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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第09話

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だれでも歓迎! 編集
「流石は古女王陛下。ボクら裏界の魔王が束になっても敵わなかったアンゼロットを、こんなにも簡単に捕らえてしまうなんてね」
「何せ、エルヴィデンス様は裏界に封じられなかったくらいやからなぁ。八大神がわざわざ別個に封じただけの事はあるっちゅうか」

 忘却世界・ラグシア城跡を眺めつつ、詐術長官カミーユ=カイムンと告発の男爵ファルファルロウは言葉を交わす。
 彼女らの周囲には、盟友の魔王が数人と、最近開発した侵魔天使が数十体、そして数千体の侵魔が控えていた。

「エルヴィデンス様は、あまりにも有能過ぎた。だからこそ、八大神が直々に、極めて強固な封印を施した」
「そんでも、敵から手駒を分捕ってアンゼロットとイクスィムを第三世界から追い出したり、エルンシャを倒して世界を奪ったんやか
らトンでもない方や。ルー様はイクスィムを部下にしても、そんでも、こっちの世界を奪えへんかったっちゅうのにな」
「でもさ、ボクらに何の話も無く、コッチの事に手を出すのはあんまりだと思わないか? これじゃ、裏界の面目は丸潰れだよ」

 ベルの元に潜ませていた密偵から、エルヴィデンスの計画を聞いたカミーユ=カイムンの動きは素早かった。
 数名の盟友とともに即座に軍備を整え、アンゼロットの捕らえられている忘却世界に向かったのだ。
 そして、新たな冥魔王が柊を打ち据えている間に忘却世界を完全に包囲した。蟻の這い出る隙間もない、完璧な布陣で。

「そんで、エルヴィデンス様がお越しになられたら、どないすんでっか、カミーユはん?
 今のエルヴィデンス様ご本人の戦闘能力は本来の0.7%未満に制限されてるっつー話でっけど、そんでも公爵並みの力はあるやろ
ーし、魔王級の部下だって、ぎょうーさんおるやろーし。そもそも、こんだけの戦力じゃプリギュラ一体にだって勝てまへんで?」
「なんで、ボクらがエルヴィデンス様と戦わなきゃいけないのさ? あの方は味方じゃないか」
「ほな、どーするおつもりで?」
「頭を下げて、手柄を売ってもらうのさ」
「は?」

 困惑する告発の男爵に、詐術長官は滔々と語る。

「エルヴィデンス様は本来なら、他人の助けなど不要な方だ。本来なら、本来ならば、ね。
 けど、今は違う。
 第三世界で、ボクら裏界の魔王のソレとは比べ物に成らないほど強力な封印に縛られてる今のエルヴィデンス様は、自分一人で総て
を行う事は出来ないし、手駒だって足りはしない。
 だから、今のエルヴィデンス様は、有能な手駒をとてもとても欲しがっている筈なのさ。
 そこでボクらが共闘を申し出れば、そして、ボクらが有能だと見せてやれば、きっと厚遇してくれるだろうさ。
 つまり、この戦力は、アンゼロットを取り返しに来たウィザード達を、ボクらが撃退するためのものなのさ」
「けど、エルヴィデンス様には、そんな手助けは不要やないやろか?
 さっき、ダンジョンの奥から、瘴気の混ざった、ごっつぅでっかいプラーナを感じましたで?」
「今回は不要だろうね。今回は。だけど、ボクらがそこそこ使えると思ってもらえさえすればいいのさ。
 ボクはエルヴィデンス様に、アンゼロットを捕らえたのはボクらだって、宣伝させてくれるように頼むつもりさ。
 そうすれば、あの蝿の権威は地に堕ちる。最早、取り返しがつかないくらいにね。もう誰も、あのぽんこつに従ったりするもんか。
 そして、ボクらが、エルヴィデンス様の代理人として、ボクらが裏界を支配するのさ!」

