広間に神気が、満ち満ちる。
かつて冥界最強と呼ばれし魔王、エンディヴィエの分断された肉体の一部が封印されていた広大な地下空間は、今や、魔王ベール=
ゼファーの写し身を依り代に顕現した古代神の祭壇と化していた。
ゼファーの写し身を依り代に顕現した古代神の祭壇と化していた。
床一面に描かれた魔法陣と壁に彫られた魔術文字が神気に反応して誤作動を起こして明滅し。
峻烈な神威が、小さき人の子らを打ち据える。
峻烈な神威が、小さき人の子らを打ち据える。
息が苦しい。胸が締め付けられる。意識が霞み、膝が震える。
膨大な神気を全身に浴びた柊とコイズミは、己が得物を杖がわりに辛うじて倒れ込むのを堪えていた。
『二人とも、動けるか?』
気遣う声と共に、柊の身に宿った異世界の“世界の守護者”星王神エルンシャから暖かいプラーナが流れ込む。
呼吸が楽になる。意識が澄み渡る。身体の震えが止まる。
幼き日、父の腕の中で感じた安らぎが心を満たす。
幼き日、父の腕の中で感じた安らぎが心を満たす。
「ど、どうにか・・・」「ありがとよ。助かったぜ」
コイズミは呻きながらも畏れを振り払い、柊は礼を言って背筋を伸ばすと、神殺しの魔剣を構えて敵を見た。
眼前に佇む、麗しき少女の姿をした異世界の古代神を。
成熟した身体を闇色の鎧で包み込み、背に瘴気の翼を備え、腰まで伸ばした黒髪を噴き出す神気に靡かせて立つ戦姫を。
眼前に佇む、麗しき少女の姿をした異世界の古代神を。
成熟した身体を闇色の鎧で包み込み、背に瘴気の翼を備え、腰まで伸ばした黒髪を噴き出す神気に靡かせて立つ戦姫を。
「そういえば、まだ、まともに名乗っていなかったな」
古代神が、邪に満ちた黒い瞳で柊達を睥睨し、色鮮やかな艶かしい唇で言葉を紡ぐ。
小さな鈴の鳴るような、か細く綺麗な・・・・・・だが、静かな威厳と圧倒的な力を感じさせる、神の声。
其の響きを耳にしただけで、コイズミは床に片膝を付き、柊の背筋がビクリと震え、アンゼロットの額に冷や汗が滲む。
“世界の守護者”をも超える、原初の創造神の一柱との圧倒的な存在の差が伝わってくる。
小さな鈴の鳴るような、か細く綺麗な・・・・・・だが、静かな威厳と圧倒的な力を感じさせる、神の声。
其の響きを耳にしただけで、コイズミは床に片膝を付き、柊の背筋がビクリと震え、アンゼロットの額に冷や汗が滲む。
“世界の守護者”をも超える、原初の創造神の一柱との圧倒的な存在の差が伝わってくる。
「私は古女王(エンシェント★クイーン)エルヴィデンス。お前の父に封じられた古代神だよ、アンゼロット」
八大神の一柱たる地神の宿敵、古代神エルヴィデンスが名乗りを上げる。
其の写し身、闇風姫(シャドウ★ゼピュロス)が、黒翼を広げて瘴気を放つ。
名乗りとともに、風が吹く。心を冷やす、風が吹く。魂を冷やす、風が吹く。意思の炎を吹き消す、風が吹く。
其の写し身、闇風姫(シャドウ★ゼピュロス)が、黒翼を広げて瘴気を放つ。
名乗りとともに、風が吹く。心を冷やす、風が吹く。魂を冷やす、風が吹く。意思の炎を吹き消す、風が吹く。
「・・・・・・封じられた? アンゼロット様の、父君に?」
慄然とした思いを禁じえぬまま、床に突き立てたロンギヌス・グレイブに再び縋りついたコイズミが、震える声で問うた。
「・・・・では、その意趣返しの為に、エルンシャ様を操ってアンゼロット様を攫わせたのですか?」
「いいや。もっと実際的な理由だよ」
「いいや。もっと実際的な理由だよ」
艶然とした笑みを浮かべた古女王は、静かに、穏やかに、哀れな人の子に目を向けた。
途端、コイズミの両膝が床を打った。
途端、コイズミの両膝が床を打った。
見られる。視られる。観られている。魂の奥底までも見透かされる。
その冥き深淵の如き瞳から目が離せない。
ほんの少し注意を引いただけで、己が身の卑小さを思い知らされて、恥じ入り、消え失せたくなってくる・・・・・・
その冥き深淵の如き瞳から目が離せない。
ほんの少し注意を引いただけで、己が身の卑小さを思い知らされて、恥じ入り、消え失せたくなってくる・・・・・・
「う・・・・・・わ・・・・・・・・・・だ、め・・・・・・だ・・・・・・・・・・」
呻き、床に崩れ落ちるロンギヌスからアンゼロットへと視線を戻し、古代神は言葉を継いだ。
「今、ラース=フェリアでは冥魔七王がエルオース復活の準備を進めている。
我等108の古代神に施された封印を解きうる、“堕ちたる守護者”のな。
かの者が蘇れば、私は神としての本来の姿を取り戻す事が出来るのだ」
我等108の古代神に施された封印を解きうる、“堕ちたる守護者”のな。
かの者が蘇れば、私は神としての本来の姿を取り戻す事が出来るのだ」
エルヴィデンスの台詞に、“世界の守護者”たちが息を飲んだ。現在、天界と冥界の争いは膠着状態に陥っているが、優位に立ってい
るのは冥界側だ。ここで冥界の古代神たちが自由を取り戻せば、主八界はたちまち冥界の瘴気に包まれるだろう。
るのは冥界側だ。ここで冥界の古代神たちが自由を取り戻せば、主八界はたちまち冥界の瘴気に包まれるだろう。
「長かった・・・・・・永かったぞ・・・・・・・・・
九姫争乱に敗れてより、10余年。
十姫争乱紀より、数千年。
古代神戦争に敗れてより、数万年。
漸く、漸く自由になれるのだ・・・・・・・・・」
九姫争乱に敗れてより、10余年。
十姫争乱紀より、数千年。
古代神戦争に敗れてより、数万年。
漸く、漸く自由になれるのだ・・・・・・・・・」
古女王はうっとりとした表情を浮かべて呟き・・・・・・
「だというのに、あの蝿め!
