その悪夢は悲鳴と共に幕を開けた。
血で描かれた不可思議な紋様。
その中心に横たわる顔を潰された死体。
誰が何のためにこんなことをしたのか。
その謎を解く手がかりを探しているうちに一つ、また一つと死体が増えていく。
◇
諜報機関リベリオンは連続殺人事件の犯人を特定した。
名をファイス。
最愛の人をサイレンスに殺された不運な青年だった。
喪失感に打ち拉がれていた彼が突如として凶行に走った理由。
それは一見慈悲深い男の言葉だった。
「然るべき儀式をやり遂げればあなたの愛する人は帰ってきますよ」
怪しくも甘美なる言葉は傷心の青年を狂わせる毒だった。
心無い嘘と疑う思慮深さを奪い去られたファイスは暗き道を走り続ける。
その先に愛する人の笑顔があると信じて。
◇
「これで彼女が、サクリが帰ってくる……!」
そう叫んだファイスの前に現れたのは赤黒い肉塊だった。
呆然とするファイスに誰かが告げる。
「ご苦労様でした」
労いとも嘲りとも取れるその一言がファイスの耳に届くことは無かった。
何故なら彼は、もう──
◇
「出来映えはまぁまぁ……といったところですかね」
ファイスを一飲みにした肉塊を見上げる男の名はヨハネ・ティアレス。
非人道的な行いを咎められて研究機関アル=アジフを追放された研究者である。
「では次の段階へ──行く前に」
肉塊の傍から数歩離れ、ヨハネはくすりと笑う。
「厄介者の相手をしましょうか」
◇
悪夢と呼ぶべき連続殺人事件は実行犯であるファイスの死をもって幕引き、ということになった。
この事件の黒幕であるヨハネも、ファイスが儀式をやり遂げたことで出現した肉塊も、
軍事組織竜の心臓との戦闘中に行方を眩ませてしまったせいである。
残されたものは未解明の謎と後味の悪さ、そして犠牲になった人々を悼む涙だけ。
最終更新:2023年09月12日 19:54