研究所ではどんな実験を行っていた?(概要編)

まずは、考察するための材料として序盤にでてくる日記のようなものをみてみよう↓
読むのが面倒な方は「ここでストップ」までスクロール。

「4日目、new word」より
【December/14】【シンクロトロン棟、実験準備室にて】
そう――『言葉』を手に入れた時からだ。
人は、自分が見ている世界と、他人が見ている世界が同じであり、
世界がたったひとつしかないことに気づいてしまった。
自分が全能だったはずの世界は、実は、より大きな世界の一部でしかなく、
その大きな世界を、さらにその上から全能の視点で観る存在を仮想した。
『言葉(ロゴス)』
観測者は常に言葉と共に在った――。
『観測者(かみ)』
だから私は観測者を創ってみようと思う。
ほんの気まぐれな思いつきで、鼻唄混じりに創造してやろう。
神話や聖書の神がそうしたように……。

「8日目、サブシナリオ2」より
【December/18】【シンクロトロン棟、実験準備室にて】
全てはこの実験のため周到に用意された。
これは対外的には、超対称性粒子の発見を目的とする、
ごく一般的な実験と告知されている。
だが、私にとっては別だ。
私以外の誰にも、この実験の真の目的は理解できない。
余剰次元についての私の仮説は、怪しげな予言の類いだ――と、
長く蔑まれ続けてきた。
ならば実証してみせよう。
この地、この時ならば、それができる。
要石市と呼ばれるこの地域でのみ観られる、局所的な地磁気・重力異常――。
流星群の飛来による大量の隕石落下――。
それに伴って降り注ぐ、荷素粒子のシャワー。
これら全てが同時に起こるあの日であれば、『それ』は起こる。
なぜなら、世界は重なり合い、折り畳まれているからだ。
流れ星が夜空を彩っただけの平穏な世界と、
何かが狂って破局が訪れた世界は……。
互いが互いを観測できないほど、完全に重なり合って存在している。
私の実験は、その重なりをほんの少しだけ『ずらす』のだ。
『それ』に必要な質量が足りないというなら、余剰次元から借りてくればいい。
ほんの100億トン程度でいいのだ。
私の撃ち出す素粒子が、シュバルツシルト半径を突き抜けるにはそれだけあれば充分だ。
私は『それ』を作り出すことができる。
観測者の万物の原料――。
この世界の特異点を――。


次に、電卓が見た未来の電卓を元に再構成した日記を見てみよう↓

琴子ルート「父の観た世界」より
【DECEMBER 29】【シンクロトロン棟、実験準備室にて】
かつてキルケニーの哲学者は言った。
『存在することは知覚されることである』――と。
世界はそこにあるだけでは無意味なものだ。
誰も観ていない森の中の木と同じだ。
観測者が知覚することによって、それは初めて意味を持つ。
またヘブライの預言者はこうも言った。
『この言は太初に神とともに在り、萬の物これに由りて成り、
成りたる物に一つとして之によらで成りたるはなし』
すなわち、神が意味を与えることで世界は生まれた――と。
そのような者であれば、確かに世界を創れるだろう。
その世界で生まれた者は、共に同じ世界を観るだろう。
我々は誰もが同じ世界を観ている。
それと同時に、自分にしか見えない世界を観ている。
この重ね合わせの状態こそが『世界』の本質である。

【DECEMBER 29】【自宅、書庫にて】
私は『観測者の無知』についてよく考える。
我々は認識という手段だけでは世界に干渉できない。
微視系の事象ならともかく、巨視系の事象については手も足もでない。
いくら『消えろ』と願っても、月は消えてなくならない。
それはなぜか?我々が世界の内側にいるからだ。
我々はサイコロの軌道を知ることなどできないのだ。
我々はただ、サイコロの出目――起こった結果を観て、
それが『現実の世界』と認識する他はない。
そう、観測者として無知なのだ。
我々の肉体、目や耳や感覚器官は精度が低い。
だから、この程度の現実を『世界』として観てしまう。
だが、もし我々が、世界の外側にいる観測者(かみ)と等しい英知を手に入れたとしたら。
サイコロの軌道を知り――世界の仕組みを知り、それを支配できたらどうだろう?
テレビ局の編集マンが、自在に映像を加工して放送するように、
自ら望む世界を、観ることができるのではないか?

