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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

幕間01-02

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陰の休日 後篇


1日と言うのは、意外と長い。
朝から日が暮れるまで休日は、終わらない。
昔言われなかっただろうか?家に帰るまでが遠足だと。
同様に、家に帰って寝るまでが休日であり、帰りついて別れの挨拶をするまでが“デート”なのである。

―――麻帆良学園 麻帆良ヶ丘公園

「…うん。次の目的地はここだよ」
パラパラとメモを確認しながら、空が言う。
「へぇ…公園か」
遊びに来た幼稚園や小学校の生徒や恐らくは自分たちと同じ目的で来たのであろう中学生や高校生のカップルを確認しつつ、一狼が言う。
(…最初は大丈夫かと思ったけど、案外ちゃんとしてたなー)
しょっぱなの喫茶店でのお茶にはとんでもない指令がついてた分、何か変なことが書かれていたら突っ込まないとと考えていた一狼だったが、あの後は商店街の色々なお店のウィンドウショッピングに麻帆良シアターでの映画とまともなデートコースであったことに若干肩すかしをくらいつつ、一狼はホッと息をついていた。
「それで、ここでは何をするの?」
「うん。あのね」
もじもじしながら、空は月衣に手を突っ込む。そこから取り出したのは、1つの箱。
「えっと、それは?」
なんとな~く嫌な予感を感じつつも一狼は空に尋ねる。ほぼ間違いなくアレだと確信しつつ。
「お弁当、作って来たの…一緒に食べよ?」
(や、やっぱりかーーーーーーーーーーーー!?)
「へ、へえそっか姫宮のてづくりかうれしいなあ」
魂の叫びを心の中で抑えつつ、一狼は棒読みで答えた。

(まいった…まさかこんなことになるなんて…)
公園の広場でいそいそと準備をする空を見ながら、一狼は脊中に嫌な汗を感じる。
(だ、大丈夫!とりあえず空の弁当は襲ってきたりはしないから!)
と全然フォローになっていない言い訳を自分に対してしつつも、半ば確信にも似た嫌な考えはぬぐえない。

姫宮空の料理の腕は、正直かなりひどい。
もはや伝説と化している某強化人間ほどではないが、出来次第では食べると普通に悶絶位はする。
そのひどさの原因は、空の味覚にある。
基本的に、空が味に関して判断できることはたった2つ。
“おいしい”か“まずい”かでは無い。“食べられる”か“食べられない”かである。
更に言えば空の言う“おいしい=食べられる”と言うのは“普通の人間の何倍も丈夫な人造人間の消化器官でなら消化吸収可能”と言う意味なのだ。
戦闘用の人造人間に味覚など不要。消化できるものならすべておいしいと判断して問題無く食べられる。
その方が効率的と言う製作者の意図は一狼にも分からないでもない。
だが…そのせいでうっかり空に料理を任せたりすると基礎的な常識の欠如とコンボしてえらいことになる。
最近などは、嫌な方向に学習してしまい、見た目だけは料理の本の見本そっくりで味はアレと言う事もあるので油断できない。
「さ、食べよ」
準備を終え、地面に敷いたレジャーシートに座った空に促され、一狼がかな~り嫌々ながら、座る。
「な、なぁ…姫宮?」
「ん?どうしたの一狼君?」
満面の笑顔で、空が聞き返す。
「う、ううん。何でも無い」
(い、言えるかあー!『やっぱり折角だしどこか別の所に食べに行こう』とか!笑顔の空に!)
内心激しく葛藤しつつ、一狼は首を横に振る。
『言うたらあかん。男の子やろ』
いつか聞いたセリフが頭の中をよぎり、一狼の決意は固まる。
「じゃ、ありがたくいただくよ」
(くっ…こんなことなら隊長殿から貰った胃薬を持って来るんだった!)
目の前の“ターゲット”に全身全霊を傾けて戦いを挑むことに。
(み、見た目は普通だ。だが、それがかえって怖い)
小さなオムレツに一口サイズのハンバーグ、小さなカップに入ったグラタンとシュウマイ、春巻き、そしてご飯。
見た目はばっちりだ。むしろ奇麗だと言ってもいい。
だが、一番の問題は味。それが酷くないと言う保証は、どこにもない。
特に手の込んだ料理ならば壊滅的な味になる可能性は飛躍的に跳ね上がる。そりゃあもうウナギ登りに。
(こ、こうなったら一気に行くしか無い!)
味が脳に達する前に全てを飲みこむ。忍者の自分なら可能だ。
今まで、空の手作りが振舞われるたびに使ってきた技を使い、勝負を決める。
そう、決意してゆっくりとお弁当に目を向け、一狼は気づいた。
「…あれ?箸は?」
きょろきょろと確認してみるが、箸がない。
「あ、お、お箸ね…」
その発言に空はなぜか頬をピンク色に染めつつ、月衣から箸を取り出す。
「あ、ありがと…えっと、姫宮?」
そのハシを握りしめて離そうとしない空に一狼が、怪訝そうに声をかける。
「え、えっとね…これってデートなんだよね?」
「う、うん。そうだね」
「そ、それでね…デートの時のお弁当はね…」
そう言いながら空はお弁当の中のオムレツを一口大に切り、ハシでつかむ。
「ま、まさか…」
その光景に流石の一狼も空の意図に気づき、ごくりと唾を飲む。そして。
「あ、あ~んして…」
空がおずおずと箸でつかんだオムレツを一狼に向けて差し出した。

