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夢想歌 - (2009/02/18 (水) 00:03:08) のソース
*夢想歌 ◆w2G/OW/em6 ---- 「はぁ……はぁ……」 恐ろしい形相の男から逃げ出して、見知らぬ誰かの幻想に脅え。 そんなハクが立ち止まったのは、深そうな河に架けられた石造りの橋のそばだった。 「ひゃ……っ?」 いや……正確には立ち止まったのではなく、前方不注意により盛大に転倒したのだが。 転んだ拍子に抱えていたデイパックを放り出してしまい、緩やかな傾斜を成す土手に中身がぶちまけられる。 しばらく転んだ体制のまま地面にうずくまっていた彼女だが、のそりと体を起こし辺りに散らばった物を拾い集める。 ネギやハーゲンダッツはデイパックから飛び出してはいなかった。酒瓶も塩の小瓶も割れてはいない。 シャーペンを拾った後で、名簿をぱらりと開く。 書いてあるのは「最初の放送時に、自動的に名前が浮かび上がります」という一文だけ。後はまっさらな白紙。 優しい緑の少女、元気な黄色の双子、どこか頼りにならない青い青年、赤い大酒飲み、口喧しい放火少女。 はたして、彼女達はここにいるのだろうか……いや、彼女達の様な人気者をむざむざ殺すのはきっと惜しいに違いない。 恐らくここにいる可能性は低いだろう。そして彼女達の代わりとして、亜種のボーカロイドである自分が選ばれたのだろう。 代役として選ばれたと思えば、少しはマシな気持ちになった。 名簿を閉じて仕舞うと、次に地図を開いた。 さっきいたデパートの場所はF-3、舞台の右端中央の辺りだ。 その近くで川に掛けられている橋は二つ、E-2かF-4のどちらか。 自分がどの方角に走って来たかはいまいち見当がつかない……早々に、迷子になってしまったのだろうか? ―――それもおかしな話だ。元からどこに行けばいいのか分からないし、道なんか最初からなかったのだから。 まあどちらの橋の近くにいるとしても、しばらく動く事は無理だろう。 準備運動もなしに全力失踪したツケで節々がガタガタだ、やっぱりもう若くないんだろうか。 という事で、ここでしばらく休息を取ることにする……幸い近くに誰かがいる感じは無い。 アーチ状になった橋の下はかろうじて人が入れそうなスペースがあり、誰かが来てもそこに居れば気付かれなさそうだ。 潜り込んでみると川の冷たさと夜風で少し肌寒かったが、耐えれない程の冷たさでは無い。 どうせなら、事態が好転するまでここに引き籠っているのもいいかもしれない。 そう、このまま、誰にも何にも関わらず、ここで静かに、密かに、ずっと――― 『――――』 「………え?」 不意に聞こえた、何かの音。 いや音じゃない……確かにあれは『声』だった。 (どこ?誰?……誰なの!?) 傍らに置いてあったデイパックを掴み、キョロキョロと辺りを見回す。 人影は無い、隠れる事が出来そうな場所など無いはずなのに!? (逃げなきゃ……悪い人だったら殺されちゃうかもしれない。もしそうでなくても、私―――!) こんな情けない自分に手を差し延べてくれる人だったとしても、自分といたら迷惑がかかってしまう。 私なんかが誰かに何かを求めても、助けを求めても、どうせ――― 『ア~……アア~……ア~……』 確かに聞こえる男の声……いや、違う。 ツマンネツマンネと蔑まれているとしても、自分とてボーカロイドのはしくれだ。 だから分かる、これは『歌』だ。 (こんな所で歌っているなんて……同じボーカロイドの誰か?でも、KAITOさんじゃないし……レン君はこんな声出せないはず……) デイパックごと体をぎゅっと抱きしめるように体を縮め、辺りをゆっくり見回す。 体が疲労と見えない誰かへの恐怖で細かく震える。 右、誰もいない。 