アンゼロットの足止めすらも出来ぬとは、裏界の魔王が如何に間抜け揃いだとて無能過ぎるにも程がある!
私は総ての手駒を失いながらも、知略のみにてエル=ネイシアを奪ったというのに、あの役立たずめ!」
アンゼロットの足止めすらも出来ぬとは、裏界の魔王が如何に間抜け揃いだとて無能過ぎるにも程がある!
私は総ての手駒を失いながらも、知略のみにてエル=ネイシアを奪ったというのに、あの役立たずめ!」
一転して、怒気を露にした。
「がぁっ!」「ぐぉっ!」
激しい感情のうねりが神気の波を引き起こし、か弱き人の子らの脆弱な肉体を打ちのめし、繊細な精神を押し流す。床に倒れ込んだ
コイズミが胸を押さえて声もなく悶え苦しみ、柊の顔が苦痛に歪む。小さき人の子らの命と心を守るべく、柊の身に宿った星王神から
慈愛に満ちたプラーナが放たれ、柊とコイズミを包み込む。
その一幕を気にもせず、古代神は語り続けた。落ち着きを取り戻し、再び、静かに、穏やかに。
コイズミが胸を押さえて声もなく悶え苦しみ、柊の顔が苦痛に歪む。小さき人の子らの命と心を守るべく、柊の身に宿った星王神から
慈愛に満ちたプラーナが放たれ、柊とコイズミを包み込む。
その一幕を気にもせず、古代神は語り続けた。落ち着きを取り戻し、再び、静かに、穏やかに。
「幸いにも私の手元にはエルンシャの欠片が在り、アンゼロットには前々から思うところもあった。其処で、こう考えたのだよ。
アンゼロットとエルンシャの仲を取り持ち、二人だけで過ごさせてやろう。お互い以外の事は、総て忘れさせてやろう、とな。
其の為に、私はエルンシャの魂を冥界の瘴気に浸し、お前への愛を除く総てを削り落として送り出してやったのだ。世界の守護者と
しての義務感も、お前が恋敵を手にかけた事も措いて、素直になれるようにな」
アンゼロットとエルンシャの仲を取り持ち、二人だけで過ごさせてやろう。お互い以外の事は、総て忘れさせてやろう、とな。
其の為に、私はエルンシャの魂を冥界の瘴気に浸し、お前への愛を除く総てを削り落として送り出してやったのだ。世界の守護者と
しての義務感も、お前が恋敵を手にかけた事も措いて、素直になれるようにな」
一旦、言葉を切り、アンゼロットの反応を覗う。
「大陸を二分する戦争を引き起こしてまでその愛を求めた男が、お前を、お前だけを求めて現れたのだ。さぞや歓喜に咽び泣き、何も
かも放り出して夢中になるだろうと期待していたのだが・・・・・・
思ったほど喜んでくれなくて残念だったよ。よもや、他に男を作ったのではあるまいな?」
「そっ、そんなことっ、あるわけがありませんわ!」
「だろうな。恋敵を殺しておいて奪い合った男を捨てるなど、そんな酷い話は聴いた事が無い」
かも放り出して夢中になるだろうと期待していたのだが・・・・・・
思ったほど喜んでくれなくて残念だったよ。よもや、他に男を作ったのではあるまいな?」
「そっ、そんなことっ、あるわけがありませんわ!」
「だろうな。恋敵を殺しておいて奪い合った男を捨てるなど、そんな酷い話は聴いた事が無い」
慌てて否定するアンゼロットに鷹揚に頷いて。
「アンゼロット。おまえは偉大なる戦女神にして、誇り高き女王神だ。
そんなお前が、理性を失うほどに激しく想いを高ぶらせた恋だ。
世界よりも、姉妹よりも大事な男を、そんなに簡単に忘れる事などありえぬわ」
そんなお前が、理性を失うほどに激しく想いを高ぶらせた恋だ。
世界よりも、姉妹よりも大事な男を、そんなに簡単に忘れる事などありえぬわ」
古女王は宿敵の娘を揶揄すると、反論を待つかのように間を置いた。
「・・・・・・確かに、かつてわたくしはエルンシャ様への恋に溺れ、世界の危機を招きました」
苦渋に満ちた顔で、アンゼロットは認めた。
「ですが、もう二度と同じ過ちは繰り返しませんわ! エルンシャ様への贖罪の為にも!」
「エルンシャにとって何が贖罪になるかは、本人が決める事ではないかな? まあ、其の話は措いておこう」
「エルンシャにとって何が贖罪になるかは、本人が決める事ではないかな? まあ、其の話は措いておこう」
エルヴィデンスはアンゼロットの宣言を軽くいなすと、何か言おうとしたエルンシャを目で制して話を進めた。
「当初の予定では、少なくともエルオースが我が封印を解くまでの間、お前を此処に封印するつもりだったのだ。
今、お前に帰郷されては困るのでな。エル=ネイシアにおける私の支配力も、未だ不完全であるが故に。
だがな、アンゼロット。お前の顔を見ているうちに、欲が出てきてしまったよ。
お前もまた、我が本体の封印を解く鍵となるのだからな。ああ、そうだ、アンゼロット。私と手を組む気はないか?」
「いきなり何を言っていやがる!」
今、お前に帰郷されては困るのでな。エル=ネイシアにおける私の支配力も、未だ不完全であるが故に。
だがな、アンゼロット。お前の顔を見ているうちに、欲が出てきてしまったよ。
お前もまた、我が本体の封印を解く鍵となるのだからな。ああ、そうだ、アンゼロット。私と手を組む気はないか?」
「いきなり何を言っていやがる!」
唐突な提案に、柊が口を挟んだ。アンゼロットの故郷を征服し、エルンシャを狂わせてアンゼロットへの刺客として送り込み、ベー
ル=ゼファーの依り代を奪って自らの写し身とし、アンゼロットを冥魔王にしようとしておいて、今更何を言っているのか。
アンゼロットとエルンシャは正気を取り戻したが、ベルは未だに身体を乗っ取られたままなのだ。いや、ベルは敵だから、その心配
はしなくていいのか。
ル=ゼファーの依り代を奪って自らの写し身とし、アンゼロットを冥魔王にしようとしておいて、今更何を言っているのか。
アンゼロットとエルンシャは正気を取り戻したが、ベルは未だに身体を乗っ取られたままなのだ。いや、ベルは敵だから、その心配
はしなくていいのか。
「落ち着け、柊蓮司。これはアンゼロットにとっても、お前達、第八世界人にとっても益となる話なのだぞ?」
話を遮った柊を、エルヴィデンスは聞き分けのない幼子に接するかのように穏やかに嗜めた。柊は更に言い返そうとして― 魔剣の
宝玉を通じて語りかける『声』を聞き、考えを変えた。
宝玉を通じて語りかける『声』を聞き、考えを変えた。
