猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)

虎の威外伝03

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虎の威外伝 03

 秋の始まりと、春の終わり。トラの発情期はこの二つの時期に始まる。
 千宏がこの世界に落ちてきて、二度目の発情期が訪れようとしていた。
 この時期になると、アカブはバラムが森から持ち帰ってきた薬草やキノコから薬を作る。薬
草を搾って液体にしたり、乾燥させてすり潰して粉にしたりと、作る薬の形状は様々だが、先
の発情期に最も売れたのはそれらを菓子に混ぜた物だった。
 それならば――と、今回の発情期でそれらを主力商品にすえるのは当然の判断である。
 今日はバラムは森に出かけていていない。千宏もパルマも市場へと出かけている。
 やるなら今しかないとばかりに、アカブは厨房でせっせと菓子作りに励んでいた。やはり、
一番人気は手軽で気安いクッキーだ。様々な可愛らしい型で整形したタネをオーブンでこんが
りと焼き上げて袋に詰め込む作業は楽しいが、地味で地道で時間がかかる。
 日持ちするバターケーキも欠かせない売れ筋商品だ。焼きあがったケーキにたっぷりと酒を
しみ込ませ、保冷子で冷やしておかなければならない。
 どちらも薬の強さによってきっちりとわけておかなければあとあと区別がつかなくなってし
まうため、丁寧に分類しておかなければならないのも難儀だった。
 強。中。弱。微弱の四段階の紙を菓子の上に添えておく。
 アカブは午前中一杯働き倒し、大量のクッキーとバターケーキを焼き上げてばったりと居間
のソファに倒れこんだ。
 とりあえず、冷めるまで休憩である。

 ぬくぬくと、暖かな日差しが窓から差し込んでいた。
 もう正午をだいぶ過ぎ、そろそろ起き出す頃合だろう。
 サク。
 軽やかな音を耳が拾い、アカブはぼんやりと薄目を開けた。
 サク。サクサク。
 近くで聞こえる。すぐ近くで――。
「あ、起きた」
 サク。と軽い音を立ててクッキーを頬張りながら、千宏が残念そうに呟いた。
 アカブが眠っているソファの、テーブルを挟んだ向かい側にローブ姿の千宏が座っている。
 その千宏が手にしている皿にならんだ、見覚えのある形のクッキー――。
 全身の血の気が引いていくのがわかった。悲鳴の様な雄叫びをあげ、アカブは立ち上がって
テーブルを乗り越え、千宏が腕に抱えている皿をひったくった。
「てめぇこのクッキーどっから持ってきた! どこにあったやつだ!」
「ど、どこって、厨房のテーブルに……」
「吐けぇ! 今すぐ全部吐き出せ! 大量に水を飲めぇ!」
「いやぁあぁ! 落ち着いてアカブ! 落ち着いて!」
 千宏の小さな体を軽々と肩に担ぎ上げ、アカブは水を求めて駆け出した。
 厨房にたどり着き、嫌がる千宏に無理やり水をがぶ飲みさせる。
 溺れる溺れると暴れる千宏を押さえつけて無理やり飲ませ、とうとう千宏が堪えきれずに胃
の内容物を流し台に嘔吐した。
「な、な、なにすんだよいきなり! あたしに何の恨みがあるんだよ!」
「馬鹿野郎! ここにある食いもんは全部媚薬だぞ! どれを食った! まさか強って書いて
あるやつじゃねぇだろうな!」
 怒鳴り返すと、千宏が大きく目を見開いた。
「あぁ……そういう意味だったんだ。微弱にしといてよかった」
 ぽん、と両手を打ち合わせ、さも愉快そうに笑い始める。笑い事じゃねぇだろうと怒鳴って
拳骨を落とすと、千宏はぎゃあと喚いてうずくまった。
「だって、おいしそうだったんだもん」
「だからおまえがいない時を狙って作ってたんだ。なんでこんなに早く帰ってきやがった」
