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夜間飛行~ダークメルヒェン・その6~


「なっ…」

いきなりの音に、瑞希は驚いて起き上がり、辺りを見回す。
床に積もっていた埃が舞い、一定の間隔で付いている窓から注ぐ光できらきらと輝いている。
その舞い上がった埃の向こうから、黒い何かが瑞希に向かって飛び掛ってきた。

「グゥゥゥアアアアアア!!」
「ッ…」
「ギィィィィィ」

飛び掛ってきたそれを、ダークメルヒェンが払いのける。
空中でくるくると回転し、すたっと離れた場所にそれが降り立つ。

「グゥゥゥゥ…」
(ッ…真衣ちゃ…)

それは、ヴィジュアルⅢで獣化した真衣だった。
牙をむき出し、低く唸りながらダークメルヒェンと瑞希と対峙する。
じりじりと、真衣へダークメルヒェンが迫る。
すると-…

「ドラァァァア!!」
「なっ…!」

背後からいつの間にか近づいていた仗助が、瑞希に殴りかかる。
とっさにダークメルヒェンが瑞希を抱え、二人から離れた場所に飛びのく。
その間に、真衣がその牙で縁の腕を拘束していた布を引きちぎり、肌を傷つけないよう慎重に、するどい爪で轡を切り裂く。

「ふは…っ」
「縁…大丈夫か?」
「なんとか…」

その光景を見ると、瑞希の顔が険しくなる。
それに呼応するように、ダークメルヒェンの身にまとっている外套も段々と黒さを増していく。

「どうして…どうしてよ…どうして、邪魔するのよ!!」

その叫びと共に、ダークメルヒェンは仗助と真衣に迫っていく。
あと少しでダークメルヒェンの腕が真衣に届く。
その時、背後で違う声が上がった。

「オラァ!!」
「!?」

慌てて振り返る。
背後には誰もいない。
しかし、瑞希の目は空に釘付けにされた。
黒髪をなびかせ、少女が自分に向かって、砲丸のように飛んできていた。

■■■

時間は、突入前にさかのぼる。
靖子の思いつきで、獣化した真衣が縁の落としていった櫛の匂いをたどり、縁がいるであろう、今は使われていない古びた倉庫の前にたどり着いた。

「んー…内側から、しまってますね…」

真衣と一緒に倉庫の周りを一周して見て来た靖子は、承太郎と仗助を見上げてそう呟く。
たった一つの入り口は、どうやら内側から閉じられているらしく、押しても引いても開く気配が無い。

「ここを壊すしかないみたいだね…」
「うん…あ、そうだ!」

真衣とそう話していた靖子は、くるりと承太郎たちのほうを振り向く。
不思議そうな顔で見下ろす二人と、隣で見つめる真衣に、靖子は思い付きを話し始めた。

「えっと、一気に突入しても駄目だと思うんです…で、扉を壊したら…」

身振り手振りを交えて、靖子は突入の方法を説明していく。

「で…どうでしょう?」
「…やってみる価値はあるだろう」

そう、今まで黙って聞いていた承太郎がそう呟く。
その一声で、靖子以外の全員がこくんと頷いた。

「さ、て…とりあえず、扉をぶっ飛ばすか…」
「はいッ」
「それなら…いくぞ…ッ」

承太郎、靖子、仗助の順で倉庫の扉の前に立つ。
そして-…

「ドララララララララララァァァツ!!」
「無駄ッ!無駄無駄無…ッ駄ァ!」
「オラオラオラオラオラオラァッ!!」

三人の叫びと共に、三体のスタンドの拳が扉に叩き込まれる。
何度も叩き込まれるうちに、扉がゆがみ、轟音を立てて吹き飛んだ。
それを見計らうと、再び獣化した真衣がその中へと飛び込んでいく。
それから間をおいて仗助が真衣の後を追うように中へと飛び込んでいく。

「あ、承太郎さん」
「ん…?」

突入しようとしていた承太郎のコートを、靖子がくいくいと引っ張る。
何事かと思い、承太郎は立ち止まって靖子を見下ろす。

「たぶん、今までのパターンは読まれてると思うんです…だから」

そういうと、靖子は瑞希をまっすぐに指差し、こう告げた。

「私のこと、あの人のところまでぶん投げてくれませんか?」
「…何?」

突拍子も無い発言に、承太郎は僅かに顔をしかめる。
しかし、靖子はまっすぐに承太郎を見上げて訴える。

「それなら、あのスタンドも、あの人をガードできないかもしれないから」
「いや、それは確かにそうだが…」
「そうじゃないと、埒が明かないんです…あのままじゃ、また逃げられちゃうかもしれないし…」

