魔王、邂逅。 - (2012/05/17 (木) 21:22:18) の最新版との変更点
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夢もなく、希望も失せ情けすらも消えかかってるこの世紀末において
(殺し合いだなんて……)
天使のように純粋で済み切った心を持つ少女がいた…
(どうしよう……怖いなぁ……)
彼女の名は
(どうか最初に出会う人が、怖い人じゃありませんように……)
風見幽香と言った。
★ ☆ ★
「よくわかんないけどー」
アイドルグループ魔王エンジェルがリーダー、東豪寺麗華。
地獄の業火のような赤い長髪に悪魔の翼を持つ魔王であり、
自らが経営する東豪寺プロに所属するアイドルである。
彼女は森の中を飛んでいた。
「調子に乗ってんじゃねーの!?」
こんな場所に自分を拉致って殺し合いをしろ?
しかも首輪を嵌めて強制だぁ?
ふざけてんじゃねーの!?
あのむかつく主催者の野郎はブチ殺し確定として、これからどうするか。
とりあえずここに連れてこられたらしい参加者共を皆殺しにすれば、また主催者のところに行けるのか?
皆殺しなんて簡単にできるけど、面倒ね。
だけど協力を持ちかけるにしても、
知り合いならともかく初対面の相手なんて信用できるもんじゃないし……。
「あーっ、やっぱ皆殺しにしなきゃいけないわけ? めんどくさいなー」
もっと簡単に主催者をブチ殺す方法でもあれば良いんだけど……だめだ思い付かないわ。
一応強そうな奴には声かけとくか?
裏切られても負ける気はないし。
利用するだけ利用して最後にブッ殺すのが一番楽そう……。
「あ?」
少し先に人影が見えた。
植物のような緑色の髪をした女だ。
魔力や闘気の類は感じない。
それに自分の存在に気付いていないところを見るに、ただの人間か何かだろう。
(うっわ弱そうじゃん。仲間にしても足手まといになるだけだな。殺して支給品だけ貰っとくか)
そう思いながら幽香に近付いて行く麗華。
気配を消す必要もない相手なので、隠れることなく堂々と麗華は進む。
森の中を進む麗華によって草木ががさごそと音を立てた。
その音に気付いて幽香が振り向いたが、もう遅い。
麗華が振り上げた手を打ち降ろすだけで、幽香の命は刈り取られ──
「──んなっ!?」
振り向いた幽香の顔を見た瞬間、雷に打たれたような衝撃が麗華の体を駆け抜けた。
瞬時に幽香との距離を取る麗華。
どうして気付かなかった?
なんでこんなやつがこんなところにいる!?
麗華の頬を冷や汗が伝う。
普通の人間と思い近付いたが、あれが──あんな顔が人間のものであるものか!
殺気と凶気の塊のような顔をした悪魔、いや魔王、
違うそんな枠に嵌まらない何かとんでもないがそこに居たのだ。
やつの瞳には殺意がみなぎっていた。
雑魚ならば一睨みするだけで簡単に命を奪うことが可能だろう。
距離を取らず、迂闊に攻撃を仕掛けていれば何をされていたか……・。
(くそっ! 何なんだこいつ!? そんなの決まってる!
こいつは究極加虐生物、USC(アルティメットサディスティッククリーチャー)だ!!)
(………悪魔?)
対する幽香も驚いていた。
後ろで何か物音がしたと思い振り返ると、美しい悪魔が宙に浮いていたのだ。
東方幻想郷で五面ボス・六面ボス、東方では自機、
稀翁玉と東方花映塚においては自機・対戦相手を勤めたことのある幽香であったが、
これほど綺麗な悪魔を見たのは初めてだった。
(なんだ? どういして動かない? 私の出方を見ているのか?)
麗華は全身の神経を最大まで張り詰めさせている。
一瞬でも気を抜けば殺られるのはこっちだ。
しかし、目の前のUSCは一向に動く気配がない。
それどころかなんの構えもしておらず、未だに無防備な状態だ。
暴風のような殺気だけはびんびん伝わってくるが、まさかこれは……・。
「舐めてんじゃねーの!?」
なんの構えもしていないということは、こちらがどんな攻撃をしようと軽く対処できるということの表れだ。
それだけの実力を持っているのだろうが、麗華とて魔王の一人である。
舐められるのは我慢ならなかった。
(あ、そうよね。私ったら初対面の人に名乗らずに……失礼なことをしてしまったわ)
一方幽香は舐めてるつもりなどさらさらなく、ただ少しの間麗華に見入っていただけだった。
だが麗華にそれがわかるはずもない。
殺らねば殺られる。
「その禍禍しい顔をフッ飛ばしてやる!!」
魔力を凝縮した球体を体の周囲に展開。その全てを幽香の上半身目掛けて一気に叩きつける。
「名乗るのが遅れてしまってごめんなさい。私、風見──」
轟音と共に幽香の周辺の土が爆音を上げた。
何やら呪文らしきものを唱えていたがもう遅い。
いくらUSCと言えど東豪寺麗華が放つ魔力球の直撃を受ければただでは済むまい。
そう思っていた麗華であったが、土煙が晴れた場所を見て驚愕した。
「あ!?」
そこには、傷一つなく悠然とたたずむ凶悪なUSCの姿があったからだ。
(ど、どういうことだ!? まさかあれだけの至近距離から放った私の攻撃をかわしたっていうのか!?
それも……あそこから一歩も動かずにだと!?)
(な、なにかしら? いきなり周りの土が爆発したわ。これはいったい……?)
確かに、麗華の攻撃を避けるのは、どれほどの実力者であろうとあの距離からでは不可能であった。
だが、それは攻撃を見てから回避行動に移った場合だ。
幽香は挨拶の礼儀として流れるような綺麗なお辞儀を、麗華が攻撃を始める前から行っていたのだ。
結果、幽香の上半身をフッ飛ばすために放たれた攻撃は、体を綺麗に曲げた幽香の上空を通り過ぎ、
周囲のキレイな地面をフッ飛ばすだけに終わったのだった。
(くそっ! こいつ思った以上の実力者だ! 殺し合いが始まったばっかで戦うような相手じゃねえ!!)
そう、これは殺し合い。
そして相手は自分と同じか、下手すればそれ以上の力を持つ凶敵だ。
負けるつもりはないが、勝てたとしてもかなり力を消耗してしまうだろう。
そうなっては他の参加者の格好の獲物だ。
魔王級の参加者は自分とこいつの二人だけと楽観するわけにもいかない。
となれば……。
「ちっ!」
「あっ!」
麗華は幽香からの逃走を開始した。
まさか魔王たる自分が戦術的撤退を行うとは思いもしなかった。
だが目の前のUSCに話し合いが通用するわけがない。
というか言葉が通じるかさえ怪しい。
力を温存するためには、撤退の他に道はないのである。
(ああ、どうしよう……。あの人、怒って行っちゃったわ。
爆発のせいでちゃんと謝ることもできなかった……このままじゃいけないわね。
それに、こんな危ない場所で一人にするわけにもいかないもの)
一方、幽香は逃げる麗華を見て彼女の身を案じていた。
殺し合いの場で一人で行動して危険人物と出会ったりしたら大変である。
その上まだちゃんと無礼を謝罪していない。
自分の不甲斐なさに、己に対する怒りが顔に表れる。
早く追いかけなければ。
「きぇええええええええええええ!! きぇえええええええええええええぇぇぇ!!(訳:待って! 一人じゃ危ないわ!)」
「くっ! やっぱ追ってき……ああ!!?」
自分を追ってくるのは想定内だったのだが、
奇声を発しながら追いかけてくるUSCの顔が……もう言葉で言い表せないくらい尋常じゃない表情に変わっていた。
攻撃を仕掛けたことで怒らせてしまったのだろう。
それになんだこの気迫は。
殺気がUSCから溢れ出し、体の周りを闇より深い漆黒となって渦巻いているように見えるではないか。
この現象に麗華は圧倒されていた。
こんな状態のやつに追いつかれたら、いったい何をされてしまうか……。
「負けるかぁあああああああああああああああああああああああ!!!」
「きえぇえええええええええええええええええええええええええ!!!(訳不能)」
飛ぶ速度を落とさず体を反転させ、迫りくるUSCを迎撃する体制に入る麗華。
魔王エンジェルを気迫だけで押してしまうという、前代未聞の敵を目の前にして、
麗華の意識はUSCにのみ集中してしまっていた。
「がっ!?」
反転し魔力球を作ろうとした瞬間、麗華は後頭部を木の幹にぶつけ、その場に落ちてしまう。
いつもなら、後ろを向きながら森の中を高速で飛ぼうとこんなことにはならない。
周囲の状況を把握し忘れるという初歩的なミスを歴戦の魔王に強いてしまう程、
USC風見幽香の放つ殺気が異常であったということだ。
……まあ、それは幽香を見る者が感じる錯覚、つまりは気のせいなのだが、
それだけ風見幽香の顔が尋常でなく恐ろしいのだ。
しかも奇声発してるし。
と、そんなことより。
麗華が落ちるのを見た幽香は急いで駆け付ける。
そして麗華を優しく抱き起こした。
「きぇええええええ!! きえぇえええええええ!!(大丈夫!? しっかりして!!)」
頭を強く打ち気を失ってはいるが、命に別条はないらしい。
幽香が体をゆすってしばらくすると、麗華が目を覚ます。
(う……ん?)
