- ユーザー名
- 質問のタイトル
岡本太郎についての本
- 質問の内容
万博中盛況ですが、万博といえば太陽の塔、太陽の塔といえば岡本太郎。何か岡本太郎の本で面白そうな本を教えてください。 「強く生きる言葉」みたいなのじゃなくて。
- 質問のジャンル
美術・文化
- おすすめする本(タイトル/著者/出版社)
美の呪力/岡本太郎/新潮文庫
- 書評
本書は岡本太郎が「芸術新潮」に連載した「わが世界美術史」を改稿し集めたものである。岡本太郎は近年でこそ再評価の動き著しいが、ほんの10数年前までは日本美術界においては異端視あるいは黙殺されており、彼の著作を読むことすらままならない状況であったと聞く。
一般に膾炙されたイメージすなわち「芸術は爆発だ、のおじさん」「キャラ濃いウケる人」という像とは違い、彼本来の姿は、本筋の近代西欧美術史に実際に自己を投入し、それに日本人としてどう向き合うか深く苦悩し、そして挫折した、そんな一人の人間であった。 しかし彼は常に前を向き、いま、この場所の、現実と真摯に向き合い、常にポジティブに生き抜いた。
そんな岡本太郎が、世のいわゆる「芸術的価値」からある程度自由な視点に立って、世界各地の「芸術」に関わり、批評し、並べ挙げた。その発露がこの「美の呪力」である。 本書で彼は、ゴッホや中世西欧の宗教画など本来の「美術史」でも扱われているものから、マンダラ、仮面、祭りやあやとりなど従来取り上げられてこなかったものまでを、彼自身の感性で選び抜き、並置する。
もちろん「西欧美術史」からまったく自由な「芸術」はおそらくありえない。 なぜならば「美術」とは西欧の歴史の中で形作られたひとつのジャンルにすぎない、という一面を持つからである。 正当な西欧美術史に自ら参画し、そこで青春時代を送った太郎であれば、なおさらこのことを強く意識していたであろう。
自由に、真っ当にその感性で「芸術」を作り上げていくという情熱と、西欧文化の下に育まれた「美術」の圧倒性という冷徹な認識。
この二つの狭間で引き裂かれながら、しかし強くポジティブに「芸術」を叫ぶ彼の姿はまさに彼の唱えた「対極主義」の天地であり、そしてその絶え間ない葛藤と矛盾から生まれた「呪術」という概念の強さ、清らかさ、まがまがしさ。
岡本太郎。 10代の終わりに、当時の文化爛熟したパリへ行き、ソルボンヌ大でモースに師事し、バタイユらと親交を深めるなど、日本のどんな知識人よりも正統な「文化」に自らの身を置きながら、極東の島国である祖国に向き合い、そして異端視されつづけた、一人の芸術家。
日本のサブカルチャー文化が世界的に注目され、されにそのねじれに意識的な若き芸術家たちが世界で高評価を獲得していく現在、岡本太郎という近代日本の矛盾を冷徹に認識し、そして情熱的に活動した一人の人間の軌跡はますます注目されるであろう。 本書は、そんなかれの数多くの著作の中でも是非一読をお勧めしたい、呪術と芸術の聖典である。
先月逝去された岡本敏子さんに最大の尊敬と親しみを込めて。もう一度お話ししたかった。