そういいながら見つめてくる、真剣な靖子の目に、承太郎は軽く息を吐くと、靖子を抱えあげる。

「いいか、靖子…チャンスはたった一度きりだ」
「はい!」
「決して、相手を見失うな…そして、絶対に空中でぐらつくな」
「はい!」

子供に要求するには、あまりにも難しすぎること。
しかし、今はやるしかない。
靖子はしっかりと、瑞希を見据えている。

「オラァ!!」

その掛け声と共に、靖子は空中に投げ出された。
ぐらつきそうになる体を、ナイトアウトが抱えるように支え、アーチを描くように飛んでいく。
そして、瑞希のほぼ真上に来たとき、ナイトアウトはぐっと拳を握った。

■■■

「なんで…ッ!!?」

その、瑞希の声も耳に届かないまま、靖子は瑞希に向かってナイトアウトの拳を突き出した。

「無駄!」
「ッ…!」

一発目が、見事に頬に入る。
間髪いれずに、次の拳が瑞希へと降り注ぐ。

「無駄!無駄無駄無駄無駄無駄…ッ…無、駄…ァッ!」

落下しながら、何度も拳を叩き込む。
鼻から血が迸り、瑞希は思わずその場に倒れこんだ。

「ギィィィィィィ!!」

瑞希の下へと戻ろうとするダークメルヒェン。
しかし-…

「ドラァ!!」
「ギィッ!?」
「簡単によォー、逃がすと思うのかよ?」
「グゥゥゥゥゥ」

仗助と真衣に阻まれ、ギリギリと尖った歯を軋ませる。

「あーあ…」

不意に、倉庫の中に誰のものでもない声が響き渡った。
その声に、全員が動きを止める。

「…誰の、声だ…?」

ようやく、承太郎が口を開く。
すると、瑞希とダークメルヒェンの周りに黒いもやのようなものが這い寄ってきていた。

「やっぱり、目覚めたばっかりだと使えないなぁ…」

倉庫の置くから、誰かが歩いてくる。
確かに、自分たちしかいなかったはず。
それなら、この「誰か」はいつの間にここに来たのだろう。

「…でも、まだ使えるよね」

ようやく明るい場所に現れた「それ」を見て、縁は息を呑んだ。
今まで、夢の中に出てきていた、あの少女だ。
明るい金髪が、窓から挿し込む日差しの中できらきらと輝いている。

「テメー…誰だ…」
「…」

仗助の問いに、少女は答えず、靖子をじっと見つめていた。
一方、見つめられている靖子の胸には、不安が湧き上がってきていた。

(何…この、感覚…すごく…この子が、怖い………!)

そして、それは承太郎も感じていた。

(この、プレッシャー…まさ、か……ッ!?)

そんなことを知ってかしらずか、少女はにっこりと靖子に微笑みかける。
愛らしい微笑み。
しかし、靖子の胸の不安は段々と大きくなっていく。

「逢いたかったよ、靖子ちゃん」
「な…」
「でも、今日はもう帰るんだ」

黒いもやが、瑞希とダークメルヒェンを包み、消えていく。

「…ッ!逃がすかよッ!!」

それを見た仗助が、その少女に殴りかかる。

「無駄!」
「何…ッ」
「え!?」

ナイトアウトに似た…いや、確かに似ているが相手はほとんど黒く、そして髪も長い…スタンドが、クレイジー・ダイヤモンドをはじき返す。

「…靖子ちゃん、また会いましょうね?」

楽しげな笑いを一つ残し、少女は煙のように消えていった。
その場に残された5人は、しばらくの間呆然と立ち尽くしていたが、緊張の糸が切れたのか、靖子がその場に座り込む。

「…いったい、あいつは…」

仗助がそう呟くと、承太郎は少し、考えるような仕草をし、そして靖子を見下ろした。
靖子は、呆然としてその場に座り込んでいた。

「…いったい…どういうことだ…」

先ほど感じたあの感覚。
あれはあの男…DIOのものに酷似していた。
そして、靖子のスタンドに似た、スタンド-…

「…調査を、早く進めなければならないようだな…」

承太郎は小さく、そう呟いた。

■■■

「駄目だねぇ、ほんと」

ぐったりと倒れている瑞希を、先ほどの少女は見下ろしていた。
その目には、冷たい輝きが宿っている。
しばらくすると、瑞希を見飽きたのか、瑞希から視線をはずして空を仰ぐ。
そして、愛らしく、それでいて何処か恐ろしい笑みを浮かべて、言葉をつむいだ。

「…次は、もぉっと楽しいことしようねぇ…靖子ちゃん」

からからと漏れる笑いには、とても寒々しい響きが含まれていた…。

―ダークメルヒェン・完―
最終更新:2009年12月27日 00:41