「商品が全部売れたからだよ。色々買い物して帰るから、先に帰ってていいってパルマが……」
 ぶぅぶぅと唇を尖らせる。
 とりあえず、命に別状は無さそうだ。アカブはほっとして冷蔵庫をあけ、千宏のために用意
しておいたおやつのプリンを手渡した。
「やった! このためにパルマの買い物につきあわなかったんだもんね!」
「どこか変な所ないか? 幻覚とか見えてねぇな?」
「このプリンが幻覚じゃないなら大丈夫」
 嬉しそうに笑いながら、千宏がプリンにスプーンを突き立てる。
「大体さ、媚薬っていったってトラ用でしょ? あたしはまたたびで興奮したりしないし、
ヒトにトラの媚薬が効くとは限らないじゃん」
 幸せそうにスプーンを動かしながら、千宏が物欲しげにクッキーを見る。
 これ以上厨房に置いておくのは危険だと判断し、アカブはプリンを食べている千宏をずるず
ると引きずって居間へと引き返した。
「クッキー食べたいー。たーべーたーいー」
「うるせぇ! プリンで我慢しろ!」
 てい、と千宏をソファに放り出し、自分は作業のために厨房へと戻る。
 手伝ってあげるとしつこく寄ってくる千宏を幾度となく撃退し、夕方になってようやく、
アカブは全てを袋に詰め終えた。
 明日はバラムと千宏が市場に出る日だが、バラムには決して千宏を一人で帰すなと念を
押さねばなるまい。
 千宏の食への欲求はこの世界では危険である。

 居間に戻ると、千宏は広々とした居間のカーペットに寝転がっていた。というより、
転がっていた。転げまわっていた。
「……なにやってんだ?」
「転がってる」
 理解不能である。
 千宏はしばらくアカブの前でごろごろと床を転がり、しかしついに耐えられなくなったよう
に雄叫びを上げて立ち上がった。
「ラーメン食べたい」
「は……?」
「おすし食べたい」
「な、なんだ突然……」
「ハンバーガー食べたい! ポテチ食べたい! ゲーセン行きたいカラオケ行きたい! ドラ
マの最終回が気になる! 漫画の続き読みたい! それとあの映画! DVDになるの待たな
いで見ておけばよかった! あぁもうなんだかすごいストレス! むしょーにいらいらする! 
むしゃくしゃする!」
 いらいらと文句を連ねながら部屋の中を歩き回り、時折立ち止まっては頭を掻き毟り、
しゃがみ込んで頭を抱え、また部屋を歩き出す。
 不安定だ。発情期前のパルマよりも落ち着かない。
 何があったのかとおろおろするばかりのアカブを、不意に千宏が鋭い視線で睨み付けた。
「なんとかして」
「は?」
「なんとかしてよ! なんとかして! いらいらしてどうにもなんない!」
「なんとかっておまえ……」
「なんかあるでしょ? なんか! なんかさ……なんかあるよ。なんか……」
 苦しげに眉をひそめて唇をかみ、千宏はおろおろと視線をあたりに彷徨わせた。
 ほんとうに、まったくどうしたらいいのかわからない。アカブは完全に固まってしまい、
ただ千宏が泣きそうな表情で立ち尽くしているのを見ていることしかできなかった。
 ふと、縋るような目で千宏がアカブと視線をからませる。ぎくりとした。誘惑されている
ような錯覚に陥る。
「助けて」
 慌てて、アカブは千宏から視線を反らした。
「い、いらいらしてるんだったら……じゃあ、散歩にでもいくか? 外歩けば少しは……」
 千宏に背を向けた瞬間、どん、と腰の辺りに衝撃を感じてアカブは立ち止まった。
「……たぶん。クッキー」
「チ、チヒロ?」
「ちょっと、吸収したっぽい……」
 背中に当たる吐息が熱い。
 だが、まずいだろう。さすがにまずい。今はまだ夕方で、パルマもバラムも帰ってきていな
い。二人きりだ。二人きりか。二人きりなら問題ないか。二人きりなのが問題なのか?