戦闘中に気を失うなどという、いつもならやるはずのないドジを踏んでしまった。
これは冷静さを欠いてしまう程相手の力が強大だったということだ。
早く、戦闘態勢に戻らなければ……。
だがしかし、開いた麗華の目に一番最初に飛び込んできたのは、
殺意をぎらつかせたUSCの凶気に満ち溢れた顔だった。
(ああああああああああああああああ!?)
ここまで接近された時点で麗華の負けは確定した。
こちらが反撃するより先にUSCの攻撃が麗華の命を刈り取るだろう。
(いや……まだだ! 魔王エンジェルの力を舐めんじゃ……!)
「良かった……。気が付いたのね」
「……あ?」
「頭を強く打ってしまったみたいだけど、大丈夫? 何か体に違和感があったりしませんか?」
「あ? ああ、まあ、どこにも異常はないわ」
「そう……それなら安心ね……」
麗華の頭には疑問符が浮かんでいた。
今は自分の命を刈り取れる絶好の機会である。
それなのに、どうしてこのUSCは攻撃をしてこない?
攻撃がこないなら、こっちから先に攻撃を……。
「…………(じーっ)」
「…………!!」
いや、無理だ。
こいつの眼に見られているとナイフを喉元に突き付けられているような感覚に襲われる。
私の命がまだあるのは、恐らく利用価値があるからなんだろう。
攻撃をしかければ、その瞬間にこっちの命が容赦なく刈り取られるに違いない。
ここはおとなしく様子を見るしかなさそうだ。
「あ、そうだ。申し遅れました。私、風見幽香と申します。
先程は名乗りもせず失礼致しました。もしよろしければ、
あなたのお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
USCは礼儀正しい自己紹介を行った。
が、こんな演技に騙されるものか。
相手を油断させるUSCの狡猾な手口であるのは確定的に明らかである。
自分も名乗らなければ殺されるのだろう。
「……私は東豪寺麗華。魔王エンジェルのリーダーよ」
(魔王エンジェル? リーダーっていうからには、何かのグループなのかしら?
エンジェルって名前に付いてるくらいだし、きっと悪い人じゃないわね)
一人納得し、幽香は麗華に話しかける。
「あの、良かったらこれから一緒に行動しませんか?
他に連れてこられた人も見付けないといけませんし、協力し合えることもあると思うんです」
「……そうだな。良いわ。協力しましょうか」
やはりそうきたか、と麗華は思った。
『他に連れてこられた人も見付けないといけない』。
これは他の参加者を見付けて殺すということだ。
協力と言ってはいるが、自分の事は道具としか見られていないだろう。
私を利用し、自分だけ力を温存する作戦に違いない。
なんと狡猾な奴だろうか。
命を握られている麗華に選択肢があるわけもなく、ここはその見え見えの提案に乗るしかないというのに。
「あ、そうです。支給品に何か役に立つものはありませんでしたか?
例えば、首輪を解除できそうな工具とか……」
んなもんあるわけねーだろ! といつもなら言うつもりだが、言えるわけがない。
それにこの質問は、本気で首輪解除の道具を訊いているわけではない。
『何か訳に立ちそうなもの』という部分が重要だ。
相手の有用な支給品を確認するための口実なのだ。
(ちっ……)
できるだけ自分の手の内は明かしたくない。
が、三つある支給品全てがハズレだったと言えるはずもない。
そんな事を言えば、“本当に?”と支給品全てを検められてしまうことになる。
ここは、何か適当な支給品を取り出してやり過ごす他にないだろう。
(あー………よし、これならこいつも納得するだろ)
三つある支給品の内から、攻撃力があり、
これ以外の支給品はハズレだったと言っても違和感のないものを取り出す。
本当なら一つも見せたくはないのだが、全ての支給品を無理矢理奪われるよりはマシと考えるしかない。
「……私の支給品にはこれしかなかったわ」
取りだしたのは『ミニ八卦炉』と呼ばれる代物だ。
幽香はこれに見覚えがあった。
同級生であり友人の霧雨魔理沙の所有物である。
「あ、それ魔理沙さんの八卦炉だわ……。あの、麗華さん」
「あ?」
「言いにくいのですが……そのミニ八卦炉、
私の友人の物なんです。失礼とは思いますが、私に譲ってはもらえないでしょうか?」
どうする?
麗華は考える。
友人の物というのは明らかに嘘だ。
まあ、有用な支給品が奪われるだろう事は予想はしていた。
これが奪われても仮にも魔王。支給品の残り二つはまだ隠してある。問題はない。
「……そう。なら、仕方ないわね」
麗華はミニ八卦炉を幽香に手渡した。
ミニ八卦炉を受け取った幽香は、失くさないように上着の内側にそれをしまう。
これ、ミニ八卦炉が暴発するフラグです。憶えておきましょう。
(友人の物とは言え、私だけ物を貰うのもいけないわよね。……よし!)
意を決した幽香は口を開いた。
「麗華さん、無理なお願いをきいてくださってありがとうございました。
お礼と言ってはなんですが、私の支給品の中からお好きなものを受け取ってください」
「はあ!?」
予想外の申し出に麗華は驚愕した。
が、すぐに納得した。
どうやらUSCの支給品にはろくなものがなかったらしい。
それでこんなことが言えるのだろう。
「私は別に気にしてないんだけど」
「ダメです! 私ばかり頂いて、そんなことできません!!」
目を大きく見開いて食い下がる幽香。
「……そ、そこまで言うなら、一つ貰っておくか」
大きく見開かれた目に見つめられては、流石の麗華も従わざるを得ない。
それだけ幽香の顔は脅迫めいていた。鬼気迫る勢いと言うか鬼そのものだった。
いや、鬼を超える何かだった。
(これで貸し借りはなしってか? 冗談きついぜまったく。ま、ないよりはマシだけどな)
「まだ中身を確認していないので、良いものがあるのかわからないんですけど……」
「ああ、良いよ別に。気にしてないって言っただろ」
幽香からデイバッグを受け取り、麗華がバッグの口を開けたその時だった。
中から何かが飛び出してきたのは。
「あ!?」
麗華は迫りくる何かを、首をひねるだけでかわす。
それは燃え上がる炎のような茸であった。
『カエンタケ』。
毒きのこの一種であるこのカエンタケは“体のあらゆる部位を破壊する程度の能力”と称される程、
毒きのこ界トップクラスの超危険なきのこである。
十グラム程かじれば致死量に至り、汁や吐瀉物が触れただけで皮膚がただれる強い毒性を有している。
口に含んでしまったら最後、三十分程で悪寒、眼球充血、腹痛、頭痛、胸痛、手足のしびれ、嘔吐、下痢、
喉の渇き等の胃腸系から神経系の症状が現れ、
その後三十九から四十度の発熱、腎不全、肝不全、呼吸器不全、循環器不全、
運動障害、意識障害、脳障害、
小脳委縮など全身に症状がでる上に手足・顔面のはれや脱皮、皮膚・粘膜の糜爛、
脱毛などの表面的な症状までが現れ死に至る、正に数え厄満の天然危険物なのだ。
仮にこの中毒症状を生き延びたとしても、言語障害や運動障害などの後遺症は免れない。
と、ここまでが幻想郷の外のカエンタケの特徴である。
麗華を襲ったカエンタケはそんじょそこらのカエンタケとはわけが違った。
幻想郷で行われるルナティック紅葉狩りと双璧を成す秋の催し、
ルナティックきのこ狩りで出会う最悪のきのこなのだ。
その戦闘力はドクササコ、ドクツルタケを超え、
ルナティックきのこ狩りのインストラクターである豊穣神の一柱をきのこ狩ってしまう程高い。
( 農)<穣子様ー!!
