第一章 エピローグ
ある日帰宅しログインすると俺は愕然とした・・・
運営によりアスガルドのサービス終了の告知が発表されていた。
残された時間は一カ月。いつかはこの時が来るだろうと覚悟していたつもりだった。
だが、いざそれに直面するとなんとも言えないような気持ちになるものだった。
その日は全員、狩りに行こうと言い出す人もいなければクエストをやる人もいなかった。
ただただアジトで適当に駄弁り、だれもサービス終了の文字を発することはなかった。
皆口にすると焦燥感や虚無感が襲いかかってくることを悟っていたようだ。
いつもはほっしゅやほしゅがるどで埋まるスレも雑談や冗談で埋まっている。
残された最後の一カ月を全力で楽しもうというギルドメンバーのそれは俺を余計に空しくさせた。
一か月と言ってもまだまだ時間はたっぷりある
最後の一週間になるまでは今まで通り狩りやクエストに没頭した
VIPで集められたといっても俺たちの絆は確実に結ばれていた
のこり一週間を切った日に重い口を開いた者がいた
「とうとう残り一週間だ、寂しくなるけど本当に楽しい時間が過ごせたよ、ありがとう」
誰もが口にしなかった別れの言の葉を
終わりの再認識を
虚無感へのスタートテープを切ってしまった
皆が皆、塞き止めていた何かが崩壊したかのように寂しさや哀しさを吐き出した
皆が語る思い出は、もう二度と再現のきかないものだ
家庭用ゲーム機のゲームじゃない、携帯用ゲームでもない
ネトゲのサービス終了というものは全てが無に帰る
長い人生の中で二度とプレイできない、何物にも代えがたいものなんだ
「わざわざサービス終了を待つ必要はない。今日でクリアする。じゃあな」
そう言ってクリアして行く人を引き留める手段ももう持ちあわせていない
俺はただただ元気でな。と言って見送ることしかできなかった
これだけ長い時間を一緒に過ごしたんだ
くだらないダジャレで盛り上がったりもした
全壊PTも経験したし誰かの欲しい
アイテムをみんなで取りに行ったりもした
なんでそんなに簡単に離れてゆけるのだ?
俺には理解できなかった
日に日にギルドリストに光る文字が少なくなっていく
それに気が付いてしまう度に胸のどこかがズキズキと痛んだ
賑わっていたアジトには5,6人の姿
市場に店を出している人間は2人
F2の最終書き込みは2週間前だ
最後の時間を意識して生活しいよいよ最後の日がやってくることとなる
日本時間のAM0:00に切り替わった瞬間、すべてのサーバーが落ちるとの事らしい
最終日、俺は仕事を休むことにした
朝起きてログインすると残りのメンバーも仕事を休んだのか
アジトで雑談をしていた
俺もその雑談にまじろう!と思いキーボードに手を載せる
その刹那、急激な腹痛に襲われた
おそらく寝る前に食べたヨーグルトのせいだろう・・・
お腹が痛くなる原因は、牛乳に含まれる「乳糖」と言うたんぱく質だ
わたし達が食べた物は、体内で消化・吸収される
吸収とは、食べた物の栄養素を体中に取り込む事で、消化とは、食べた物を化学的に分解し、吸収しやすくする事だ
そして食べた物を消化するにあたり活躍するのが、消化酵素と呼ばれる物質で
先ほどの乳糖の分解を担当するのは、ラクターゼと呼ばれる消化酵素だ
ラクターゼは小腸の中で、乳糖を2つ(ぶどう糖とガラクトース)に分解する
小腸は、ぶどう糖とガラクトースなら吸収できるのですが、乳糖のままでは吸収不可能なのだ
そのため、分解されなかった乳糖は、吸収されずに大腸へ流れていってしまうんだ
ここからが、腹痛の本番。
大腸に流れ込んだ乳糖は、大腸内の細菌によって、様々な酸やガスに分解さる
このガスが大腸内に充満すると、お腹が張ったり、ガスが腸内を移動する事で音が出たりし、
酸は大腸の壁を刺激する事で、腹痛を引き起こす
また、分解されなかった乳糖は、大腸が食べ物から水分を吸収するのを妨害するんだ
水分が吸収されなかった食べ物は、そのまま水っぽい便となってしまう
以上をまとめると、牛乳で腹痛になる原因は、
「牛乳に含まれる乳糖が分解されず大腸に行く事で、酸に変化し、大腸を刺激するから」
下痢になる原因は「大腸内でも分解されなかった乳糖が、水分を吸収するのを妨害するから」となる
ところで、「小さい頃は平気だった」と言う人も大勢いるし、事実、赤ん坊の頃は母乳で育つ
では、何故成長につれて牛乳に弱くなるのか?