「そうかよ。なら、聞くだけ聞いてやるから、取り敢えず言ってみやがれ」
「聞き分けが良くて助かるな」
「聞き分けが良くて助かるな」
ぶっきらぼうに言ってみせる柊に頷いて、エルヴィデンスはアンゼロットへと視線を戻し、アンゼロットの左右で色の違う瞳を、冥
界の魔力を導く金色の邪眼と深い湖のような蒼い瞳を、星星の狭間の深淵を思わせる黒い双眸で覗き込んだ。
界の魔力を導く金色の邪眼と深い湖のような蒼い瞳を、星星の狭間の深淵を思わせる黒い双眸で覗き込んだ。
「アンゼロットよ。もしも私の本体の封印を解いてくれたなら、裏界の連中は総て私が引き取ろう。
奴等に嫌とは言わせぬよ。我が本体が自由を取り戻したならば、裏界の雑魚魔王どもに抗うすべなどありはせんのだ。
私が粉砕したエルンシャの身体の欠片も、総てお前に贈ろう。お前の手で、復元して遣るが良い。
二人で力を会わせれば、冥界や闇界の輩を完全に閉め出す強固な結界を張れるだろう。
アンゼロット。お前は第八世界さえ無事なら、他の世界はどうなっても構わぬのだろう? ならば断る理由はあるまい。
其れにエル=ネイシアにおける私の治世は、下僕にとってはお前の其れと大して変らぬ。安心して私に任せて良いのだぞ。
どうしても私を気に入らんと言う奴は、お前の処に送ってやる。どうだ、良い事ずくめではないか?」
奴等に嫌とは言わせぬよ。我が本体が自由を取り戻したならば、裏界の雑魚魔王どもに抗うすべなどありはせんのだ。
私が粉砕したエルンシャの身体の欠片も、総てお前に贈ろう。お前の手で、復元して遣るが良い。
二人で力を会わせれば、冥界や闇界の輩を完全に閉め出す強固な結界を張れるだろう。
アンゼロット。お前は第八世界さえ無事なら、他の世界はどうなっても構わぬのだろう? ならば断る理由はあるまい。
其れにエル=ネイシアにおける私の治世は、下僕にとってはお前の其れと大して変らぬ。安心して私に任せて良いのだぞ。
どうしても私を気に入らんと言う奴は、お前の処に送ってやる。どうだ、良い事ずくめではないか?」
エルヴィデンスは言葉を切り、真摯な瞳でアンゼロットを見つめた。
瞳に宿る邪が薄れ、代わって愛情めいたものが浮かんでいた。
瞳に宿る邪が薄れ、代わって愛情めいたものが浮かんでいた。
「私の手を取れ、アンゼロット。私はお前を気に入っているのだよ。お前は“古代の暗黒神の魔力を持つ”と言われているが、地神が
お前を創る時に私から切り取った力の欠片から生み出したのではないかと、つまり、お前は私の娘なのではないかと思っているのだ。
私はお前に幸せな夢を見せて遣りたいし、お前を仲間にしたいのだ。
だからこそ、エルンシャとの恋路を助け、柊蓮司への秘めたる憎しみを解き放ってやろうとしたのだよ」
お前を創る時に私から切り取った力の欠片から生み出したのではないかと、つまり、お前は私の娘なのではないかと思っているのだ。
私はお前に幸せな夢を見せて遣りたいし、お前を仲間にしたいのだ。
だからこそ、エルンシャとの恋路を助け、柊蓮司への秘めたる憎しみを解き放ってやろうとしたのだよ」
猫撫で声で語りかける古女王にアンゼロットは何か叫ぼうとして― 柊の目配せに気付き、一旦口を閉じてから穏やかに問い返した。
「随分とまあ、ご執心ですわね。わたくしは、貴女に好かれるような事をした覚えはありませんけど?」
「だろうな。お前は私の事など知るまい。それでも、私はお前に感謝しているのだよ」
「だろうな。お前は私の事など知るまい。それでも、私はお前に感謝しているのだよ」
古女王は感慨に耽りながら答え、その姿に柊は、生き別れの娘に再会した母親を連想した。
「お前の父に封じられてから、お前が自害したあの日まで。
お前とイクスの治世と恋路を見守る事だけが、私の楽しみの総てだったのだよ。
お前達の痴話喧嘩が、私の無聊を慰めてくれたのだ。
お前とイクスの治世と恋路を見守る事だけが、私の楽しみの総てだったのだよ。
お前達の痴話喧嘩が、私の無聊を慰めてくれたのだ。
其れだけではない。
お前達が恋に現を抜かして仕事をサボってくれたお陰で、私は封印の隙間から意識の一部を絞り出す事が出来た。それで、地上の生
物を我が眷属に作り変え、プラーナを捧げさせたり、封印を解く方法を探させたり出来るようになった。
お前達に腹を立てた地神はエルンシャを引き裂いて聖姫を作り出したが、私はその半分近くを奪って闇姫を作る事が出来た。お前達
が、エルンシャの八つ裂きにされる様を目の当たりにして寝込んでいる間にな。
闇姫は聖姫に敗れて封じられたが、お前達は長きに渡り、エルンシャの所有権を賭けた聖姫争奪戦を行って聖姫が力を回復する為の
眠りを妨げたな。その所為で聖姫は充分な力を取り戻す事が出来ず、闇姫との再戦に敗れた。
物を我が眷属に作り変え、プラーナを捧げさせたり、封印を解く方法を探させたり出来るようになった。
お前達に腹を立てた地神はエルンシャを引き裂いて聖姫を作り出したが、私はその半分近くを奪って闇姫を作る事が出来た。お前達
が、エルンシャの八つ裂きにされる様を目の当たりにして寝込んでいる間にな。
闇姫は聖姫に敗れて封じられたが、お前達は長きに渡り、エルンシャの所有権を賭けた聖姫争奪戦を行って聖姫が力を回復する為の
眠りを妨げたな。その所為で聖姫は充分な力を取り戻す事が出来ず、闇姫との再戦に敗れた。
本当に、お前達にはいくら感謝しても足りはしない」
「・・・・・・・おい、アンゼロット。お前、碌な事してねぇな」「アンゼロット様・・・・・・・」
「昔の話ですわ」
「昔の話ですわ」
柊とコイズミから視線を逸らし、傲然と告げたアンゼロットの頬を一粒の汗が流れ落ちた。
そんなアンゼロットを、古女王は愛しげに見つめて語り続ける。
そんなアンゼロットを、古女王は愛しげに見つめて語り続ける。
「10年前。漸く動けるようになった、あの日。
太陽の塔を闇姫に襲撃させ、イクスィムを攫った、あの日。
これで漸くお前達と遊べると喜んだ、あの日。
お前は何故、自害などしてしまったのだ、アンゼロット? あの時はとても寂しく、悲しかったのだぞ。
聖姫に力を与える代償だった、世界の守る為に犠牲になったと言えば聞こえはいいが、残された者達の事は考えたのか?
