adventure of dashing street
110 名前:adventure of dashing street ◆NN1orQGDus [sage] 投稿日:2009/07/26(日) 14:01:57
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傷付いたリノリウムの床に細長い影が伸びる。
夕陽に照らされた教室は朱色に染まり、掃除当番がおざなりに掃除をした教室は乱雑に机と椅子が並べられている。
影の主は、窓辺で家路を急ぐ生徒達を見下ろしていた。
時計は午後五時半を指している。
バス通学である彼女は何するわけでもなく、こうやって時間の到来を待つのがいつもの日課だ。
友達とお喋りするのもよいけれども、一人でいるのが好きな彼女は、人とは違う雰囲気を身に纏っている。
四月にしては冷たい風が教室に入り込むと、空を見上げた。
夕陽に照らされた教室は朱色に染まり、掃除当番がおざなりに掃除をした教室は乱雑に机と椅子が並べられている。
影の主は、窓辺で家路を急ぐ生徒達を見下ろしていた。
時計は午後五時半を指している。
バス通学である彼女は何するわけでもなく、こうやって時間の到来を待つのがいつもの日課だ。
友達とお喋りするのもよいけれども、一人でいるのが好きな彼女は、人とは違う雰囲気を身に纏っている。
四月にしては冷たい風が教室に入り込むと、空を見上げた。
いつの間にか厚い雲が蓋のようにすっぽりと創発市を覆って西日を隠し、湿気た風が彼女の膝を疼かせた。
「……明日は雨かな?」
鈍い痛みが彼女にそう告げる。
彼女――小菅まことはかつて将来を期待されたスプリンターとして陸上部に在籍していたが、怪我で輝かしい将来を絶たれた。
中等部、高等部と足掛け四年打ち込んだ短距離走が彼女に残したのは膝の醜い傷跡だけだ。
スポーツをまともに出来ないのに体育科にいるのはつらい。
二年になるときに普通科に編入したが、環境が変わっても膝の傷だけは変わらず彼女に付いて回った。
まことはそれが嫌だった。
中等部、高等部と足掛け四年打ち込んだ短距離走が彼女に残したのは膝の醜い傷跡だけだ。
スポーツをまともに出来ないのに体育科にいるのはつらい。
二年になるときに普通科に編入したが、環境が変わっても膝の傷だけは変わらず彼女に付いて回った。
まことはそれが嫌だった。
「なにやってんのさ、まこと。黄昏時だからって一人で黄昏ちゃって」
聞き覚えのある声に振り替えると、顔見知りの先輩―――高畑かなめがドアの向こうにいた。
「別に? 黄昏てるってわけじゃないよ」
幼なじみの気安さ故か、ぶっきらぼうな物言いで返すと、かなめが笑いながら歩み寄ってきた。
幼なじみの気安さ故か、ぶっきらぼうな物言いで返すと、かなめが笑いながら歩み寄ってきた。
「昔の明るいまことも良いけれど、今のひねたまことも悪くないね」
「人を玩具みたいに言わないでくれない?」
「怒らない、怒らない。誉めてるんだから」
「かなめの誉め言葉って誉めてるように聞こえない」
構わずに踏み込んでくるかなめに、まことは不機嫌そうに舌打ちをした。
「とこれでさ、考えてくれた? 部活の件」
「新しく作るって話? 第二文芸部。今ある文芸部で十分だと思うけど」
「ダメダメ。部長の霧崎は悪い奴じゃないけど、あすこは私には向かないの。私は文芸を語るんじゃなくて、文芸を作りたいのさ」
だから独立するのさと続けて、かなめは相好を崩した。
「なんで誘うのかが解らない、私には」
かなめの笑顔をを直視出来ずに、まことは窓の外に視線を移す。
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「なんでってねえ……女の勘って奴?」
「槇さんみたいなこと言うね」
かなめの言葉に、もう一人の知り合いが浮かんだ。
槇美玲。かなめと同じくまことの幼なじみで、スタイルの良さと作りの良い顔、穏やかなお日様みたいな暖かい雰囲気で学園内でも一寸した有名人だ。
「そりゃあ、槇とも付き合い長いしね。最近裏切られたけど」
裏切られた。不穏な言葉にまことは眉を潜める。
「あんにゃろう、私に黙って彼氏作ってやんの。裏切りだよ、これは」
怒りを露にするものの、おどけて肩を竦めるかなめに、少し安心した。
「あのねえ、私はかなめの漫才に付き合うほどひまじんじゃないの」
「ま、兎に角さ、考えるだけ考えておいてよ。名前だけの幽霊部員でも良いし。積極的に参加してくれるともっと良いんだけど」
「考えるだけならね」
イエスともノーとも取れる曖昧な返事であっても、それに気を良くしたのかかなめはリズミカルな足取りで去っていった。
「……台風みたいなヤツ」
小声の呟きは風に乗って、遠く、遠くへ。
再び窓の外を見るとザラザラと雨が降り始めていた。
大粒の雨が激しく窓を叩きつけている。
雨音は教室の中でこもり、耳鳴りでもしているかのような錯覚をもたらしつつ、単調な時間を引き延ばしていく。
物思いに耽る。
うつろな瞳はどこでもない宙の一点を見つめ、ただぼんやりと風景を写している。
再び窓の外を見るとザラザラと雨が降り始めていた。
大粒の雨が激しく窓を叩きつけている。
雨音は教室の中でこもり、耳鳴りでもしているかのような錯覚をもたらしつつ、単調な時間を引き延ばしていく。
物思いに耽る。
うつろな瞳はどこでもない宙の一点を見つめ、ただぼんやりと風景を写している。
いつの間にか、膝の疼痛が消えていた。
「第二、文芸部ね」
やることもなければすることもない。
いまのまことには近道なんて消え失せて遠回りの道しかない。
どうせだったらとことん遠回りするのも言いかもね、と嘆息する。
いまのまことには近道なんて消え失せて遠回りの道しかない。
どうせだったらとことん遠回りするのも言いかもね、と嘆息する。
そろそろ季節代わりの風が吹くだろう。 まことは立ち上がると右足を引き摺るように、かなめの影を探して歩き始めた。
――to be continued on the next time.