天国と、地獄。というか地獄の二乗。
一狼のその瞬間の心情を表わすとこんな感じだった。
好きな女の子からのあ~ん。男なら誰しも憧れるシチュエーションだが、女の子があまり得意では無い一狼にとって、それは拷問に等しい。
更に自分に差し向けられているのは姫宮空手作りのお弁当。味は…あんまし想像したくない。
そして、何よりこの状況では先ほどまでの一気に飲み込む作戦は使えない。一口一口“味わって”食べるしか無いのだ。
(お、恐るべしデート!?恐るべしナツミさん!?)
進退窮まったこの状況に、一狼は思わず神と顔も知らぬメモの製作者を恨む。
「えっと、もしかしてオムレツは嫌いだった?」
いつまでも食べようとしない一狼にしゅんとして空がたずねる。
「そ、そんなことない!お、オムレツは大好きだよ!」
Noと言えない日本人である一狼が必死にフォローする。
「よかったあ…じゃあ、遠慮せず、食べて」
人を疑うことを知らない空が笑顔で一狼にオムレツを再度差し出す。
(ええい!ままよ!)
もはや引くことは許されない、そんな状況に一狼は覚悟を決め、そのオムレツを口に入れ、噛みしめた。
シャリッ
最初に感じたのは、冷たさと、オムレツには普通ない食感だった。
(凍ってる…?いや、だけど味はまずくない、まずくはないぞ!?)
だが、舌に伝わる味はごく常識的な味。お店とかで出されたら首をかしげるところだが、正直、覚悟していた味からはほど遠い。
(そうか!分かったぞ!これは…)
一狼がその正体に気づく。
「なあ、姫宮、これってどうやって作ったの?」
それは、一狼が東京に住むようになって慣れ親しんだ、大量生産の味。
「えっとね…電子レンジに入れてあっためたんだけど…もしかして、おいしくなかった?」
正直うまいとは思わないが、決してまずいわけでもない、普通の味。
「いいや。おいしいよ。姫宮の作ってくれたお弁当だからね」
弁当いっぱいに詰められたのが“冷凍食品”であることを確認した一狼が、内心安堵しながら笑顔で言った。
(凍ってるのは…多分全部一度にレンジに入れたんだろうな…)
だが、そんな些細な失敗も今の一狼には気にならない。
「ほ、本当?いつもより簡単にできたから、大丈夫かなって思ってたんだけど…」
「いや、ほら手間暇かければいいってものでも無いらしいしさ。それに、僕は、姫宮が作ってくれたってだけでも十分嬉しいよ」
「あ、あうう…」
解放された気分の一狼が淀みなく自然に喋り、それを聞いた空が赤面する。
「さて、次は?」
若干軽くなった気分で、一狼は空に尋ねる。これならいける。そう、確信して。
「え、あ、その…次はね…これ」
そう言ってパシッとそれを手渡す。
「えっと…箸?」
手渡されたものに、一狼は首をかしげる。
「あの…そのね?お箸、1膳しか持って来なかったの。デートだから。だから、その…」
耳まで真っ赤にしてしばらくもじもじした後、意を決して、空が言う。
「一狼君が食べさせて…」
「え、ええっ!?」
空の爆弾発言に、一狼は再び混乱の大渦に巻き込まれる。
「あ、あ~ん」
空が目を閉じて、口を開ける。
「…」「…」「……」「…まだ?」
「え、あ、ご、ごめん!」
固まっていた一狼が慌てて手近なハンバーグを取る。
ごくりと唾を飲む。
(こ、こんなことになるなんて…)
もはや、逃げ場はない。自分は、この“ラブラブバカップル”風デートを遂行するしか無いのだ。
(お、恐るべしデート!?恐るべしナツミさん!?)
大事なことなので2回考えました。
…数十分後
「う、うう…なんとか乗り切った…」
嬉しはずかしい“拷問”に内心真っ白になりながらも一狼はそれを乗り切った。
衆人環境にさらされた上でのラブラブっぷり。日曜とはいえ、昼日中の公園でそこまでやる奴は流石に珍しく、注目を集めた。
全部食べ終えた後、空はそそくさとお花を摘みに行ってしまった。
「ご、ごめん。ちょっと…休憩…させて…」
とか言っていたことを察するに空もかなり恥ずかしかったらしい。多分落ち着くための方便って奴だろう。
「それにしても…空もなんでまたデートしたいなんて言い出したんだろう?」
1人になってちょっぴり冷静になった一狼が考え込む。
「学校ではいつも一緒だし、僕が姫宮を好きなのも知ってると思うんだけど」
あのクリスマスの再会から学園世界に来るまでの間、一狼と空はいつも一緒だった。
学園世界に来てからは“カゲモリ”の任務で出かけることも増えたが、学校内では基本的に一緒に行動している。
お互い隣にいて当然。そんな関係。流石に恥ずかしくて口に出したことはないが、好きだってのも分かっているはず。
「なのに突然デートだなんて…う~む」
空の考えが一狼には分からず、考える。
「まあ…僕が考えても分かるわけはないか」