イクスも、聖姫も、とても悲しんでいたぞ。
イクスもセフィスを産んで死んでしまうし、全く、どうしたものかと思ったものだったよ・・・・・・
太陽の塔を闇姫に襲撃させ、イクスィムを攫った、あの日。
これで漸くお前達と遊べると喜んだ、あの日。
お前は何故、自害などしてしまったのだ、アンゼロット? あの時はとても寂しく、悲しかったのだぞ。
聖姫に力を与える代償だった、世界の守る為に犠牲になったと言えば聞こえはいいが、残された者達の事は考えたのか?
イクスも、聖姫も、とても悲しんでいたぞ。
イクスもセフィスを産んで死んでしまうし、全く、どうしたものかと思ったものだったよ・・・・・・
あの後、お前の魂はゲイザーに、イクスの魂はルー=サイファーに拾われて殺し合わされ、イクスはお前に倒されたのだったな。
私の方はと言えば、あの後は聖姫達に相手をして貰ったよ。そして、聖姫達が復活させたエルンシャに討ち取られ、またしても雌伏
を余儀なくされた。だが、この通り再起を果たしてエルンシャへの報復も済ませ、愛する世界を手に入れた。
後はエルオースの復活を待つばかりなのだ。今、お前の帰郷を許し、折角手に入れた世界を奪い返されては堪らんのだよ。
私の方はと言えば、あの後は聖姫達に相手をして貰ったよ。そして、聖姫達が復活させたエルンシャに討ち取られ、またしても雌伏
を余儀なくされた。だが、この通り再起を果たしてエルンシャへの報復も済ませ、愛する世界を手に入れた。
後はエルオースの復活を待つばかりなのだ。今、お前の帰郷を許し、折角手に入れた世界を奪い返されては堪らんのだよ。
だがな、アンゼロットよ。お前と八大神との接続が途切れている今この瞬間こそは、エルオースの復活を待つまでも無く自由を得て
他の古代神を出し抜くと同時に、我が孤独を癒す愛娘を得る千載一遇の好機なのだ。この機会を見逃す手は無いだろう?」
他の古代神を出し抜くと同時に、我が孤独を癒す愛娘を得る千載一遇の好機なのだ。この機会を見逃す手は無いだろう?」
エルヴィデンスが、麗しき黒髪の少女の姿をした太古の邪神が、アンゼロットを、小柄な銀髪の少女の身に宿りし“世界の守護者” を
掻き口説く。
掻き口説く。
「さあ、私の手を取れ、アンゼロット。私と、母娘の契りを結ぼうではないか」
「勝手なことばかり言いやがって・・・・・・」
「勝手なことばかり言いやがって・・・・・・」
柊は小さく毒つき、“その時”が来るのをじっと待ち続けた。
吹き荒れる邪神の神気の圧力と、胸中より湧き上がる慈父神の逞しいプラーナの狭間で立ち尽くし、古女王の長広舌を聞き流す。
吹き荒れる邪神の神気の圧力と、胸中より湧き上がる慈父神の逞しいプラーナの狭間で立ち尽くし、古女王の長広舌を聞き流す。
まだか。まだなのか。
祈るような気持ちで魔剣に目をやった柊の脳裏に、不意に無機質な女性の『声』が響いた。
― ターゲット・ロックオン。オーダーを。マイ・マスター ―
柊は無言でアンゼロットに頷き、アンゼロットも頷き返してエルヴィデンスに向き直った。
「わたくしは、八大神が一柱たる地神の娘。貴女方、古代神を殺すために生まれた戦女神です。
貴女の手を取る事にどんな利点があろうとも、決して手を組みなどはしませんわ。
そもそも、今までずっと戦ってきた相手をいきなり信用できるものですか」
「やれやれ、嫌われたものだな」
貴女の手を取る事にどんな利点があろうとも、決して手を組みなどはしませんわ。
そもそも、今までずっと戦ってきた相手をいきなり信用できるものですか」
「やれやれ、嫌われたものだな」
エルヴィデンスは目を伏せて残念そうに首を振り、其の手の中で瘴気を凝り固め、一振りの槍を形成した。
「確かに、お前たち守護者は八大神によって我等古代神を憎めと刷り込まれていようが・・・エルンシャは兎も角、第八世界で多彩な経験
を積んだお前ならば、もう少し柔軟な考えを持っていると期待していたのだがな。
仕方が無い。少々手荒な手段でお前の精神を打ち砕かせて貰おうか。
そして、一旦私の操り人形とし、この身の縛めを解かせた後、再び意識を戻してゆっくりと時間をかけて口説き落とすとしよう」
を積んだお前ならば、もう少し柔軟な考えを持っていると期待していたのだがな。
仕方が無い。少々手荒な手段でお前の精神を打ち砕かせて貰おうか。
そして、一旦私の操り人形とし、この身の縛めを解かせた後、再び意識を戻してゆっくりと時間をかけて口説き落とすとしよう」
一際神気を強め、ビリビリと大気を震わせながら。黒髪の戦姫は、槍を片手にアンゼロットに向けて一歩踏み出した。
「待ちやがれ!」
震える身体を叱咤して、アンゼロットを庇って柊が前に出た。呵責なく浴びせられる神気に脚が萎えかけるも、その身に宿した慈父
神の暖かいプラーナに励まされ、真っ向から神を見据え、力強く言い放つ。
神の暖かいプラーナに励まされ、真っ向から神を見据え、力強く言い放つ。
「お前が誰で、何の為にアンゼロットを狙うのかなんて、俺にはどうでもいいこった。
けどよ。俺の前で、俺の仲間に手を出すってんなら容赦しねぇ。それが嫌なら諦めやがれ!」
