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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第00話

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――柊 蓮司が消えた。

 壮絶なる宝玉戦争が結末を見せてから数週間後、彼は唐突に姿を消した。
 最初は誰も騒ぐこともなく、誰も知らなかった。
 どうせいつものように黒いリムジンやUFOキャッチャーや、あるいは下駄箱から飛び出してきた謎の手によって連れ去られたのだろうと、誰も心配しなかった。
 だがしかし、その姿が数日、一週間、一ヶ月経過しても見えなくなってようやく異変に気付いた。
 そして、知る。
 かの少年を連れ去る元凶にして、世界の守護者たるアンゼロットもまたかの少年の行方を捜しているのだと。
 そして、まだ誰も気付いていなかった。
 途方も無い悪意を秘めた闇が、黒き魔手を伸ばしているのだと。
 まだ誰も気付いていなかった……





   Vol_0 這い寄る闇の宴


 それは平和な時。

「うーん、今日もいい天気だなぁ」

 白い制服を纏い、キラキラと黄金色に輝く茶髪を揺らして、一人の少女が歩いていた。
 ぱっちりと見開いた瞳と背筋の伸びた歩き方から、どこか男性的な印象をかもしだしていたが、
 背伸びしたポーズから身体前面の制服を持ち上げる胸部の膨らみが、それを否定している。
 どこぞの凶暴巫女と極悪守護者とポンコツ魔王が憎悪に駆られそうな体型とポーズを見せた少女は、
 まったくそんなことも想像せずに鼻歌を歌いながら秋葉原の通学路を歩いていた。

「もうすぐ卒業だし、最近は身体の調子もいいし、言うことないね」

 幸せを一杯に噛み締めた表情で呟く少女。
 彼女の名は“柊 レン”。
 輝明学園秋葉原分校に通う、【ガイア】の勇者である。
 ここ最近積み重なっていた世界の危機もなんとか解決し、彼女は久々に心穏やかに学校へと通えていた。
 ちなみにどこぞの平行存在は涙を浮かべて羨ましがるだろうが、彼女は立派に出席日数を心配する必要も無く学校に通えている。
 扱き使われる時は扱き使われるが、一応身体の弱い……銃弾どころか砲弾を受けても生きていられるほど丈夫なのに身体が弱いのは説得力がないが。
 どこぞの“下がる男”よりも無理の利かない体であるためそれなりにスケジュール管理の利いたローテーションが組まれていたりする。
 閑話休題。
 と、それはともかく。

「何時もの二人もいないし、久しぶりに静かな登校だねー」

 常ならば共に登校するむふぅが口癖の神人の幼馴染。
 一年前から知り合いお姉さまと慕ってくるゴスロリ改造制服の金髪美少女が今日はいなかった。
 幼馴染はこの間壊した破魔弓の代わりに巨大なバズーカもどきと化した大砲を携えて世界の危機に旅立っているし、
 金髪美少女のほうは先日真夜中に「下僕が~、あの雌ぶ……いやいや、聖王様が呼んでいるのでしばらく日本に帰れません~」
 と涙目で訪問してきたので今は日本にいない。
 故に久しぶりの一人だった。
 常に共に居た二人はなく、ただ一人。

「……ふぅ」

 輝明学園まであと少し。
 そんな位置で、不意にレンは足を止めた。
 空は青く、雲は白く、太陽は眩しい。
 透き通るような蒼穹の空に、どこまでも平和な日常だった。
 けれども、いつもとは違う日常に少しだけ……寂しさを感じた。
 無音に人が不安を覚えるように。
 静けさに彼女は寂しさを覚えた。
 不意に襲う発作とは違う感覚が、胸を締め付けるようだった。
 思考が巡り、思索が漂う。

「そういえば……」

 少しだけの時間。
 考える思考の中で、レンはある少年を思い出した。

「蓮司くんはどうしてるかな?」

 平行世界で知り合ったもう一人の自分を想う。
 自身のいる【ガイア】にとても近くて遠い異世界【ファー・ジ・アース】に存在する少年。

「無事……卒業出来たかな?」

 ガイアよりも数ヶ月先の時間を経過しているファー・ジーアスならばもう卒業式は過ぎているだろう。
 出席日数を常に気にしていたあの少年が、無事卒業出来たかどうか少し心配だった。

「もし留年してたら、勉強でも見てあげようかな」

 少しだけ自分よりも知力が低い……いやいや、勉強が出来てなかった少年のことをちょっとだけお姉さんぶった考えで思った。
 ちなみにレンの場合は、テストの成績は大体平均点である。

