猫耳少女と召使の物語@wiki保管庫(戎)内検索 / 「泣かないで、泣かないで、笑って!」で検索した結果

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  • 泣かないで、泣かないで、笑って!
    泣かないで、泣かないで、笑って! 最終更新日 : 2009年03月31日22時36分14秒 【作者】 : 師走 【舞台】 : 大陸北方、森と山の国フィルノーヴ 【作風】 : ほのぼの 燃えバトル 【注意】 : 特になし =話数= ==================簡易解説や補足================== =文量= 01話 非エロ「交通事故」 3kb 02話 非エロ「ヒトとヒツジとオオカミと」 42kb 03話 ヨウジ×コリン「第三話」 50kb メイン登場人物 一行紹介ヨウジ(浅草羊司) … ヒト♂。19,20歳。ミュージシャン志望だった青年。ギターを愛用。 コリン … ヒツジ♀。外見15,6歳。臆病でおとなしい性格。実は亡国の王女であり逃亡中。 クト … 動物(リャマ)。コリンが荷物運搬用に連れているリャマという種類の茶毛動物。 <あらすじ...
  • 泣かないで、泣かないで、笑って!01
    泣かないで、泣かないで、笑って! 第1話      夜も更け、深夜に近い時間帯を一人の若い男が歩いていた。  10代後半であろう赤いタンクトップとジーンズをはいた男は、アコースティックギターケースを肩に掛け、バイトによって痛んだ体を癒すかように背筋を大きく伸ばす。 「ふぃー、今日も良く働いたぜぇ」  ずれ落ちかけたギターケースを背負い直しながら、男は呟く。  暗い夜道だが、人通りもなく男が急に声を出した事に驚く者もいない。 「最近は壊れたギター修理する所為で金に余裕無くて、バイトばっかだったからなぁ。やっとこれも戻ってきたし、明日はのんびり河原で練習すっか」  名案とばかりに、男は口元に小さく笑みを浮かべる。  一日のバイトが終わり、浮かれているのか家に帰る足取りも軽い。  iPodのイヤホンを耳に装着し、再生ボタンを押す。  軽やかなメロディが流れ出す。 「First kissから始まる...
  • 泣かないで、泣かないで、笑って!02
    泣かないで、泣かないで、笑って! 第2話      照りつける暖かい日差しと、それに反したひんやりとした冷たい風。  夏季に入り、連日猛暑が続いているのだが妙に涼しい。 時折吹き抜ける風が周囲の気温を下げているのか、あるいは丘の下に広がる透き通った湖が熱を気化しているのか、おそらくはその両方であろう。  小高い丘には草原とゴツゴツした岩と所々に生えた針葉木しかない。  そんな自然の芸術で形成された風景に、につかわしくない人物が紛れ込んでいた。   「ふぐぅ…」  男が仰向けに倒れている。  赤いタンクトップに黒いジーンズ、黒く長い髪は適当にはねており、前髪だけ癖になっているのか目元で分かれている。 筋肉質では無いが、身体は引き締まっていて、顔立ちは悪くは無いが、特別良いと言えるほどでもなくこれといった特徴が無いのが特徴であった。  男の周囲には投げ出されたままの状態のギターケースが転がって...
  • 泣かないで、泣かないで、笑って!03
    泣かないで、泣かないで、笑って! 第3話      耳元で小さなくしゃみが聞こえた。  薄い掛け布団の中、半覚醒した羊司が薄く目を開くと、長い羊の耳をしたかわいらしい少女がむず痒い顔をしながら身体をすり寄せてくるのが見えた。 「んぅ~……」  少女は未だ意識が夢の中なのか寝言をもらす。  ああ、これは夢だなとぼんやりとした意識の中、自分も寒いので少女のやりたいようにさせる。  落ち着ける場所を見つけたのか、少女は羊司の胸元に額をつけた。 小さな手が彼の服を掴み、そのまま引っ張る様に身体を密着させる。 「……すぅ」  落ち着かない顔をしていた少女が、穏やかな表情を浮かべ安らかな寝息を立てる。  その安らいだ表情に羊司は笑みをつられた。 他人が見たらそれは幸せに眠る仲の良い兄妹に見えたかも知れない。  暖かく柔らかい少女の感触に眠気を刺激されたのか、彼もまた夢の世界へ旅立とうとする。 ふとウェ...
  • 長編SS一覧(メイン)
    ... 371KB 最近 泣かないで、泣かないで、笑って! 13=368 ヒツジ 師走 95KB - ツキノワ 14=753 クマ クマ 138KB 10/03/30 羊と犬とタイプライター 14=372 イヌ 鯖 100位 09/02/22 夕焼け色の贄 15=535 サルとカニ サルカニ KB 08/12/01 たんたんたぬきの 15=292 タヌキ 蛇担当(仮) 104KB 09/05/24 蒼拳のオラトリア 15=362 シャコ シャコ担当 171KB 09/10/22 昨日よりも、明日よりも 避難所4=116 キツネ 規制狐 53KB 09/11/30 元祖天才アルジャーノン(仮) 避難所4=731 ネズミ きつねうどん 20KB 09/04/15 鋼の山脈 16=273 オオカミ 16=273氏 500超 09/12/01 嘘つき兎が召使いの物語 16=380 ウサギ 嘘つきの...
  • キツネ、ヒト 小話05
    「何?これ」  アルビオンの妖精ココナートさんは今日もお店で働いている訳ですが、そんな私は今、カナに木箱を渡されたのです。 「御神籤だよー。昨日仕事休んで作ったんだ」 「カナってくだらない事に真面目になるよね」 「なん、眼鏡ココナッツよりくだらなくないもん」 「めがめが眼鏡ココナッツだと!?こんな屈辱は初めてだ!」 「ココがくだらないかどうか、この御神籤が決めてくれるよ?さぁお引きなさい!」 「いやむしろ先に謝れよエキノコックス」 「と言いつつ籤箱をふるココナッツでした」 「あんた寝てる間に尻尾燃やしてやるんだから・・・あ、出た」  私の手中に紙の玉。それを広げると二枚綴りの籤が現れた。 「裏、と書いてある」 「一枚めくれって意味じゃない?」 「何で制作者のエキノコックスが知らないのよ」 「レダちゃんと作ったから。後次エキノコックスって言ったら殺害するから」  ・・・・・・。 「で、何て書...