 アカブが混乱しているうちに、千宏の手がもぞもぞとアカブの下半身を探る。
「気、紛らわすの、なんもないんだもん。無理だよ。我慢できないよ」
 ここまで言われて。誘われて。応えなければ男じゃない。トラじゃない。
 いやしかし。だがしかし。千宏は媚薬で我を失っているのではないか。そんなところを
頂いてしまうのは男としてどうなのだ。
 アカブはだらだらと冷や汗を流しながら頭を抱えて苦悶した。頂いてしまいたいのが本音
だが、しかしそれは本当に千宏が望んだことなのか――。
「いただきまーす」
「はぐぁ!」
 いつの間にか正面に回っていた千宏が、探り出したアカブの物を柔らかな唇で包み込んだ。
思わず呻いて腰を引き、バランスを崩してその場に転倒する。
「チヒロ! ばか! よせ落ち着け! ここは居間だぞ! 誰かに見られたら――!」
「うるさい!」
「ぐぁあぁ! 噛むなよせ! ソコに歯を立てるのはよせぇえぇ!」
「もとはと言えばアカブのクッキーのせいなんだから、責任とるのは当然でしょ? それとも
ラーメンくれるの? DVD見せてくれるの?」
「おまえが勝手に食ったんじゃねぇか!」
「うるひゃい! も、がまん、えきぁいんらかぁ。はぁく、おっひふ……」
 鈴口に柔らかな舌をねじ込まれ、ちゅうちゅうと吸い上げられる。アカブはカーペットに
爪を立て、与えられる快感にぎりぎりと歯を食いしばった。
 上手い。前回の発情期と比べるとまるで別人のように上手い。
 アカブの意思とは裏腹に千宏の望むままに大きさを増していく自身の愚息が情けなかったが、
しかしとても抗える物ではなかった。
 千宏の指が、舌が、これでもかと急所を狙って責めてくる。
「よし、こんなもんかな」
 ごしごしと唇をぬぐって起き上がり、千宏は完全に立ち上がったアカブの一物を見下ろして
瞳を熱く潤ませた。
 ローブを脱ぐのももどかしいのか、そそくさとズボンと下着のみを脱ぎ去ってアカブの上によじ登る。
「は、ぁ……あつ……いれるよ? ね、いいよね。いれるから、ね……?」
「待てぇい!」
「うわッ!」
 このままやられてなるものかと、アカブはかっと目を見開いて起き上がった。
 はずみで千宏がアカブの上から転げ落ち、仰向けに倒れこんでじたばたもがく。その両足を
がっしと掴み、アカブはそれを大きく左右に割り開いた。
 千宏が情けない悲鳴をあげ、まくれあがったローブを慌てて押さえようと上半身を起き上が
らせる。だが、遅かった。アカブは既にとろとろと蜜を溢れさせている千宏の秘所に顔をうず
め、今まさにそれを味わおうと舌を出している所だった。
 むっとする女の匂いに鼻面をつっこみ、アカブは先ほどの千宏よりも激しく、容赦なくそこ
を責め立てた。
「やぁあぁ! だめ、だめぇ! アカブ、や、なか、なかに……おねが、なかにアカブの、
欲し……ほしいよ、ほしいよぉ……!」
 じたばたと暴れながら、千宏の手がぐいぐいとアカブの顔を押し返そうとする。しかしヒト
の力でオスのトラにかなうはずもなく、アカブはやだやだと喚く千宏を無視して溢れ出る愛液
をすすり、舌をねじ込み、思う様千宏の味を堪能した。
「いれて、いれてよぉ……アカブの、いれて、いれてぇ……」
「だめだな。まだいれてやらねぇ」
「なんでよぉ! なんでそんな、意地悪すんの? もう、そんなんなってるじゃん……アカブ
のだって、苦しそうなのに……」
「いいか! 今回は俺が気付いて吐かせたからこの程度ですんでんだ! もしそのまま気付か
ないでほっといたらただじゃすまなかったんだぞ!」