 両手を広げて胸を張り、陶酔した様子で宣言する詐術長官に、告発の男爵は困ったような笑みを浮かべて水を差した。

「けど、相手はベルはんやからなー。例えバックにエルヴィデンス様がついてても、まったく気にせんで後先考えずに目の前の気に食
わん相手を潰そうとするんやないやろか?」
「だろーね」

 盟友の懸念をあっさりと肯定した詐術長官は、しかし、自信に満ちた態度で対策を説明した。

「表向きにはプリギュラか、エルヴィデンス様の直属の配下の誰かをトップに据えて実権だけもらうつもりさ。
 それに、ボクは第五世界の冥魔王ヘルクストーとも手を組んでる。いくら、あの蝿がぽんこつでも、正面切ってルー様に喧嘩を売る
のは控えてたんだし、世界征服を済ませた古代神と冥魔王を同時に敵に回したがるほどバカじゃないだろ?
 もしも、本当にあの蝿が、本当に、もう目も当てられないくらいぽんこつだっていうのなら、エルヴィデンス様かヘルクストーに討
ち取ってもらえばいいさ。アイツはもう、裏界だけじゃなく、古代神陣営全体にとって有害無益な存在なんだ。
 それが今まで切り捨てられていなかったのは、ただ、相手にするのも面倒臭かっただけさ。
 でもね、あの蝿が身の程知らずにも噛み付いてくるようなら、エルヴィデンス様やヘルクストーだって容赦はしないだろうさ」
「なるほどー。ほんなら、まずはエルヴィデンス様にウチらが役に立つってところをお見せせなあきまへんなー。
 お。ウィザード達も来たみたいやで」
「ボクの軍勢相手にカワタナ級三隻とレーヴァテイン級一隻か。舐めてくれるじゃないか、ロンギヌス」



「赤羽代表代行。アンゼロット様救出部隊、裏界軍と交戦に入りました」
「はわ。分かったわ」

 ロンギヌス・コジマメの報告を受け、くれはは重々しく頷いた。
 モニターで忘却世界の様子を覗っていたくれはは、カミーユ=カイムンの軍勢が忘却世界を包囲したのを見て第三世界救出部隊の一
部を派遣した。
 アンゼロットもコイズミもいない今、ロンギヌスの指揮能力は大きく落ちている。部隊の編成も途中だった。
 苦戦は免れないだろう。
 それでも、これを見過ごす訳にはいかなかった。
 忘却世界内で何が起きているかは分からない。救援に駆けつけようにも、今から百階ダンジョンを踏破して間に合う筈もない。
 自分に出来る事は少ない。だが、何も出来ない訳じゃない。なら、出来る事をするだけだ。

 だがしかし・・・・・・

「完全に忘れてたわ。裏界の魔王は全部が全部、ベルみたいな奴じゃないってこと・・・」
「ええ。ですが、それこそがベール=ゼファーの真に恐ろしいところです」

 臍を噛むくれはに、コジマメが自分の見解を述べた。

「彼女はウィザードから、裏界への危機感を奪ってしまいます。
 彼女と戦っていると、裏界と戦う必要を感じなくなってしまいます。
 どうせ勝手に自滅するんだから、ほっといてもいいじゃないかと思ってしまうのです。
 そして、それこそが、裏界第二位の魔王“蝿の女王”ベール=ゼファーの遠大な計画なのでしょう」



「お待ちください、アンゼロット様!」

 エンディヴィエ封印の間に、ロンギヌス・コイズミの声が響く。一度は昏倒したものの、どうにか意識を取り戻して床に倒れたまま
状況を覗っていたのだが、流石にこれを見過ごす訳には行かなかったのだ。アンゼロットに、柊を傷付けさせる訳にはいかないのだ。
 まだ、目がよく見えないまま、コイズミは手探りでアンゼロットに近付きつつ必死で訴えかけた。
 アンゼロットの動機は嫉妬だ。自分は家族を救えないのに、柊は救える。それが、許せないのだ。