左、誰もいない。 上、石橋が見えるだけ。 川の中、暗くてよく見えないが誰かがいる様には見えない。 何だ、自分の心配のしすぎじゃないか。 この声もきっと幻聴……とうとうそんなものが聞こえるまで追い詰められていたのか? 深く溜息を付く。 ―――そうして下を向くと、デイパックから小さいおっさんが覗いていた。 「○×△□◎☆ーーー!?!?」 疲れと節々の痛みはどこへやら。即座に体が反応し、デイパックを放り出す。 ぽーんと放り投げられぼとりと地面に落ちる。そして中から這い出て来るおっさん。 ………サイズは20cmほどだろうか?平凡なスーツに平凡な髪型。ごく普通のサラリーマンをそのまま縮めたような感じだ。 這い出てきたその小さいおっさんは、ゆっくり立ち上がるとこちらを真っ直ぐ見据える。 「……ひっ」 まったく想像のつかない謎の生物に、どきりと心臓が跳ねる。 もしかしたら、主催者が仕込んだ罠かもしれない。支給品に紛れてこっそりと参加者に近づき、闇に紛れて人を間引いて行く。そんな存在。 ほら、こちらを見てゆっくりと一礼をして………え、一礼? 『テレレレー♪テテレレ♪テテレレーテレレ♪』 どこからともなく聞こえてくる、ピアノのBGM。 ゆったりとしたリズムの音楽。 『もしも~♪ピアノが~弾けたなら~♪』 突然、ガバッと地面にしゃがみ込んだおっさん。 そのままゆらゆらと前後に揺れ始める。 『想いのすべてを歌にして~♪キミに伝えることだろう~♪』 BGMの曲がどこからか流れる中、ゆらゆら揺れるおっさん。 全体から何とも言えない雰囲気が滲み出ている。 『だけど~♪ボクにはピアノがない~♪』 ガバッと突然起き上がるおっさん。 ピアノを引くマネをし、器用に爪先立ちをしながら腕をバッテンに交差する。 『キミに~♪きかせるウデもない~♪』 形容しがたいポーズを取り、こちらを指さす。 その後、再び爪先立ちでバッテン。 『心はいつでも、はん~びらき~♪』 器用に上着とシャツだけを肩から脱ぐ。即席の半裸だ。 後ろを向いて、小石を蹴るふりをする。 『伝えるコトバが、のこされる~♪』 再び謎のポーズでこちらを指さし、半裸で小石を蹴る。 何故だろうか、あまりにも不思議すぎるこの一連の動きから目を離せない。 『ア~ア~♪ア~ア~♪』 この旋律は、自分が最初に聞いたフレーズだ。 しかしこの体勢はどう説明すればいいのだろう……S字開脚、とでも呼ぼうか。 『ア~♪のこされる~♪』 S字開脚を数回繰り返した後、その体勢のまま停止する。 背後に流れていたBGMがゆっくりとフェードアウトし――― 辺りは再び静寂に包まれた。 ―――ぱち、ぱちぱち 直ぐにその静寂は、ハクの小さな拍手により消えた。 正直、それくらいしか彼女が出来る反応がなかったのだ。 だってそうじゃないか。殺し合いになんて巻き込まれている時点で平静を保てるはずはない。 その上、「デパートで危険人物とニアミス」→「姿なき人物の声」→「逃げ切ったと思ったら再び声」→「謎の小さいおっさん登場」である。 恐怖だとか混乱だとかそんなもんじゃない、落ち着いて考える事も出来やしない。ずっと彼女のターンが来ていない。 ……それに、なかなか面白い踊りだったことは事実だ。 ふと、足元に紙切れが落ちている事に気付く。 拾って読んでみる―――内容は、こうだ。 ・振付マスター 聞いた歌や音楽に振り付けをつけ、踊ります。 最初は数曲しか踊りの振り付けを知りませんが、曲を聴かせれば多くの振り付けを編み出す可能性があります。 なお、最初に踊れる曲を踊る場合、自動的にBGMが流れるので注意して下さい。 ※振り付けを覚えやすい曲には、個別差があります。 ※参加者から一定距離以上は離れません。参加者間での受け渡しは可能です。 ……どうやら彼は本当に『支給品』と呼ぶべき存在であるらしい。 