 物欲しげに腰をゆらしながら、千宏がこくこくと激しく頷く。そしてアカブの首に両腕を回し、
力任せにしがみ付いた。
「反省してる。ごめんなさい。だからおねがい。ほしくて、へんになっちゃう……」
「だめだな。全然反省してねぇだろ! 大体おまえ、普段から市場で妙な物買い食いして体調
崩すことだって少なくねぇだろう! 興味本位でわけのわからねぇものに手をだすんじゃね
え! 命に関わるんだぞ! わかってんのか!」
「わかったよもう! わかってるから! だからおねがい、おねがい、おねがいだからぁ!」
 叫んで、とうとう千宏は泣き出した。
 アカブの首を解放し、責めるように何度も拳で肩を殴りつけてくる。それでもいれてやらな
いでいると、千宏はぐったりとカーペットに背を預け、肩を揺らしてすすり泣いた。
 入り口にあてがった先端が、千宏の愛液でどろどろになっている。
「ほんとに、はんせ……してる……も、しない、から……ごめ、ごめんなさ……ごめん……」
 さすがに、可哀想になってくる。
 説教はこのくらいにしてやるか、とアカブが腰を進めようと瞬間、ごく何気なく居間のドア
が開かれた。
「おいアカブ。おまえまた説教でチヒロ泣かせて――」
 バラムが森から帰ってきた。予想外に早い帰宅である。そして、そのバラムの眼前に来り広
げられている光景。
 泣きながら謝罪を叫ぶ女。
 それを逃げられないように拘束している男。
 お互いに露出度は最小限。未挿入。
 ああ。まずい――。
「アカブ! てめぇえよくもぉお!」
「まてバラム! 誤解だ! 違う!」
 兄は見た。弟が行う婦女鬼畜暴行の現場。そんな新聞の見出しが一瞬頭を過ぎり、アカブは
慌てて弁解を試みたが遅かった。
 魔力の迸りを感じる。
「許せチヒロ! こいつをこんな愚弟にしちまったのは俺の責任だ! だが終わりだ! 一族
の面汚しは俺が責任を持って始末する!」
「違うんだバラム! 頼む話を聞いてくれ!」
 お兄ちゃんはおまえをそんなふうに育てた覚えありません。
 違うよ兄ちゃん。誤解なんだ。俺は悪い事なんかしてないよ。
 激怒する兄と涙目の弟の魂の叫びが交差する。
 あわや骨肉相食む流血沙汰と言うところで、第三者の介入があった。床にへたり込んだアカ
ブの胸に、完全に取り残されつつあった千宏がえいやとばかりに抱きついたのだ。
 アカブを殺さんとしていたバラムが、殺意のやり場に困って硬直する。
「もう! 折角いい所だったのに! 邪魔しないでよ! バラムのばか!」
 ようやく勘違いに気がついて、バラムが魔力をおさめかけたその瞬間、開きっぱなしだった
ドアからひょいと顔を覗かせる者があった。
「どうしたのいったい? ものすごい殺気で空気がピリピリして――」
 パルマが愕然と息を呑んだ。
 床にへたり込んでいる男。
 その男に涙目で抱きついている女。
 その正面で魔力を振りかざしている男。
 まずい、とバラムの表情が引きつった。瞬間、パルマが軽やかに宙を舞う。
「違うパルマ! これは誤解――ガフッ!」
 パルマの膝が鮮やかにバラムの顔面を捉えた。鼻を押さえてたたらを踏んだバラムの鳩尾に、
パルマの爪先が深々と突き刺さる。
 魔力を込めた本気の打撃――魔法の心得が無い者が受ければ一撃で命を落とす。
 これが、当主の妻となる女――。アカブは自分が長男でなかった事を心から両親に感謝した。
「当主ともあろう御方が見苦しいまねを! 色に迷って誇りを捨てたか!」
「誤解だパルマ! これはアカブがチヒロを強姦しようと――!」
「それこそ誤解だっつってんだろうが! チヒロが媚薬入りのクッキー食っちまったんだよ! 