「お前の増長ぶりは目に余るな。柊蓮司」
けどよ。俺の前で、俺の仲間に手を出すってんなら容赦しねぇ。それが嫌なら諦めやがれ!」
「お前の増長ぶりは目に余るな。柊蓮司」
戦姫がスッと目を細める。圧力が柊に集中する。柊は苦悶に眉を歪めながらも、一歩も退く事なくその場に踏みとどまり・・・叫んだ。
「やっちまえ! ヴィオレット!」
― イエス・マスター ―
― イエス・マスター ―
柊の脳裏に『声』が響くと同時に、アンゼロットとエルンシャが張れる限りの防御結界を十重二十重に展開し。
その障壁の向こうへと。
主の咆哮に応え、“スルトの剣”の名を冠する対奈落戦艦が、忘却世界・ラグシア城跡の外側で主砲を放った。
その障壁の向こうへと。
主の咆哮に応え、“スルトの剣”の名を冠する対奈落戦艦が、忘却世界・ラグシア城跡の外側で主砲を放った。
冥魔王へルクストーによりメイン・バーニアを破壊された対奈落戦艦レーヴァテインは、侵魔軍撤退後もラグシア城跡周辺の宙域か
ら離脱出来ぬまま、エルヴィデンスの神気を浴び続けていた。
凄まじい神威を前にして、次々と計器が発狂して逝った。このままでは自分は滅びると知ったヴィオレットは、自分が預かっていた
晶の魔剣と柊の魔剣の繋がりを利用し、柊を通じて敵の座標を突き止めて遠距離から敵を狙撃する作戦を立案した。
柊に念話を送って計画を伝え、仲間を傷つけないように超超超精密射撃を行うべく照準を合わせるまで戦闘を控えるように伝えた。
だからこそ柊は、古女王に延々と語らせて、この時を待ち続けていたのだ。
ら離脱出来ぬまま、エルヴィデンスの神気を浴び続けていた。
凄まじい神威を前にして、次々と計器が発狂して逝った。このままでは自分は滅びると知ったヴィオレットは、自分が預かっていた
晶の魔剣と柊の魔剣の繋がりを利用し、柊を通じて敵の座標を突き止めて遠距離から敵を狙撃する作戦を立案した。
柊に念話を送って計画を伝え、仲間を傷つけないように超超超精密射撃を行うべく照準を合わせるまで戦闘を控えるように伝えた。
だからこそ柊は、古女王に延々と語らせて、この時を待ち続けていたのだ。
柊の指示を受けたレーヴァテインは、その全機能を持って敵だけを捕らえる位置を狙い、極限まで収束させた閃光を解き放った。
膨大な熱量を持つ光の柱が忘却世界に突き刺さり、次元構造すらも揺るがして百階ダンジョンの床を壁を貫き、最下層へと到達し、
荒ぶる神威の主を飲み込まんとして―
膨大な熱量を持つ光の柱が忘却世界に突き刺さり、次元構造すらも揺るがして百階ダンジョンの床を壁を貫き、最下層へと到達し、
荒ぶる神威の主を飲み込まんとして―
「“メビウスの鏡”よ」
反射された。
― ha―――hahahahahahahaッ! 『うわーだめだー』デースッ! hahahahahahahaッ! ―
柊の脳裏にヴァルキリーの悲鳴が響き・・・・・・暫しの間を置いて、天井に開いた大穴の遥か向こうで何かが爆散した。
「ヴィオレットォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
「さっきから妙に大人しく話を聞いていると思ったら、これを待っておったのか」
「さっきから妙に大人しく話を聞いていると思ったら、これを待っておったのか」
悲痛な叫びを上げる柊を放置して。頭上に生み出した巨大な鏡を消し去り、エルヴィデンスが呟いた。
「・・・・・・そんな・・・・・・・レーヴァテイン級の主砲を跳ね返すだなんて・・・・・・」
「ん? ああ、そうか」
「ん? ああ、そうか」
呻き声を上げるアンゼロットに古女王は一旦怪訝そうな顔をしたが、直ぐに合点がいった様子を見せると、娘の成績を心配する母親
のような風情でアンゼロットに語りかけた。
のような風情でアンゼロットに語りかけた。
「お前は裏界の雑魚魔王との戦いに慣れきり、すっかり感覚がずれてしまっているのだな。
第二級守護天使でも大陸くらいは割ってみせるぞ? そして、其れに対抗する手段も持っているのだ。
随分と鈍ったものよな、アンゼロット。もしや、歴史改変や因果律操作の遣り方は忘れていないだろうな?」
「も、勿論、憶えてますわ!」
「さらっと言うなよ! 歴史改変だの因果律操作だのよ! そんなに簡単に歴史や因果律を書き換えられてたまるか!」
『いや、それなりの準備はいるが、そこまで視野に入れて戦うのが神々の争いというものだよ』
「ああ、そうか。お前はただの人間なのだったな、柊蓮司。なんとなく、聖姫か守護天使であるかのような気でいたが」
第二級守護天使でも大陸くらいは割ってみせるぞ? そして、其れに対抗する手段も持っているのだ。
随分と鈍ったものよな、アンゼロット。もしや、歴史改変や因果律操作の遣り方は忘れていないだろうな?」
「も、勿論、憶えてますわ!」
「さらっと言うなよ! 歴史改変だの因果律操作だのよ! そんなに簡単に歴史や因果律を書き換えられてたまるか!」
『いや、それなりの準備はいるが、そこまで視野に入れて戦うのが神々の争いというものだよ』
「ああ、そうか。お前はただの人間なのだったな、柊蓮司。なんとなく、聖姫か守護天使であるかのような気でいたが」
