小休止
「おい、火ィちゃんと起こしたか? 焼き上がりを逃すなよ。……といってもボウズに任せときゃ大丈夫か?」
パチパチと薪が爆ぜる音と、香ばしい匂いが周囲に漂う。
即席で作った竈の前にはいそいそと魚を串に刺す士郎と、それを複雑な気分で眺める伸哉の姿があった。
話は少し前に遡る。
伸哉にしてみれば一刻も早く妹を探し出したい心境であった。だが……
「あせるんじゃねぇよ。狭い島とはいえそうそう人探しがはかどるとも思えねぇ……
それに、そんな精神状態のマスターを抱えるサーヴァントの身にもなってくれ」
と自身の支給品――ランサーに言われたので言われたとおり落ち着いて考えてみた。
――確かに、英霊の強さは召喚したマスターに依存する部分が多いと聞く。
「――なるほど、一理ある。こういうときこそまずは落ち着けというわけか……で、具体的には?」
「そうだな。まずは腹ごしらえといこうじゃねぇか」
と、いまひとつ余裕の無いマスターをやんわりと嗜めた槍兵は、どこからともなく取り出したアロハシャツを纏い、さらには暢気に釣竿を川面に垂らすのであった。
そして今に至る。
(しかし…この英霊だが)
伸哉の見たところ、この男は飄々とした態度を崩さないが、その実かなり上位に位置する英霊だ。
そしてそのシンボルは槍……剣とは違い槍を得意とする伝承上の英雄はそれほど多くはない。
(あの槍、ゲイボルグかブリューナク……あるいはグングニルか?)
そしてもう1つの疑問。それはランサー本人は黙して語らずだが……
(ランサーは衛宮殿と面識があるのか?)
先ほどからのランサーの士郎への態度は、まるで手のかかる弟分に対する兄貴のような……そんな感さえある。
――もっとも、当の士郎からはまるで覚えがない、と即答され、ランサーの方はそれを聞くと苦笑いを浮かべただけだった。
だから伸哉もこの件について、それ以上考えようとは思わなかった。
「――ところで、衛宮殿も魔法を使えると聞いたが?」
「ああ。……といっても物を強化することくらいしか出来ないけどな」
「少し見せてくれないか? これから行動を共にするにあたって、仲間の実力は知っておきたい」
伸哉の求めに応じて頷く士郎。
早速近くに転がっていた薪を1つ手に取ると、ゆっくりと体内に回路を精製していく。
いつものように自分の身体に一本の剣をまずは思い浮かべて……だが――
「待った」
そこで伸哉の止めが入った。
「いや…驚いた。お主たちの世界での魔法とは皆そうやって使うのか?」
「さあ……? 俺は親父に教わったやり方しか知らないし、他の魔術師も知らないから……」
「なるほど」
伸哉は頭を抱える。まさかこんな回りくどく、危険な方法で魔術を行使していたとは。
よく今まで暴発せずに居られたものだ。いずれにせよ……この方法を続ければ遠からず士郎は自滅してしまうだろう。
「衛宮殿、今からお主に少々乱暴なことをするが……俺を信じて欲しい」
伸哉の手が白く輝き始める。それにはむしろ士郎よりもランサーの方が険しい目で伸哉を見咎めようとする。
「安心しろ、魔術を行使する際の呼吸法を叩き込むだけだ。とはいえ……荒療治にはなるがな」
伸哉はゆっくりと魔力を帯びた手を士郎の身体にかざす。すると、音も無くその手が士郎の身体へと潜り込んでいった。
本来ならば順を追って教えるのが当たり前だが、今は時間がない。
だから伸哉は己の魔力をもって、士郎の魔術回路を刺激するという方法に出た。
これで魔術回路が活性化すれば、自然、効率的な魔術行使が出来るようになるはずだ。
士郎の中で伸哉の手が魔術回路を探そうと動く……ふと、その手に何かが触れた。
刹那――――
「うっ…!?」
伸哉の表情が固まった。そしてその数秒後……
「うおおおおおおおおおおおおっ!?」
慌てて手を引き抜き飛び退る伸哉。その顔には冷や汗が浮かんでいた。
「お、おい伸哉……!? ――だ、大丈夫か?」
「あ、ああ……俺は大丈夫だ。それより衛宮殿こそ…………」
それ以上は言葉にならない。伸哉は士郎の身体をじっと見つめる。
「大丈夫……なのか……?」
「?」
「あ……いや……」
士郎は、何が何だか、と言いたそうな顔をして伸哉を見た。
それに対して、伸哉は作り笑いで取り繕うのがやっとだった。
(――いや、まさか……だがあの感触……やはり間違いはない…………)
あの時触れた物――つまりこの衛宮士郎の身体に眠っているもの……思い浮かべるだけでも震えが止まらなくなる。
――アレは人の手により生み出されるような代物ではない。
神々が造り上げたとてつもなき聖遺物だ。本来ヒトという種が己が身に宿していいようなものではない……それを何故?
そして、この槍兵との関係といい……いったい彼は何者なのだろうか?
伸哉から見て士郎は決して悪い人間ではない。
それどころか、彼は父の意思を継いで正義の味方になりたいという。
伸哉も彼の理想を手助けしたいとさえ思う。
――だが、それでも…………
(衛宮殿……お主はいったい何者なんだ?)
伸哉の心には僅かながら疑問が生まれていた。
【時間:1日目・午後17時00分】
【場所:川原】
衛宮士郎
【装備:遠坂十年分の魔力入り宝石】
【所持品:支給品一式】
【状態:健康】
【思考】
1)友人らを探す
2)正義の味方として行動する
上条伸哉
【装備:なし】
【所持品:支給品一式】
【状態:健康。令呪・残り3つ】
【思考】
1)沙耶を探す
【備考】
※士郎の体内にあるアヴァロンの存在に気がつきました
ランサー
【装備:アロハシャツ、釣竿】
【所持品:ゲイボルク】
【状態:健康】
【思考】
1)食料調達。魚を釣る
2)伸哉、士郎と行動
【備考】
※服は任意で戦闘服、アロハに変更可能
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最終更新:2010年06月27日 15:04