓は滑るように言峰へと接近する。だが楓の突進はいとも簡単に言峰にあしらわれた。
――が、それでも楓の左手が言峰の腕を掴む。
「これでおしまいです! 私と共に滅びなさい!!」
高らかに宣言すると同時に右腕に意識を向ける。だが……
(この男……まるで動じていない……どうして!?)
片腕を背中に隠した奇妙な構えもそうだったが、このままだと残り数秒で死ぬというのに、言峰はまるで動じていなかった。

次の瞬間、するりと掴んでいたはずの言峰の腕が楓の手から抜けた。――奇妙な音を残して。
(自分で関節を外した!?)
驚く間もなく即頭部に衝撃。さらに遠心力をつけた肘が楓のわき腹にめり込んだ。
しかし、それでも楓は全身を使い、覆いかぶさるように言峰に迫る。彼女にとってみれば接近さえ出来れば、そして瞬き1つほどの時間があればいいのだ。
その様を何の感情も篭らない目で眺める言峰だったが、ようやく背中に隠されていた右腕と同時に動き出した。

「この魂に――」
現れた右腕には何かが握られていた。
「安らぎを」

その詠唱が終わると同時に、言峰の手から放たれた黒鍵は容赦なく楓の身体を貫き、彼女の身体を無残にも壁に縫い付けた。
そして楓は自分の賭けが最初から失敗していたことを今になって悟った。
(迂闊だった……護衛はいなかったのではなく……最初から必要なかったからだったのですね…………)

「…………」
言峰は何一つ表情を変えることなく司令室へと向かって歩いていった。
ピン刺しの標本のように変わり果てた姿を曝す楓を残して。




カチコチカチコチ……

楓の胸にぶらさがった時計が無情に時を刻む。
「――申し訳……ありません、瑞穂さん…………」

カチコチカチコチカチコチ……

「どうか……どうか……」

カチコチカチコチカチコチカチコチ……

「いやああああああ! 死にたくないっ!! たすけ――――!」

――――教会に1つの爆音が響き渡った。


【08 織倉楓 死亡 残り53人】




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最終更新:2010年06月27日 15:06