説明の内容から察するに、歌うための存在・ボーカロイドと同じような物―――踊るための存在なのだろうか? 財布、シャーペン、そして彼。自分の支給品はまさにハズレだらけであったらしい。 (『最初は数曲しか踊りの振り付けを知りませんが』……つまり、まだ踊れる曲がいくつかあるってことかなぁ) 踊り終えた途端、直立不動の体勢に戻ってしまった彼を眺める。 「あの……貴方、まだ何か踊れr」 『~~♪~~~♪』 「!?」 踊れるのかと聞こうとした途端、再びどこからかBGMが流れ始めた。 まるで『早く踊りたい』と言わんばかりの早急さだ。 『そこにいけば~♪どんな夢も~♪』 奇妙な、それでいて妙にクセになる踊りを踊り始める。 踊っている表情は無表情な様に見えて……どこか、楽しそうで。 (………いいな) 自分も、こんな風に楽しそうに歌えたら。 誰かに認められずとも、自分がここにいると、胸を張って主張できたら。 『イン、ガンダーラ♪ガンダーラー♪』 「……がんだーら~」 小さく、聞こえないように呟く。 さらさらと流れる川の音と謎めいたBGMの中、肌寒い石橋の下で。 ハクは座り込んで、目の前の不思議な踊りをただ、眺めていた。 【E-2 橋の下/一日目・黎明】 【弱音ハク@VOCALOID(亜種)】 [状態]疲労(中)、混乱、絶望、弱音吐く [装備]福沢玲子のシャーペン@学校であった怖い話 [所持品]基本支給品、九条ネギ@現実、ハーゲンダッツ(ミニカップ)@現実、伯方の塩(瓶)@現実 魔王(芋焼酎)@現実、振付マスター@完全振り付けマスター 【思考・状況】 基本:誰とも会いたくない。だから、誰とも会わない場所(MAPの隅)に篭って、事が収まるまで待つ。 0.しばらく橋の下で休む 1.誰かに出会ったら一目散に逃げる。 2.他のボーカロイド勢(特にミク)については考えたくない(この場にいる可能性は低いと思っている) 3.財布どうしよう……? 4.酒場がちょっと気になる 5.(歌いたい) 【備考】 ※設定はマスターでなく、ボーカロイドとしての彼女です。 ※衣装にあるスピーカー等の装備は飾りに変えられています。 ※南北どちらか、もしくは酒場に向かうかは次の書き手さんにお任せします。 ※2525円が入った財布(ニコニコ印)はデパートB1階レジに放置されています。 ※バルバトス(名前は知らない)を危険人物と認識しました。 ※思考5はほとんど無自覚です。 ※辺りにBGMが響いています。橋に近づけば聞こえる可能性があります。 【振付マスター@完全振り付けマスター】 天久聖一・タナカカツキの「バカドリル」に収録された「完全振付マスター」を元ネタにした動画、 「完全振り付けマスター派生リンク」で踊っているスーツのおっさん。サイズは20cmほどに縮小。 その踊りはどう考えても踊りようがなかったり、最悪踊ってすらいないようなシュールなものばかりで、その斬新さが笑いを誘う。 なお、「完全振り付けマスター派生リンク」の踊り以外にも別のニコ動内の踊りを踊ることもある。 音楽を聴かせる事で、新たな振り付けを編み出して踊る……かもしれない。 参加者の声や問いかけには反応するが、基本的に喋らない。自分から行動、意志表示も最低限。 登場話での踊り:完全振付マスター「もしもピアノが弾けたなら」 ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm2175149 |sm54:[[YANDER×YANDER]]|[[時系列順>第一回放送までの本編SS]]|sm57:[[時の邪神は何見て騙す?]]| |sm55:[[包帯男雪原を行く]]|[[投下順>51~100]]|sm57:[[時の邪神は何見て騙す?]]| |sm19:[[無知・無名]]|弱音ハク|sm:[[]]| ----