乳糖を分解する消化酵素は、ラクターゼ。
そのラクターゼは、人間の成長とともにその数を減らし、14~15歳で、0歳の時の約10%にまで減り、
成人になると限りなく少なくなってしまう。
そのため、成長とともに牛乳に弱くなってしまうという理屈だ
実を言うと、全世界の約8割の人が、牛乳に弱い体質(乳糖不耐症)を持っている。
ただ、その症状に個人差があるため、牛乳が原因だとはっきりわかる人は少ないのだ。
何故ラクターゼの数が成長とともに少なくなるのかは、はっきりしたことはわかっていないが、
一説には、「離乳しやすいから」と言われている。
乳糖は、牛だけでなく、人間を含む全哺乳類の母乳に含まれている
ラクターゼが少なければ、乳糖を含む母乳を飲んだ後、腹痛を覚える
それを繰り返すうち、赤ん坊(その頃には、赤ん坊とは言えないが…)は自然と離乳する
だから、ラクターゼが少なくなるのではないか…と考えられているのが結論だ
それでも牛乳を飲みたい方は、「乳糖分解牛乳」などと書かれた牛乳をお飲みください
そんな事を考えていると腹痛はピークに達し
俺は床の上でのたうちまわった
這う力も無く、立つこともできず、トイレにもいけない
俺が糞尿まみれになるのは当然の結果だった
仲間と過ごす最後の一日、俺はトイレに行く時間すらも惜しくてアスガルドをした
糞尿まみれ?それがなんだ
俺は「今」俺の守りたいものを守る、信念を貫き通すんだ
寂しさの中でもやはり空腹は妨げられない
俺は糞尿を食ってやった
それだけ大切な絆がそこには存在するから・・・
トイレも食事も、全てを差し置いて仲間と全力で笑い転げた
糞尿まみれだっていいじゃないか
のどの渇きを尿でしのいでもいいじゃないか
俺はギルドメンバーにその状況を正直に話した
考えることは皆同じだった。皆食事も排便もすべてを投げ出してアスガルドをしていたんだ
はっはっはと笑いあい
糞尿まみれの俺達は最後の時間を迎えた
みんなでカウントダウンをした
そして――――
――――――10年後――――――――
チュンチュン、チュンチュンチュン
嫁「あなたー御飯よー」
俺は眠い目を擦り食卓に付く
適当に朝食を済ませて、5年前に立ち上げた会社の事務所へ出社する
A「社長、おはようございます」
俺「おう、おはよう。そういえば、今日だったよな」
A「はい、順調にテストサーバーを公開できました!」
俺「よくやった。俺たちの開発したアサッテガルドは10年前のゲームを
モチーフに作っている。レトロゲームとしてのヒットを狙うんだぞ」
A「はい!がんばって人口を集めましょうね!」
俺はすがすがしい気分だった。
事務所のパソコンを立ち上げVIPを開く
そして俺は1つのスレを立てた
「VIPでアサッテガルドinテストサーバー」
俺の名前ははジョウノウチ君、うんこだいすき、ばななうんちパクパクモグモグ
――――――20年後――――――――
俺「A,とうとう俺たちのアサッテガルドもゲーム人口20億人突破したな」
A「うんこ」
俺「ブリブリニュキュル、ビチビッチブチチブリン」
A「もぐもぐ」
俺「おいしいうんちおいしい!!!!!」
fin
最終更新:2014年12月22日 04:36