麗華は魔力球を作ると、カエンタケ目掛けて撃ち放った。
きのこと侮り、放った魔力球の数は一つ。
だがしかし魔王が放つ一撃である。
並の者なら来るとわかっていても避けることはできない必殺の一撃だ。
が、このカエンタケはプロですらきのこ狩られてしてしまう凶悪なきのこである。
魔力球が当たる直前、カエンタケが目にも止まらぬ速さで動き、魔力球をかわしてしまった。
まるで瞬間移動をしたかのような速度であった。
幻想郷最速であってもこの状態のカエンタケを視認することは不可能に近いだろう。
それでも麗華に幽香と対峙した時のような焦りはない。
あんな化物に比べればカエンタケなどかわいいものだ。
俊敏な動きで移動するカエンタケの気配を感じ取ると、麗華は束縛の力を行使した。
魔力で編んだ帯状の拘束具が麗華の右手から放たれる。
拘束具は正確にカエンタケを捕え、拘束し動きを封じた。
捕えられたカエンタケは拘束を解こうともがくが、魔王による拘束だ。そう簡単に破れるものではない。
麗華は拘束具に電流を流し、カエンダケの動きを鈍らせる。
そして幽香のデイバッグに手を入れると、中から輝く剣を取り出した。
ブリテンが王、アーサー王の所持する宝具、約束された勝利の剣(エクスカリバー)である。
先程バッグの口を開けた際、カエンタケを視認すると同時にバッグの中も見ていたのだ。
そのエクスカリバーを片手で振るい、カエンタケを斬るのではなく腹で殴りつけ遠くへとフッ飛ばす。
あれだけ凶暴なキノコだ。
他参加者を減らすのに一役買ってくれるだろうと考えての事だった。
魔王の腕力でフッ飛ばされたカエンタケは、夜空に消えていってしまった。
幽香の時は不覚をとってしまったが、麗華は指輪を取り戻した冥王サウロンや厳老アザゼル、
祖国日本らと肩を並べる実力を有している。
これくらいのことはできて当然であった。
「だ、大丈夫ですか!? あんなものが入っていたなんて、私知らなくて……」
「平気よ。あんなのにやられる程やわじゃないわ」
慌てふためく演技をするUSCを見ながら麗華は気が付いた。
最初、あのカエンタケの攻撃はUSCによる策略かと考えた。
だがそれでは協力を申し出た行動に説明がつかない。
麗華の命を消す機会はあったのだ。
最初から殺すつもりなら、その時にすれば済む話だ。
ではUSCは何故カエンタケを麗華にけし掛けたのか。
それは麗華の戦力を見極めるためだろう。
カエンタケにやられるような戦力なら用なし。
カエンタケを倒せるようなら、支給品を一つ駄目にしたのだからそれで支給品の交換はチャラである。
よく考えられた、狡猾な作戦だ。
麗華はUSCに嵌められてしまったのだ。
「だけど、悪いわね。支給品を一つダメにしちゃって。これで交換は成立しちゃったわね」
「そんな! 何を言ってるんですか! あんな支給品が入ったバッグを渡した私が悪いのに!
お詫びをするのはこちらの方です!! バッグの中身は全部貰っていただいて構いません!!」
「え? 全部貰ってもいいわけ?」
「はい!!」
「……………」
全部貰っても良いと言ってるが、言葉どおりに受け取って良いはずがない。
USCの眼は、“建て前で全部持ってけって言ってるが、わかってるよな?”と言外に語っているのだ。
しかし何も貰わない、というわけにもいかない。
あのカエンタケの一件はあくまで事故である。
支給品を確認していなかったと言うのだ。
USCが仕組んだ罠だという、決定的な証拠はどこにもない。
この場は麗華が支給品を一つだけ貰い、この一件をチャラにするという、
USCの描いた筋書き通りに行動するしかないのだろう。
そこまで察しが付いた麗華は、改めて幽香の支給品を確認し始めた。
残った二つの支給品の内、一つは先程抜き出したエクスカリバー。
これは真名解放と共に、使用者の魔力を消費して千の敵を薙ぎ払う攻撃を行う代物らしい。
残る一つは究極のコッペパン。
究極と名前に付いてるだけあり、ただのコッペパンではない。
HP全回復+戦闘不能回復という効果があるのだ。
ろくなもんは入っていないだろうと思っていた麗華はUSCの意図を計りかねた。
どれも当たりと呼ぶにふさわしい物ばかりである。
わざわざ相手に塩を送るような事をしてなんの意味があるのだろうか。
考えが読めないのがかえって不気味に思える。
疑問は残るが、貰える物は貰っておいて損はない
麗華は攻撃力よりも回復アイテムであるコッペパンを取ろうとして、
USCが仕掛けた第二の罠に気が付いた。
ここでコッペパンを選ぶということは、すなわちエクスカリバーを取らなかったということ。
エクスカリバーはその気になれば回復する余裕すら残さず相手を即死させる強力な武器である。
麗華は“これしかなかった”と言ってミニ八卦炉を幽香に差し出している。
エクスカリバーを選ばず回復アイテムを取るという行為は、
すなわち麗華の支給品の中にミニ八卦炉以上の武器ないし有用な支給品が存在することをUSCに伝えてしまうことになるのだ。
(くっ! どこまでも狡猾な奴だぜ)
戦力で言えば、自分の力だけでも充分な力がある。
いくら強力とは言え武器よりも回復アイテムの方が欲しかったのだが、
自分の支給品の中身を疑われ、嘘をついたことがバレる方が問題だ。
麗華はエクスカリバーを手に取ると、“これだけで良いわ”と幽香に言った。
「いえ! それでは私の気が収まりません!」
「本当に良いのよ。丁度武器が欲しかったところだし、これだけで充分よ」
幽香はそれでも喰い下がろうとしたが、
これだけ断っている相手にさらに言うのはくどいようで、言葉を続けるのがためらわれた。
押しつけがましいだろうし、それでは失礼に当たるだろう。
(普通なら殴られても文句の言えない事をしてしまったのに、剣一つで許してくれるなんて……
なんて心の広い方なのかしら。私も見習わなくっちゃ)
★ ☆ ★
それからしばらくして。
二人は森の中を歩いていた。
麗華がただの悪魔ではなく魔王であると聞いた時は驚いたが、
先程のやり取りで麗華が悪い人物でないと知っている。
それに幽香は名前を知らなかったが、
魔王エンジェルという三人組のトップアイドルグループのリーダーでもあるらしい。
三人共麗華と同じく魔王であり、後輩にはレッドショルダーという二人組のアイドルグループもいるという。
たまに佐野美心というアイドルと共演することもあるそうだ。
アイドルをやっている人が悪い人であるわけがない。
(魔王さんがアイドルをやっているなんて、驚いたわ。
世の中には、私の知らないことがたくさんあるのね……)
一方の麗華は、エクスカリバーを片手にUSCを注意深く観察していた。
隙あらば殺害してやろうと思っていたのだが、
おかしな事に共に行動し始めてからUSCには隙しかなかった。
まさか麗華を完全に信用しているわけでもあるまいに。
また狡猾な罠でも仕掛けられているのかとあれこれ考えてはみたが、
そのような罠が仕掛けられている様子は微塵も感じない。
(やっぱどう見ても隙だらけなんだよな……。ここで殺っちまうか?)
殺気を押し殺し、幽香の背後からこっそりと忍びよる麗華。
離れた場所からエクスカリバーを放つという手もあるが、離れすぎれば流石に気付かれてしまう。
中距離であっても、魔力を込めた瞬間に距離を詰められ反撃されてしまう可能性が高い。
故に、共に行動している状況を利用し、
至近距離から魔力も殺気も介さない一閃を与えるのが上策と言えた。
(このミニ八卦炉があるってことは、もしかして魔理沙さんもここに連れてこられているのかしら?
もしそうなら早く見付けて合流しないと……。
そう言えば、魔理沙さんと友達になったのは彼女の自殺を止めたのがきっかけだったわね。
あの時は私が見下した態度をとってしまったせいで彼女を傷付けてしまって……)
背後に回った麗華の存在に、麗華が気付いている様子はない。
今ならUSCの息の根を止めることが可能だろう。
(思い出したら、なんだか不安になってきたわ。
さっき麗華さんは武器が欲しかったって言っていたけど、それって護身用ってことよね?
こんな場所に誘拐されて、自暴自棄になっているなんてことはないわよね?)
(隙だらけのお前が悪いんだ……あば)
「麗華さん」
(よっ……!?)
未だ幽香は前を向いて歩き続けており、こちらに振り返ったわけではない。
しかしまるで見計らったかのような絶妙のタイミングで幽香に声をかけられたのだ。
麗華は剣を振るう直前で動きを止めた。
止めざるをえなかった。
(まさか、気付かれたのか? 殺気は完全に消したはずだぞ! 悟られるはずが……)
「こんな状況ですが、自暴自棄になったりしないでくださいね。
きっと家に帰ることはできるはずです。希望を捨てずに頑張りましょう」
「何言ってるのよ。自暴自棄になんてなるわけないじゃない」
「……そうですよね。変なことを言ってすいません」
麗華は平静を装ってはいるが、内心激震が走っていた。
これはもう完全にこちらの行動がバレてしまっていると考えて間違いない。
自暴自棄になるなとは、“お前の考えなど読めている。それでも刃向うつもりか?”と釘を刺しているのだ。
まさか東豪寺麗華が本気で消した殺気すら感知するとは思わなかった。
恐るべし、アルティメットサディスティッククリーチャー風見幽香。
(良かった、私の思い過ごしだったみたい。
でも、いきなり変な事を言って、おかしな人と思われてしまったかしら?)