自分が男と女の関係ってやつに疎いのは自分でも分かってる。だが…
「…でもシルフィードに聞くのも、何か違う気がするんだよなあ…」
と、ついさっき気づいた怪しい気配の近場の茂みを見ながら言ってみる。
ガサッと、明らかに不自然に茂みが音を立てる。
「…出てきて。大丈夫。怒ってないから」
再び音を立てて、1人の女性が立ち上がる。
学生と言うには大人っぽい容姿の、妙齢の女性。その長く青い髪にはところどころ葉っぱがついている。
「ち、違うのね!シルフィはただエヴァさまに言われてヒキョーかニンジャを探してただけなのね!イチロウを最初に見つけたけど、
 邪魔しちゃ悪いと思ったから終わるまで待ってたのね!いつ終わるか分からなかったから近くにいただけなのね!
 の、ののの覗きじゃないのね!きゅい!」
その女性…シルフィードは容姿からはかけ離れた子供っぽい仕草で言い訳をする。
「…うん。だよね」
(だったら0-Phoneに電話するなり他の人に連絡とるなり方法はあったと思うんだけどなあ…)
とは思ったものの、ファンタジー系の世界出身な上に人ですらないシルフィードにそこまで要求するのは、酷と言うものだろう。
そう一狼は考え直し、目の前の“カゲモリ”の一員を見る。
シルフィード。彼女は1年ほど前にタバサの使い魔となった喋る竜、“風韻竜”の子供である。
今の姿は彼女が『先住魔法』と呼ぶ魔法で変化した仮の姿であり、身の丈6mほどの竜が本来の姿である。
「それよりも、エヴァさんが言ってたってことはもしかしてタバサのこと…居場所か何か分かったのか?」
「な、何で分かったのね!?ニンジャって心も読めるのね!?」
言いたかったことを一発で当てられ、シルフィードが狼狽する。
「違うよ。ただ今のシルフィードがエヴァさんに言われてって時点で他には無いだろう」
タバサを一番熱心に探していたのはだれあろうこの使い魔である。そのシルフィードが今、他の任務に関わるとは思えない。
そんな、当然と言えば当然の推理だったのだが。
「す、すごいのね!この前おねえさまが読んでいた本の“探偵”みたいなのね!」
シルフィードが素直に驚く。
「まあ、それぐらいはね…それより、詳しく話を聞かせてくれ。タバサはどこにいるんだ?」
「うん。あのね…」
頭を“デート”から“任務”へと切り替え、一狼はシルフィードから事情を聴くことにした。
…さらに5分後
「う~…これからどうしよう」
空はとぼとぼと歩いていた。
葉月から貰ったメモにはお弁当を一緒に食べるところまでしか書かれていなかった。
マニュアルだよりの空に、これは辛い。一狼もデートの知識はどっこいどっこいだから、あてにはできない。
「今日はこれで終わりなのかな?…けど」
正直まだ、別れたくない。まだ日も高いし。
「せめて夕方くらいまでは一緒にいたいなあ…」
せっかくの休日。これで終わりでは、ちょっと寂しい。
「と、とにかく、何もしなくてもいいから一緒にいよう!…あ、そうだ!一狼君の部屋に行くとか!」
さらっと爆弾発言をしながらも一緒にいる方法を見つけたような気持ちになり、また気分が浮き上がる。
「そうと決まったら早く戻らなきゃ!待たせちゃ悪いから」
心持ち小走りになり、一狼の元へと急ぐ。
「あ、いたいた。お~い、一狼…くん?」
思い人の姿を見つけて駆けより、空は異変に気づいた。
「どうしたの一狼君。その格好?それに…その子は?」
先ほどまでの、私服では無く、見慣れた輝明学園の制服に着替えた一狼とどこかで見たような気がする女の姿。
それになにより、一狼から漂う緊張感に空は首をかしげる。
「その…姫宮、ごめん」
一狼がちょっとだけ言いにくそうに言い淀む。
「一狼君?」
「今日は、ここでお別れだ」
一狼は空にはっきりと言う。
「…え?」
「急だけど、“任務”が入った。あんまり時間が無いんだ。すぐに行かなきゃならない。1人で帰れるよね?姫宮」
嫌とは言わせない。そんな意思を込めた真剣そのものの表情で、一狼は空に端的に伝える。
「そ、そんな…あ、そ、そうだ!それなら私も一緒に…」
「駄目だ!」
「ひうっ!?」
空の提案を一狼は普段は見せないような強い口調で一蹴する。
「…ごめん、姫宮。今から行く場所は本当に危険なところなんだ。それに“仲間”のこともある。じゃあ、また明日」
時間がおしい。空には酷い言い方になってしまったが、仲間の危機を見捨てるわけにはいかない。
「…行こう。シルフィード」
「わ、分かったのね!急ぐのね!」
普段はあまり見ない一狼の強い態度に、ちょっとだけ怯えたシルフィードを伴い、目的地へと急ぐ。
2人はすぐに公園から見えなくなった。そして後には…
「一狼君…」
寂しげな表情の空が残された。
―――麻帆良学園 市街区

