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過去話、その後仁科に、夏来たる

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過去話、その後仁科に、夏来たる


「すべては方程式さ~♪」

午後0時半。仁科学園食堂。
最近流行りらしい曲を口ずさみながら僕、牧村拓人は少し混んでいる食堂の一角の席に腰を降ろした。
ちなみにこの席、陽はものすごく当たらないし、何故か机落書きだらけだし、椅子は何故か一つ発泡スチロールで出来てる等、ろくな物ではない。
本当はいつも座った席が良いのだけれど。
この前座った席はサッカー部数人が座っており、座るのは不可能。
それ以外も部活・友達グループ等のせいか埋まっており、とても座りに行く事は出来なかった。

「しかし…遅いなぁ…」

だからこそ、こんな席で頼んだ洋食セットが出来るのを待っているって訳。
…あー、けれどもこの時間ってすごく暇だなぁ。
こういう時、大抵は時間潰す事はあるんだろうけれども、今の僕にはそのすべは無し。
だから、僕はこのまま自分の番号である『15』が呼ばれるのを待ってたのだったのだが…



「よっ拓人」

僕の下の名前が呼ばれた。
呼ばれた方向、右を見ると、見慣れた姿がそこにあった。
身長は一般から見ても大きく、軽く男子の平均身長を越しているが、何も200cmあるという訳ではないし、少し目つきは悪いものの、何故か髪が赤いという以外は、そこらに居そうな、普通の男子高校生だ。

「あ、『たかなし』君…どうしたの、一体?」

…けれど唯一あからさまに挙げるとすれば、その名字。
僕の「牧村」なんてのはありふれた名字なのだが、彼は「小鳥が遊ぶ」と書いて『たかなし』と呼ぶ。
正直言って凄い名字である。
けれど本人曰く、初対面の人と話す時、相手が名字が読めずに苦労したと語っていたので、牧村、という平凡な名字に感謝しなくてはいけないのかもしれない。

「あのな、今日は和穂はどっか行っちまって…そんで暇だからここに来たら」
「僕が居た、と」
「…まぁそういうところか。お前は?」

切り返す様に、僕に尋ねる小鳥遊君。
その小鳥遊君の表情からは、確かに鷲ヶ谷さんが居なくなって、苦労してるのだろうな、と感じ取れた。
…結構大変なのかなぁ。
って考えてないで質問に答えないと。

「あ、僕は今学食が来るのを待ってるんだけど…」
「ふーん、学食ねぇ」

何処か遠くを見る様に、小鳥遊君は目を逸らす。
そして、頭をぶっきらぼうに掻きながら、面倒くさそうに言葉を続けた。

「俺、そういうの嫌なんだよなぁ」
「どうして?」
「昔外国居た時期あってさ、その時の給食で腹壊してな」
「…え?ちょっと小鳥遊君?今なんて言った?」
「は?腹壊したっつてんだろ?まぁアメリカの飯なんて上手い不味いの差が激しいからな」
「はいそこ!え、何、アメリカってどういう事!?」



…まずい、我ながら結構慌ててるって分かる。
小鳥遊君とは色鉛筆の時以来の付き合いだけど、そんなの初めて聞いたし…
じゃあいわば小鳥遊君は帰国子女という事になるじゃないか。
なんという新事実…

「あ、そっか…俺が帰国子女って事は高校で話すのはお前が初めてだわ」
「え、他には話してないの?」
「あぁ。中学の時、自己紹介で迂濶に話して周りから質問攻めにされたトラウマがあるしな」
「あー…」

確かに分かるかもしれない。
外国帰りの同級生居たら、聞きたい事は聞くし、本人の意向を無視してクラスの有名人になる訳だ。
…これは、帰国子女が必ず通る道なのだろうか。
そう考えたら、トラウマになるのも分かるなぁ。