(今に見てろよ……。私もお前の力を利用してやる。あの場で私を殺さなかった事を後悔させて──)
くるっ、と幽香が後ろを振り向いた。
(──やっ!?)
しばらくの間、じっと麗華を見つめた後、幽香は何事も無かったかのように前方に再び視線を戻した。
(私の考えが……読まれたのか? それ以外に考えられねぇ……くそっ! どうすりゃいいんだ!)
(うーん……。麗華さんに特に変わった様子はないわね。
そもそも顔を見たからって相手の心が読めるわけでもないし……私ったら何をやっているのかしら。
ますます変な人と思われてしまうじゃない)
風見幽香。
八雲学園高等学校に通う、天使のように純粋で済み切った心をもつ少女である。
だが、彼女の顔は──
#AA{{
| ヽ /=====| ∧ /l
ヽ ヽ ∧ / ヽ | | | .l ∧
ヽ ヽ ヽヽ .|. ̄ ̄ ̄\l. | | | .l l ヽ
| \ ヽ ヽ ヽ .l ̄ ̄ ̄ l |. | | l .| |_/
| l \ \ ヽ ∨ ┌┐ l ヽ \\ l/ / /
| ヽ. \ ̄. \ゝ . └┘ / \\_\\ \/__./
ヽ ヽ_. \__.> ━━ \ゝ ヽ__/
ヽ l\ | // ./
丶 ヽ \ l /
\_l ) l / /
\ ( ( \ \______/ /./|
) )ヘ \ \\__// ./l/ l ノ
/ /\ ゝ-/\ `───´ /ヽ / /
(_( / \ / ヽ l/
/ ヽ ── / ヽ
_____/ ヽ / ヽ_____
/ /:::::::::::::::/ ヽ / ヽ::::::::::::::\ \
/ /:::::::::::::::::::/ ヽ / ヽ:::::::::::::::::ヽ \
}}
こんな感じだった。
【C-06 森林/一日目・深夜】
【風見幽香@フラワーマスター伝説】
[状態]:健康
[装備]:ミニ八卦炉@フラワーマスター伝説(上着の内ポケット)
[道具]:基本支給品、究極のコペパン@ニコニコRPG
[思考・状況]
1:麗華さんと協力してここから脱出する。
2:どうか怖い人と出会いませんように。
※フラワーマスター伝説1話の履歴書に原作での経歴が載っている。
フラワーマスター伝説2話のタイトルに大妖怪とある。
これらのことから空を飛べたり弾幕を撃てたりするかもしれません。
【東豪寺麗華@MMDDFF】
[状態]:健康
[装備]:エクスカリバー@Fate/Zero
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×2
[思考・状況]
1:生き残って主催者をブチ殺す。
2:一応はUSC(幽香)に協力する。
※制限はほとんどされてません。
ぽちゃん。
E-05の川に何かが落ちた。
麗華にフッ飛ばされたカエンタケである。
川に落ちたカエンタケはぶるぶると震えだす。
この時、カエンタケの毒が川の水に溶け込んでしまった。
ルナティックきのこ狩りのカエンタケの毒である。
その毒性は幻想郷の外のカエンタケと比較にならないほど強く、清流は一気に毒の流れへと変化した。
触れるだけで危険な毒水。
そんな水が、E-05から海に向かって流れだしたのだ。
元の清流に戻るのに、果たしてどれだけの時間を要するか……。
しばらく震えていたカエンタケが、突如として川から飛び上がる。
そして野生の本能に従い闇の中へと消えていった。
ルナティックきのこ狩り。
一瞬でも気を抜けば“きのこ狩る”側が“きのこ狩られる”側になり、
一生きのこ狩りできない体になってしまう恐怖の行事。
その苛酷さはルナティック紅葉狩りの比ではない。
今宵は誰がきのこ狩り、誰がきのこ狩られるのか。
さあ、“狩り”の始まりだ。
※カエンタケ@【東方手書き】秋姉舞が会場に解き放たれました。
※E-05から川の水にカエンタケの毒が溶け込みました。
下流で川の水に触れてしまうと皮膚が爛れる危険があります。
口に含むなどもっての他です。
【カエンタケ@【東方手書き】秋姉舞】
八雲系2にて明かされたルナティック紅葉狩りなる行事。
その行事と対を成す秋の催しルナティックきのこ狩りに登場する毒きのこである。
きのこ狩りインストラクターであらせられる秋穣子様の回想にしか登場しないが、
ルナティック紅葉狩り同様ろくなもんじゃないことは想像に難くない。
( 農)<穣子様ー!!
参考動画
【東方手書き】秋姉舞
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm9179475
ルナティック紅葉狩りの参考動画
【東方手書き】八雲系2 前
ttp://www.nicovideo.jp/watch/nm5371166
【東方手書き】八雲系2 後
ttp://www.nicovideo.jp/watch/nm5371257
【ミニ八卦炉@フラワーマスター伝説】
霧雨魔理沙の所有物。
本物のミニ八卦炉で、スイッチ一つでマスパを放つ取り扱い注意な代物。
【究極のコッペパン@ニコニコRPG】
食べると戦闘不能回復+HP全快する効果のあるコッペパン。
【約束された勝利の剣(エクスカリバー)@Fate/Zero】
セイバーの所持する宝具。
ランク:A++
種別:対城宝具
レンジ:1~99
最大捕捉:1000人
由来:アーサー王の聖剣エクスカリバー
生前のアーサー王が、一時的に妖精「湖の乙女」から授かった聖剣。
人ではなく星に鍛えられた神造兵装であり、人々の「こうあって欲しい」という願いが地上に蓄えられ、
星の内部で結晶・精製された「最強の幻想(ラスト・ファンタズム)」。
神霊レベルの魔術行使を可能とし、
所有者の魔力を光に変換、集束・加速させることで運動量を増大させ、
光の断層による「究極の斬撃」として放つ。
攻撃判定があるのは光の斬撃の先端のみだが、
その莫大な魔力の斬撃が通り過ぎた後には膨大な熱が発生するため、結果的に光の帯のように見える。
威力・攻撃範囲ともに大きい為、第四次聖杯戦争時に切嗣が大型客船を緩衝材として使ったり、
第五次でビルの屋上から空へ向けて放ったりと、常に周囲への配慮が必要とされる。
黒セイバー(セイバーオルタ)が使う場合も真名などに影響はなく、
同じ銘の「約束された勝利の剣」。
ただし、使い手の魔力を光に変換、集束・加速させるという作用の影響で、
剣身や放たれる極光も黒く染まっている。
「聖剣」と呼ばれながらも黒化の影響を受け入れるのは、
この宝具そのものが守り手である湖の乙女と同じく善悪両面の属性を有するため。
聖剣というカテゴリーの中で頂点に位置し、「空想の身でありながら最強」とも称される。
ただし「天地乖離す開闢の星」や、
「熾天覆う七つの円環」(本来の7分の4の防御力)に減衰された後に受けた「騎英の手綱」には敗北している。
アーサー王の死に際では、ベディヴィエールの手によって湖の乙女へ返還された。
セイバーでなくとも魔力と真名解放さえあれば使用可能。
ただし、制限により真名解放には多大な魔力消費が必要。
【フラワーマスター伝説】
天使のように純粋で済み切った心をもつ少女、風見幽香が主人公の動画。
しかし彼女の顔は……その……アレだった。
集英社が刊行していた
月刊誌「月刊少年ジャンプ」(現在は休刊)にて連載されていた
漫画「エンジェル伝説」のストーリーをベースに、
東方Projectに登場するキャラクターをミックスした東方MMDパロディ作品である。
参考動画
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm14895428
ニコニコ大百科
ttp://dic.nicovideo.jp/a/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E4%BC%9D%E8%AA%AC
【東豪寺麗華について】
東豪寺プロに所属するアイドルで、
アイドルユニット魔王エンジェルのプロデューサー兼ユニットリーダーである。
MMDDFFの姿で登場。
MikuMikuDancenでは魔王の力を行使する麗華様を見かけたりする。
束縛の力もその時に使用した魔王の力の片鱗である。
参考動画
【第8回MMD杯本選】MMDDFF【FF再現バトル】
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm16944590
【Extreme本編】十六夜【MMDF】
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm14181936
ニコニコ大百科
東豪寺麗華
ttp://dic.nicovideo.jp/a/%E6%9D%B1%E8%B1%AA%E5%AF%BA%E9%BA%97%E8%8F%AF
MMDDFF
ttp://dic.nicovideo.jp/v/sm16944590
|sm18:[[Rated-RKO]]|[[時系列順>第一回放送までの本編SS]]|sm20:[[磁力と絶望のコンチェルト]]|
|sm18:[[Rated-RKO]]|[[投下順>00~50]]|sm20:[[磁力と絶望のコンチェルト]]|
||風見幽香|[[探索したほうが良いかもしれない!]]|
||東豪寺麗華|[[探索したほうが良いかもしれない!]]|
*魔王、邂逅。 ◆hNcxfpVp3Q
登録タグ [[パロロワ]][[[百>http://dic.nicovideo.jp/a/%E3%83%91%E3%83%AD%E3%83%AD%E3%83%AF]]] [[ニコロワγ>トップページ]] [[第十八話⇔第十九話>Rated-RKO]] [[第十九話>魔王、邂逅。]] [[第十九話⇔第二十話>磁力と絶望のコンチェルト]] [[フラワーマスター伝説>http://dic.nicovideo.jp/a/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E4%BC%9D%E8%AA%AC]] [[USC>風見幽香]] [[MMDDFF>http://dic.nicovideo.jp/v/sm16944590]] [[魔王エンジェル>http://dic.nicovideo.jp/a/%E9%AD%94%E7%8E%8B%E3%82%A8%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%AB]] [[東豪寺麗華>東豪寺麗華]]
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夢もなく、希望も失せ情けすらも消えかかってるこの世紀末において
(殺し合いだなんて……)
天使のように純粋で済み切った心を持つ少女がいた…
(どうしよう……怖いなぁ……)
彼女の名は
(どうか最初に出会う人が、怖い人じゃありませんように……)
風見幽香と言った。
★ ☆ ★
「よくわかんないけどー」
アイドルグループ魔王エンジェルがリーダー、東豪寺麗華。
地獄の業火のような赤い長髪に悪魔の翼を持つ魔王であり、
自らが経営する東豪寺プロに所属するアイドルである。
彼女は森の中を飛んでいた。
「調子に乗ってんじゃねーの!?」
こんな場所に自分を拉致って殺し合いをしろ?