 ならば、家族を救えばいい。

 冥界の瘴気に理性を削られたアンゼロットは失念しているが、情報共有魔法により膨大な知識を得たコイズミは、まだエルンシャを
救える事を知っていた。

「お忘れですか、アンゼロット様? エルンシャ様は、どれ程細かく砕かれようと欠片を集めれば復活するという事を!」
「! そうであった!」

 気付かれたか、と。古女王は胸の内で呟いた。

 此れだから人間は油断出来ん。
 単独では酷く脆弱で愚かで非力な存在だが、仕えるべき主を(其れは自分の信念である場合も在りうる)、従うに足る指導者を見つけ
た人間は、其の微力の限りを尽くして如何なる存在にも立ち向かう。
 そして、在る時は塵を集めて山と成し、また在る時は蟻の一穴を持って巨大な堤防を壊すのだ。

(エルンシャにアンゼロットを攫わせたとき、アンゼロットはこの者に自分の記憶の一部を分け与えておったが・・・・・・まさか、あのと
き打った一手が、このようなところで実を結ぶとはな。つくづく、油断の成らん奴よ・・・・・・)

 折角、此処まで追い詰めたというのに。

 エルンシャに逢わせて罪悪感を煽り、其の心の隙を付いて、其の精神に干渉したのに。

 幻夢神から切り離し。
 砕けた心に付け込んで。
 冥界の瘴気で理性を削り。
 柊蓮司との違いを突きつけて。

 漸く此処まで、其の精神を侵食したというのに。
 あと少しでアンゼロットを、冥魔王に変える事が出来たのに。
 古代神の精神破壊能力によって、完全な操り人形に出来た筈だったのに。

 どうやら、賭けをしなければ成らないようだ。

 古女王は覚悟を決めた。尤も、2回賭けて、どちらかに勝てば充分だが。

「アンゼロット。エルンシャは余りにも細かく砕かれ過ぎた。其の侭では復活出来んぞ。
 誰か、適当な依り代が必要だが、守護者の器に成れる者などそうは居らん。
 守護者の力に耐え切れず、魂は消し飛び、体が破裂して終わるだけだ。誰を器にする?」
「俺がなる」

 闇姫の予想通り、柊が即答して床から起き上がった身を起こした。

「・・・・・・アンゼロット。俺が・・・・お前に、してやれる事は・・・・・・これだけだ・・・・・・・」
「自惚れるな、柊蓮司! 貴様などに、守護者の依り代が務まるものか! 思い上がりも大概にしろ!!」

 罵倒する黒髪の冥魔王の色の違う双眸を。瘴気と憎悪に濁った瞳を。
 柊は真っ直ぐに見つめ、静かに、穏やかに言葉を継いだ。

「さっき、あっちの黒羽根女にも言ったんだが・・・・・・俺は、自分が守りたいものしか守らねぇ、その為なら世界中を振り回しても一切
気にしねぇ、身勝手な男だ。んで、俺が守りたいものってぇのは『世界』と『仲間』だ。
 俺はお前が大嫌いだけどよ。それでも、性格のひん曲がった憎たらしいお前も、そんなお前なんかに惚れ込んだあの物好きな莫迦も。
 俺が守りたい、大事な、大切な仲間なんだよ」
「ふん! そんなに死にたいなら死なせてやる。エルンシャ様が蘇るなら、貴様の事など最早どうでも良いからな」

 優しい笑みを浮かべる柊から、黒髪の冥魔王は不愉快そうに顔を背けて毒ついた。

「柊様! 生贄になら私が!」
「まあ、待てよ、コイズミ。俺だって、別に死ぬつもりなんかねぇよ。
 それに、依り代ってのは穢れ無き乙女がなるもんだろ?
 ちょうど今、龍之介に貰った九天玄女の血が暴走して、女になっててな。
 俺はガキんときから神社に入り浸ってるコトもあるし、お前よりも、俺の方が適任だと思うぜ?」
「柊様・・・・・・・・」
「俺がダメだったら、そんときは頼むわ」
「・・・・・・・畏まりました」