襲われてたのぁむしろ俺の方だ!」
 というより、現在進行形で襲われている。
 早く早くとせがむように、千宏はアカブの頬に自らの頬を擦りつけ、キスを求めて唇をついばんだ。
 沈黙が場を支配する。
 最初に動いたのはパルマだった。
「ごめんねバラム! 私、早とちりであなたを本気で殺そうとしちゃった! 痛かった? 
どこか怪我してない?」
「大丈夫だ。いくらマダラだってあの程度で怪我なんざしたりしねぇよ。それより悪かったな
アカブ。勘違いで本気で弟を殺すところだった」
 もう、なんでもいいから二人とも出て行ってくれ。
 半ば投げやりに懇願したアカブを残して、二人が部屋を出て行く。バラムが若干うらやまし
そうだったがそこは無視した。
 ともかくようやく落ち着いた。やれやれと溜息を吐く。
「……もういい?」
 聞かれて、アカブは頷きかけて思いとどまった。千宏が不安そうに見上げてくる。
「いや。まだだ」
 なんで、と千宏が口を開く前に、アカブは千宏を肩に担いで立ち上がった。
「こうなったら一晩かけてたっぷり可愛がってやる! 覚悟しとけ!」
 肩に担いだままぐにぐにと柔らかな尻を乱暴に揉みしだく。下半身の異物の問題で少々歩き
にくかったが、アカブは真っ直ぐに自室を目指し、まかり間違っても誰も入ってこられないよ
うに中からしっかりと鍵をかけた。
 千宏をベッドに寝転がし、せがまれるままにその体に圧し掛かる。
「ね、前からして。もふもふしてたい」
 服を脱がす間も惜しみ、アカブは正面から千宏を貫いた。濡れすぎなほどに蕩けきった千宏
の中は何の抵抗もなくアカブを飲み込み、それでいて痛いほどに締め付けてくる。
 千宏が歓喜の悲鳴を上げて仰け反った。
「い、ひ……んぁ、うごい、て……はやく、いっぱい……」
「焦るな。すぐにもうやだって泣くようなことになっちまうぞ」
 言いながらも、しかしこちらも止まらない。千宏の奥に自身を突き立てて、ようやく服を
脱がせる余裕が出来た。
 邪魔なローブを剥ぎ取り、その下の服に手をかけ、最後に残った下着をずらしてあらわに
なった乳房にしゃぶりつく。
 千宏は喘ぎながらも、どうにかアカブの服を脱がせようと四苦八苦していた。
 悪戯心に、ボタンに手をかけようとするところを狙って激しく突き上げると、千宏はすぐに
作業を中断してアカブの背にしがみ付く。
「やだぁ! ふく、ぬいで、ぬいでよぉ。もふもふ、あったかいのが、いいのに……あぁあ! 