【DECEMBER 29】【自宅、娘の部屋にて】
妄想にも等しい考え方だった。
今でこそ、そう思えるが、若き日の私はそんな考えに取りつかれ……。
それまでの全てを投げ打って、研究の道へ突き進んだ。
だが、私はどうしても『意識』を創りだせなかった。
人の手で、人を超える観測者を創りだすことはできなかったのだ。
私に創れたのは、人間そっくりの振る舞いをするだけの、ただの計算機だった。
チューリングテストを欺くだけの、出来の悪いゾンビだった。
私が欲しかったのは、本物の『意識』を持った電子の脳だ。
そして、その『意識』が世界に意味を与えることで、
この『世界』が変わる瞬間が見たかった。
だが、その研究は完全に行き詰まり、時間は容赦無く過ぎ去った。
やがて、私が最も恐れていた時が来てしまった。
娘は治ることのない病に犯されていた。
サイコロは、私が娘を失う世界を選んだ。
私はそのちっぽけな『現実』を観てしまったのだ……。

【DECEMBER 29】【シンクロトロン棟、実験準備室にて】
私は認めない。
我々は選べるはずだ。
私が『世界』に属しているのではない、『世界を観る私』が存在しているのだ。
私は……何も失うことがない世界を望む。
永遠と言い換えてもいい。
そのために創り出した私の人工意識(ハイブリッド)たち……。
無機物としての『意味』を与えた『結衣』。
有機物としての『意味』を与えた『式子』。
量子的存在としての『琴子』。
そして――。
観測者の『樹』。
ここにインターフェースの役割を持つ、
私のアバターを加えた仮想の家族を電子世界に現出しよう。
もちろんこれは、ただのシミュレーションだ。
ここにいる彼らは本物の『意識』を持ったわけではない。
だが、今から数時間後に行われる実験が成功すれば……。
私の撃ち出す素粒子が、余剰次元を巻き込む『歪み』を励起し、
特異点を発生させ得たなら……。
全ての可能性が重なり合う場所に『ずれ』が起こる。
重ね合わせ同士の重力的なエネルギーが増大すると、
宇宙は重ね合わせを保持できなくなるからだ。
その時、私は新たな可能性を観るだろう。
私の人工意識達は、私を望むべき世界へ導いてくれるだろう。
彼らの存在の『意味』が、世界を確定させるのだ。
あと28時間――。
平成23年、1月1日午前0時――。
私は『世界』を手に入れる。


琴子ルート「Quale」より
【DECEMBER 31】【シンクロトロン棟、実験準備室にて】
昨夜はちょっとした珍事があったようだ。
研究施設内に外部の者が一人紛れ込んだ。
テレビ局のカメラマンだという。----

その男は何もない空間からいきなり現れ、
職員としばし会話を交わした後、再び消えたそうだ。
非常に興味深い。何よりも、これは吉兆だ。
私の実験が成功し、時空間に『ずれ』を生じさせることが、これで確定的となった。
特異点が発生した場合、3機の電磁場共鳴装置に囲まれた空間の
デコヒーレンス長は、客観時間にしておよそ20日前後。
だが、消えた男の証言によると、彼は現在を1999年だと思っていたそうだ。
11年もの過去に、現在の量子状態が影響を与えたとは驚きだ。
これはおそらく、エネルギー散逸の過程が、
時空間に対しある種のベクトルを持ったせいではないか?
原因は不明だが、その方向は過去だ。
世界の『歪み』は、まず過去の空間に現れると見ていいだろう。
この事実は私の遠い日の記憶を刺激する。
かつてハレー彗星と共に観た、未来のビジョン――あれもまた、
『歪み』の結果として起こった現象なのだろうか?
それとも、予想もつかない別の因子が……?