 未だに霞んだままの目では、穏やかに微笑む柊の澄み切った瞳を見る事こそ適わなかったものの、その声に強い意志を、固い決意を
感じ取り、コイズミは自らの敬愛する英雄を信じた。

「・・・・・柊様。私は、柊様の行いが間違っていたとは思いません。柊様は、人として当然の事をしたいとお思いになられていただけの事。
 その為に、柊様は、他人には真似の出来ない事をしてきたのです。
 誇りを持ってください。総てを救う事は誰にも出来ませんが、柊様は、人間の中では、誰よりも多くの命を救ってきたのです」
「人である事を捨てていれば、より多くの命を救えていたのだがな」

 柊を励ますコイズミの横から闇姫が口を挟み、柊の生き様を否定した。

「柊蓮司。お前には、神になる道も在ったのだ。比喩的な意味でも、言葉どおりの意味でも、な。
 若いウィザード達は、お前の実績を崇拝している。
 アルティメット柊と手を組んでいれば、世界の守護者すら超える力が手に入った筈だった。
 お前が持っている力を存分に活用していれば、ウィザード社会を統一し、裏界を滅ぼし、もっと大勢の命を救えた筈だったのだ。
 なのに、お前は自分が人である事に拘り、救える筈の命を見捨ててきた。
 お前は神ではなく人でありたいと願っていようが、お前の犠牲者の遺族はお前をこう呼ぶのではないかな? 『人でなし』、と」

 闇姫の放つ言葉の刃が柊の胸を貫いた。

「お前の敵は裏界の魔王。本来ならば、人の身で抗するなど不可能な相手だ。奴等から世界を守るには、人のままでは務まらん。
 本当に、少しでも多くの命を救いたいと願うなら、まず最初に、何らかの意味で人である事を捨てねばならん。
 そうではないか、ロンギヌス? お前達は、そうやって世界を救って来たのではなかったか?」
「それは―」

 闇姫の舌鋒が、今度はコイズミに向けられた。

「お前達ロンギヌスは、世界を守る為に何らかの意味で、人である事を捨てた筈だ。
 或る者は、肉体的な意味で人である事を捨て、強化処置を受けた。
 或る者は、精神的な意味で人である事を捨て、魔王の転生体を覚醒前に手にかけた。
 或る者は、社会的な意味で人である事を捨て、神として振る舞い、人々を導こうとしている。
 人のままでは、世界を守れぬ。世界を守る為には、人間である事を止める必要があるのだ。だが、この男は―」
「柊様は・・・・・『人間』です。良い意味でも。悪い意味でも。何処までも『人間』です。『人間』のままで、戦い抜いてきました」

 闇姫の弁舌を遮り、コイズミが後を引き取った。

「柊様は、どんなに困難な時でも、常に『人間』である事を貫いてきました。だからこそ、私は柊様を―」
「いや、いいんだよ、コイズミ」

 コイズミの反論を、今度は柊が遮った。

「世辞でも、褒めてくれて嬉しいぜ、コイズミ。けどな。俺は『少しでも多くの命を救いたい』なんて、そんな大それた事はちっとも
考えちゃいなかったんだ。ただ、目の前にいる奴だけを救えりゃ、他の事はどうだって良かったのさ」
「・・・・・・それでも、我が身を省みず、常にそうしてきた柊様の行いは、到底真似の出来るものではありませんよ」
「くすぐってぇなぁ。・・・・・・ところで、コイズミ。さっきのガキはどうしたんだ?」
「はっ! 申し訳ありません、柊様。あの者は、仲間が来て攫っていきました」
「そっか。仲間が連れてったんなら安心だな」