古女王はアンゼロットから柊へと視線を転じ、再び表情を険しくした。一度は愛情めいたものを湛えていた瞳は、今や激しい憎悪と
侮蔑の念に満たされていた。
侮蔑の念に満たされていた。
「さて、柊蓮司。お前の事も調べさせては貰ったが、何とも不快な輩だな。
何の努力もせず展望も無く、只、我儘を叫び、剣を振りさえすれば総てが望みどおりに成ると信じる身勝手な愚か者め」
何の努力もせず展望も無く、只、我儘を叫び、剣を振りさえすれば総てが望みどおりに成ると信じる身勝手な愚か者め」
エルヴィデンスの鋭い視線が柊を射抜き、危うく心臓が止まりかけた。
「思い上がるな、柊蓮司。幻夢神の操り人形が。
今までお前に勝利を約束してきた、お前達が『運命』だの『因果律』だのと呼ぶ幻夢神の加護はこの地には届かん。
この闘いは純粋に、実力と相性と駆け引きの巧みさのみにより決着がつくのだ」
「ごちゃごちゃうるせぇ! 俺は自分の力と、仲間の力で道を切り開いてきたんだ! 運命だのなんだのなんて知った事か!」
「其れが増長だと言っている!」
今までお前に勝利を約束してきた、お前達が『運命』だの『因果律』だのと呼ぶ幻夢神の加護はこの地には届かん。
この闘いは純粋に、実力と相性と駆け引きの巧みさのみにより決着がつくのだ」
「ごちゃごちゃうるせぇ! 俺は自分の力と、仲間の力で道を切り開いてきたんだ! 運命だのなんだのなんて知った事か!」
「其れが増長だと言っている!」
反論する柊を、古女王は一喝した。
「終末の魔人の最期は、未来に書かれた日記にあった!
山羊頭の魔王は、お前にしか倒されぬ運命にあった!
お前は敷かれたレールの上を歩いて来ただけだ!
シナリオどおりに振舞って来ただけだ!
お前自身には、何の力も在りは―」
「・・・・もしや、貴女は柊様を羨んでいるのですか?」
山羊頭の魔王は、お前にしか倒されぬ運命にあった!
お前は敷かれたレールの上を歩いて来ただけだ!
シナリオどおりに振舞って来ただけだ!
お前自身には、何の力も在りは―」
「・・・・もしや、貴女は柊様を羨んでいるのですか?」
やっとの思いで床から身を起こしたコイズミの問いが、激高したエルヴィデンスの動きを止めた。ややあって、表情を失った古女王
の顔が、緩慢な動きで、愚かな人の子の方を向いた。
の顔が、緩慢な動きで、愚かな人の子の方を向いた。
「・・・・・・何故、私が人間如きを羨まねば成らぬのだ?」
『ふむ。エルヴィデンスよ。お前は絶大な力を持ちながらも、その大半を封じられ、知略と、私から奪った力だけで戦ってきたな。
何度も何度も倒されながら、雌伏し、力を蓄え、その知略に磨きをかけて再戦を繰り返してきたが、大詰めになるたびに手足として
きた我が娘たちの誰かに背かれ、敗退してきた』
「柊様は、貴女から見れば、何の力もありません。それでも、何度も世界を救ってきました。
本来の力を封じられ、儘ならぬ身を恨む貴女は、実力以上の働きをする柊様が妬ましく、そして、直接介入を封じられたアンゼロッ
ト様に己が身を重ねたのではありませんか? だからこそ、アンゼロット様を操って・・・・」
「・・・・ああ、そうかもしれぬな。・・・・・・・・ああ、そうだ。認めよう。私は其の男が嫉ましいと。」
『ふむ。エルヴィデンスよ。お前は絶大な力を持ちながらも、その大半を封じられ、知略と、私から奪った力だけで戦ってきたな。
何度も何度も倒されながら、雌伏し、力を蓄え、その知略に磨きをかけて再戦を繰り返してきたが、大詰めになるたびに手足として
きた我が娘たちの誰かに背かれ、敗退してきた』
「柊様は、貴女から見れば、何の力もありません。それでも、何度も世界を救ってきました。
本来の力を封じられ、儘ならぬ身を恨む貴女は、実力以上の働きをする柊様が妬ましく、そして、直接介入を封じられたアンゼロッ
ト様に己が身を重ねたのではありませんか? だからこそ、アンゼロット様を操って・・・・」
「・・・・ああ、そうかもしれぬな。・・・・・・・・ああ、そうだ。認めよう。私は其の男が嫉ましいと。」
古女王は長い睫を伏せ、しんみりと呟いた。
「私やエルンシャは精神のみの存在と成り果てて尚、苦しい闘いを続けてきたというに、幾度となく『運命』によって膳立てされた勝
利を貪りながら、たかがレベルがひとつふたつ下がった程度で喚き散らす甘ったれた小僧が憎らしくて仕方が無いと認めよう。
尤も、認めたところでする事は変わらぬよ。我が威でもって打ち倒し、其の身の不遜さを知らしめた上でアンゼロットを奪うまでだ」
『そうはさせぬよ、エルヴィデンス。ひとたび敗れはしたが、私とお前の戦いはまだ終っていない。
お前を見習い、私もまた幾度でもお前に挑もう。アンゼロットから受け継いだ世界を何時までもお前の好きにはさせん。
そして、我が前で我が友人達をお前に傷付けさせたりはしない』
「クックック。時間稼ぎをしたのは、お前達だけではないのだぞ。私の援軍も漸く到着したようだ」
「「「!?」」」
利を貪りながら、たかがレベルがひとつふたつ下がった程度で喚き散らす甘ったれた小僧が憎らしくて仕方が無いと認めよう。