どんよりとしたプラーナをまとい、空は1人とぼとぼと歩いていた。
(しょうがないよね。任務で仲間だもん…)
歩きながら、空はぼんやりと考える。
空は知っている。一狼が真面目で心優しい少年であること。どんなときも“仲間”を見捨てたりはしない、素敵な男の子であること。
そして、先ほど一狼が空に怒鳴って見せたのも、空を巻き込まないための、一狼なりの優しさだってことも。
(危険だからって一狼君言ってた…それじゃあ、私を連れていくわけにもいかないよね)
空にも一狼の考えは分かっているつもりだ。一狼が、空と一緒に行動したがらない理由も知っている。
(私じゃ、足手まといだもん…)
それは、自分が力不足だから。
(“戦闘用人格”、残しておいてもらえば良かったかなあ…)
今までも時々考えたことを、また考える。
かつて“自爆”して1つ目の肉体を失い、クローンの身体で復活を果たした時、空にはいくつかの調整が施された。
その1つに、空の戦闘用人格の削除がある。
戦闘用人格。それは、空が戦闘に巻き込まれた場合のために埋め込まれたプログラム。
これが発動したとき、空は“姫宮空”としての一切の人格と思考を失い、純粋に戦闘に特化した戦闘マシーンとなる。
元々が“単独での殲滅戦”を想定しているため近づくものはすべて“敵”あるいは“障害物”とみなす危険な代物。
そんな物騒な戦闘用人格は空が一狼に“配備”されることとなったことを機に空の中から削除された。
そのことは空に日常生活を歩むことを容易にさせる代わりに空の戦闘能力の弱体化を招いた。
基礎的な肉体のスペックこそ変わらないものの、思考し、行動するのは本来は日常生活用の人格であった“姫宮空”としての自分である。
どう頑張ってみても戦闘に完全特化した戦闘用人格ほどの反応、行動はとれない。
(もっと強ければ、一狼君も私のこと、連れてってくれたのになあ…)
一狼が決して空を“任務”に巻き込まないのは、自分が力不足だから。そう、空は考えていた。
一応言っておけば、空の戦闘能力は決して低くない。戦闘用人格を失った現在においても、基礎スペックで勝る分で一狼と同等程度の実力は有している、
と絶滅社のスタッフからは聞かされている。
だが、そうでも考えないと一狼が“所有物”である自分を“使わない”理由が空には理解できなかった。
(強くなりないなあ…そうすれば一緒にいられるのに)
1人は寂しい。それなら危険でも一緒にいたい。それが空の望みであった。
(強くなるにはどうすれば…!?)
ぼんやりと考えながら歩いていた空はその少女を見つけ、思わず息をのむ。
茶色い髪の少女が親しげに話しかけている、お下げの黒髪の少女。
(お、屋上の少女!?)
思わず反射的に身を隠し、空は様子を伺う。
茶色い髪の少女と屋上の少女が軽く二言三言会話を交わして別れる。
その後、屋上の少女はわずかに上を見上げた後、立ち上がる。
(あ!い、行っちゃう!?)
足早に歩き去ろうとする屋上の少女を見て、空は慌ててそれを追う。
さっと何度か唐突に曲がってどんどん人気のない裏路地に行ってしまう少女を見失いそうになりながら、空は必死に追跡をする。
(あれ?私なんであの人のこと追ってるんだろう?)
そんな疑問も頭に浮かんだが考え込んでいては見失ってしまうとばかりに空は少女を追う事に専念する。だが。
「あ、あれ!?いない!?」
薄暗い路地の中に入ったはずの少女の姿を見失い、空は辺りをきょろきょろと見回す。
「一体どこに…」
「…追跡してくるから召喚者かなにかかと思ったけど、どうやら見込み違いだったようね」
その声は後ろから聞こえた。
「えっ!?」
空は思わず振り返る。そこには。
暗がりの、ちょっとした物陰からゆっくりと出てくる屋上の少女の姿。
「それで、なぜ私を追っていたの?」
わずかな距離…いつでも剣を抜いて攻撃可能な距離を保ち、少女は空に問いかける。
「え、えっと…その…ちょっと、お話がしたくて」
「お話?」
空の言葉に少女が怪訝そうに眉をひそめる。冷静に観察し、気づく。
「そう言えばあなた…」
どこかで見たことがある。しかもかなり最近。
少しだけ考え込み、少女…ライズは気づいた。
「確か…姫宮空とか言ったかしら?人造人間だとかいう」
前にザールブルグアカデミーで会った、一狼の知り合いであるウィザードであると。
―――麻帆良学園 STARBOOKS CAFE

