Funnyboy on the run
開始前の僅かな時間。
「ここでもない、ここでもない…ええとどっちかな?」
かちゃかちゃとスカートのホックを直しながら渡良瀬準は教会の中を彷徨っていた。
豪胆にもトイレに行きたいと口にしてみたら受理されてしまった、周りの面々が縮み上がってるような状況の中で、
しかしそんな彼も実のところはそれほど余裕があるわけでもなかった、だからそんなに大して広くないはずの教会内部で、
迷うハメになってしまったのだ。
「このまま逃げちゃおうか…」
窓から外を見てポツリと呟く…が、そんなことなど出来るはずがないと本能が告げていた。
溜息をついてまたホールの場所を探そうとした準だったが…。
「あれは小雪さん」?」
神父に続いて個室に入っていく、級友の姿を認め息を呑む準…あわてて口をつぐみ息が漏れるのを防ぐと、
そのまま壁伝いに個室へと移動し、扉に耳を付ける…もし小雪に何かあればすぐにでも扉を蹴破る心準備も怠っていない。
そんな彼の耳に届いた声は。
『契約どおり10人殺します。その代わり、それが達成されたあかつきには、私と私の大切な方々を殺し合いから外してください』
柳洞一成が荷物を受け取り、ついに残りは最後の1人となった。
「渡良瀬準、お前の番だ…早く行きたまえ」
だが準は荷物を受け取ろうとせず、ただ言峰を睨みつけるのみだ、それを見て苦笑し時間を確かめる言峰。
「いや、彼女…違うか、彼は私と話があるようだ、諸君らは控えていたまえ」
兵士たちに一瞬動揺が走るが、それもすぐに収まり、準は促されるまま言峰の控える別室へと案内されたのだった。
「さてと、食べるかね」
「誰がそんなもの食べるんですか!」
溶岩のごとき麻婆豆腐を一瞥しただけで目を逸らす準。
「私と会食を楽しみたいというわけではなかったのか? ――で、何かね?」
「小雪さんのことよ」
空とぼける言峰につめよる準。
「彼女のことか。それは君の問題ではない。彼女が選んで決めたことだ。私は強制はしていない」
「強制はしていない…ですって!!」
ばんっとテーブルに両手を叩きつける準。
「あんたが唆したんでしょう!? でも無駄ですから、小雪さんにそんなことができるはず……」
「ないというのならば、どうして君はそのように焦るのだね?」
痛いところを言峰につかれ口ごもる準。
「でも…でもっ…」
小雪の気持ちは準にも痛いほど理解できる。まして物静かな中にも人一倍仲間に対する情熱は深い小雪のことだ。
もし己の身を汚してでも誰かを救う道があるのならば、迷うことなくそれを実行できる意思の持ち主だということも準は知っている、しかしそれでも。
(誰かを傷つけて生き長らえるなんて真似、あたしにはできない)
襲ってきた奴を返り討ちにするのはおあいこだとは思うが、それでも自分が生き残るために他者の命を奪うような真似は、準の範疇には含まれない行為だ。
「ならば君自身が彼女を止めればいい…彼女は東に向かったそうだ、まだそう遠くには行ってはいるまい」
地図を指すとまるで試すような視線で準を眺める言峰、それに対して準は何かを言い返そうとしたが、結局何も言わずに外に出ることにした。
「待て。――餞別だ。持っていきたまえ」
床を滑るように投げ渡されたそれは、ジグザグ状の形をした奇妙な剣だった。
「その剣の名前は
ルールブレイカー、契約破りの剣だ、くれてやる」
訝しげに禍々しき形状の剣を見ていた準だったが、ポケットに剣を突っ込むともう振り向かずそのまま外へと飛び出した。
そして彼は息を切らせて道を急いでいた、神父の話だともうそろそろ追いつくはずだ。
何としても小雪の凶行を止めてみせる。
(小雪さんが手を汚してもだれも喜びはしない。雄真もハチも春姫ちゃんもみんなそこまでして生き残りたくなんかないよ……!)
【時間:1日目・午後17時55分】
【場所:森の中へ】
渡良瀬準
【装備:ルールブレイカー+支給品(不明)】
【所持品:支給品一式】
【状態:健康】
【思考】
1)小雪を止める
※例の最初のやりとりはわざと言峰が準に聞かせたと解釈してください。
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最終更新:2010年06月27日 15:20