 一言もコイズミを責めることなく、柊はただ、幼子の身だけを思い、安堵して。
 コイズミもまた、幼子を刃にかけずに済んだ幸運に感謝した。

「もういいか? 儀式を始めるぞ」

 柊達が話している間に広間の魔法陣を書き換えた黒髪の冥魔王が、何の感慨も含まぬ声をかけた。



「我が元に集え、六星の力よ・・・・エミュ、ルクセクト、ネイ、シェイクリ、イクストラ、アーハルト・・・・」

 書き換えた巨大魔法陣の中心に柊を立たせて儀式を始めた冥魔王を、闇姫とコイズミは息を飲んで見守った。
 エルヴィデンスにとって、これは一回目の賭けだ。儀式を妨害するのは簡単だが、それではアンゼロットを味方に付けられなくなる。
 柊蓮司が、エルンシャの力に耐えかねて破裂するのを期待するしかないのだ。
 尤も、仮にエルンシャが復活したとしても、まず最初にアンゼロットの心身を侵食する瘴気を浄化し尽くし、其処で力を使い果たす
事だろう。だから、其の隙を狙えば良いのだが・・・・・弱体化しているとはいえ、世界の守護者二人を同時に相手取るのは危険過ぎる。

(認めねば成るまいな。今回の計画は、余りにも杜撰過ぎたと)

 だが、より確実な作戦を行うには時間も手駒も足りなさ過ぎた。
 よもや、4億の侵魔を従えるベルがアンゼロットの足止めも出来ないなどとは思いも寄らなかったのだ。
 遣るべき事はやった。今迄の遣り取りで、柊蓮司の心は打ちのめされている。そのダメージが、儀式の失敗に繋がれば良いのだが。

 アンゼロットの呼びかけに応え、広間中に飛散った星の欠片が柊の身体に集まっていく。
 圧倒的な力が心身に流れ込み、意識を押し流し、身体が弾けそうになる。

   ここまでか? ここまでなのか? ここで・・・・俺は・・消える・・の・か?

 柊が覚悟を決めたとき、不意に、暖かく優しく力強い誰かが、その魂を掬い上げた。

   父・・・さ・・ん・・・・?

 包容力に満ちた、その感じは・・・・・・・・幼い頃、父親に抱き上げられたときの記憶を蘇らせた。
 目を開けた。黒髪の美女となったアンゼロットの歓喜に咽ぶ泣き顔が見えた。
 魔剣を投げ捨てて、抱きついてきた。

 自分の口が勝手に動き、歯の浮くような台詞を言った。
 アンゼロットが泣きながら頷き、目を閉じて、少し、顔を上に上げる。
 彼女を抱きしめて、その顔に、自分の顔が近づいて行き・・・・・・・・右の瞼に、口付けた。
 白く淡い光が放たれて、アンゼロットの身を包む瘴気を浄化していき―
 気がつくと、柊は男に戻り、少女の姿に戻ったアンゼロットを抱きしめていた。

「もとに・・・・戻ったんだな、アンゼロッ―」
「いつまで抱き締めているんですか! さっさと放しなさい!」
「うおっ!?」

 ホッとした途端、アンゼロットに乱暴に突き飛ばされ、倒れこんだ柊は声を荒げて抗議した。

「おい、アンゼロット! もっと他に言うことがあるんじゃねーのかよ!」
『すまなかったな、柊君。私の所為で、君には大変な苦痛を与えてしまった』
「いや、アンタの所為じゃねーよ。悪いのは全部アイツだろ?」

 柊は魔剣を拾い上げながら頭の中に響く声に返事をして立ち上がり、黒翼の戦姫を睨みつけた。

『柊君。どうか、アンゼロットを責めないでやってくれないか。エルヴィデンスは、他者の精神への干渉を得意とするのだよ。
 その技量は、時間をかければ守護天使ですら耐えられぬほどなのだ。
 私がアンゼロットを幻夢神から切り離してしまったために、アンゼロットの霊的な防御力が一時的に下がってしまい、その隙を付か
れて操られてしまったのだ。
 悪いのは私だ。総て私の責任だ。だから、アンゼロットを―』
「よせって。アンタだって、アイツに半分操られかけてたんだろ? 悪いのは全部、アイツだ。アンタでも、アンゼロットでもねえよ」
『・・・・・・すまない。そのように言ってもらえると助かる』
「とにかく、総て上手く行きましたね!」
『ああ、コイズミ君。君の目も治さなければならないな』