「てかさ、どうして外国に行ったの?仕事の都合?」
「…いや。色々あってな」
「色々?」

僕が相槌を打った瞬間、小鳥遊君は改めて僕の方をやけに鋭くした目で向き、口を開いた。

「理由、聞くか?」
「えーと、出来れば…」
「長いぞ?」
「別に良いけど…」
「…あー、分かった。お前だから話すわ」

…重大な事なのだろうか?
間違いなく、その言葉からただの転勤等では無さそうだった。
僕は口を開きかけた。
もしかすると、今から僕は小鳥遊君の過去を探る事になるんじゃないか、と。
けれど、小鳥遊君への制止の言葉は出ない。
少しばかり、探求心があった。
そのしょうもない探求心が、僕の制止を食い止めたのだ。

「そうだな、あれは小学生の頃―――」

そして、そのまま小鳥遊君から言葉が発せられたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆


…まぁ少し自分の事について話すとな、
俺昔から親父も母さんも外国行っててさ。
姉さんも同じ風に外国の大学行って、俺一人だけ日本に居たんだよ。
親父も母さんも、最初はどっちかに来いって言ってさ…あ、別居じゃないぞ。勤めてる場所が違うだけだ。
でも純正な日本人の俺が、いきなり違う国に行っても慣れないし、対応力無いだろうから。
仕方なく日本に居させた訳よ。

「…それで?」

んで一人で住む訳にもいかんし、母さんの親戚のとこに居させてもらって。
いや、別にその親戚の人が悪いって事じゃないぜ?
ただな、近所に一人「ゆり」って子が居たんだ。
俺、こんな事情あってあんま友達居なかったんだけど、その子は俺に優しくしてくれてな。
毎日彼女とは遊んだもんさ。
そりゃあもう毎日色々遊んだ。
んで、ガキの俺からしたら、ゆりは俺の唯一の友達だったって訳よ。

「小鳥遊君、案外大変だったんだね」

ま、そーゆー事になるな。
まぁそんで話戻すとな、ゆりは元々ピアノが上手くてな、俺にも度々聞かせてくれて。
ゆりんち行ったらほぼ毎回ピアノ弾いてくれてさ、それが楽しみだったんだよ。
俺がその日の前の日に聞いた流行りの曲でも「いいよ」ってそりゃあまた笑顔で言ってくれたんだよな。
もう今でも思い出せるんだから、良い笑顔だったんだろう。
だがまぁ…突然だったんだ。

「突然?」

…俺さぁ、車にはねられたのよ。

「…え?」


ダンプカーっつーの?あれにな。
なんかわざわざ仕事ほったらかして帰ってきてた親父と母さんいわく、二週間程生死の境をさ迷ったんだよ。
最悪死んでた訳だな。ははっ。

「わ、笑いながら話す事!?」

話す事なんだから仕方ないだろ。
過去なんてそんなもんだ。
…んで、奇跡的に復活はしたものの、体力がかなり落ちちまったり、右手が動かなくなったりと散々でなぁ…。
体力に至っては、学校のマラソン大会で8キロ道を朝始七時に始まって昼すぎに帰ってきたんだからな。
まぁその時もトラウマだよ。

「小鳥遊君…」

おっと、同情なんてすんなよ拓人。
別にこうやって話せてんだ。笑い話だって考えれば、どうでもいいだろ?

「…そうだ…ゆりさんは、どうなったの?」

…その、ゆりだけどな。
皮肉な話、あいつと夏祭りに行く待ち合わせ場所の道の途中にはねられたんだよ。
だから、あいつはあいつなりでそりゃあ罪悪感があってな…。
俺に謝りに来た後では、もう遊んでくれなくなったし、俺が親父に休養と体力取り戻す為にアメリカ行って、帰ってきたらゆりはどっか行っててな。

