Dual


それは開幕前の一コマ。
そこに相対するは同じ顔、同じ姿の2人。違うところがあるとすればいわゆるメイド服を纏った側は己の境遇に恐怖をありありと示し、そして戦闘服を纏った側は、戸惑いはあれど恐れはないといったところだろうか?

「――まさか、こういう形でイレギュラーが起こるとはな…………。悪いが君たちに詳しい事情を説明する余裕もつもりもない。ゆえに、どちらか1人はここで死んでもらう。それだけだ……」

中央に陣取る神父が片腕を高々と上げる。
メイドはひぃと涙声で後ろ去り、兵士はずいと前に出る。
神父が腕を振り下ろす。

――――それから7秒後には決着がついていた。



夕刻の島。海岸沿いに立つのは2人の少女。氷室鐘(49番)と御門まりや(54番)であった。
「――とりあえず、これからどうする鐘ちゃん?」
「氷室だ。それとさっきも言ったが、下の名前で呼ぶのは止めてくれまいか御門嬢」
ずれたメガネを戻しながら、その呼び名は不本意だと態度で示す鐘。
「もーそんな顔しないでよ。私の事もそんなかしこまった言い方じゃなくって、まりやって呼んでいいから」
「しかし…」
まりやの言葉に口を挟みたくなる鐘だったが、思い直して笑顔で応じる。こういうのも悪くはなかった。
「うんうん。同じ陸上仲間だもん、力合わせないとね」
「まったく奇遇だな。こういう場でなければと思えてならない。それで先ほどの質問だが」

鐘は自身の支給品であるエンジン付きゴムボートをまりやに示す。
「ひとまず、これで海に出ようと思う」
「海へ? でも脱出は…」
「確かに、あの神父の言葉が本当ならば脱出は不可能だろう。だがそれでも海路を使えれば陸路よりもはるかに機動性、安全性は増すというもの」
つまりゴムボートで沿岸、あるいは水路を走り、その過程で友人・知己たちを見つけ出そうというわけだ。
それにで脱出の範疇がどこまでなのかは知る由もないが、小島でも見つけることが出来ればしめたもの、そこを根拠地にすることも可能だ。
「いずれにせよ、我々は移動手段という部分ではアドバンテージを得ているわけだ。ならばこれを有効に使わない手はない」
とか話している間に潮風の香りが漂いだす。そしてまもなくコンプレッサーの軽快な音が海岸に響き出したのだった。
「さてと……」
充分に膨らんだボートを波打ち際まで押していく2人。
あいにく今彼女たちがいる場所は岩場が多く、かなりの距離を押していかなければ水辺までたどり着けなかった。

「でもいいな鐘ちゃんの支給品。あたしのなんか…………」
まぁ、ハズレじゃないんだけど、と心の中で付け加えるまりや。彼女に支給されたのはレオタード調の燕尾服だった。
そのきわどいデザイン(スカートがない! マジで!?)には流石のまりやも赤面したが、こういう状況じゃなければ、いやこういう状況でもチャンスがあれば、瑞穂ちゃんに着せてやるのに、と密かに思っていたりもするのだ。
波打ち際まではあと少し、ボートの先端が波にかかって少し濡れた時だった――――

「動くなっ!」
背後から妙に可愛い声。思わず振り向き、そして絶句する2人。
声の主がクラシックなメイド服をまとった少女だからではない、その少女が担いでいる物が問題なのだ。
「ちょ…ちょ…ちょっと待ってよ!」
「……」
まりやが上ずった声を出す。鐘は何も言えない。
「えへへ、驚いたでしょ…ととととっ……」 
ふらつくメイド少女。その肩にはロケットランチャーが担がれていた。
「さ、さぁ大人しくそのボートをよこしなさい! って、ととととと……」
さらにふらつくメイド。見てる側の2人は気が気でない。
「――そんなものこの至近距離で放ったら、ここにいる全員が黒こげだぞ」
無駄だと思いつつも冷静な突っ込みを入れる鐘。

「そんなこと言ってボート渡さないつもりなんでしょう!? あんたたちだけ逃げようだなんてそうは……」
「あんた正気!? 逃げたら体内の爆弾が爆発するってあの神父も言ってたでしょう!?」
敵前逃亡の汚名を着せられてはたまらないとばかりにまりやが反論する。
逃げた後のことは考えてなかったのか、少し涙目になるメイド。それを見て動こうとしたまりやに鐘が耳打ちした。
「彼女の背後にもう1人いるが……変だと思わないか?」
その言葉を聴いたまりやも頷いた。鐘の言う通り、目の前のメイドの背後、少し離れた所にもう1人、褐色の肌で同じくメイド服姿の少女が控えていた。
だが、その少女は迂闊さを全面に出している目の前の子とはまるで正反対でまったくスキがない。
そう。あれはメイドというよりもまるで…………


――その時だった。
「死にたくない。死にたくない。死にたくない……」
風に乗ってそんな呟きが聞こえてきたような気がした瞬間、軽快な音が弾丸と同時に周囲に響き渡った。
とっさにまりやと鐘は近くの岩場に隠れた。その時2人の目にちらりと映ったのは、ウージーを構え、狂気の表情で弾丸をバラまく少女の姿だった。
「誰っ!? だれなのっ!?」
岩場から身を乗り出し襲撃者の顔を確認しようとしたまりやだったが、鐘に押さえつけられる。
さらに悪いことは重なる。2人が隠れた隙にまんまとメイドたちがボートを奪い取り、海へと走りだしていたのだ。
追いかけて取り戻したいところだったが、結局歯噛みして見送りるしかなかった。