「それで、話たいこととはなに?」
表通りに戻り、適当な喫茶店に入って、ライズは空と話をすることにした。
「え~っと…」
言い淀み、困ったように視線を彷徨わせる空を見て、ライズは思う。
(ウィザードだとは聞いているけど…随分と普通なのね)
ライズが知るウィザードは一狼以外では柊蓮司や赤羽くれは、緋室灯などの学園世界の有名人くらいである。
それも詳しく知っているわけではなく、雑誌や噂で聞く程度。つまりは学園世界の一般人並み。
その噂で聞く有名人は文字通りの意味で“常識外れ”の存在であると聞いているし、身近なウィザードである一狼もライズの常識に当てはまらぬ技を持ち、
ライズに近いプロに徹した思考…学生らしからぬ考えを持っている。
それと比べれば、目の前の姫宮空は普通の人間に見える。
(もっとも…人造人間だとか言う時点で普通からはかけ離れているのだけれど)
話に聞いたところでは人造人間とは戦闘用に製造された“兵器”の一種であると言う。
見た目は人間に近いが戦闘能力や持って生まれた様々な機能は人間には決して持ちえない能力だ。
(皮肉なものね…そんな兵器の方が私よりも普通の人間に近い、なんて)
表情は変えず、ライズは自嘲した。