  • ヒト召使の詩
    泣かないで 泣かないでって 言おうとするけど 頭を 撫でようとするけど 体 動かなくて ご主人様 もう 休んでいいよって 大変だったね お休みって 気づいたら 目が見えなくなってて 声も聞こえなくなってきて なにも 感じなくなってきて でも なんか ずっと ご主人様の肉球が あったかいのだけは わかる うれしいなあ うれしいなあ お休み お休みなさい 起きたら また
  • 無垢と未熟と計画と?短編01
    無垢と未熟と計画と? 短編1 おもいでのほん   「……早く寝なさいとお医者さまに言われただろう、ロレッタ?」 「あ……」  暖炉のある暖かいリビングのソファで本を読んでたら、父さんがわたしの隣へ座って心配そうに声をかけてくる。  横目で時計を見ればもう12時前。寝るのが早いねーさんならもう夢の中の時間だ。  ……でも、まだ寝るわけにはいかないかも。 「えっと、この本読み終わったら寝るー」 「ダメだ。今すぐ寝なさい」  普段は無口で危ないこと以外は黙っていてくれるけれど、一度口を開くとなかなか折れてくれないところは嫌いじゃ ないけれど、こんないい所で止められたら気になって眠れなくなっちゃう。 「――」  せめてこのお話が終わるまでは……と、心を込めてじぃぃぃと父さんの丸くて大きな目を見る。  けれど、全く揺れない。  頑固なとこはねーさんそっくり。というか、ねーさんがそっくり? 「今読んで...
  • ひな祭りネタ
      「さくらちゃんみてみて! ももちゃんかわいい?」 今日は雛祭り。 今年三歳になる姪っ子が、桃色の振袖をはためかせてはしゃぐ。 「うん、すっごく可愛いよ。良かったねー、桃」 にぱっと笑う桃は本当に可愛い。何もかも失ったあたしにたった一つ残った宝物だ。 目はくりくりだしほっぺはすべすべ、元気で素直で、姪馬鹿といわれようとも桃には非の打ち所が無いと断言できる。 「桃ちゃんキュートだよビューチフルだよ可愛いなー可愛いーよく似合ってるよー見立てぴったりだーデザイナー呼んだ甲斐があったよーハァハァ」 「ありがとうございますー、ごしゅじんさまー」 一つだけ心配なのは、可愛すぎて危険な変態に目をつけられちゃってるとこかな。 誰か助けて。 「ハァハァ、桃ちゃん、ちょっと今からご主人様とお昼寝しようかぃででででででッ!?」 うねる黒い尻尾を力いっぱい引っ張る。 見た目は猫耳美青年のこのご主人様、中身は変態...
  • 虎の威02
    虎の威 第2話      川沿いを延々歩いて森を抜けると、そこは一面、見渡す限りの草原だった。  その草原を突っ切るように舗装された道があり、そのすぐわきにレンガ造りの建造物がある。  家――と断言できないのは、その建物があまりにも大きく、まるで海外にある田舎の学校の ような印象を覚えたからだ。 「あれが俺んち――弟が一人と、従姉妹が一人一緒に住んでる。あと、住み込みの下働きが何 人か。両親は死んだ」  森で取れる鉱石や薬草を売ったり、動物を育てたりして生活してるんだ――というバラムの 言葉を、しかし千宏は聞いていなかった。  バラムに背負われながら振り向けば、そこは圧迫感を覚える程の広大な森が広がっている。  あり得ない。  だって――だってここは東京で――多摩川が――。 「チヒロ? どうした?」 「……どこ、ここ……ねぇ、まって……川井のキャンプ場は……」 「ここはトラの国の外れだ。あ...
  • プレゼントボックス
    プレゼントボックス 「クーちゃん、クーちゃん!!」 「いだだだだ、ええい乗るな!!毛引っ張るな!!」 「なークーちゃん、ほんとにきぐるみじゃないのか?」 「本物だよ!ていうか偽者ってなんだよ!うわ、わ、首引っ張んな!!!いで、ででで」 「クーちゃんおなか空いたー」 「だから今作ってるだろうが、ちょっとはガマンしろっ!!って、あっ、バカっ、鍋に触るなっ」 「クーちゃん、おしっこー」 「廊下出て右!!」 クーちゃん、つまり俺だが、ていうか俺の名前はクーちゃんじゃないんだが、とにかくまあ俺の家の中は大惨事の様相になっていた。 あれもこれもそれというのも、さっきから俺にまとわりつくまだ幼いヒト、ヒト、ヒト…数えるのも煩わしい。確か15、6匹はいた。いや、20匹か? 「クーちゃんあそんでー」 「ねえ、クーちゃん、クーちゃん」 「クーちゃん」 「クーちゃぁーん」 「クーちゃんってばあ」 「…どいつも...
  • 岩と森の国ものがたり10c
    岩と森の国ものがたり 第10話(後編)      夜空に星が瞬く。  まだこの季節、夜はうっすらと寒い。  ぶるっと、アンシェルが小さく震えた。 「大丈夫ですか?」 「あ……」  レーマが、そっとアンシェルの肩を抱き寄せる。 「だ、だいじょうぶだ……」  声が上ずっているのが、自分でもわかる。  鼓動が、妙に早くなっている。 「……建物の近くに行くまで、ずっとこうして行きますか?」  レーマの優しい声。白い息が、月明かりの下でうっすらと見える。 「ば、ばかを言うな……」  そういいながら、言葉とは裏腹に、無意識のうちに体をレーマに寄せる。  あったかい。  本当は、今こんなことをしている場合ではないのに。  妹を助けるという大切な目的があるというのに。  それでも、体が勝手に動く。  心の中で、言い訳をいろいろと並べる。  体が冷えては、いざというときにうまく動かないから。  不審に思われ...
  • 首蜻蛉 一話
    首蜻蛉 一話 「うぅ~…ひゃう、もうちょっと右…」 「ここ?」 「きゃう!ちべたい!もーなんで左右間違えるのよ~!!」  こんにちは。僕は敬部。「けーぶ」って呼ばれています。ご主人様の背中に湿布を張ろうと格闘中。 趣味はご主人様の「アカネ」様に悪戯することです。たとえば、わざと湿布の張りどころを間違えたり。 「ていうか、こんなの本当に効くのぉ?」 「そりゃトンボの世界には無いでしょうけど、人間世界じゃ普及してますよ。肩こりとか、腰痛とか」 「む~…ぜったい、ちべたいだけだ~…」  ヒトの言うトンボとは、羽とか、目とか、いろいろと人間離れした要素があります。 でもご主人様達「トンボ族」はそんなのでもないですよ。 たとえば赤の幾何学模様の羽は取り外し式。これ、魔力を固めた物なんで、割れてもすぐ構築できます。 履き慣れたクツのように感触があるので、急にさわると「ひゃう」ビックリします。 他にも...
