夜間飛行~ヴィジュアルⅢ・その3~
翌日の土曜日。
靖子は縁から掛かってくる電話を今か今かと待っていた。
そろそろ、昼食の時間が来る。
昼食時はケータイから離れてしまう。
その前に電話が掛かってこないかと、靖子はやきもきしていた。
そうやっているうちに、ケータイの着信音が鳴り響いた。
靖子は通話ボタンを押して、ケータイを耳に押し当てる。
『もしもし、靖子ちゃん?』
「はい」
『ごめんなさいね、遅くなって…1時か2時ごろ、何処かあんまり人に聞かれない場所がいいんだけど…』
「聞かれないほうがいいですか?」
『私たちの力って、同じ力を持ってる人にしか理解できない力なの…誰かに聞かれて、へんな事になったら、靖子ちゃんに悪いから』
「そうなんですか…じゃあ、玄武公園なら…」
『公園?』
「玄武公園、あんまり人が来ないんです…小さいし、少し遠いから…」
『そう…分かったわ、じゃあそこに…ええと』
「あ、1時で大丈夫です」
『そう、じゃあ1時に』
「はい」
電話を切ると、靖子は部屋を出て台所へ向かう。
「あら、靖子。どうしたの?」
「あ、ママ…あのね、1時くらいに出かけてくるね」
「そうなの?何処まで?」
「えと…玄武公園」
「ふぅん…?…遅くなっちゃだめよ?」
「分かってるよ」
「ならいいわ。靖子、そろそろご飯にするから食器並べてくれる?」
「はーい」
■■■
1時を少し回ったころ、靖子は玄武公園へ到着した。
入り口のところできょろきょろしていると、背後からぽんと肩を叩かれた。
「!!」
「あ…!ごめんね、驚かせちゃったわね…」
そういって苦笑を浮かべる縁と、それを呆れ顔で眺めている仗助が立っていた。
靖子は、二人の顔を見て安堵の息を漏らす。
「縁ぃー、あんま脅かすなよなー」
「分かってるってば…ごめんね?」
「だ、大丈夫です」
深呼吸すると、靖子はにこっと笑った。
そんな靖子に微笑み返すと、縁は辺りを見回し、ベンチを見つけるとそちらを指差す。
「ま、立ち話もなんだしね…あそこに座って話しましょうか」
「あ、はい」
3人はベンチに座ると、一つ息を吐く。
そして、縁は靖子に顔を向ける。
「で、靖子ちゃんが聞きたいのは…」
「えと…後ろの、人のことです」
そういうのと同時に、靖子の背後の「それ」は姿を現した。
縁と仗助は目を見合わせ、「それ」に視線を向ける。
「…靖子ちゃん、これをあなたがなんと呼んでいたかは知らないけれど…これはね、『スタンド』っていうの…」
「スタンド…?」
首をかしげる靖子をよそに、縁は手を頭に伸ばし、何かを引っ張り出して靖子の目の前に晒した。
それは、真っ黒なトカゲだった。
「きゃっ…と…とかげ…?」
「これが私のスタンド…このとかげはね、普通の人には見えてないのよ」
「え…これも?」
初めて人型以外のスタンドを見た靖子は、不思議そうにそのトカゲを見つめる。
トカゲは「早く放せ」といわんばかりに手足をばたつかせてもがいている。
「…人の形してるのだけじゃないんだ…」
「そ、仗助の…クレイジーダイヤモンドは人型だけどね…」
「…名前があるの…?」
「あー、あるぜ。俺のも、高校に上がるころまではなかったけどよ」
「私のはメモリー、ね」
そういいながら、縁は頭にメモリーを戻す。
メモリーは定位置に戻ると、「ひどい目にあった」と言う様に少しの間ぐるぐる回っていたが、すぐに大人しくなった。
「…スタンドは、スタンドを持ってる人にしか見えないってことですよね…」
「そうなるわね」
「…スタンドも、怪我するの?」
「ぁー、そうだな…ちこっと難しい話かもいんねーけど…」
■■■
仗助が話し出そうとした瞬間、靖子は何かを感じ取って辺りを見回した。
それを見て、縁と仗助も周囲に視線を向ける。
―何者かが、自分たちを見ている…―
異様な雰囲気に、仗助は二人をかばうように立ちながら身構える。
生暖かい風が、三人の頬を撫ぜる。
公園の植え込みの影から、漆黒の毛の獣がゆっくりと現れた。
「…!こいつは…ッ」
それはこの前、靖子を襲ったあの獣…いや、真衣だった。
しかし、再びスタンドにより獣のような姿になって、三人の前に現れた。
真衣の瞳には人としての理性の輝きは無く、むし以前はまだあった自我がすべて抜け落ちたような光の消えた目であった。
その目には、「獲物」としての三人しか映っていない。
「真衣ちゃ…ッ」
「駄目だッ!動くなッ!」
「…!」
仗助が叫んだのとほぼ同時に、真衣は強く地面をけり、野獣のそれを思わせる動きで飛び掛ってきた。
「グルゥアアアアアア!!」
「ドラァ!」
獣の雄たけびと、仗助の叫びが木霊する。
縁は、靖子の視線をさえぎるように立ち、仗助と真衣の戦闘の行方を見守っていた。
「縁さんは…戦わないですか…?」
「え?」
困惑したような顔の縁に、靖子は少し首をかしげてたずねた。
「…私のスタンドは、戦闘向きじゃないの…私のスタンドは、「予知夢」を私に見せるだけ…」
「そんな…」
靖子は懸命に背伸びし、仗助のほうを見る。
完全な野獣と化した真衣は、仗助に容赦なく飛び掛り、食いちぎろうと牙をむく。
「グゥゥゥゥゥゥ…」
「ったくよー…こりてねぇの…かよッ!」
「グゥアァァァァァ!」
「ドララララララー!」
再び飛び掛ってきた真衣に、仗助は再び拳を繰り出す。
最終更新:2009年09月25日 21:50