は、ああ、い……あ、うわ、しっぽ、くすぐった……!」
 激しく腰を振りたてながら小さな乳房を舐めしゃぶり、尻尾で全身をくまなく愛撫してやると、
千宏は髪を振り乱して仰け反った。
 どう足掻いてもボタンを外すのは不可能だと察したのか、焦れた千宏がアカブのボタンに歯
を立てる。
 さすがにボタンを引きちぎられたくは無かったので、アカブは千宏を抱き上げて向かい合う
ように座らせた。
「ほら、はずしていいぞ」
 それでも、突き上げるのはやめてやらない。
 千宏はアカブの肩に額を預け、苦しげに呼吸を乱しながら震える指で一つ一つボタンを外し
ていった。だが最後のボタンまではずしきれずに、アカブの服の中に腕を突き入れるように抱
きしめる。
「あたし、あた、し……も、いく。いきそ……いく、いく、いっちゃ……」
 ぴくん、と小さく肩を揺らし、千宏が軽く達して唇を噛んだ。耐えるように固く目を閉じ、
歯を食いしばり、アカブの背をかきだいて次の波を必死に堪えようとする。
 男みたいなやつだと、前に思った事がある。どうしてこの女は、行く時にいつもこうやって
耐えるのだろう。
「耐えるなよ」
 ほっそりとした首筋に歯を立てて低く囁く。え、と問い返そうとした瞬間に最奥を突き上げ
ると、千宏はあっけなく達して甘く震える悲鳴を上げた。
 快楽から逃げようと浮いた腰を、力強く引き寄せ再び奥まで自身を埋める。
「強姦してる気分になってくる。嫌なのか?」
「ちが、や、だって……だって、だって……」
「だって?」
「が、がまんしなきゃ、すぐにいつも、あたしばっか……ぅあ! あ、ふぁあ!」
 下から激しく突き上げながら、愛液で光る赤く充血した肉芽を尻尾の先で押しつぶす。
 いつもはこの時点で泣き言を始めるのに、媚薬クッキーのおかげか千宏の火照りが治まる
様子は無かった。むしろ、もっともっとと自ら腰をくねらせる。
「あ、アカブが、いくの……見たいのに……ひん……! あ、は……んぁ! が、がまん……
しなきゃ、ぜんぜん、なんもわかんなくなっちゃ、から……だから、だか、らぁ……」
 また、千宏が必死にいくのを耐える。
 だが、それならばこれは勝負だ。アカブも千宏がいくところを見ていたい。そして生憎、
アカブはこの勝負に負けてやるつもりは無い。そして一生負けることは無いだろう。
「あぁ、あ……ひ、や……だめ、だめ、また……また、またぁ……あぁああぁ!」
 少し、ごくわずかに強く噛んでやる。すると千宏は本能的に恐怖で竦み、それと同時に今ま
で以上に強く快楽を感じるのだ。
 千宏の瞳が快楽でぼやける。ただしがみ付いているアカブの温もりが全てだとでもいうよう
に、それでも千宏は背に回した腕を解こうとはしなかった。
 終らせるのは惜しいが、潮時だ。苦しませるには、千宏はやはり弱すぎる。
 千宏の尻を抱えて抜けるギリギリまで体を持ち上げ、そしてアカブは奥まで荒々しく突きた
てた。千宏が目を見開いて声にならない悲鳴を上げる。
 食いちぎらんばかりに千宏がアカブを締め付けた。出したい欲求が高まってきて、壊さない
ように気をつけながら、柔らかな肉壁に欲求のはけ口を求めて自身をこすり付ける。
「ふぁ、あ、ひぁぁあ! いく、い、いく、い……いぅ、あ! は、ぁ、あぁああ!」
 背中の方でわずかに痛みがあった。千宏の爪が体毛をかきわけ、皮膚を浅く抉ったのだ。
だがこの程度、トラの女に爪を立てられることを考えればあまりにもささやかだ。
「出すぞ、チヒロ……!」
「あ、あぁ、い……きて、だし、て……おくに、おく、にぃ……」
 千宏が悲鳴を上げて仰け反った。達した千宏の激しい締め付けをきっかけに、弾けるように
快楽があふれ出す。
 千宏が苦しげに唇を噛み、堪えるようにアカブの胸に顔をうずめた。
「あつ、あつぃ……あつ……」