しかも首輪を嵌めて強制だぁ?
ふざけてんじゃねーの!?
あのむかつく主催者の野郎はブチ殺し確定として、これからどうするか。
とりあえずここに連れてこられたらしい参加者共を皆殺しにすれば、また主催者のところに行けるのか?
皆殺しなんて簡単にできるけど、面倒ね。
だけど協力を持ちかけるにしても、
知り合いならともかく初対面の相手なんて信用できるもんじゃないし……。
「あーっ、やっぱ皆殺しにしなきゃいけないわけ? めんどくさいなー」
もっと簡単に主催者をブチ殺す方法でもあれば良いんだけど……だめだ思い付かないわ。
一応強そうな奴には声かけとくか?
裏切られても負ける気はないし。
利用するだけ利用して最後にブッ殺すのが一番楽そう……。
「あ?」
少し先に人影が見えた。
植物のような緑色の髪をした女だ。
魔力や闘気の類は感じない。
それに自分の存在に気付いていないところを見るに、ただの人間か何かだろう。
(うっわ弱そうじゃん。仲間にしても足手まといになるだけだな。殺して支給品だけ貰っとくか)
そう思いながら幽香に近付いて行く麗華。
気配を消す必要もない相手なので、隠れることなく堂々と麗華は進む。
森の中を進む麗華によって草木ががさごそと音を立てた。
その音に気付いて幽香が振り向いたが、もう遅い。
麗華が振り上げた手を打ち降ろすだけで、幽香の命は刈り取られ──
「──んなっ!?」
振り向いた幽香の顔を見た瞬間、雷に打たれたような衝撃が麗華の体を駆け抜けた。
瞬時に幽香との距離を取る麗華。
どうして気付かなかった?
なんでこんなやつがこんなところにいる!?
麗華の頬を冷や汗が伝う。
普通の人間と思い近付いたが、あれが──あんな顔が人間のものであるものか!
殺気と凶気の塊のような顔をした悪魔、いや魔王、
違うそんな枠に嵌まらない何かとんでもない存在がそこに居たのだ。
やつの瞳には殺意がみなぎっていた。
雑魚ならば一睨みするだけで簡単に命を奪うことが可能だろう。
距離を取らず、迂闊に攻撃を仕掛けていれば何をされていたか……・。
(くそっ! 何なんだこいつ!? そんなの決まってる!
こいつは究極加虐生物、USC(アルティメットサディスティッククリーチャー)だ!!)
(………悪魔?)
対する幽香も驚いていた。
後ろで何か物音がしたと思い振り返ると、美しい悪魔が宙に浮いていたのだ。
東方幻想郷で五面ボス・六面ボス、東方では自機、
稀翁玉と東方花映塚においては自機・対戦相手を勤めたことのある幽香であったが、
これほど綺麗な悪魔を見たのは初めてだった。
(なんだ? どういして動かない? 私の出方を見ているのか?)
麗華は全身の神経を最大まで張り詰めさせている。
一瞬でも気を抜けば殺られるのはこっちだ。
しかし、目の前のUSCは一向に動く気配がない。
それどころかなんの構えもしておらず、未だに無防備な状態だ。
暴風のような殺気だけはびんびん伝わってくるが、まさかこれは……・。
「舐めてんじゃねーの!?」
なんの構えもしていないということは、こちらがどんな攻撃をしようと軽く対処できるということの表れだ。
それだけの実力を持っているのだろうが、麗華とて魔王の一人である。
舐められるのは我慢ならなかった。
(あ、そうよね。私ったら初対面の人に名乗らずに……失礼なことをしてしまったわ)
一方幽香は舐めてるつもりなどさらさらなく、ただ少しの間麗華に見入っていただけだった。
だが麗華にそれがわかるはずもない。
殺らねば殺られる。
「その禍禍しい顔をフッ飛ばしてやる!!」
魔力を凝縮した球体を体の周囲に展開。その全てを幽香の上半身目掛けて一気に叩きつける。
「名乗るのが遅れてしまってごめんなさい。私、風見──」
轟音と共に幽香の周辺の土が爆音を上げた。
何やら呪文らしきものを唱えていたがもう遅い。
いくらUSCと言えど東豪寺麗華が放つ魔力球の直撃を受ければただでは済むまい。
そう思っていた麗華であったが、土煙が晴れた場所を見て驚愕した。
「あ!?」
そこには、傷一つなく悠然とたたずむ凶悪なUSCの姿があったからだ。
(ど、どういうことだ!? まさかあれだけの至近距離から放った私の攻撃をかわしたっていうのか!?
それも……あそこから一歩も動かずにだと!?)
(な、なにかしら? いきなり周りの土が爆発したわ。これはいったい……?)
確かに、麗華の攻撃を避けるのは、どれほどの実力者であろうとあの距離からでは不可能であった。
だが、それは攻撃を見てから回避行動に移った場合だ。
幽香は挨拶の礼儀として流れるような綺麗なお辞儀を、麗華が攻撃を始める前から行っていたのだ。
結果、幽香の上半身をフッ飛ばすために放たれた攻撃は、体を綺麗に曲げた幽香の上空を通り過ぎ、
周囲のキレイな地面をフッ飛ばすだけに終わったのだった。
(くそっ! こいつ思った以上の実力者だ! 殺し合いが始まったばっかで戦うような相手じゃねえ!!)
そう、これは殺し合い。
そして相手は自分と同じか、下手すればそれ以上の力を持つ凶敵だ。
負けるつもりはないが、勝てたとしてもかなり力を消耗してしまうだろう。
そうなっては他の参加者の格好の獲物だ。
魔王級の参加者は自分とこいつの二人だけと楽観するわけにもいかない。
となれば……。
「ちっ!」
「あっ!」
麗華は幽香からの逃走を開始した。
まさか魔王たる自分が戦術的撤退を行うとは思いもしなかった。
だが目の前のUSCに話し合いが通用するわけがない。
というか言葉が通じるかさえ怪しい。
力を温存するためには、撤退の他に道はないのである。
(ああ、どうしよう……。あの人、怒って行っちゃったわ。
爆発のせいでちゃんと謝ることもできなかった……このままじゃいけないわね。
それに、こんな危ない場所で一人にするわけにもいかないもの)
一方、幽香は逃げる麗華を見て彼女の身を案じていた。
殺し合いの場で一人で行動して危険人物と出会ったりしたら大変である。
その上まだちゃんと無礼を謝罪していない。
自分の不甲斐なさに、己に対する怒りが顔に表れる。
早く追いかけなければ。
「きぇええええええええええええ!! きぇえええええええええええええぇぇぇ!!(訳:待って! 一人じゃ危ないわ!)」
「くっ! やっぱ追ってき……ああ!!?」
自分を追ってくるのは想定内だったのだが、
奇声を発しながら追いかけてくるUSCの顔が……もう言葉で言い表せないくらい尋常じゃない表情に変わっていた。
攻撃を仕掛けたことで怒らせてしまったのだろう。
それになんだこの気迫は。
殺気がUSCから溢れ出し、体の周りを闇より深い漆黒となって渦巻いているように見えるではないか。
この現象に麗華は圧倒されていた。
こんな状態のやつに追いつかれたら、いったい何をされてしまうか……。
「負けるかぁあああああああああああああああああああああああ!!!」
「きえぇえええええええええええええええええええええええええ!!!(訳不能)」
飛ぶ速度を落とさず体を反転させ、迫りくるUSCを迎撃する体制に入る麗華。
魔王エンジェルを気迫だけで押してしまうという、前代未聞の敵を目の前にして、
麗華の意識はUSCにのみ集中してしまっていた。
「がっ!?」
反転し魔力球を作ろうとした瞬間、麗華は後頭部を木の幹にぶつけ、その場に落ちてしまう。
いつもなら、後ろを向きながら森の中を高速で飛ぼうとこんなことにはならない。
周囲の状況を把握し忘れるという初歩的なミスを歴戦の魔王に強いてしまう程、
USC風見幽香の放つ殺気が異常であったということだ。
……まあ、それは幽香を見る者が感じる錯覚、つまりは気のせいなのだが、
それだけ風見幽香の顔が尋常でなく恐ろしいのだ。
しかも奇声発してるし。
と、そんなことより。
麗華が落ちるのを見た幽香は急いで駆け付ける。
そして麗華を優しく抱き起こした。
「きぇええええええ!! きえぇえええええええ!!(大丈夫!? しっかりして!!)」
頭を強く打ち気を失ってはいるが、命に別条はないらしい。
幽香が体をゆすってしばらくすると、麗華が目を覚ます。
(う……ん?)