(あ、あう…なんて言えばいいんだろう)
酷く醒めた氷のような視線にさらされ、空は困っていた。
屋上の少女。前々から一狼との関係が噂される彼女と空が改めて話をする機会は初めてだった。
(…やっぱり灯さんに似ている気がする)
改めて対峙して改めて思う。
目の前の少女の醒めきった目は、どこか感情や思いを感じさせない、冷たさがある。
それは絶滅社で何度か見たことのある目。絶滅社に所属する強化人間や人造人間、戦闘に特化した“戦士”独特の無機質な瞳。
(一狼君は、やっぱりこういう子の方が好みなのかな…?)
その瞳は、空の今いる“日常”には遠いが“戦場”でならばふさわしい色だった。
そして絶滅社の傭兵である一狼は“戦場”に近い人間である。ならば、隣に立つのはこの少女の方がふさわしい。空にはそう思えた。
(と、とにかく…聞いてみよう…)
意を決して、空は口を開く。
「あの…屋上の少女さ、じゃなくってえっと…」
「…ライズ。ライズ・ハイマーよ」
「あ、そのライズさんは、その…一狼君とはどういう関係なんですか?」
空の質問に、ライズはピクリと形の良い眉をわずかにひそめる。
「どう、って?」
「え、えっと…一狼君とライズさんはその、つ、付き合ってるとか」
「ありえないわね」
空の言葉をライズは即座に否定してみせた。
「え?そ、そうなんですか?」
「当たり前じゃない。私は、戦場での仲間と恋仲になるほど馬鹿じゃないわ」
少しだけ苦い表情をしながら、ライズは言う。
「な、仲間ですか?」
「そう、仲間。それ以上でも、それ以下でも無い。ただ、利害が一致したから組んでいる。それだけよ」
ほんの少し前に色恋沙汰で血迷った“仲間”が馬鹿げた行為の果てに死んだのを思い出していたせいか、ライズの否定に知らず知らずのうちに力がこもる。
「そっかあ…よかったあ…」
ライズのそんな苦い思いには全く気付かず、空ははぅ…とため息をつく。
「何が?」
空が突然緊張を解いたことに疑問を覚えたライズが怪訝そうに空に尋ねる。
「えっ!?いや、その…」
空はほほをピンクに染め、もごもごと口ごもる。
「その…私じゃあ、ライズさんに敵わないかなって…」
言いわけをするように、言葉を絞り出す。
「敵わない?」
「はい。なんて言うか、その…ライズさんて魅力的ですから…」
研ぎ澄まされた刃のような鋭さと、氷のような冷静さを併せ持った、整った顔立ちの美しい少女。
それが空から見た、ライズという少女。そんな人が“ライバル”だったならば…正直空には勝つ自信が無かった。
「…魅力的なんて言われたのは初めてだわ」
そんな空の言葉に毒気を抜かれ、困惑してライズが呟く。
「…とにかく、話はそれだけ?」
これ以上空といたら今以上にペースをかき乱される。そう判断したライズが話を打ち切ろうとする。
「え、え~っと、はい、そうです。本当は一狼君の任務のこととか聞けたらなって思いますけど…」
「話せないわ」
「ですよね。分かってます」
即座に口調で否定され、空が頷く。
「一応、私も絶滅社の所属ってことになってますから」
傭兵は契約と秘密を守る義務がある。一狼と一緒に暮らしているのだ。それぐらいは知っている。
「…そう。そう言えばあなたも一応はイチローと同じ、傭兵なのね」
目の前の少女が傭兵だと言うのは、にわかには信じがたかったが、“カゲモリ”にも見た目も性格も普通の少女である“吸血鬼”のメンバーがいるし、
ウィザードとは常識が通用しないものらしいから、そういうものなのだろう。
「ええ。と言っても私は一狼君にくっついて行ってるだけだから、詳しいことはよく分からないんですけどね」
そう言って、溜息をつく。
「…なんで、一狼君は私には話してくれないのかな?私だって、戦えるのに…」
「…戦闘能力を有しているからといって、戦いに連れていくのに相応しいとは限らないわ」
欝々と悩む空に、そんなライズの涼やかな声が掛けられる。
「え?」
「任務で求められる能力を保持していなければ、任務に従事させることもできないわ。例えば私は魔法は全く使えないし、その知識も無い。
 魔法および魔法的な知識が必要な任務には不適正。そもそも関わらないか、精々他の魔法に詳しいものの護衛につくくらいでしょうね」
わけが分からないと言った風情の空に、ライズは訥々と説明する。
「それじゃあ…」
「恐らくは、あなたの戦闘能力よりは適正の問題よ。任務の性質上、あまり向いていないと判断したか、それか…やらせたくなかったか」
喋っているうちに思いついたことを何となく口にする。
「やらせたく、ない?どういうことですか?」
言葉の意味がつかめず首をかしげる空に、ライズは己の考えを述べる。
「さっき言ったでしょう?戦場の仲間と恋仲になるのは馬鹿のすることよ。いつ死ぬか分からないもの。
 それに私たちの任務は場合によっては“汚い”仕事もあるわ。それを、あなたに見せたくなかったのかもね」
そう言う心情はライズにも何となく理解できる。目の前の少女は、あまりにも無垢だ。そんな人間に、一狼や自分の持つ、闇の部分が理解できるとも思えないし、
理解できない人間に見せても、困惑させるだけだ。
「見せたくない?」
その言葉をちょっとだけ悲しげに確認する。
「そうよ」
ライズは頷いて言葉を続ける。
「大切な人には、自分の汚いところを見せたくない。そんなの、誰だって一緒だと思うけど?」
ライズが知らず知らずのうちに自らの身体…戦場で受けた無数の傷を触りつつ、言う。
ライズが肌の露出を嫌う理由は、その身体に刻まれた醜い傷痕を見せないため。
元々は“隠密”として民間人を装うのに必要なことだったが、いつしかそれは同じ戦場で戦った“仲間”に対しても同様になっていた。
肌に刻まれた、年頃の少女には相応しくない傷。それを見せたくなかったのだ。特に“お父様”と…何故か頭に浮かんだあの傭兵には。
「…そうかも、知れません」
ライズの言葉に空も感じるところがあり、頷いた。
空はクリスマス以降、一緒に戦うようになってすぐ、自分の“戦闘形態”を一狼に見せるのが嫌だったことがあるのを思い出していた。
自分の身体が醜く“変形”する姿。それを見られるのが酷く恥ずかしかった。今ではそうでもないが。
「それじゃあ、もう行くわね」
空が納得するのを見て、話は済んだ。もう用は無いとばかりにライズが立ちあがる。
「あ、はい。あのう、今日は、ありがとうございました」
立ち上がり、店を後にしようとするライズの背中に、空はお礼を言う。
「…?別にお礼を言われる筋合いはないわ。私は何もしていない。ただ適当な推論を並べただけよ」
「いいえ。それは違います」
ライズの否定に、空は首を振る。
「今日、お話出来て楽しかったです。お陰でライズさんがとってもいい人だってわかりました。一狼君が信頼するのも分かる気がします。
 だから…その…これからも一狼君のこと、よろしく頼みます」
「…私がいい人かどうかは知らないけど、別に頼まれなくても、手は抜かないわ。契約を遵守するのは“傭兵”が信頼されるのに必須の条件だもの」
振り向かず、ポツリと呟き、ライズは人ゴミの中に消えて行った。