 柊に駆け寄ったコイズミに、エルンシャから暖かいプラーナが流れ込み、プリギュラに灼かれた目を癒す。
 一方、エルヴィデンスは失望を押し隠しつつ、慈愛に満ちた笑みを浮かべてアンゼロットとエルンシャを祝福した。

「どうやら復活出来たようだな、エルンシャよ。どれ、お前達に新居を用意してやろう。
 我が夢の織り成す月匣の中に来るがよい。そして其処で、永遠に、二人仲良く、穏やかに暮らせ。
 天界には私から、お前達は私に討ち取られたと伝えてやろう。さすれば、最早、誰にも邪魔をされる事は無い」

 その甘い誘惑を。

『世界を見捨てて、心安らげるはずがなかろう!』「誰が貴女をベッド代わりにしたいものですか!」

 冥界の瘴気から開放された二人の“世界の守護者”は、声を揃えて断った。

「では、恋は諦めるのか?」
『それは、この第二次古代神戦争が終ってから考える』
「おい!」

 一瞬の躊躇もなく、決断を先送りにする決断を下した異世界の“世界の守護者”に、柊は思わずツッコんだ。

「つか、お前の夢ん中に逃げ込めって、寝るたんびにこいつ等がイチャつくのを見せ付けられるんだろう? それでいいのかよ?」
「私は古代神だが、魔王ではない。愛と安らぎに満ちたプラーナもまた、私にとっては大変な美味なのだよ。
 なあ、柊蓮司。お前は不思議に思ったことはないか?
 裏界の魔王達の中で、本来の古代神の性質を最も色濃く残す魔王が何故フール=ムールなのか」
「とにかく、お断りします! わたくし達は“世界の守護者”なのです! 自分達の幸せよりも、世界の方が大切なんです!」
「やれやれ。結局こうなるのか。では力押しと行くか。
 アンゼロット、エルンシャ。今一度お前達を打ち倒し、共に取り込んでくれよう。
 我が内にて、永遠に睦みあうがいい」
「お、やっと、いつものパターンに戻ってきたな! さあ、戦うか!」

 柊は晴々とした気持ちで敵に向きあい・・・・・・今まで忘れていた『仲間』の事を思い出した。

「おい、アンゼロット。なんとか、ベルを助けられないのか?」

「何を馬鹿な事を言っているのですか! アイツは敵なんですよ、敵! 助ける必要なんかありません!
 寧ろ見かけ次第殺しなさい! 見蝿殺虫! サーチアンドデストロイ! サーチアンドデストロイです!」

 アンゼロットの金切り声が耳に突き刺さり、柊は思わず顔を顰めた。

「・・・・・・なあ、アンタ。こんな奴のどこに惚れたんだ?」
『ベール=ゼファーは敵なのだろう? アンゼロットの意見は当然の事だと思うのだが。
 まあ、我が力を持ってすれば、君の魔剣に魔王だけを切り裂く力を与える事も―」
「いや、ベルも魔王なんだが」

 暫しの沈黙の後、温和で寛大で父性愛に満ちた神の、困惑に満ちた思念が返ってきた。

『・・・・・柊君。冷静に、もう一度よく考えてみてくれないか。本当に、ベルを助けたいのかどうか』
「そんな、子供を諭すように言うんじゃねぇよ!」
「子供ですよ、子供! というか、あの闇姫はベルの写し身を奪っただけなんです!
 例えるなら、ベルのポンチョを剥ぎ取って纏っているようなもの!
 あいつを倒したって、ベルには何のダメージも入りません! 気にせず倒しなさい!」
「おし! それなら、なんの遠慮もいらねぇな!」
「クックククッ! クハッハッハッハッ! 遠慮はいらぬだと! 笑わせる!」