戦闘中に気を失うなどという、いつもならやるはずのないドジを踏んでしまった。
これは冷静さを欠いてしまう程相手の力が強大だったということだ。
早く、戦闘態勢に戻らなければ……。
だがしかし、開いた麗華の目に一番最初に飛び込んできたのは、
殺意をぎらつかせたUSCの凶気に満ち溢れた顔だった。
(ああああああああああああああああ!?)
ここまで接近された時点で麗華の負けは確定した。
こちらが反撃するより先にUSCの攻撃が麗華の命を刈り取るだろう。
(いや……まだだ! 魔王エンジェルの力を舐めんじゃ……!)
「良かった……。気が付いたのね」
「……あ?」
「頭を強く打ってしまったみたいだけど、大丈夫? 何か体に違和感があったりしませんか?」
「あ? ああ、まあ、どこにも異常はないわ」
「そう……それなら安心ね……」
麗華の頭には疑問符が浮かんでいた。
今は自分の命を刈り取れる絶好の機会である。
それなのに、どうしてこのUSCは攻撃をしてこない?
攻撃がこないなら、こっちから先に攻撃を……。
「…………(じーっ)」
「…………!!」
いや、無理だ。
こいつの眼に見られているとナイフを喉元に突き付けられているような感覚に襲われる。
私の命がまだあるのは、恐らく利用価値があるからなんだろう。
攻撃をしかければ、その瞬間にこっちの命が容赦なく刈り取られるに違いない。
ここはおとなしく様子を見るしかなさそうだ。
「あ、そうだ。申し遅れました。私、風見幽香と申します。
先程は名乗りもせず失礼致しました。もしよろしければ、
あなたのお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
USCは礼儀正しい自己紹介を行った。
が、こんな演技に騙されるものか。
相手を油断させるUSCの狡猾な手口であるのは確定的に明らかである。
自分も名乗らなければ殺されるのだろう。
「……私は東豪寺麗華。魔王エンジェルのリーダーよ」
(魔王エンジェル? リーダーっていうからには、何かのグループなのかしら?
エンジェルって名前に付いてるくらいだし、きっと悪い人じゃないわね)
一人納得し、幽香は麗華に話しかける。
「あの、良かったらこれから一緒に行動しませんか?
他に連れてこられた人も見付けないといけませんし、協力し合えることもあると思うんです」
「……そうだな。良いわ。協力しましょうか」
やはりそうきたか、と麗華は思った。
『他に連れてこられた人も見付けないといけない』。
これは他の参加者を見付けて殺すということだ。
協力と言ってはいるが、自分の事は道具としか見られていないだろう。
私を利用し、自分だけ力を温存する作戦に違いない。
なんと狡猾な奴だろうか。
命を握られている麗華に選択肢があるわけもなく、ここはその見え見えの提案に乗るしかないというのに。
「あ、そうです。支給品に何か役に立つものはありませんでしたか?
例えば、首輪を解除できそうな工具とか……」
んなもんあるわけねーだろ! といつもなら言うつもりだが、言えるわけがない。
それにこの質問は、本気で首輪解除の道具を訊いているわけではない。
『何か訳に立ちそうなもの』という部分が重要だ。
相手の有用な支給品を確認するための口実なのだ。
(ちっ……)
できるだけ自分の手の内は明かしたくない。
が、三つある支給品全てがハズレだったと言えるはずもない。
そんな事を言えば、“本当に?”と支給品全てを検められてしまうことになる。
ここは、何か適当な支給品を取り出してやり過ごす他にないだろう。
(あー………よし、これならこいつも納得するだろ)
三つある支給品の内から、攻撃力があり、
これ以外の支給品はハズレだったと言っても違和感のないものを取り出す。
本当なら一つも見せたくはないのだが、全ての支給品を無理矢理奪われるよりはマシと考えるしかない。
「……私の支給品にはこれしかなかったわ」
取りだしたのは『ミニ八卦炉』と呼ばれる代物だ。
幽香はこれに見覚えがあった。
同級生であり友人の霧雨魔理沙の所有物である。
「あ、それ魔理沙さんの八卦炉だわ……。あの、麗華さん」
「あ?」
「言いにくいのですが……そのミニ八卦炉、
私の友人の物なんです。失礼とは思いますが、私に譲ってはもらえないでしょうか?」
どうする?
麗華は考える。
友人の物というのは明らかに嘘だ。
まあ、有用な支給品が奪われるだろう事は予想はしていた。
これが奪われても仮にも魔王。支給品の残り二つはまだ隠してある。問題はない。
「……そう。なら、仕方ないわね」
麗華はミニ八卦炉を幽香に手渡した。
ミニ八卦炉を受け取った幽香は、失くさないように上着の内側にそれをしまう。
これ、ミニ八卦炉が暴発するフラグです。憶えておきましょう。
(友人の物とは言え、私だけ物を貰うのもいけないわよね。……よし!)
意を決した幽香は口を開いた。
「麗華さん、無理なお願いをきいてくださってありがとうございました。
お礼と言ってはなんですが、私の支給品の中からお好きなものを受け取ってください」
「はあ!?」
予想外の申し出に麗華は驚愕した。
が、すぐに納得した。
どうやらUSCの支給品にはろくなものがなかったらしい。
それでこんなことが言えるのだろう。
「私は別に気にしてないんだけど」
「ダメです! 私ばかり頂いて、そんなことできません!!」
目を大きく見開いて食い下がる幽香。
「……そ、そこまで言うなら、一つ貰っておくか」
大きく見開かれた目に見つめられては、流石の麗華も従わざるを得ない。
それだけ幽香の顔は脅迫めいていた。鬼気迫る勢いと言うか鬼そのものだった。
いや、鬼を超える何かだった。
(これで貸し借りはなしってか? 冗談きついぜまったく。ま、ないよりはマシだけどな)
「まだ中身を確認していないので、良いものがあるのかわからないんですけど……」
「ああ、良いよ別に。気にしてないって言っただろ」
幽香からデイバッグを受け取り、麗華がバッグの口を開けたその時だった。
中から何かが飛び出してきたのは。
「あ!?」
麗華は迫りくる何かを、首をひねるだけでかわす。
それは燃え上がる炎のような茸であった。
『カエンタケ』。
毒きのこの一種であるこのカエンタケは“体のあらゆる部位を破壊する程度の能力”と称される程、
毒きのこ界トップクラスの超危険なきのこである。
十グラム程かじれば致死量に至り、汁や吐瀉物が触れただけで皮膚がただれる強い毒性を有している。
口に含んでしまったら最後、三十分程で悪寒、眼球充血、腹痛、頭痛、胸痛、手足のしびれ、嘔吐、下痢、
喉の渇き等の胃腸系から神経系の症状が現れ、
その後三十九から四十度の発熱、腎不全、肝不全、呼吸器不全、循環器不全、
運動障害、意識障害、脳障害、
小脳委縮など全身に症状がでる上に手足・顔面のはれや脱皮、皮膚・粘膜の糜爛、
脱毛などの表面的な症状までが現れ死に至る、正に数え厄満の天然危険物なのだ。
仮にこの中毒症状を生き延びたとしても、言語障害や運動障害などの後遺症は免れない。
と、ここまでが幻想郷の外のカエンタケの特徴である。
麗華を襲ったカエンタケはそんじょそこらのカエンタケとはわけが違った。
幻想郷で行われるルナティック紅葉狩りと双璧を成す秋の催し、
ルナティックきのこ狩りで出会う最悪のきのこなのだ。
その戦闘力はドクササコ、ドクツルタケを超え、
ルナティックきのこ狩りのインストラクターである豊穣神の一柱をきのこ狩ってしまう程高い。
( 農)<穣子様ー!!
