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放浪女王と銀輪の従者 -十数年後 - (2008/12/22 (月) 00:27:15) のソース
<h3>放浪女王と銀輪の従者 -十数年後</h3> <p style="line-height:140%;"> <br /> </p> <p>――十数年後</p> <p>「サトラー?サトラー?」<br /> 絢爛豪華、にはほど遠くも掃除の行き届いた王宮の廊下を一人の少女が人を探しながら歩いていた。<br /> 蛇の沙漠の一国の王宮にありながら、その少女はヘビではなかった。すらっと長い手足にしっかりと<br /> 筋肉の乗った女偉丈夫。そんな鍛え込まれた身体の上には、白い巻き毛と垂れた犬耳の付いた童顔<br /> が乗っていた。だが、犬耳を有していながらも彼女はイヌではなかった。<br /> 角が生えていた。額の髪の生え際から緩く湾曲したカモシカの角が二本、はっきりと生えていた。<br /> だが、そんな異形であろうとも生まれてから十数年も経てば、本人にとっても周囲にとってもただの日常でしかない。<br /> 「あら、リーザ様。殿下でしたら少し前に工房に向かわれていましたよ?」<br /> 異形に臆することなく、通りがかった女官が声をかけた。<br /> 「そう、ありがと。……まあた機械いじり?まったく、一国の王女って自覚が無いのかしら」<br /> 「陛下も、殿下にはお甘いですから」<br /> 王族に対してやたら気安い言葉を使うリーザ。だが、女官もそれを咎めるでもなくにこやかに話を合わせた。<br /> 「それじゃ、ちょっと行ってみるわ。そっちが見かけたら、陛下がお呼びになってるって言っといて」<br /> 「はい」<br /> 女官と別れてリーザは王宮の離れにある工房に向かった。<br /> さして広くもない中庭を抜けて、王宮の規模にしては大きめの工房にたどり着く。はたして探し人はそこにいた。<br /> ケールを持った少女、を模した機械人形が机の上に完成しており、机に一人の少女が突っ伏して涎の<br /> 池を造っていた。肩口で切りそろえられているはずの黒い髪はぶわーっとだらしなく広がり、スカート<br /> の中から伸びる大蛇の身体はでろーんとだらしなく床に伸びきっている。<br /> 「サトラー?」<br /> 「むにゃ、もうたべれないよお……」<br /> 母親譲りの美術品めいた美貌もこれだけゆるんでると台無しだ。呼びかけても答えないサトラの肩をリーザが揺する。<br /> 「サトラ、ほら起きて」<br /> 「うーん、でも甘い物は別腹だよぉ……」<br /> 「……」<br /> この期に及んでいまだ寝言を抜かす大物ぶりに業を煮やしたのか、リーザはサトラの耳を掴んで頭を<br /> 引っ張り上げた。そのまま耳に口を近づけて大声で呼びかける。<br /> 「アルサトラ=アンフェスバエナ王女殿下はいずこにおわすや!?」<br /> 「にゃあっ!?」<br /> びくんと上半身が跳ねる。痛みと驚きで混乱するサトラがリーザを認めて抗議した。<br /> 「お姉ちゃん!いきなりなにすんのー!!」<br /> 「起きないのが悪いんでしょ!というか、こんなところで涎垂らして寝ない!あーもう、べたべたにしちゃって……」<br /> 「うわ、ほんとだ?」<br /> 叱りつつもハンカチとりだして顔を拭いてあげるあたりリーザも相当過保護なのだが、本人にその<br /> 意識はないようだ。拭かれるサトラもされるがままに慣れているようで嫌がる様子もない。<br /> 「まったく、少しは王族の自覚を持ちなさいよね」<br /> 「えぇー、だって所詮は属国の王族だしそんな堅苦しく考えなくても」<br /> 「そうも言ってらんないかもよ」<br /> 「え?」<br /> 聞き返すサトラにリーザが眉間の皺を深くして続ける。<br /> 「陛下がお呼びよ」<br /> 「お母さんが?」<br /> 「例の養子の件、どうやら確定らしいわよ」<br /> 「えー!!だって、何で私?」<br /> 「そりゃ、あの方の親族でそれっぽい年頃のっていうとあんたしかいないもの。あの方、子供には<br /> 恵まれなかったし」<br /> 「でも、そんなの困るよ……」<br /> 「そーゆーのから自由になれないのが王族って仕事よ、諦めなさい。……とにかく、陛下とちゃんと<br /> 話しあってきなさい」<br /> 「うん……」<br /> ずるずると下半身を引きずりながらサトラが女王の所へと向かう。遺されたリーザはふと機械人形に目をやった。<br /> ずいぶんと精巧な人形。机の上の図面を見ると、どうやら手に持ったケールを回すとゼンマイが巻上がる仕組みらしい。<br /> 興味が湧いたリーザはゼンマイを巻き上げてみる。ゼンマイを巻いて手を離すと、ゆっくりと音楽がなり出した。<br /> 「一からオルゴールを作ってのける機械マニアが次期アディーナ女王ね……。どんな国になるのやら」<br /> ため息を一つ吐く。<br /> どうやら、自分がついて行ってやらなければならないようだと思いながら。</p>