「…」

だからもう、どこで何してるか分からないって訳。
でも、今でもあの綺麗なピアノの音を奏でていてほしいっていうのを、心の片隅に思ってるんだけどな。

◇◆◇◆◇◆◇◆




「…以上だ」

ふぅ、と一息ついて小鳥遊君は話を終えた。
食堂は賑やかさを増し、更に人が増えていく中、僕と小鳥遊君の間には、どこか沈黙の空気が出来る。
何か話そうにも、どうにも口が動かない。
このままこの雰囲気が続くのかと思いきや、

「あ、そうだ」

と小鳥遊君が思い出した様に言った。
僕はまた小鳥遊君へとその耳を傾ける。

「和穂だけどな」
「鷲ヶ谷さん?」
「ゆりに似てるからつるんでるって訳でもねーからな?」

…漫画でよくあるよね、そういうの。
でも、なんでわざわざそんな事を…?
「本人にゃあ申し訳ねぇがゆりはもう『過去』だ。少なくとも、俺の中だったらな。
でも和穂は今『現在』の人物だ。その和穂に『過去』を当てるなんて、俺には到底出来ん」
「…鷲ヶ谷さんには、その過去、言うの?」
「言わねーよ。俺が言っても、あいつはお構い無しに走り回る。だから和穂には言わない」

言い終わった小鳥遊君は席を立ち、少し背伸びしてから僕へと言う。

「拓人、俺の話冗談みたいだったろ?」
「…まぁ…」
「だから、冗談話だと思って頭の片隅にでも置いといてくれ」
「え、あ…うん」
『雄一郎ーっ!!』
「ん?和穂かあのちっこいの…」

小鳥遊君はそう呟いて鷲ヶ谷さんらしき藍色のセミロングの少女を見た。
間違いなくそうなのだが、小鳥遊君、もしや目が悪いのだろうか?

「…んじゃーな拓人。俺行くわ。また教室で」
「あ、うん。じゃあね。小鳥遊君」
「おうよ…和穂おおおおおおおおおおっ!どこ行ってたんだてめええええ!…」
ゆっくりとフィードアウトする様に鷲ヶ谷さんの所へ帰っていった小鳥遊君。
…でも、こうしてみると、案外気にしてなさそうだ。
今、随分と楽しそうな小鳥遊君を見ると、彼からしたら過去など笑い話か冗談でしかない。
それほどまでに、小鳥遊君は今を楽しんでるんだろう。

『15番ー!洋食セットとコーヒー出来ましたー!』
「あ、はーい!」

だから僕もこの束の間の昼食を楽しもう。
それが今僕が出来る事なんだ。

「…未来は無いんだと恐れてた~♪」

流行りの歌を口ずさみながら、そろそろ夏に入るという中、僕は昼食を取りに行った。

◇◆◇◆◇◆◇◆

「もうすぐ夏だな…」

夏。
日差しが強くなり、暑さが増す、四季の一つ。
もう前に入学式を終えたばかりだというのに、なんでこんなにも時間が早く感じるのだろう。
男は第一ボタンを開け、少しでも涼しさを確保しようと必死だ。

「どうしてこんなに夏ってのは暑いんだろうなぁ」
「知らないわよそんな事…」

そしてそれに応じる女。
男への対応はどこかつまらなそうだったが、それはいつもの事なのだから仕方ない。

「ダイヤモンド☆ユカイさんなら知ってるかなぁ」
「…ダイヤモンド☆ユカイさんって、人だったの?」
「お前は三ヶ月間何してたんだ!」
「あんた相変わらずうるさいわね…」

はぁ、とため息をつく女に、男はそんな事をお構い無しに、話を続ける。

「大体なぁ、お前はダイヤモンドさんの凄さを知らないんだ!」
「知ったこっちゃないわよそんな事!」
「んだとっ!?」

…こうして、春は終わり夏が始まる。
ここ、仁科学園で繰り広げられる物語も、まだまだ終わりを迎えない。
だからこそ彼等は物語を綴るのをやめない。
今日も。明日も。

季節【春】終わり。


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