【DECEMBER 31】【中央制御棟、コントロール室にて】
量子的なミーティングが終了した。
全てのコンポーネントは、既に運転準備状態になっている。
後は手順通りに実験を開始させればいい。
複雑なプログラムは全て自動化され、私が行う作業は、
プログラムから加速許可要請を承認するだけだ。
メイン・ディスプレイに、入射インターロックモードが
セットされたことを示す光点が表示された。
いよいよこの時が来たのだ。
プログラムは次のプロセスへ移行した。


【DECEMBER 31】【中央制御棟、コントロール室にて】
メイントリガーのスイッチがオフになった。
陽子ビームの射出が完了したのだ。
続けてプログラムは加速許可を求めてきた。
私はそれにゴーサインを出した。
蓄積リングに向かって、膨大な電力が集中する轟音が、
低周波となって腹に響いてくる。
ユーザー運転の開始まで、あと僅か数分だった。


【DECEMBER 31】【中央制御棟、コントロール室にて】
ビームサイズ調整完了……。
全てのプログラムは滞りなく実行された。
では、始めよう。
ほんの気まぐれな思いつきで、鼻歌混じりに創造しよう。
神話や聖書の神がそうしたように……。
私の『世界』を創ってやろうじゃないか。
私はコントロール室に居並ぶスタッフに向かって、静かに『言葉』を告げた。
「加速器、ユーザー運転を開始する」


ここでストップ

前置きが長くなってしまったが、ここからが本題。
「この実験はどのような内容なのか?」という問題について。
自分で考えたい!という方は↑を考える材料に、編集者としての考察は↓に書きます。
編集者は文章力が無いので、↓を読む際はその点を考慮に入れてください。
また、「これは間違ってるだろ」と思ったらどんどん指摘してください。


考察

この実験は、『世界』の『観測者』=『神』を創るための実験。
12月18日の日記では、観測者の万物の原料は特異点であるとしている。
ではその特異点というものはどうやって創ればいいのだろうか?
簡単に言っちゃうと「ブラックホールを創りましょう」ということ。
重力の特異点は時空に於けるものとして、ブラックホールの内部に存在する。
これを創ることができれば、『観測者』が誕生するのだ。
すると今度は、ブラックホールどうやって創るの?となる。
長くなってしまうので、詳しいことは「方法編」で語らせてもらう。

この特異点(ブラックホール)の発生により、時空は歪んでしまう。
現に11年前消えたカメラマンが現れたのも、時空が歪んでしまった結果。
12月31日には、そのカメラマンの登場により実験が成功したと確信している。

そして、1月1日午前0時、世界は『確定』する。

次に、世界が『確定』するというのはどういうことなのだろうか?
シュレーディンガーの猫を例にあげて説明してみようと思う。
何それ?という方はシュレディンガーの猫へ。
箱に入った猫は「生きた状態」と「死んだ状態」が共存している。
箱の中を見ていない者にとっては、「生きてるけど死んでる」ということになる。
猫がどうなっているのか知るためには、箱を開けて結果を見なければならない。
この場合、結果を見た『あなた』が『観測者』になる。
この瞬間「生」と「死」の共存から、「生」または「死」のどちらかに決定するのだ。

量子力学的には、確率でありえる事はすべて重なっていると解釈する。
つまり、『観測者』に観測されるまで、ありえることはあるのである。
家族と過ごした樹もいれば、一人で過ごした樹もいる。
ただ、世界は完全に重なり合っているためにお互いを確認することはできない。
どの樹が真に存在するかは、世界という箱の中を確認しなければならないのである。

世界を決定付けるためには、世界の外にいる者がいなければならない。
世界の『観測者』だけが、世界の曖昧な状態をはっきりさせることができるのだ。

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最終更新:2011年03月15日 23:53