尤も、認めたところでする事は変わらぬよ。我が威でもって打ち倒し、其の身の不遜さを知らしめた上でアンゼロットを奪うまでだ」
『そうはさせぬよ、エルヴィデンス。ひとたび敗れはしたが、私とお前の戦いはまだ終っていない。
お前を見習い、私もまた幾度でもお前に挑もう。アンゼロットから受け継いだ世界を何時までもお前の好きにはさせん。
そして、我が前で我が友人達をお前に傷付けさせたりはしない』
「クックック。時間稼ぎをしたのは、お前達だけではないのだぞ。私の援軍も漸く到着したようだ」
「「「!?」」」
柊達が通路の方に意識を向ければ、確かに冥魔の気配があった。
通路の奥に、異形の影が蠢くのが垣間見える。黒い火蜥蜴が。全身に棘を生やし、牙を持つ大亀が。捩くれ、腐りかけた樹怪が。燐
光を放つ冥界の銀で作られたゴーレムが。人型をしたヘドロの塊のようなモノが。この部屋を目指して続々と集まって来ていた。
通路の奥に、異形の影が蠢くのが垣間見える。黒い火蜥蜴が。全身に棘を生やし、牙を持つ大亀が。捩くれ、腐りかけた樹怪が。燐
光を放つ冥界の銀で作られたゴーレムが。人型をしたヘドロの塊のようなモノが。この部屋を目指して続々と集まって来ていた。
「まさか、このダンジョンの冥魔を全部、この部屋に呼び寄せているのですか?!」
「ちっ、しょうがねぇ! アンゼロット、コイズミ! 冥魔は任せた! アイツは俺がやる!!」
「分かりました!」「お任せください、柊様!」
「ちっ、しょうがねぇ! アンゼロット、コイズミ! 冥魔は任せた! アイツは俺がやる!!」
「分かりました!」「お任せください、柊様!」
答えて、アンゼロットとコイズミは戸口へと駆け出した。部屋に入り込まれて取り囲まれる前に、狭い通路で迎え撃つのだ。
二人を庇い、魔剣を構えて古代神の前に立った柊の心に、頼もしき慈父神の思念が響く。
二人を庇い、魔剣を構えて古代神の前に立った柊の心に、頼もしき慈父神の思念が響く。
『柊君。私の力を君に預ける。どうか、アンゼロットを守ってくれ。君と私の力を合わせれば、エルヴィデンスの防御力をも打ち破れ
るだろう』
「おお! 任せとけ! 運命なんか関係ねぇ! 俺とアンタの力でアイツを倒すんだ!」
「遣って見よ、柊蓮司。そして、運命の、幻夢神の加護無き今のお前は只の一粒の塵に過ぎぬと知るがいい」
るだろう』
「おお! 任せとけ! 運命なんか関係ねぇ! 俺とアンタの力でアイツを倒すんだ!」
「遣って見よ、柊蓮司。そして、運命の、幻夢神の加護無き今のお前は只の一粒の塵に過ぎぬと知るがいい」
異界の邪神は静かな憤怒を秘めて柊を睨み、それを睨み返す柊の全身から血飛沫が上がる。
神殺しの魔剣使いの身を包んだ紅い霧は、瞬く間に魔剣へと吸い込まれて魔剣に更なる力を与え。
主の命を吸い、刀身の魔術文字を煌かせる魔剣を柊が振り上げるより早く、黒髪の戦姫は黒翼を畳んで床を蹴り、一足飛びで間合い
を詰めた。
正面から槍を突き出すと同時に、両側から柊を挟み込まんと瘴気の翼を打ちつける。
柊は黒翼への対処をエルンシャに任せて槍のみを魔剣で弾き、身体の両側に展開された複数の防御障壁が黒翼の打撃によって次々と
打ち破られながらも威力を引き下げ、両の翼は柊の頬を撫でるに終る。
神殺しの魔剣使いの身を包んだ紅い霧は、瞬く間に魔剣へと吸い込まれて魔剣に更なる力を与え。
主の命を吸い、刀身の魔術文字を煌かせる魔剣を柊が振り上げるより早く、黒髪の戦姫は黒翼を畳んで床を蹴り、一足飛びで間合い
を詰めた。
正面から槍を突き出すと同時に、両側から柊を挟み込まんと瘴気の翼を打ちつける。
柊は黒翼への対処をエルンシャに任せて槍のみを魔剣で弾き、身体の両側に展開された複数の防御障壁が黒翼の打撃によって次々と
打ち破られながらも威力を引き下げ、両の翼は柊の頬を撫でるに終る。
神殺しの魔剣が翻り、古代神の首を狙う。少女の姿をした古き神が、その斬撃を槍で捌き、素早く武器を引き寄せて鋭い突きを繰り
出す。柊もまた、即座に魔剣を引き戻し、多重に展開された魔力障壁を貫いて迫る刺突を防ぐ。
迸る柊力に摩擦係数を下げられ音速を超えて魔剣が走り、最適化された動きで妖槍が突き込まれ。
ウィッチブレードと瘴気の槍が、激しく交差し、火花を散らす。
周囲の“常識“をより都合よく捻じ曲げるべく月衣が拡大し、古代神の呪いが視界を霞ませ、魔剣に絡みつき、柊の動きを妨げる。
出す。柊もまた、即座に魔剣を引き戻し、多重に展開された魔力障壁を貫いて迫る刺突を防ぐ。
迸る柊力に摩擦係数を下げられ音速を超えて魔剣が走り、最適化された動きで妖槍が突き込まれ。
ウィッチブレードと瘴気の槍が、激しく交差し、火花を散らす。
周囲の“常識“をより都合よく捻じ曲げるべく月衣が拡大し、古代神の呪いが視界を霞ませ、魔剣に絡みつき、柊の動きを妨げる。
常人には、否、並のロンギヌスであっても認識すら困難な超・高レベルの剣と魔法の攻防が繰り広げられた。
多重障壁に速度と威力を下げられつつも急所に迫る妖槍を捌きながら、柊は相手の技量に舌を巻いた。
エルンシャの防御結界がなければ、既に10回は致命傷を受けていただろう。