―――特別居住区 輝明学園女子寮

夜。空は、部屋でぼんやりとしていた。
(今日は楽しかったなあ…)
思い浮かぶのは、今日の昼までの出来事…一緒にお弁当を食べるまでの時間。
気恥ずかしいけど、それ以上に嬉しかった、デートの時間。
(一狼君、お仕事大丈夫かな…)
空の考えはその後、一狼が向かった“任務”へと及ぶ。
(危なくなければいいけど…)
あの時空に見せた、真剣な表情。あれは一狼が行こうとしていた任務の厳しさを表していたのかも知れない。
そう考えると、余計に不安になる。
(無事に、帰ってきてくれるといいなあ…)
一狼が怪我をするのは、見たくない。けれど一緒に行くこともできない空は、こうして待つことしかできない。
(待つのって…辛いなあ…)
せめて一緒に行ければ、こんな不安も無いのかも知れない。そんなことを考えていた時だった。

コンコン

部屋のドアがノックされ、空によその部屋の女の子の声がかけられる。
「姫宮さ~ん。何か姫宮さんにお客さんが来てるよ。青い髪のメガネの女の子」
「え?誰だろう…は~い!いま行きます!」
覚えのない客人に首をかしげながら、空は玄関へと降りて行く。
そこには、1人の少女が立っている。青い髪をショートカットにした、マントをつけ、大きな杖を持った幼い少女。
良く見ると、その服は何かと激しく争ったのかところどころ破れている。
「…こんばんわ。え~っと、どちらさまですか?」
どこかで見た気はするが、思い出せず空は少女に名前を尋ねる。
「…私はトリステイン魔法学院のタバサ。サイドーイチロウのことで、話がある」
言葉少なに名を名乗り、タバサは用件を述べる。
「一狼君のこと、ですか?」
空の問いかけにコクリと頷き、タバサが言う。
「…来て。イチロウが待ってる」
空に外に出るように促し、外に出て、口笛を鳴らす。
「えっと、来てって…どこへ?」
空の問いかけが上空からそれが降りてくる音でかき消される。
「って…ええっ!?」
それを見た空が驚く。
「大丈夫。私の使い魔。襲ってきたりはしない」
身の丈6mにも及ぶ大きな飛竜にレビテーションの魔法を使って乗り、タバサが続ける。
「今からあなたをイチロウのところへ連れて行く。乗って」

―――麻帆良学園 世界樹

昼間は人でごった返していた世界樹も、この時間になると流石に人はいなくなる。
「っつつ…タバサさん、遅いなあ」
その世界樹でただ1人。一狼は塞いだばかりの傷の痛みに顔をしかめつつ、タバサを待っていた。
『シルフィードから話を聞いた。ちょっと待ってて』
無事救出に成功したタバサからここで待つよう言われてもう30分経つ。
「タバサさんのことだから、多分何かしら考えがあるんだと思うんだけど…」
あの、何を考えているのか分からないように見えて、実は誰よりも思慮深いタバサが考えなしにこんなことを言うとは思えない。
「正直、何を考えてるのかまでは分からないんだよなあ…っと、来た」
一狼の鋭い聴覚がシルフィードの風きり音を聞きとり、タバサが来たことを知る。
「タバサさん。ここで待っててって…ええっ!?」
シルフィードからレビテーションで降りてきた空を見て、一狼が驚愕する。
「どういうことですか?」
一狼の問いかけに、タバサは声を出さず、唇の動きだけで答える。
“デートの続き。頑張って”
短く、直球な言葉。そして。
ビッといつもの無表情で、親指を上げてみせる。
良く見ると、タバサの乗っているシルフィードも一緒になってやっているあたり息の合ったコンビである。
「続きって、あ、ちょっとー!」
言いたいことを言うとシルフィードはさっさと飛び上がり、あっという間に見えなくなる。
そしてそこには。
(こ、困った…2人きりでどうすれば…)
(ど、どうしよう…2人きりなんて…)
突然のことに2人揃って困る、若い男女だけが残された。