麗華は魔力球を作ると、カエンタケ目掛けて撃ち放った。
きのこと侮り、放った魔力球の数は一つ。
だがしかし魔王が放つ一撃である。
並の者なら来るとわかっていても避けることはできない必殺の一撃だ。
が、このカエンタケはプロですらきのこ狩られてしてしまう凶悪なきのこである。
魔力球が当たる直前、カエンタケが目にも止まらぬ速さで動き、魔力球をかわしてしまった。
まるで瞬間移動をしたかのような速度であった。
幻想郷最速であってもこの状態のカエンタケを視認することは不可能に近いだろう。
それでも麗華に幽香と対峙した時のような焦りはない。
あんな化物に比べればカエンタケなどかわいいものだ。
俊敏な動きで移動するカエンタケの気配を感じ取ると、麗華は束縛の力を行使した。
魔力で編んだ帯状の拘束具が麗華の右手から放たれる。
拘束具は正確にカエンタケを捕え、拘束し動きを封じた。
捕えられたカエンタケは拘束を解こうともがくが、魔王による拘束だ。そう簡単に破れるものではない。
麗華は拘束具に電流を流し、カエンダケの動きを鈍らせる。
そして幽香のデイバッグに手を入れると、中から輝く剣を取り出した。
ブリテンが王、アーサー王の所持する宝具、約束された勝利の剣(エクスカリバー)である。
先程バッグの口を開けた際、カエンタケを視認すると同時にバッグの中も見ていたのだ。
そのエクスカリバーを片手で振るい、カエンタケを斬るのではなく腹で殴りつけ遠くへとフッ飛ばす。
あれだけ凶暴なキノコだ。
他参加者を減らすのに一役買ってくれるだろうと考えての事だった。
魔王の腕力でフッ飛ばされたカエンタケは、夜空に消えていってしまった。
幽香の時は不覚をとってしまったが、麗華は指輪を取り戻した冥王サウロンや厳老アザゼル、
祖国日本らと肩を並べる実力を有している。
これくらいのことはできて当然であった。
「だ、大丈夫ですか!? あんなものが入っていたなんて、私知らなくて……」
「平気よ。あんなのにやられる程やわじゃないわ」
慌てふためく演技をするUSCを見ながら麗華は気が付いた。
最初、あのカエンタケの攻撃はUSCによる策略かと考えた。
だがそれでは協力を申し出た行動に説明がつかない。
麗華の命を消す機会はあったのだ。
最初から殺すつもりなら、その時にすれば済む話だ。
ではUSCは何故カエンタケを麗華にけし掛けたのか。
それは麗華の戦力を見極めるためだろう。
カエンタケにやられるような戦力なら用なし。
カエンタケを倒せるようなら、支給品を一つ駄目にしたのだからそれで支給品の交換はチャラである。
よく考えられた、狡猾な作戦だ。
麗華はUSCに嵌められてしまったのだ。
「だけど、悪いわね。支給品を一つダメにしちゃって。これで交換は成立しちゃったわね」
「そんな! 何を言ってるんですか! あんな支給品が入ったバッグを渡した私が悪いのに!
お詫びをするのはこちらの方です!! バッグの中身は全部貰っていただいて構いません!!」
「え? 全部貰ってもいいわけ?」
「はい!!」
「……………」
全部貰っても良いと言ってるが、言葉どおりに受け取って良いはずがない。
USCの眼は、“建て前で全部持ってけって言ってるが、わかってるよな?”と言外に語っているのだ。
しかし何も貰わない、というわけにもいかない。
あのカエンタケの一件はあくまで事故である。
支給品を確認していなかったと言うのだ。
USCが仕組んだ罠だという、決定的な証拠はどこにもない。
この場は麗華が支給品を一つだけ貰い、この一件をチャラにするという、
USCの描いた筋書き通りに行動するしかないのだろう。
そこまで察しが付いた麗華は、改めて幽香の支給品を確認し始めた。
残った二つの支給品の内、一つは先程抜き出したエクスカリバー。
これは真名解放と共に、使用者の魔力を消費して千の敵を薙ぎ払う攻撃を行う代物らしい。
残る一つは究極のコッペパン。
究極と名前に付いてるだけあり、ただのコッペパンではない。
HP全回復+戦闘不能回復という効果があるのだ。
ろくなもんは入っていないだろうと思っていた麗華はUSCの意図を計りかねた。
どれも当たりと呼ぶにふさわしい物ばかりである。
わざわざ相手に塩を送るような事をしてなんの意味があるのだろうか。
考えが読めないのがかえって不気味に思える。
疑問は残るが、貰える物は貰っておいて損はない
麗華は攻撃力よりも回復アイテムであるコッペパンを取ろうとして、
USCが仕掛けた第二の罠に気が付いた。
ここでコッペパンを選ぶということは、すなわちエクスカリバーを取らなかったということ。
エクスカリバーはその気になれば回復する余裕すら残さず相手を即死させる強力な武器である。
麗華は“これしかなかった”と言ってミニ八卦炉を幽香に差し出している。
エクスカリバーを選ばず回復アイテムを取るという行為は、
すなわち麗華の支給品の中にミニ八卦炉以上の武器ないし有用な支給品が存在することをUSCに伝えてしまうことになるのだ。
(くっ! どこまでも狡猾な奴だぜ)
戦力で言えば、自分の力だけでも充分な力がある。
いくら強力とは言え武器よりも回復アイテムの方が欲しかったのだが、
自分の支給品の中身を疑われ、嘘をついたことがバレる方が問題だ。
麗華はエクスカリバーを手に取ると、“これだけで良いわ”と幽香に言った。
「いえ! それでは私の気が収まりません!」
「本当に良いのよ。丁度武器が欲しかったところだし、これだけで充分よ」
幽香はそれでも喰い下がろうとしたが、
これだけ断っている相手にさらに言うのはくどいようで、言葉を続けるのがためらわれた。
押しつけがましいだろうし、それでは失礼に当たるだろう。
(普通なら殴られても文句の言えない事をしてしまったのに、剣一つで許してくれるなんて……
なんて心の広い方なのかしら。私も見習わなくっちゃ)
★ ☆ ★
それからしばらくして。
二人は森の中を歩いていた。
麗華がただの悪魔ではなく魔王であると聞いた時は驚いたが、
先程のやり取りで麗華が悪い人物でないと知っている。
それに幽香は名前を知らなかったが、
魔王エンジェルという三人組のトップアイドルグループのリーダーでもあるらしい。
三人共麗華と同じく魔王であり、後輩にはレッドショルダーという二人組のアイドルグループもいるという。
たまに佐野美心というアイドルと共演することもあるそうだ。
アイドルをやっている人が悪い人であるわけがない。
(魔王さんがアイドルをやっているなんて、驚いたわ。
世の中には、私の知らないことがたくさんあるのね……)
一方の麗華は、エクスカリバーを片手にUSCを注意深く観察していた。
隙あらば殺害してやろうと思っていたのだが、
おかしな事に共に行動し始めてからUSCには隙しかなかった。
まさか麗華を完全に信用しているわけでもあるまいに。
また狡猾な罠でも仕掛けられているのかとあれこれ考えてはみたが、
そのような罠が仕掛けられている様子は微塵も感じない。
(やっぱどう見ても隙だらけなんだよな……。ここで殺っちまうか?)
殺気を押し殺し、幽香の背後からこっそりと忍びよる麗華。
離れた場所からエクスカリバーを放つという手もあるが、離れすぎれば流石に気付かれてしまう。
中距離であっても、魔力を込めた瞬間に距離を詰められ反撃されてしまう可能性が高い。
故に、共に行動している状況を利用し、
至近距離から魔力も殺気も介さない一閃を与えるのが上策と言えた。
(このミニ八卦炉があるってことは、もしかして魔理沙さんもここに連れてこられているのかしら?
もしそうなら早く見付けて合流しないと……。
そう言えば、魔理沙さんと友達になったのは彼女の自殺を止めたのがきっかけだったわね。
あの時は私が見下した態度をとってしまったせいで彼女を傷付けてしまって……)
背後に回った麗華の存在に、麗華が気付いている様子はない。
今ならUSCの息の根を止めることが可能だろう。
(思い出したら、なんだか不安になってきたわ。
さっき麗華さんは武器が欲しかったって言っていたけど、それって護身用ってことよね?
こんな場所に誘拐されて、自暴自棄になっているなんてことはないわよね?)
(隙だらけのお前が悪いんだ……あば)
「麗華さん」
(よっ……!?)