  • 万獣の詩05
    万獣の詩 ~猫井社員、北へ往く~ 第5話     =─<Chapter.5 『PNEUMA』 in >────────────────────────=     「ったく、なんか風呂に入る前より疲れたぜ」  部屋に戻るや否や、ごろりとベットに寝っ転がって男が言う。  何の変哲も無い二人部屋。  唯一、他のメンバーの部屋と決定的に違う部分があったとしたら、 「やれやれ、女は怖いねえ」 「ふん、案外、肝が小さいのだな」  それはもう一人の同室者が異性であるという事か。   「まぁ疲れたというのなら、せいぜい早く寝る事だ」  ふわりと銀灰色の長髪をなびかせて、けれどそっけなく通り過ぎ、  寝台に腰掛けるわけでもなくカタンとドレッサーの前に座る。 「…お前はどうするんだよ」  と。  ぎしり、と巨体を起こして、男がベットの上から頭をもたげた。  鏡台の前に腰掛けて、髪でも梳かすのかと思いきや。 「...
  • 獅子国外伝13
    獅子国外伝13  ちょっと用事があって物置に向かうと、先客がいた。 「ん~っ、ん~~~んっっ……」  ご主人様が、木箱の上に上がって、棚の一番上の箱を取ろうとしている。  爪先立ちになって精一杯手を伸ばしているんだけど、あと少しだけ届かない。  なんだか、半分泣きそうな顔で手を伸ばしている姿が、かわいいというか子供っぽいというか。 「代わりましょうか?」  ほんとは別の用事があったんだけど、さすがに放っておくのもかわいそうだから、そう声をかける。 「え? ……あ、キョータくん……」  俺の声にあわてて振り返り、なんだかばつの悪そうな顔をする。 「とってあげますよ」  俺がそういうと、なぜかちょっとだけ不満そうな顔をして、 「キョータくんがそう言うんなら」  と、少し怒ったような声で言って箱から降りた。  なんで機嫌が悪くなるのかわからないけど、とりあえず木箱の上に立って、ご主人様が取ろう...
  • 虎の威14
    虎の威 エピローグ   千宏が去ってから三年が経った。  暑さも薄らぎ、過ごしやすい秋がやってくる。  ふと、アカブは馬車の音に気付いて窓から身を乗り出した。はるか道の向こうに、確実にこちらへ向かう馬車が見える。  そしてわずかに聞こえる、安っぽい歯抜けのメロディー。くるみ割り人形。  千宏がこの家を出た時、オルゴールは千宏とともに姿を消していた。 「バラム――おいバラム! パルマ! 外に出ろ!」  怒鳴って、アカブは三階の窓から庭へと飛び降りた。  息を切らせてパルマとバラムが降りてくる。  そして、馬車が着いた。――日よけのカーテンのため、窓から中はうかがえない。  ドアが開き、そして、飛び出してくる者があった。 「うわぁ! ほんとにマダラだ! それに白虎! 母さん! ねぇ母さん!」  くりくりとした瞳の、アカブの膝までしかないような少年だった。落胆すると言うより、唖然とする。 それに...
  • ご主人様とぼく
    ご主人様とぼく 雨の上がりの心地よい昼下がり。 短く切りそろえた黒い髪を風になびかせながら、嬉しそうに走る一人の少年。 胸には大事そうに紙袋を抱きしめている。 年の頃は12、3。パッチリとした黒い瞳、野暮ったい黒縁眼鏡、 服装はこざっぱりとした白のシャツに黒のズボン、そして首には不釣合いな太く重そうな首輪。 この首輪が所有者の印となるので、外せないように金属を溶接してつけてある。 見た目より軽いらしく、走るたびにチャリチャリと軽い音を立て、跳ねる。 その様子を、ギラついた幾つもの瞳が窺っていたのだが、少年は全く気がついていなかった。 「ふふ。今回はちゃんとお使い完了しそう♪ 前回の時は、転けて川に落としちゃったんだよね。 今回は気をつけ…うわっ!」 そう言った途端に何かに躓いて、見事顔面から地面に突っ込む。しかも水溜まりの上にビチャリと。 大切な荷物を守ろうと両腕を高く持ち上げたので、受...
  • ソラとケン02
    ソラとケン 第2話   どうやら本格的に拗らせたみたい。 痛む頭、引かない熱、お陰でなかなか眠れない。熱のせいか目が霞む。 僕はベットに横たわり、ぼんやりと天井を見上げていた。それにしても酷い寝汗だ。…気持ち悪い。 喉渇いた。体も拭きたいけど、タオルが無い。取りに行こう。 朝食の時からソラさんを見ない。相当キツそうだったし、大丈夫かなぁ… ふらつく足で立ち上がる。頭が痛む。まるで重い石が頭の中を転がってるみたいだ。 部屋のドアを開けようとしたとき、リビングから話し声がした。 「…あと、風邪薬持ってきて。切らしちゃってて……うん。熱と頭痛が酷いの。……2人分持ってきて。 1人分はヒト用で………え?…いいから……うん、ありがと。じゃあね」 ――ガチャン 電話か。誰に掛けてたんだろ?ドアを開ける。すると、ソラさんが電話の前でぐったりと倒れていた。 僕は慌ててソラさんを抱き起こす。 「ソラさん!!...
  • 学園008
    水泳部の野望(仮)      部室棟2階。  黄昏迫る水泳部部室。  つんつんとしたトゲヒレが、窓際で、フェンス越しに外に見えるプールを見下ろしていた。 「失礼します」  入ってきた浅黒い肌の女生徒は、艶やかな笑みを浮かべる。  会議机にとん、とファイルを置いて、動かない後ろ姿に声をかけた。 「……首尾よく、予算を昨年度より多くもぎ取りましたわ」 「規模を広げた甲斐があったじゃないか」  先に居た人影は振り返らずに答える。 「規模、といっても、男子一人ですけれどね」  女生徒は、椅子を引いて腰掛けながら、艶やかな黒銀の髪をトゲヒレ耳にかけ、ファイルをめくった。 「十分さ」  喉が鳴る音が部室に響く。 「ええ。……更衣室の拡張、大会への出場出張費、……いろいろ稼げますわ」  ページを繰る音が響く。 「それで、肝心のあいつはどうなんだい?」 「それなりに適応していらっしゃるのでは? トリアにぞ...