(い、一狼君と2人きり…心の準備が…)
(そ、空と2人きり…心の準備が…)
朝の神社でも2人きりなる場面はあったが、あのときは移動の時間とか心の準備をする時間があった。
今度はいきなりの2人きりである。しかも、デートの続きだという。
「「あ、あの…!」」
同時に喋ろうとして声がハモる。
「あ、えっと…」
「じゃあ、今度は空から…」
「うん。あのね…」
とりあえず、何か話そう。そう考えて改めて一狼をマジマジと見て、空は気づいた。
「一狼君!?どうしたのその怪我!?」
一狼の呪錬制服がボロボロだ。所々に破れたり、焦げた跡がある。更に服にところどころ赤い染み…血の跡も残っている。
「あ、大丈夫。もう傷は塞いでるから。しまった。時間あったんだし着替えとけばよかったな…」
何でも無いことのように言う一狼に空は狼狽して言う。
「大丈夫、じゃないよ!なんでそんな怪我…あの時みたいにボロボロで…そんなに危ないお仕事なの…?」
正直、今までは一狼の任務がそれほど危険なものだと言う実感は無かった。出かけて、次の日学校で顔を合わせたときにはいつも通りだったから。
スクールメイズに一緒に潜っていた時もそれほど危険だと感じたことは無かった。
比較的浅い階層でちょっとした修行をしていた程度だし、いざって時には強制帰還魔法が発動すると知っていたから。
「いや、大丈夫だ。これぐらいならいつも…」
だが、空にも分かる。今、一狼が関わっている“任務”は、いつか死にかねないほど危険なものであると言うことに。
「いつも!?いつもなの!?」
「って、あ、ち、違うんだ!」
治してあるとはいえ一狼の負っていた怪我はあの魔王級侵魔と戦った時並み。それを一狼は“いつも”と言っていた。
その事が空を急激に不安にさせる。このままでは…
「一狼君…もう、お仕事はやめて。でないと…いつか、一狼君が死んじゃう」
一狼が死ぬかも知れない。そのことに思い至った空が思わず口走る。
「…ごめん。それは出来ない」
だが、そんな空の言葉に、一狼は真剣な表情で首を振る。
「どうしてっ!?」
「…誰かがやらなきゃいけないことなんだ。そして、僕は、自らこの道を選んだ。だから、途中で投げ出すわけにはいかない。
 途中で投げたら、仲間と…僕自身を裏切ることになる」
学園世界の平和を守る“カゲモリ”の仕事。決して表に出ないが故に出来ることがある。
そのことを知っているからこそ、一狼はそれを捨てる気にはなれなかった。
「そんな…なんで一狼君なの!?柊蓮司さんとか、灯さんとか他にもいっぱいいるじゃない!」
「駄目なんだ…柊先輩や灯さんには、任せられない。世界は柊先輩に任せてもいいけど、僕が本当に守りたいものは、僕が守る」
そして、この“任務”を受けたとき、一狼は誓った。大切なものを自らの手で守る、今度は、最後まで自分の手で。そのために戦うと。
「だったら!…せめて、私も一緒に連れてってよ…待ってるのは、嫌…私も、一狼君を守りたいの…」
「それじゃあ駄目なんだ。僕が守りたいものは…」
空の言葉に言いそうになった誓いの言葉を、一狼は首を振って打ち消す。言ったら、嘘になりそうな気がして。
「空はもう、僕のこと守ってくれてるよ」
一狼は代わりに、空に自分の思いを伝えることにする。
「え?」
「なんで僕が死ぬ思いをするような危険な仕事でも頑張れるかっていうと…空、君がいるからなんだ」
真剣な思いをこめて。ちゃんと空に伝わるように。
「私が、いるから?」
「そうだ。君の笑ってくれるから。そう思えるからこそ、僕は力を尽くせる」
1度目は守れなかった。だからこそ、2度目は…何があっても貫いてみせる。
「これは僕のわがままかも知れない。だけど、空にはいつも笑っていて欲しいんだ。だから…待ってて欲しい。
 …大丈夫。僕は絶対君のところへ帰ってくる。何があっても、必ず」
心臓が激しく高鳴っている。だが、そんな“些細なこと”を微塵も感じさせず、一狼は空に自分の本当の思いを伝えた。
「…ずるいよ。そう言われちゃったら、何も、言えないよ…」
感極まり、一狼の懐へと飛び込む。汗と、泥と、血の匂いが混じった…一狼の匂い。
その匂いに包まれ、空は泣きじゃくった。嬉しさと寂しさの両方を感じつつ。
「うん。分かってる…けれど、僕は…」
泣きじゃくる空の髪を優しく撫でながら、一狼は何度目かの誓いを行う。
(空は、僕が守る。何があっても、どんなことからも)

誓いを新たにする一狼と、泣きじゃくる空。
2人の不器用な“恋人”たちを月と星が、冷たく照らしていた…


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