 お湯並みに熱いんだからね、と、前に千宏が言っただろうか。唐突に、敏感な器官の最奥に
湯をぶちまけられる感覚などアカブには想像もつかないが、きっと相当の衝撃だろう。
 目じりに涙を浮かべて震える千宏の背中を優しく撫でてやりながら、アカブに千宏の涙を
舐め取ってやった。
 ぐったりと千宏がアカブの胸に体重を預ける。
 いつものように、千宏を胸に抱いたままベッドに身を沈めると、いつもならば擦り寄って
くる千宏がぼんやりとアカブに体重を預けたまま動かなかった。
「……チヒロ? どうした?」
 ふと、千宏がうるんだ瞳でアカブを見る。
「もっかい」
「な、なに?」
「もっかいしよ。ね? もう一回」
 唖然として固まったアカブを無視して、千宏がアカブにまたがったまま起き上がる。
 まだ千宏の中におさめたままだった陰茎が、再び充血し、硬度を増し始めるのを意識した。
千宏が肩を震わせて指を噛む。
「だめ。全然おさまんない。だめ、だめ。変になる。動いてアカブ。うごいて」
 切羽詰った声で懇願しながら、千宏は緩やかに腰を振り始めた。
 千宏の中から溢れ出した白濁が、動くたびにあふれ出してアカブの毛皮とシーツを汚す。
 体力的に考えて、やめた方がいいのではないか。すぐさま中断して、なんとか解毒剤のような
薬を作る努力をした方がいいのではないか。
 頭の中を理性的な思考が巡るが、所詮アカブもトラであり、男である。
 兄さん。自分を律しきれない愚弟をお許しください。
 ほっそりとした腰を掴んで荒々しく突き上げると、千宏がネコのような悲鳴を上げた。
「にゃぁあぁ! ふ、ぁあ、あ……い、いいよ、いい、いいよぉ……!」
 腰を掴んだアカブの腕に指を絡めて、求めているくせに逃れようとする。大丈夫だろうか、
壊れてしまわないだろうかと不安だったが、しかしそれでも走り出した衝動は止まらなかった。
じきに、不安にも思わなくなる程のめり込んでしまうかもしれない。そうなったら、本当にま
ずいことになりかねない。
 だが、とりあえずもう一回。この一回だけは溺れておこう。一度達したら二度目は早くなる
のはヒトもトラも共通だ。一度だけならそれほどの負担にはなるまい。
 赤く立ち上がり、充血した乳首が寂しそうだったので、濡れた尻尾の先で可愛がってやる。
千宏は慌てて尻尾を振り払おうとしたが、しかしアカブは腰から手を放して千宏の腕を拘束し
た。下から激しく突き上げるたびに、千宏の体が大きく跳ねる。
「ふぁ、にゃ、んにゃぁあ! あぇ、した、まぁんな……」
 食いしばった歯の隙間から、とろりと透明な唾液が垂れる。絶頂に叫んで仰け反り、抜けそ
うになるのを力づくで引き戻し、アカブは既に精液で満たされている千宏の中へ、更に追加で
たっぷりと注ぎ込んだ。
 うっとりと、千宏が幸福そうに目を細める。
 数秒の沈黙を挟み、千宏が困惑したように眉をひそめた。予想通りだが、もう本気で終わり
にしなければならない。
「アカブ……」
「だめだ。今夜はもう――」
「後ろから……して」
 今夜はもう終わりだ。体に触る。明日の朝泣きを見るぞ。頭の中で繰り返される言葉が、
どうしても口から出てこない。
 ダメ人間。そんな言葉が頭に浮かんだ。
 兄さん――兄さん、俺、ダメ人間だ。
 結局その晩、アカブは千宏が疲れ果て、半ば気を失うように眠ってしまうまで千宏の要求に
応え続けた。正確な時間はわからない。ただ、空が白んでいたのは間違いない。
 昼ごろに目を覚ました千宏は気分すっきり爽快で、アカブの心配したような薬の後遺症も
なかったが、筋肉痛だけは避けられなかったようでぎくしゃくとしていた。

 その後、アカブが千宏のオヤツを作るたびに、猛烈な葛藤に見舞われたのは想像するに難く
ないことである。

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