  • 猫の宅急便 02
    猫の宅急便 2話 「と、言う訳で今日の仕事はアレンとクルセイダーのペアで行く」  顔の傷やら、無駄にデカイ体格やらが威圧感を醸し出すアナグマが朝食の席を締め括ろうとする。 「了解」  灰色と黒の毛並みが少し素敵な犬男が、氷みたいに冷たい声で返事をした。 「ちょちょちょ待って?」  私は慌てて煙草を灰皿に押し潰す。あちっ! 「ねぇヴァシリ、じゃねぇボス。またアレンなの?私狐んトコ以来全然仕事してないよ?」  新しい装具やらちょっとムフフな品物を買ったせいで私の財布は随分寂しい。お金!お金!! 「仕方ないだろコーディ。最近デカイ品物が多い、お前のメルカバじゃ無理だ」  「な!メルカバを侮辱しないで」  私は思わず身を乗り出しアナグマに詰め寄る。いくらボスでも今のは腹が立つ。 「冷静になれコーディ。メルカバは俺のクルセイダーより早いし高く飛べる。変わりに耐荷重量は低い。君が一番理解しているはず...
  • 太陽と月と星05
    太陽と月と星がある 第五話        目を開いて現状を把握、目の前には長くて黒い爬虫類の尻尾とテーブルの足。床が冷たい。  今日は叫ばなかった。大丈夫。 「オイ、どうしたんだ。冗談のつもりか?」  頭上から降ってきた声に取り合えず、問い返す。 「寝ていたんですか?私?」  上から覗き込んでくる御主人様に訊ねると、一瞬気まずそうな表情になり―――ああ、こんな顔も出来るのかぁ―――  頭を動かすと髪がばっさりきたので、テーブルの下から這い出て髪留めを探すも見つからず… 「ほら」  御主人様が何で髪留め持っているんだろ。拾ってくれたのですか 「お前、顔青いぞ。大丈夫なのか」 「さぁ……」  私が首を傾げると、御主人様が噛み付きそうな表情になってしまった。 「自分の体だろうが!何を寝惚けた事を言ってるんだ!!」         そういえば、そんな事も     立ち上がったら視界が暗くなった。 ...
  • やけ買いなんかするもんじゃない
    やけ買いなんかするもんじゃない  ----*** 1・やけ買いなんかするもんじゃない ***---- 「ごしゅじんさまー。ごしゅじんー。あるじー。マスター。おーい」 「だー! うるさい、暇なら先に寝てろ! ……っひいいいい」  背中の毛がわさわさ一気に立った。ついでに裏声を出してしまった。いきなり後ろから耳にやわやわ噛みついたヤツがそのままの位置でうひひ、と笑うものだから、その息の圧力がまた耳にかかって首筋の毛まで立った。細い指が視界の隅に入ったかと思うと今度は 目元をマッサージされた。 「目の上ひげー。目の上ひげー」 「引っ張るなー! 頼む、邪魔しないでくれ、明日朝まで最低これだけは書類作っとかなきゃいけないんだよう……」  俺、なんでこんなの買っちゃったんだろう。  窓と戸を開け放ったままゆっくりと裏通りを進む馬車があった。中に詰めこまれたヒトメス奴隷の一人と目が合った。俺はその直前...
  • 万獣の詩断章01a
    万獣の詩 断章『セトの息子達』 第1話(前編)     =─< 断章『セトの息子達』(上) >────────────────────────=      失敗したと思った時には、もうなにもかもが終わっていた。  望みを叶えるはずの圧倒的な力は、望みに反してあらゆるものを壊してしまった。  敵も味方も。  ぼくが壊したかったものも、ぼくが守りたかったものも。  たった一度の過ちで。  たった一度の過ちだったのに。    力を持って生まれて来た事は天恵の勅詔だと、全てのそうでない人々は言う。  才を持って生まれて来た事は運命の祝葉だと、全てのそうでない人々は言う。  自分と違う存在に向けられる、賞賛と恐怖の眼差し。  選ばれた存在に向けられる、羨望と嫉妬の眼差し。    だけどぼくは神様じゃない。  脆く儚い人の器に、この力はあまりにも重すぎる。  ぼくは別に何かの義憤に駆られて人間を皆殺し...
  • 続虎の威03
    続・虎の威 03   「だめだ! 今日も出航できねぇ!」  空は快晴。海は凪いで風もなく、絶好の船旅日和だというのに、カブラは苛々としながら宿に戻ってきて乱暴に言い捨てた。 「沖の方はひどい嵐で、とても船なんざ出せる状態じゃないんだとよ。くそ! ったくついてねぇ」 「いいじゃねぇか。一週間足止めくらったこともあるんだから、ほんの二日や三日。なぁブルック」 「そうだなぁ。俺も船は好きじゃねぇし、まあそんなに焦ることもねぇだろ」  苛立ちを募らせるカブラとは対照的に、カアシュとブルックはくつろいだものである。  千宏はそんな三人のやり取りを眺めながら、ハンスに丁寧にブラシをかけていた。船が出ないということは、今夜もこの町で足止めである。  だが、丁度いいかもしれない、と千宏は思った。  今夜一晩、予行演習をかねて仕事をして、それによって何らかの不都合が発見されたら、航海中に改善し、新しい土地で...
  • 狗国見聞録05a
    狗国見聞録 第5話(前編)      ――いかに沢山の矢が束になって【賢者】に射られようとも、それはさして問題ではない。  なぜなら【賢者】は誰にも射抜かれないからである。    ――【賢者】は、一般人が恥とか哀れとか思うような事柄は何一つ顧慮しない。  彼は民衆の行く道を行かず、ちょうど諸々の星々が天空の反対の軌道を運行するように、  万人の意見に反して、ただの独りでも歩んで行く事ができる。    ――【賢者】以外の全ての人間には熟慮などなく、故に真理の存在余地はない。  あるのはただ欺瞞であり、反逆であり、精神の錯乱した衝動……すなわち幻影でしかなく、  よって【賢者】はこれらを偶発事項のうちに数え、寛大な慈笑でもって相対する。    ――他人からの軽蔑以上に酷いものはないと思うのは、心の弱さであり貧しさだ。  【賢者】はそれを知るが故に、軽蔑を意に介さず、むしろ笑う事でもってそれらに...