 柊の力強い宣言を聞き、闇姫が堪えきれぬといった風情で哄笑を放つ。

「先程、渾身の一撃を素の防御力で弾かれたのをもう忘れたか! この神々の戦場で、お前に何が出来るというのだ!」
『ふっ、エルヴィデンスよ。今の柊君は私の依り代だ。
 いくら魔王の写し身を乗っ取ったとて、この星王神エルンシャと月女王アンゼロットを、世界の守護者二人を同時に相手取るなど出
来よう筈があるまい。柊君の要望どおり、ベルを解放してエル=ネイシアに帰るがいい。わざわざ、痛い思いをすることもなかろう』
「いやいや、今日は久しぶりに『痛い目』とやらに遭ってみたい気分なのだよ。どうせ、負けたとて壊れるのはベルの写し身だしな。
 其れに、アンゼロットは未だ地神から充分な力を受け取って居らず、此処に居るお前も何百分の1の欠片か分からん。
 試してみる価値は、充分に在ると思うぞ」

 言って闇風姫(シャドウ★ゼピュロス)は翼を広げ、其の神気を解き放った。



 大気が震える。広大な大広間に、絶大なる神気が満ちる。
 時間が。空間が。因果律が。物理法則が。
 その威厳の前に屈服する。

 彼女は、ただ其処にいるだけだった。
 女神は、ただ気配を消すのを止めだたけだった。
 それだけで、ただそれだけで。
 この忘却世界のほぼ総ての存在が、生物・非生物の区別無く発狂した。

 通路を徘徊する冥魔が。落とし穴の底の水槽の人食い鰻が。壁の中の鼠が。
 平伏し、狂乱し、自滅した。
 機械仕掛けのトラップが。様々な術式の込められた魔法陣が。
 誤作動し、書き換わり、自壊した。



「―! なんだ?! この強大なプラーナはっ!!」

 忘却世界周辺で交戦中の、ナイトメア率いるウィザード軍とカミーユ=カイムン率いる侵魔軍は、突如、忘却世界内部から吹き上が
った強烈な神気に戦慄した。魔王も、ウィザードも区別無く、その神威に慄然とした。

 ある侵魔は、全身のプラーナの配列を掻き乱されて消滅した。
 あるウィザードは、その圧力に耐えかねて鼓動を停止した。
 ある侵魔は、絶叫し、自らの胸を引き裂いて、死の静寂の中に逃げ込んだ。
 あるウィザードは泣きながら、その存在にその身のプラーナの総てを捧げ尽くして消え去った。

 彼女が気配を消すのを止めただけで、ウィザード軍と侵魔軍は、共に大きな混乱に見舞われ、瓦解した。
 魂を預けるに足る主と共になく、自らの脆弱な魂のみにて神の権限に立ち会った卑小なる者たちは。
 神の威容に耐えかねて、その精神を塗りつぶされ、魂を打ち砕かれ、永遠の安息を求めて暗黒の淵へと己が心を投げ込んだ。

「くっ! これは・・・・エルヴィデンス様の神気かッッ!!」
「うわっぁ・・・これは・・・・ごっつ、きっついですわ・・・」

 魔王達もまた、其の神威に打ちのめされ、本体と写し身の接続を保つのが困難になっていた。

「・・・・・・・すんまへんな、カミーユはん。ウチ・・・・・・ここで帰られてもらいまっせ」
「あッ! 待ってくれ、ファルファルロ― あれ? 他の皆は?」

 写し身を放棄するファルファルロウを呼びとめようとして、気付けば、他の魔王達は既に一人もいなかった。
 さては、ファルファルロウと同様に写し身を放棄し、部下も何もかも見捨てて裏界に帰ったか。
 或いは、錯乱したところを、辛うじて意識を保っていたウィザードに討ち取られたか。