未だ幽香は前を向いて歩き続けており、こちらに振り返ったわけではない。
しかしまるで見計らったかのような絶妙のタイミングで幽香に声をかけられたのだ。
麗華は剣を振るう直前で動きを止めた。
止めざるをえなかった。
(まさか、気付かれたのか? 殺気は完全に消したはずだぞ! 悟られるはずが……)
「こんな状況ですが、自暴自棄になったりしないでくださいね。
きっと家に帰ることはできるはずです。希望を捨てずに頑張りましょう」
「何言ってるのよ。自暴自棄になんてなるわけないじゃない」
「……そうですよね。変なことを言ってすいません」
麗華は平静を装ってはいるが、内心激震が走っていた。
これはもう完全にこちらの行動がバレてしまっていると考えて間違いない。
自暴自棄になるなとは、“お前の考えなど読めている。それでも刃向うつもりか?”と釘を刺しているのだ。
まさか東豪寺麗華が本気で消した殺気すら感知するとは思わなかった。
恐るべし、アルティメットサディスティッククリーチャー風見幽香。
(良かった、私の思い過ごしだったみたい。
でも、いきなり変な事を言って、おかしな人と思われてしまったかしら?)
(今に見てろよ……。私もお前の力を利用してやる。あの場で私を殺さなかった事を後悔させて──)
くるっ、と幽香が後ろを振り向いた。
(──やっ!?)
しばらくの間、じっと麗華を見つめた後、幽香は何事も無かったかのように前方に再び視線を戻した。
(私の考えが……読まれたのか? それ以外に考えられねぇ……くそっ! どうすりゃいいんだ!)
(うーん……。麗華さんに特に変わった様子はないわね。
そもそも顔を見たからって相手の心が読めるわけでもないし……私ったら何をやっているのかしら。
ますます変な人と思われてしまうじゃない)
風見幽香。
八雲学園高等学校に通う、天使のように純粋で済み切った心をもつ少女である。
だが、彼女の顔は──
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こんな感じだった。
【C-06 森林/一日目・深夜】
【風見幽香@フラワーマスター伝説】
[状態]:健康
[装備]:ミニ八卦炉@フラワーマスター伝説(上着の内ポケット)
[道具]:基本支給品、究極のコペパン@ニコニコRPG
[思考・状況]
1:麗華さんと協力してここから脱出する。
2:どうか怖い人と出会いませんように。
※フラワーマスター伝説1話の履歴書に原作での経歴が載っている。
フラワーマスター伝説2話のタイトルに大妖怪とある。
これらのことから空を飛べたり弾幕を撃てたりするかもしれません。
【東豪寺麗華@MMDDFF】
[状態]:健康
[装備]:エクスカリバー@Fate/Zero
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×2
[思考・状況]
1:生き残って主催者をブチ殺す。
2:一応はUSC(幽香)に協力する。
※制限はほとんどされてません。
ぽちゃん。
E-05の川に何かが落ちた。
麗華にフッ飛ばされたカエンタケである。
川に落ちたカエンタケはぶるぶると震えだす。
この時、カエンタケの毒が川の水に溶け込んでしまった。
ルナティックきのこ狩りのカエンタケの毒である。
その毒性は幻想郷の外のカエンタケと比較にならないほど強く、清流は一気に毒の流れへと変化した。
触れるだけで危険な毒水。
そんな水が、E-05から海に向かって流れだしたのだ。
元の清流に戻るのに、果たしてどれだけの時間を要するか……。
しばらく震えていたカエンタケが、突如として川から飛び上がる。
そして野生の本能に従い闇の中へと消えていった。
ルナティックきのこ狩り。
一瞬でも気を抜けば“きのこ狩る”側が“きのこ狩られる”側になり、
一生きのこ狩りできない体になってしまう恐怖の行事。
その苛酷さはルナティック紅葉狩りの比ではない。
今宵は誰がきのこ狩り、誰がきのこ狩られるのか。
さあ、“狩り”の始まりだ。
※カエンタケ@【東方手書き】秋姉舞が会場に解き放たれました。
※E-05から川の水にカエンタケの毒が溶け込みました。
下流で川の水に触れてしまうと皮膚が爛れる危険があります。
口に含むなどもっての他です。
【カエンタケ@【東方手書き】秋姉舞】
八雲系2にて明かされたルナティック紅葉狩りなる行事。
その行事と対を成す秋の催しルナティックきのこ狩りに登場する毒きのこである。
きのこ狩りインストラクターであらせられる秋穣子様の回想にしか登場しないが、
ルナティック紅葉狩り同様ろくなもんじゃないことは想像に難くない。
( 農)<穣子様ー!!
参考動画
【東方手書き】秋姉舞
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm9179475
ルナティック紅葉狩りの参考動画
【東方手書き】八雲系2 前
ttp://www.nicovideo.jp/watch/nm5371166
【東方手書き】八雲系2 後
ttp://www.nicovideo.jp/watch/nm5371257
【ミニ八卦炉@フラワーマスター伝説】
霧雨魔理沙の所有物。
本物のミニ八卦炉で、スイッチ一つでマスパを放つ取り扱い注意な代物。
【究極のコッペパン@ニコニコRPG】
食べると戦闘不能回復+HP全快する効果のあるコッペパン。
【約束された勝利の剣(エクスカリバー)@Fate/Zero】
セイバーの所持する宝具。
ランク:A++
種別:対城宝具
レンジ:1~99
最大捕捉:1000人
由来:アーサー王の聖剣エクスカリバー
生前のアーサー王が、一時的に妖精「湖の乙女」から授かった聖剣。
人ではなく星に鍛えられた神造兵装であり、人々の「こうあって欲しい」という願いが地上に蓄えられ、
星の内部で結晶・精製された「最強の幻想(ラスト・ファンタズム)」。
神霊レベルの魔術行使を可能とし、
所有者の魔力を光に変換、集束・加速させることで運動量を増大させ、
光の断層による「究極の斬撃」として放つ。
攻撃判定があるのは光の斬撃の先端のみだが、
その莫大な魔力の斬撃が通り過ぎた後には膨大な熱が発生するため、結果的に光の帯のように見える。
威力・攻撃範囲ともに大きい為、第四次聖杯戦争時に切嗣が大型客船を緩衝材として使ったり、
第五次でビルの屋上から空へ向けて放ったりと、常に周囲への配慮が必要とされる。
黒セイバー(セイバーオルタ)が使う場合も真名などに影響はなく、
同じ銘の「約束された勝利の剣」。
ただし、使い手の魔力を光に変換、集束・加速させるという作用の影響で、
剣身や放たれる極光も黒く染まっている。
「聖剣」と呼ばれながらも黒化の影響を受け入れるのは、
この宝具そのものが守り手である湖の乙女と同じく善悪両面の属性を有するため。
聖剣というカテゴリーの中で頂点に位置し、「空想の身でありながら最強」とも称される。
ただし「天地乖離す開闢の星」や、
「熾天覆う七つの円環」(本来の7分の4の防御力)に減衰された後に受けた「騎英の手綱」には敗北している。
アーサー王の死に際では、ベディヴィエールの手によって湖の乙女へ返還された。
セイバーでなくとも魔力と真名解放さえあれば使用可能。
ただし、制限により真名解放には多大な魔力消費が必要。
【フラワーマスター伝説】
天使のように純粋で済み切った心をもつ少女、風見幽香が主人公の動画。
しかし彼女の顔は……その……アレだった。
集英社が刊行していた
月刊誌「月刊少年ジャンプ」(現在は休刊)にて連載されていた
漫画「エンジェル伝説」のストーリーをベースに、
東方Projectに登場するキャラクターをミックスした東方MMDパロディ作品である。
参考動画
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm14895428
ニコニコ大百科
ttp://dic.nicovideo.jp/a/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E4%BC%9D%E8%AA%AC
【東豪寺麗華について】
東豪寺プロに所属するアイドルで、
アイドルユニット魔王エンジェルのプロデューサー兼ユニットリーダーである。
MMDDFFの姿で登場。
MikuMikuDancenでは魔王の力を行使する麗華様を見かけたりする。
束縛の力もその時に使用した魔王の力の片鱗である。
参考動画
【第8回MMD杯本選】MMDDFF【FF再現バトル】
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm16944590
【Extreme本編】十六夜【MMDF】
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm14181936
ニコニコ大百科
東豪寺麗華
ttp://dic.nicovideo.jp/a/%E6%9D%B1%E8%B1%AA%E5%AF%BA%E9%BA%97%E8%8F%AF
MMDDFF
ttp://dic.nicovideo.jp/v/sm16944590
|sm18:[[Rated-RKO]]|[[時系列順>第一回放送までの本編SS]]|sm20:[[磁力と絶望のコンチェルト]]|
|sm18:[[Rated-RKO]]|[[投下順>00~50]]|sm20:[[磁力と絶望のコンチェルト]]|
||風見幽香|sm57:[[探索したほうが良いかもしれない!]]|
||東豪寺麗華|sm57:[[探索したほうが良いかもしれない!]]|
||カエンタケ|sm95:[[危険な参加者達【独裁者×暗殺者×狩人】]]|
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