  • 獅子国伝奇外伝03
    獅子国伝奇外伝 第3話     「キョータくんキョータくん、ちょっとこっち来てくれる?」  満面の笑みで俺を呼ぶサーシャさん。  こういうときに、大抵ロクなことがあったためしがない。 「はいはい、いま行きまーす……」  洗濯物を一通り干し終えてから、声のほうへと向かう。 「あ、きたきた。ねえねえ、ちまきってこんな感じでいいのかなぁ」  サーシャさんの目の前には、茶色い笹の葉で包まれたおにぎりのような物体が。 「…………」  中華ちまきつくってどうするんですか、サーシャさん。 「……だめだった?」 「……いや、その、まずは味見をしてから……」  そういって、一個手に取る。 「ぅあちちちちちっ!」  落としそうになったちまきを、横からひょいと取り上げる手。 「もぅ、食べ物を粗末にしない」 「ご主人様?」  いつの間に横にいたのか、ご主人様がちまきを手にとっている。 「大体、ボクより先に味見なん...
  • 狗国見聞録07a
    狗国見聞録 第7話(前編)     イヌの国の伝承説話の一節に、【ティンダロス】と呼ばれる魔犬が登場する。   創世の時、世界が「過去」と「未来」に分けられる――すなわち時間の流れが始まる前。 まず「浄」と「不浄」に分けられた世界の中で、不浄の側、 汚泥の中より立ち上がった、イヌに似た姿の四足の生き物として、御伽話の中には登場する。 彼らの母は原初の不浄そのものであり、故に彼ら自身「汚れの化身」と見なされる事が多い。   性格は貪欲にして獰猛、粘着質で極めてしつこい、ストーカーの代名詞のごとき性情。 汚れた空に映る、眺める事しか出来ない「清浄の世界」の全ての生き物達を憎み、妬み、 また全ての「美しさ」「清らかさ」「生の気配」に常に飢え、乾き、ゆえに敵意を抱き、 ギラギラとした瞳に憎悪と呪詛を浮かべながら、今日も泥濘の中を這い彷徨うのだと言う。   伝承の中で担うのは、時越えの【禁忌】を侵し...
  • 虎の威13
    虎の威 第13話  バラムに抱かれ、処女を捨て、滑稽な幸福に笑い合った夜から一月が経った。  男に対する恐怖はすっかりと消え去り、快楽を受け入れる事にもなれ、千宏は自分から男に快楽を与えることをも覚えて逆にバラム達を心配させた。  急がなくてもいい、無理をするな、ゆっくりなれていけばいいのだという言葉を、しかし千宏は相変わらずの頑固さで聞き入れようとはしなかった。  そして、魔法や薬を使わなくとも男を受け入れられるようになり、千宏はバラムの部屋に通う日々を卒業した。 「そんなわけで、今夜はアカブの部屋に夜這いを掛けようと思います」  アカブに作ってもらったおやつのプリンを誇りっぽい市場で味わいながら、千宏はにやりと唇を吊り上げた。  同じくプリンを書き込んでいたパルマが、ぴん、と耳を立てて千宏を見る。 「それって、ひょっとしてアカブには内緒でってこと?」  ぐぐっと身を乗り出して、ひそひそ...
  • 無垢と未熟と計画と?04c
    無垢と未熟と計画と?第4話(後編)                  §     §     3     §     §   「だ、大丈夫なの、りょー?」 「にーさん……気分とか悪い?」  心配そうに二人がソファに寝転んでいる俺の顔を覗き込んでくるが、声を出す余裕がないので何とか笑って答える。  一応途中まで寝ていたので酷い寝不足ではないが、それでも、いろんな意味で消耗して指一本動かすのも億劫だ。 「明日あたり、定例会議だったかしら」  昨日の晩の残り物をひょいひょいと、口の中に収めながご主人様が呟くと、同じように食べているロレッタが唐突に顔を上げる。 「えっと、にーさん」 「な、なに?」  ニコニコと可愛らしく笑っているはずなのに、この背中を伝う冷や汗はなんなのだろうか? 「わたし達に言ってない事、あるよね?」 「はて……?」  さてなんのことやら……と、続けて誤魔化せるような段階ではな...
  • ペンギンの国
    ペンギンの国 第1話 「卒業、おめでとう・・・!」 その涙目の先生が発した一言で、緊張の糸が切れたように 周りが一斉に泣きだした。 (あぁ、俺もついに卒業しちまうのか・・・) 今日は私立高等学校の卒業式。 友達もそこそこできて、当たりと言われた先生に 3年の担任をしてもらえたのはとても楽しかった。 友達と馬鹿し合いをして、カラオケいって、大学受験に奮闘して…。 あっという間にすぎた高校生活がフラッシュバックしてくる。 こうして、卒業証書が入った黒筒を掲げながら騒ぐクラスメイト達。 あ、やべ。 うるんできた。 教室の窓際、一番後ろにて頬杖をしながら教室を見渡している。 ここから見えるのは、泣いている者、背中をたたき合い友情を確かめ合う者、 感傷に浸っている者。 今日が終わればここにいる全員、離れ離れになっちまうんだよなあ。 泣きながらお別れは悲しすぎる・・・。 ここいらで一発、みんなに喝を入...
  • 医学とHの関係01
    医学とHの関係 01    医学とHの関係 記録その一 ヘビ女の憂鬱    性交渉時の二本刺しの危険性と、節度を持つことの大切さを記録し、  さらなる医学の発展のためと、再発防止のためにこれを記憶する。  なお、記録はヒトのニホンゴにて行い機密保持に努める。               ――ミケール医院の患者記録その一より  この記述は記憶方法は治癒後の患者に対し、口頭で質問を行い、 内容を落ち物であるノートパソコン、ヒト、携帯電話を使用して、 記憶したものであり、事実に極めて近いものである。             ――記述冒頭の台詞より   序文 治癒後の情事説明    翻訳ソフトが使えるならば、音声を直接に文章に変換出来て、 手間が大幅に減るのにと、益体も無い事を思いながらもマウスをクリックして、 メモ帳を起動させる。  本来なら、全く異なる言語を話している異世界からきたヒト...