――そして銃声が止んでしばらく経って、2人が恐る恐る岩場から顔を出すと、そこには自分たち以外もう誰もいなかった。


――まりやたちは知らない。先ほど自分たちに攻撃を仕掛けたのは、まりやの後輩で世話係である上岡由佳里だったということに。
そして、そのことにまりやたちが気が付かなかったのは幸運だっかのか、それとも不幸だったのか、それは誰にもわからない……




「上手く…いったね、巽ちゃん……」
巴雪乃(47番)が痛みに耐えながらも笑顔を作っていた。先ほどの襲撃で流れ弾をもろに受けたのだ。
満足な医療など望むべくもないこの島ではそれは死を約束されたも同然だった。
「…………」
一方の神代巽(18番)はまるで表情を変えない。まるでそれが見慣れた光景のように。
そんな巽の表情を見て何かを感じたような雪乃だったが、静かに首を振った。
「いいや、巽ちゃんは巽ちゃんだもん」
「わた……」
感極まって真実を告げようとした巽だが、雪乃の手がそれを遮る。
「聞かないことにしとく…だから約束して…うーんと……」
少しだけ考える雪乃。頼むべきことはある。しかし、目の前の神代巽にそれを託すのは場違いな気がした。
だから雪乃はこう言うことにした。

「――生き残るって」

それを聞いた巽が少し戸惑った後頷くのを見て、雪乃は笑顔で応じた。
そしてそれからゆっくりと目を閉じ、息を引き取ったのだった。

「生き残る…か、酷なことを……」
巽は自嘲気味に呟く。不本意ながらも自分を殺して以来、正直捨て鉢になっていた感は否めない。
だから雪乃がすがり付いてきた時に振り解くことが出来なかった。
「私や雪乃がいたということは美凪や冥夜様も当然いるんだろうな」
雪乃が死を目前にして本当は自分に何を託したかったのかはよく理解できた、巽は自身の支給品のワイヤーを指先で弄ぶ。
「ならば私は私に出来ることをするだけだ」
巽にはある考えがあった。この方法なら雪乃の願いもある程度叶えることも出来るし、約束も守れる。

「――冥夜様以外の全ての者を殺す……これならば…………」
そう決意する巽であったが、誰もそんなことは望まないだろうなと思ってもいた。


【時間:1日目・午後5時00分】

神代巽
 【場所:海岸】
 【装備:ワイヤー】
 【所持品:エンジン付きゴムボート(膨らまし済み)、支給品一式】
 【状態:健康】
 【思考】
  1)冥夜以外は皆殺し
  2)自分と同じ世界から来た者を探す

氷室鐘
 【場所:海岸】
 【装備:なし】
 【所持品:支給品一式】
 【状態:健康】
 【思考】
  1)まりやと知り合いを探す

御門まりや
 【場所:海岸】
 【装備:カレン・オルテンシアの戦闘服】
 【所持品:支給品一式】
 【状態:健康】
 【思考】
  1)鐘と知り合いを探す

上岡由佳里
 【装備:ニューナンブM60(.38スペシャル弾4/5発)、ウージー(9mmパラベラム弾20/50)】
 【所持品A:予備マガジン(9mmパラベラム弾50/50)×3、支給品一式】
 【所持品B:支給品一式】
 【状態:健康。精神に異常】
 【思考】
  1)とにかく死なない
  2)誰であろうと容赦なく倒す


【47 巴雪乃 死亡 残り54人】

【備考】
※雪乃のロケットランチャーは海に落ちました。無茶をすれば引き上げることができるかもしれませんし、しばらく経てば海岸に流れ着くかもしれません


【ランダムアイテム備考】
  • エンジン付きゴムボート
 名前の通り、エンジンが付いたゴムボート。エンジンが付いているせいで結構重いが、その分水上は普通のボートより桁違いに早く移動できる。
 定員数は大体2~3人くらい。

  • ワイヤー
 鉄を材料にした細い縄。鋼糸。
 バトル・ロワイアルではトラップや絞殺用に使われることが多い。

  • カレン・オルテンシアの戦闘服
 『Fate』のファンディスク『Fate/hollow ataraxia』に登場するキャラクター、カレン・オルテンシアが戦闘時に着ている悪魔祓い用の戦闘服。
 スカートがないのはもともとの仕様。カレンが祭儀衣の中から選んで手を加えたもので、本来の用途は男性を誘惑するためのもの。
 『新世紀エヴァンゲリオン』のプラグスーツからヒントを得て武内がデザインしたというのはファンの間からは結構有名な話。




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前登場 名前 次登場
GameStart 神代巽 めいどさん★すぴりっつ!?
GameStart 氷室鐘 彼女たちの流儀
GameStart 御門まりや 彼女たちの流儀
特製ハンバーグステーキ狂気のソース和え 上岡由佳里 光を求めて
GameStart 巴雪乃 GameOver







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最終更新:2010年06月27日 15:10