私立仁科学園まとめ@ ウィキ

無題05

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無題05



俺の名前は重利 挙(おもりあげる)
二科学重量挙げ部二年だ。

今日はトレーニーにとって一種の到達点であるベンチプレス100kgに挑戦する。
100kg‥‥なんていい響きだ。ようやく人に自慢出来る重量にたどり着いた。なんつっても言葉でも重さが解りやすいのがいい。うん。いい。

「お、ついにやるのかアゲル?」
「あ、上糸部長。お疲れ様です」

今話し掛けてきたのは重量挙げ部部長の上糸 命(うえいと みこと)。クリーン&ジャークでは全国レベルの実力を誇る。

「あんま無理すんなよ。ていうか失敗しろケケケ」
‥‥この口の悪いのは同じく二年の中部伸「なかべしん)
チューブトレーニングの達人にしてアゲルのライバル。

かくして、仲間達に見守られながら俺のベンチプレス100kgへの挑戦が始まった。

「よし、アップはこれくらいでいいか」
ウォームアップセットを終え、アゲルはベンチから降りた。

「俺らがプレートつけてやるよ」
そういうと上糸部長と中部がシャフトへプレートを取り付ける。

先程までのアップ重量とは違う、重厚な気配が辺りを包む。
今、アゲルの目の前にあるバーベルは100kgの怪物へと変貌しようとしている。

「よし、終わったぜ。」

上糸部長の言葉に軽く頷き、アゲルはベンチへ寝そべった。アゲルの頭上には鋼鉄の魔物が鎮座している。

「思ったより‥‥重そうだぜ」

アゲルは呟いた。
ウエサカブランドのシャフトに取り付けられた、同じくウエサカブランドの青い20kgプレート四枚は予想以上の威圧感を放つ。

アゲルは深呼吸し、ゆっくりとバーベルの81センチラインに手をかけた‥‥‥

アゲルは渾身の力を込め、バーベルへ力を伝えた。
100kgの怪物はゆっくりとその身体をラックから浮かせ、その重量がアゲルの手の平へと、肩へと、大胸筋へとのしかかる。
そして肘間接をロックポジションまで伸ばし、アゲルは静止した。

ーーラックアップ成功。

第一関門は無事突破した。だが本番はここからなのだ。アゲルはこのバーベルを胸まで降ろし、再び挙げねばならない。一発挙げのそれは極限の集中力を要する。

(ここからだぜ!)

アゲルは心の中で叫んだ。そして、ゆっくりとバーベルを降ろし、再び力を込めた。

「ぁぁぁああ!」

アゲルの叫び声が部室にこだまする。その声は廊下にいた生徒が何事かと歩みを止め、体育館裏の仁科学ラブコメ担当が告白シーンのムードが台なしだと激怒するほどだった。


「頑張れアゲル!あと少しだ!」

上糸部長がアゲルへ声援を送る。
アゲルの普段のトレーニングから計算すれば、すでにアゲルはベンチ100を挙げる能力は持っていた。
だが始めての1MRでの挙上は身体にとって未知の世界である。挙げる能力は有していても、筋肉が、そして神経系が慣れていないのだ。

上糸部長はその意味を知っていた。最悪の場合アゲルは失敗するだろう。
一発挙げはそれほど難しいのである。

ましてやアゲルはパワーリフティングのルールに準じてベンチプレスをしている。アゲルの体格では胸ではなく力の小さい肩に負荷が多くかかり、それは挙上重量にも影響する。

「ぬあああああぁあ!」

アゲルはスティッキングポイントの手前で苦戦していた。
「ここだ…ここさえ越えれば‥‥!」

アゲルは焦っていた。このままでは潰れてしまう。100kgものバーベルが胸や首、頭に落下すれば、それは死を意味する。

アゲルは最後の力を振り絞り、バーベルを挙げるべく胸や肩に力を込めた。
次の瞬間、バーベルはスティッキングポイントを越え、最後のロックポジションへと移動しはじめたのだ。
だがそこまでだった。

アゲルの目の前は真っ白になり、アゲルはそのまま意識を失ってしまったのだーーー


ーーー真っ白だった。

何も見えない世界。アゲルはそこにいた。
そこは驚くほど静かで、驚くほど穏やかな空気が流れていた。そこに満ちていたのは安らぎだった。
アゲルは自分がなぜそこにいるのか理解出来ずにいたが、やがてその場所が気に入り始めた。
「……ル、起きろ!」

そこは自分の身体すら認識出来ず、感覚も無い。そのまま自分自身を構成する全てが消え去りそうだった。

「しっかりしろ!ア…ル!」

ゆっくりと、穏やかで真っ白な世界へと同化してしまいそうな雰囲気だった。

「目を覚ませアゲル!」

突然、真っ白な世界は音を立てて崩れ始めた。
一瞬にして白は黒へと変わり、誰かがアゲルを呼んでいる。
「起きろアゲル!」


アゲルは失神状態から回復し、同時に全身に感覚が蘇る。
頭痛がする。寝そべるゴムマットの冷たさが皮膚に伝わる。
アゲルは目を覚ましたのだ。

「よかった。このまま病院送りかと思ったぜ。」

「あれ…中部‥‥?」


アゲルはベンチプレス中に酸素欠乏により失神してしまったのだ。
潰れた直後に上糸部長と中部が補助に入り、そのままアゲルをベンチの横へ寝かせていたのだ。

「惜しかったなアゲル。もうちょいだったが‥」

「上糸部長‥‥すみません‥‥」

「気にすんな。一発挙げじゃよくある事だ。スクワットじゃなくベンチで失神する奴は始めて見たけどな。
普段から低レップのトレしてれば次は大丈夫だろ」

「上糸部長‥‥俺‥‥」

「どうした?

「俺‥‥重量挙げ部辞めます‥」

「なっ‥‥いきなり何言ってんだお前‥‥!?」

「辞めて‥‥パワーリフティングに専念します!!」

この瞬間、パワーリフターアゲルが誕生したのだ。

「ちょっとまてアゲル」
中部が叫んだ。

「お前ら、このスレ見てる連中が重量挙げとパワーリフティングの違い解ると思うのか?

アゲル・上糸
「えっ?」




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