  • シー・ユー・レイター・アリゲイター04
    RRRRRR... RRRRRR......  『はい、もしもし』  『もしもし、あれ、女の子の声? 掛け間違えたかな』  『あ、ギュスターヴさんにご用事ですか?』  『うん、そうそう。ギュスターヴ先生、今大丈夫かな?』  『申し訳ないですが、どちら様でしょうか?』  『おっと悪かった。ええとね、椿抄社のアレックスと伝えてもらえればわかると思う』  『ありがとうございます。それでは、少々お待ちください』  「ギュスターヴさん、お電話です。はい、編集のアレックスさんから」    *   *   *  第四話   ヒー・ハズ・カンパニー・ナウ    *   *   * 物事には大抵、表と裏がある。 コインだって表と裏があるから投げられるのだし、表と裏があるからオセロもできる。 人間にだっ...
  • 続虎の威10
    続・虎の威 10    雨が降る。  乾いた街を湿らすように、生暖かい雨が降る。  千宏は雨が嫌いだった。  すっかり泣きはらした様子で千宏が浴室から出てくると、テペウは黙って千宏に温めたミルクをよこし、ソファに腰掛けるように促した。全ての気がそげたとでも言うように、すでに頑丈そうな皮のズボンをはいている。  千宏の手には大きすぎるカップを受け取り、ソファに座って一口すすると、風呂と大泣きで失われすぎた水分が体にじわりと染み渡って行く。  そして、テペウは唐突に切り出した。 「まあ……呪いなんだよな、いわゆるよ」  巨大な体を小さく丸めて、テペウは立派な尻尾でぱたぱたとソファを叩く。 「女を泣かせるってのが、生理的に受け付けねぇ。よがり泣きってのはいいだが……あー、あれだ。なんか、罪悪感に作用してうんぬんとか抜かしてやがってな。まあ、二百年近く前の話なんだけどよ」  女が泣いていると言...
  • 太陽と月と星23
    太陽と月と星がある 第ニ三話      ぼたぼたと滴り続ける雨の音    「 ――君、ぽいよね。ね、ちょっとこうやってみて」  短い直立した角に黒と灰の混ざった髪、耳は丸くて黒い筋模様が入ってる。  包帯で隠された正体。  カモシカのマダラ。  二重で大きな瞳に愛嬌のある鼻。  顎はやや細め。  肌は日焼けしていて、全体的に筋張ってる。  ネコの国に落ちて一般人に拾われたマダラに飢えてるヒトメスっぽく、ジャックさんの口調を真似してノリよく。  とりあえず、褒める。  目が覚めてから、少し頭が混乱し日付を数日間違えたんだけど、カモシカ的にもその方が都合がよかったらしい。  私は……盗まれたんじゃなくて、売られたんだと思っている方が。  ちなみにお値段はなかなかよかった。中古だとバレていないからだろう。 「誰?」 「ていうか、声もちょっと似てるかも。目元とか、カッコいい所がにてるかな」  人数...
  • 金剛樹の梢の下02
    金剛樹の梢の下 第2話     白羽パート    ・・・・少々、しんどいですかね。やはり、陸の者は重たくていけませんね。  そんな事を考えながら、オスヒトの胴にまわした手に、更に力を入れました。 カエルでも踏み潰したような声が聞こえましたが、聞こえなかった事にいたしましょう。  意外と遠出していたのか、それとも余計な荷物で遅くなっているのか。 小一時間ほど飛び続けても、まだ里は見えてきません。 この状態だと、あんまり長くも飛べないんですけど・・・・。  姫様は、あまり外についてご存知では御座いませんし、 先に行かせて迷子にでもなられたら、それはそれで問題ですし・・・・。  私も、あまり長くは飛べそうにありませんし、里が近い事を祈るしかありませんでしょうか。 近くに里の者が出した船でもあれば、降りて休むのですが。 この時間では、あまり期待できそうにありませんね。 僅かに茜の色を見せ始めた空。...
  • 火蓮と悠希01
    火蓮と悠希 第1話     いたい。   あたまが、いたい。   あたまだけじゃない、からだが、いたい。     「いてて・・・・・・・あれ?」 目を開けて、周りを見渡す。 「――――何も、ない・・・?」   一面、見渡す限り荒野と言うに相応しい土くれだらけの地面と周りにそびえたつ山。 「あれ~?変だなぁ・・・えっとー、さっき自分の家に帰って・・・」 ご飯作ろうとしてガス台の前に立って・・・ひねったら・・・・ 「爆発、したんだ・・・・・・じゃぁ・・・ココは天国?」   天国にしちゃ殺風景すぎる。じゃあ、ココは地獄?悪い事したっけなぁ。 しょんぼりしながら、とりあえず立ち上がる。 体の節々は痛いけれど、歩けるから大丈夫なんだろう。   『もっしもーし♪』   急に背後から声をかけられてびっくりした。 振り返ると、そこには声の若さとは裏腹に妙齢の綺麗なおねーさんが立っていた。 「あなた、ヒトで...
  • 獅子国伝奇外伝12
    獅子国伝奇外伝 第12話    ときどき、旦那様とお嬢様のはからいでキョータさんと一夜を共にする日があります。  そんな日は、私はふだんより早めにお風呂で体を洗って、洗濯しておいた寝間着に着替えてから、ちょっとだけ秘密の準備をして、自分の部屋でキョータさんを待ちます。  そうして待ってると、やがて「入っていい?」って聞いてから、キョータさんが部屋に入ってくるんです。 「どうぞ」  そう言って、扉を開けて私はキョータさんを招き入れます。  扉の前にいるキョータさんも、私と同じような白い寝間着姿で、少し恥ずかしそうに部屋に入ってきます。 「お茶、入れますね」  そう言って、私は用意しておいた冷ましたお茶とお煎餅を出します。 「あ、ありがと……」  かちかちに緊張した声でキョータさんが返事をして、お茶に手をつけます。  でも、様子が少し変。  視線は一箇所にとどまったまま動かないし、体もかちんか...
  • if
     瞬きをする。どこだここ。  私はさっきまでプラットホームに。  見上げた空は、薄い雲のかかる灰色の空、さっきまであんな大雨だったのに?  服は泥まみれ、革靴の中もぐちゃぐちゃ嫌な音をしているのに。  見回す風景はどこか知らない石の町、足元はアスファルトじゃなく、所々朽ちた石畳、見知らぬ喧騒。  饐えた臭い、汚れた雑巾の臭い、腐った臭い、それから 「だいじょうぶか?」  穏やかで、心配そうな声に泣き出しそうになるのを堪えて私を見下ろす人を見上げる。  ……ゴジラ?  返事の代わりに私は盛大にゲロった。     太陽と月と星がある ―if―     「つまりーここは異世界で、私が帰る方法は無いみたいで、奴隷商人が居るくらい治安も悪いと」  まだ鼻から胃液の臭いが消えず、気分がむかむかする。  目の前のターバン巻いた黒トカゲが湯気の立つコーヒーらしきものを口運んでいるので、私も紅茶らしきものを...