「・・・・そんな・・・ここまで・・・・ここまで差があるのか? 裏界の侵魔と・・・・裏界に封じられなかった古代神とじゃ・・・・ここまで・・・・・」
「悪夢を見ているようだな、魔王。だが、安心しろ。今、この俺が楽にしてやる」

 聞き慣れぬ声に振り向けば、一人の夢使いがそこにいた。苛烈なる神気の中、荒い息をつきながらも、その瞳に意志の光を滾らせて。

「・・・・何故だ? ・・・・・・何故、お前は・・・この・・神気の中で、動ける? ただの人間が・・・魔王ですら耐えかねる神威の前で、何故ッ!!」
「人間だからだッッ!! 俺には家族がいる! 守りたい者がいる! 家族を守る為なら、敵が神だろうが魔王だろうが同じ事だ!!」

 夢使い、ナイトメアは魔王に向けて右手を翳し、全身からプラーナを放出し― そして、勢いよくその場から跳び退いた。
 一瞬前まで立っていた場所を、超高密度の巨大な瘴気の塊が通りすぎ、遥か背後でレーヴァテイン級の戦艦に当たり、撃沈した。

「ぐふふふふ。今のを避けるか。なるほど、なるほど。これが実体化せし幻夢神の夢、ウィザードか。なるほど」
「誰だッ!」

 声のした方を振り向くと、でっぷりと太った身体に豪奢な服を纏った、禿頭の中年男性の姿をした“ナニカ”が其処に居た。

「ぐふふふ。わしは、冥蛙王ヘルクストー。冥魔王だ。わしは最近、その女から色々とマナーを習っておるのでな。
 居なくなられると困るのじゃよ」

 荒れ狂う強大な神気の中で、冥魔王は涼しげな顔で名乗りを上げ、詐術長官は絞り出しすように問いかけた。

「・・・・・・ヘルクストー・・・? どうして、ここに・・・?」
「何、プリギュラから知らせがあってな。エルヴィデンスの婆さんが悪戯を仕掛けたから見に来いというので見物に来たのだが・・・
 どうやら、それどころではないようじゃな。さて、ウィザードよ。仲間を連れてさっさと帰るがいい。さすれば、見逃してやるぞ。
 侵魔軍は既に壊滅した。お前の仕事は終ったじゃろう。それに、今から百階ダンジョンを踏破しても間に合うまいて」
「見逃してやる、だと。それはこっちの台詞だ、蛙魔王!」

 威圧するように瘴気を漲らせる冥魔王に、ナイトメアは傲然と言い返す。震える拳をマントに隠し、冷や汗を押さえながら。

「確かに、俺の仕事は終った。ここにいるお前達は所詮写し身、倒しても逃がしても同じ事だ。その抱き枕を担いで、とっとと帰れ」
「ぐふふふ。では、お言葉に甘えさせてもらうかな。さあ、逃げ帰ろうか、カミーユ=カイムン。
 何、エルヴィデンスの婆さんには助けなどいらんよ。何せ、わしより格上なのじゃからな」
「・・・・・・・・・・・・・ああ、そうしようか、ヘルクストー」

 冥魔王は、神気に萎縮した裏界魔王を肩に担ぎ上げると、悠然と戦場を後にした。

「―――あれが、冥魔王か・・・・・・だが、この神気を放っているエルヴィデンスとやらは、あれ以上だと?」

 魔王と冥魔王を見送って、ナイトメアは身震いした。

 この神威は、知覚するだけで精神を魂を侵食する。一刻も早く、生き残った仲間を集めて、この忘却世界から離れなければならない。
 今の第八世界に、この神気に耐えられる者などいないだろう。

 その神の面前に立つ、二人の“世界の守護者”達と、その加護に守られし者達を除いては。

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