対して柊の剣は、敵の身体に掠りもしていなかった。
エルンシャの防御結界がなければ、既に10回は致命傷を受けていただろう。
対して柊の剣は、敵の身体に掠りもしていなかった。
柊は魔剣を持つ手に力を込め、その巨大な魔剣には到底不可能に思える激しい連続攻撃を繰り出した。
振り下ろし、斬り上げ、突き込んで。
捌かれ、受けられ、避けられる。
振り下ろし、斬り上げ、突き込んで。
捌かれ、受けられ、避けられる。
舌打ちし、槍を避けながら回転しつつ背後に回り込み、魔剣に遠心力を乗せて戦姫の背に叩きつけんとするも、戦姫は振り返りもせ
ずに槍の石突きを背後に突き出し、魔剣の鍔元を押さえて斬撃を止めた。
一瞬動きの止まった柊の両の脇下に一対の黒翼が滑り込み、挟み込み、0距離で魔力を放射する。肋骨が粉砕され、砕けた骨の欠片
が肺と心臓に突き刺さる。
ずに槍の石突きを背後に突き出し、魔剣の鍔元を押さえて斬撃を止めた。
一瞬動きの止まった柊の両の脇下に一対の黒翼が滑り込み、挟み込み、0距離で魔力を放射する。肋骨が粉砕され、砕けた骨の欠片
が肺と心臓に突き刺さる。
「がはぁっっ!」
血を吐く柊へと、更に、素早く振り向いた戦姫の槍が喉へ胸へ腹へと突き立てられる。
直後、体内を駆け巡る暖かく力強いプラーナに総ての傷を癒されて。柊は再度、魔剣を振るうも、未だ汗一つかかぬ黒髪の戦姫は容
易くそれを避けて間合いを外した。
直後、体内を駆け巡る暖かく力強いプラーナに総ての傷を癒されて。柊は再度、魔剣を振るうも、未だ汗一つかかぬ黒髪の戦姫は容
易くそれを避けて間合いを外した。
「エルンシャに感謝するのだな、柊蓮司。そやつが居らねば、既に百回は死んでいよう」
異界の邪神はクククッと喉の奥で哂い、神殺しの魔剣使いを侮蔑した。
「お前は私を倒す運命を持っていない。そんな者は居らんがな。
運命によって勝利を約束されていないお前には、私を倒す事は出来んのだ!」
「運命なんか関係ねぇ! 仲間がいりゃあ充分だ!」
運命によって勝利を約束されていないお前には、私を倒す事は出来んのだ!」
「運命なんか関係ねぇ! 仲間がいりゃあ充分だ!」
叫び、魔剣を構えて突進しようとして― 柊は、ふと、何かの気配に気付いて天井に注意を向けた。
レーヴァテインの穿った大穴の向こうから何かが落下し、柊の前の床に突き刺さった。
それは、かつての柊の魔剣と同じ拵えの魔剣。ただ、鍔に嵌め込まれたオーブの色だけが違うそれは、晶の魔剣だった。
レーヴァテインの穿った大穴の向こうから何かが落下し、柊の前の床に突き刺さった。
それは、かつての柊の魔剣と同じ拵えの魔剣。ただ、鍔に嵌め込まれたオーブの色だけが違うそれは、晶の魔剣だった。
「ヴィオレット・・・・・・コイツを届けてくれただけでも、お前は充分働いたぜ」
柊は晶の魔剣を引き抜き、懐かしい感触に頬を緩めた。微かに花の香りが漂い、鼻をくすぐった。
「エルヴィデンス、だっけか? お前は俺達の事を色々調べたみてぇだが、なんでも知ってるわけじゃねぇ」
柊は穏やかな表情で、左手に持った晶の魔剣を黒髪の戦姫に突きつけた。
「さっき、お前は言ったな。俺が山羊魔王を倒せたのは、『そうゆう運命だったから』だって。
だから、今日、俺はお前を倒すと予言されてねぇから、お前を倒せないって。けどよ、それは間違いなんだ」
「ほう?」
だから、今日、俺はお前を倒すと予言されてねぇから、お前を倒せないって。けどよ、それは間違いなんだ」
「ほう?」
澄み切った、なんの迷いもない瞳で、邪に満ちた戦姫の瞳をしかと見据える。
「アンゼロットは言ったよ。あの山羊魔王は、俺が、俺の魔剣を振るわないと倒せないって。
けどな。俺、あの魔王を倒したとき・・・・・・自分の魔剣使ってねぇんだよ。
ずっと晶の魔剣で戦ってたんだ! それでも倒せたんだよ!!」
けどな。俺、あの魔王を倒したとき・・・・・・自分の魔剣使ってねぇんだよ。
ずっと晶の魔剣で戦ってたんだ! それでも倒せたんだよ!!」
運命を覆す、強い意志に満ちた言葉が迸る。
「アンゼロットの言う『運命』なんてもんはな、俺に我儘を押し付けるための言い訳でしかねぇよ。
アンゼロットだけじゃねぇ。運命を口に出す奴はみんなそうだ。『自分に逆らうな。何故なら、それが運命だからだ』ってな。
運命なんてもんはねぇんだよ! んなもんは、我儘な怠け者の言い訳でしかねぇんだ!」
「ほう? そうなのか。では、私は謝罪し、訂正しよう」
アンゼロットだけじゃねぇ。運命を口に出す奴はみんなそうだ。『自分に逆らうな。何故なら、それが運命だからだ』ってな。
運命なんてもんはねぇんだよ! んなもんは、我儘な怠け者の言い訳でしかねぇんだ!」
「ほう? そうなのか。では、私は謝罪し、訂正しよう」
力強く叫ぶ柊に、エルヴィデンスは意外にもあっさりと自説を取り下げ・・・・・その姿を消した。
次の瞬間、柊の背中から胸へと槍の穂先が突き抜け、少し遅れて背後から風が吹き付けた。
次の瞬間、柊の背中から胸へと槍の穂先が突き抜け、少し遅れて背後から風が吹き付けた。
「お前の勝因は運命の加護ではなく・・・・・・・敵の愚劣さによるものだったのだな」