  • 夜と昼がある
     あれは確か、サフの引っ越し祝いの日だったと思う。 「ちーもそろそろ大人だから、旅にでようとおもうの」  骨付き肉を頬張り、顔を脂塗れにしているのを拭き取った口からそんなことを聞いたのは。  幼くて小さくて可愛い顔は、至極当然といわんばかりの表情を浮かべていた。  スナネズミの風習とか、そういうものだろうと私は推測し、しばらく考える。  ネズミはヒトと同じくらい、成熟が早い。  小学生低学年のころの自分と照らし合わせれば、あっさり答えは出た。微笑ましくて顔がにやけてしまう。 「そういえば、アフリカの方では成人の儀式にライオンを一人で倒すというのがあるそうです」 「大人同伴なら構わん。行く前に連絡しろ。学校をさぼるな」 「同伴はキヨちゃん以外でね」 「僕らの知ってる人じゃないと駄目だよ」  0.1秒ぐらいだった。  早過ぎて、どう考えても6歳は大人じゃないとか、なんで...
  • 狐耳っ子と剣術少女
    狐耳っ子と剣術少女     ボクの仕事場の裏山には、質のいい樹がたくさん生えている。 香木、霊木、彫り物にはもってこいの樹。 ……いや、少し順番が違うかな。 たまたま見つけたこの山が、そういう樹の多い場所だったから、仕事場をまとめてここに引っ越したというべきか。 ボクの名前は景佳。けいか、って読む。 一応、これでも一人前の彫像職人。 巫女連にも納品してる、自分で言うのもなんだけどイッパシの職人……の、つもり。   ちょっとした仕事があって、ボクはまた裏山に樹を探しに来ている。 樹といっても、やっぱりいろんな種類があって。 たとえば、巫女連に納入する像なんかは香木を使う。 香木と一口に言っても、実は好まれる香りもいろいろあるんだけど、それは話すと長くなるから今度。 それとは別に、なにかの儀式の補助に使う像なんかだと、いわゆる霊樹というのを探さなきゃいけない。 ここの裏山ってのは、ずーっと昔に...
  • 探偵にゃんこーの厄日04
    探偵にゃんこーの厄日 第4話     自分の机で、糞安い酒をちびりちびり飲みながら俺は今回の事件を説明することにした。 安っぽいテーブルの向こうには、今回の仕事に協力したいという、金持ちのボンボンが居る。  コイツの名前はジョン・ボナルタ、どうやらヒト狂いメアリーの婚約者らしい、 まあアレだ、所謂政略結婚という奴だ 一応ボナルタ家は名家と行っても良いが、すっかり日が翳って久しい貧乏貴族だ、 一代で財を成したメアリーに取り入りたいというのは、まあ、分からないでもない。  本来ならこんなボンボン、足手まとい、 下手したらどっかのヒト召使よりも無能かもしれない阿呆なんぞに手伝わせるのは 死んでも御免なのだが、札束をセットでくれたので、妥協することにした いやはや、金の魔力とはすさまじいものである。 メアリー家のヒト召使、アンヘルの殺害事件は、スラム街の一角、 雑種区といわれる場所に位置する  し...
  • アオとクロ01
    アオとクロ 1話   まえがき  呪い師(まじないし)とは  古く存在する 知られない 稼業  多くは迷信を扱う紛い物  本物の呪い師とは  精霊を行使し 術と理をも極めた  あらゆるものを操る秘匿の 種族  幻の一族は 実はその爪を隠して  ひっそりと暮らしています  人知れず欲を満たしながら ■ 逃げ出した夜 「ぎゃあああっ」 視界に鮮明に映る赤。 振りかかる熱い飛沫。 男の断末魔の悲鳴。 「逃げて!」 裸体にナイフを握り締める姉の叫び。 体は無意識に動き出してドアを開ける。 部屋から飛び出す。 足がもつれる。 階段も廊下もけばけばしく薄汚れていて暗く、 所々からけたたましい嬌声や怒声が聞こえている。 暗闇が深まる通路を進むと音が遠くなり、 裏口と思しきドアから外へ飛び出す。 夜の街。 一糸まとわない身に受ける夜風は むっとするような汗と獣の体臭と一緒に、 血の匂いをまとわりつか...
  • 無垢と未熟と計画と?03a
    無垢と未熟と計画と? 第3話(前編)   「ねぇ、かーさん」 「ラヴィニア、ちょっと待ってね……ん、何かしら?」  晩御飯のシチューのお鍋をミトンを使ってリビングへ持ってくるかーさん。  今日のは上出来らしくて、後ろで纏めた灰色の髪がぴょこぴょこ機嫌よく揺れている 「なんでとーさんと結婚したの?」 「――げほっ、げほっ!」 「あ、それはわたしも聞きたいかも」  私の何気ない質問にとーさんは咳き込んで、暖炉の近くで暖まっていたロレッタが興味深そうに寄ってくる。 「んー、お見合いなんだけどね……これがもう喋らない人だったのよ、けどちゃーんと優しい人って事が分かったこうやって結婚して貴方達がいるのよ」 「…………ヘーゼル、その辺にしておいてくれ。恥ずかしい」  とーさんがもこもこの毛を震わせて小さく呟く。  顔が良く見えないけど、居心地悪そうに耳を震わせている。 「ふふ、あなたもしかして……照れ...
  • 狐耳っ子と(もと)剣術少女
    狐耳っ子と(もと)剣術少女   「おまえさま、支度ができましたよ」  かなえが、そうボクを呼んだ。 「どれ?……わぁっ」  その言葉に、ボクが玄関から戻って遊山箱を覗き込むと、そこには。  たくさんのいなりずし。  山の幸のお煮しめ。  川魚の釘煮。  卵焼き。  いつもよりちょっと豪華なお弁当が詰められていた。 「すごいな」 「おまえさまのためですから」  そう言って、かなえがボクに笑顔を見せた。  かなえの怪我が治ってからもう半年ぐらい。  最近、かなえとボクはこんな感じ。  いつの間にか、ボクは「きつねさん」から「おまえさま」になったし、ボクもかなえを名前で呼ぶのが普通になってきた。  で、ボクが木地師の仕事をして、かなえがご飯や洗濯や家の仕事をして。  ときどき、頼延さまや、忙しい時は出入りの業者がボクの彫った品物を受け取りに来る以外は、ずーっと二人っきりの生活。    で、今日は...
  • 十六夜賛歌01
    十六夜賛歌 第1話     interlude in   今日はきっと満月だと思った。     午後9時、塾が終わる。あと半年で高校受験。 今となって思えば、あれは夢だったのだと思う。 夢だと思った、夢のような思い出。 それは、きっと今日と同じ満月の夜のことだと思った。   塾が終わると、皆は当然家へと帰る。もちろん僕も。 だけど僕は、塾の帰り道にある小さな公園で、夜空を見上げてた。 何故かというと、両親は共働きでいつも夜遅くに帰ってくるから。 つまるところ、家に帰っても何も面白いことなんかないから、   だから僕はここに居座ることを毎日の習慣のようにしていた。 実際、月とか星とか見るのは嫌いじゃなかったし。   空高くに大きな月と、大きな兎が見える。 今日はきっと満月だろうと思った。     「今日は……今晩は、かな?」   静まりかえった公園に、凛とした兎の声が響く。 その兎の...
  • 無垢と未熟と計画と?02a
    無垢と未熟と計画と? 第2話(前編)      ねーさんの横に立っている大きなオスヒト。  初めて見たときはちょっと怖かった。 「えっと、初めまして……藤見 良です」  意識しているのか無意識なのか分からないけど腰を曲げて、わたしの目線を合わせてくれる。  そして微かな笑み。それだけで私の恐怖は溶けたと言ってもいい。 「うん、よろしく。りょーにーさん」 「よろしく、えっと?」  わたしの名前を言おうとして困ってる。この困ったような表情で心がなぜかぐらつく。 「ロレッタ、ロレッタ・ヒュッケルバイト、ねーさんの妹だけど別に『様』とかつけなくていいよ」 「改めてよろしく、ロレッタ」  また微かな笑み。……なんかゆらゆら揺れて、わたしじゃない感じ。                       §     §     1     §     §        わたしが名づけて"ねーさん、愛...
  • Antidote(Lycosa tarantula)01
    ――螺旋。 灰色の空間を、規則正しく湾曲した曲線が区切っていく。 円を描く、と思えた線は、視線で辿る度、何処までも同じように続いていて。 中央へ誘いながら、それでいて到達を拒んでいるような。 分岐がない螺旋では、いずれ迷えるはずなどない。 際限なく方向感覚を剥ぎ取られ、時間の感覚さえ薄れさせながら、 くるくると、ぐるぐると。 蜘蛛のように。 円舞のように。 *** 「・・・・・・行き止まり?!」 肩を喘がせながら振り返ると、傾いた視界を塞ぐ赤毛の虎が映った。 背後と左右は、高い塀が立ち並ぶ袋小路。 夕日に焼かれた、煉瓦と石積みの裏路地。 無理やり深呼吸して息を整えた。 酸素不足でコマ落としになった視野に、出鱈目な角度で石畳のタイルが写る。 目が眩む。肺から来た酸素請求書はとっくに脳から溢れ出し、今は視覚神経のあたりに積 み重なっているに違いない。 ――あと少し、何とかして、大通りまで出られ...
  • オオカミケダマ物(仮)
    オオカミケダマ物(仮)      俺の名は雪野 楓(ゆきの かえで)。女のような名前だと言われるが、れっきとした男だ。  特技はその天才的とも言えるフライパン捌き。  小学生の頃には、すでに近所のファミレスなど及びもしないレベルに達していた。  故に我が家では、お祝いの時に外食した経験など無い。  並の料理やでは俺が作る方が美味いし、あんまり高い料理屋へ行く経済的余裕もなかったからだ。  高校は調理師のための学校に通った。そこでも俺はダントツの一番だった。  俺が手を掛ければどんな安物の食材からも、最高の料理が出来上がり、 在学中にあっても、その技術はプロ並みと囁かれていたものだ。  実際その実力は、高校卒業と同時に東京に所在する最高級レストランに就職してしまうほどだ。  元々はド田舎に住んでた俺だが、高校卒業と同時に晴れて上京した訳だ。  だが、そんな俺にも悩みといえる事がある。俺のプラ...
  • 草原の潮風03
    草原の潮風 第3話   ザザザー・・・・・・ヒュゥゥウウウ 木々のざわめきが遠くなり、体を包むのは草の臭いとさっきより強くなる風。 国境付近に続く森を抜けると、湖に面した崖の上に白い建物が見える・・・これが、俺と博士の新任地だ。 今、俺と博士はその中でてんやわんや、真面目な仕事を色々やっている。 ひょっとすると、今やってる申請書類作成やら、備品の搬入が一番助手の仕事としては"らしい"かもしれない。 「ひゃああああ、くもくもくもくもーっ!?」 「博士、蜘蛛ぐらいで驚かないで下さいよ・・・さっきなんて地下室にムカデうじゃうじゃいたんですよ・・・」 これは酷かった・・・。 何年人が入っていないのか分からない地下の倉庫に、何が残っているのか確認しにいったのだが、 電灯をつけた途端に、虫の群れが一斉に逃げていった・・・それも俺の足の上を這いずりまわってである。 「えーい、殺虫剤8...
  • 獅子国伝奇外伝05
    獅子国伝奇外伝 第5話      ある昼下がりの事。 「キョータさんの女性経験はどれくらいだったのですか」 「は??」  唐突に、ミコトちゃんが俺にそう尋ねてきた。 「つまり、人間界にいた頃、何人の女性と性行為を重ねたのかということです」 「ち、ちょっとまてっっ!!」  そんなもの、聞かれたって言える訳がないだろう。 「……なるほど、つまりはゼロですか……」 「俺は何も言ってない!!」 「それだけ動揺していたら、誰でもわかります」 「いや、けどさ、経験が多すぎてすぐには答えられないくらいたくさん……」  言い終わるより早く、ミコトちゃんの容赦ない一言。 「キョータさんにそんな甲斐性はありません」  ぐさっ。 「だ、断言するなよ……」 「事実ですから」 「…………」  けっこう凹む。 「そ、そういうミコトちゃんはどうだったんだよ!」  つい、そう言い返してしまう。 「……私は」  言葉が途切...
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