「休日にでも、またファー・ジ・アースに様子見に行こっ」

 胸につかえていた寂しさを誤魔化すように、休日の予定を決める。
 そして、止めていた足を楽しげに踏み出そうとした。
 その瞬間だった。

 ――世界が変わった。
 空は暗く、太陽は掻き消え、まるで夜闇の如く、モノクロのような世界へと一変していた。

「なっ?!」

 無音の世界。
 あれほど騒がしかった人ごみの音は聴覚のどこにも引っかからず、耳が痛いほどの静寂となっていた。

「エミュレイター?!」

 手に掴んでいたカバンを瞬くように消失させ、同時にレンが自身の胸に手を突きつけた。
 それはまるで心臓を抉り出すような奇妙なポーズ。
 だがしかし、それがレンにとって剣を掴んだ構えの体勢。

「……紅い月が昇っていない?」

 全神経を逆立て、周囲に目を配りながらレンが気付く。
 空に昇る月は常識ではありえないほど巨大ではあるものの紅くない。そして、なによりも――
 周囲に居た人々が“ありえなきモノへとなっていた”。

「棺、桶?」

 人が立っていた場所。猫が歩いていた場所。
 ありとあらゆるレン以外の生命体が立っていた場所に大小サイズは異なるものの同じデザインの棺が血まみれで佇んでいた。
 否、それどころか視界の隅々が血で染まっていた。
 雨上がりだった路上の水溜りは血で染まり、世界は紅く在れとでも狂ったかのように血が、
 真っ赤な血が、視界のところどころに塗られ――けれども血臭はしない、そんな光景。
 視界のみを狂わされているかのような光景。
 長年エミュレイターと交戦しているレンでも見たことのない世界。
 通常の月匣とは異なる異界だった。

「エミュレイターじゃない……けれど、ウィザードが張った月匣にも見えない。これは一体――ッ!?」

 戦士としての本能に従い、極めて冷静に現状を分析にしようと働いた脳とは別に、感覚が警報を知らせた。
 殺気。
 その居所は――上。
 見上げる空から、黒い塊――見たこともない“仮面”を付けた化け物が飛び降りてくる。

「来い」

 無数の剣を振り上げた黒き怪物。
 それを見て、普通ならば、常人ならば足を止めることだろう。恐怖に身を竦めることだろう。
 だがしかし、彼女は――柊 レンは常人ではなかった。
 胸に当てた手が輝く。同時に、洩れ出る光を掴み取るようにその手が握られ、踏み出す足と咆哮と共にその光が――顕現する。

「ボクの剣!」

 光は少女の手の中で――剣と成す。
 常識外の存在たる夜闇の魔法使い、その一人であるレンの手に握られた光は瞬く間に凝縮し、発光し、結晶化していく。
 少女の手が風を切る数瞬にも満たない間に、その光は一振りの軍刀と化していた。
 そして、その一閃は――全てを切り裂く剣閃と成す。
 十数にもなる無数の刃。その全てを受け止め、
 その瞬間レンの肩から肘、手、指へと流れる白き閃光と共に光の剣は数秒の躊躇もなく、
 その全ての剣を切り裂いて、その奥の黒き怪物と“仮面”を両断していた。

「kIIIIIIIEEEEEE!!!!」

 真っ二つに両断された怪物は、まるでペンキのように上空で飛び散って、その黒き体液がレンの顔と制服を黒く染め上げた。
 だがしかし、レンは目を逸らさずにその最後を見届ける。
 限定地域でのスコールの如く黒き体液は地面に飛び散る。
 カラカラとアスファルトの大地の上で転がりまわっていた仮面の片割れがカタンと倒れた。
 そして、その次の瞬間、まるで蒸発するかのように怪物の体液が、仮面が消え去っていく。
 その後に残ったのは血まみれのアスファルトだけだった。

「賢者の石が、ない?」

 エミュレイターを屠った際に残る残骸。
 その存在を構築しているプラーナの結晶体がないことに、レンは不審げに顔をしかめた。

「エミュレイターじゃないのか?」

 そう考えて、無意識に足を踏み出した瞬間だった。

 ――素晴らしい。

 声がした。

「誰だ?!」

 軍刀を構え、瞬時にレンは戦闘体勢に入った。

 ――見事な一撃だ。

 全感覚で声の居場所を探るが、声は遮蔽物無き道路の真ん中でありながら反響したかのように出所を掴ませない。
 とても近くにいるようでもあり、とても遠くにいるかのようでもある。

 ――さすがは勇者。神殺しの片割れよ。

(神殺し?)

 身に覚え無き言葉に、不審さが増す。
 チリチリと背筋の産毛が逆立つような感覚に、うっすらとこめかみに汗が浮かんでくる。
 けれども、声は恍惚とした口調を変えずに言った。

 ――相応しき役者 私を愉しませてくれ。

 その声が終わった瞬間、世界が揺れた。

「なっ?!」

 否。地面が震えていた。
 震度7の地震にも匹敵する地面の振動に、どうしょうもなくレンの体勢が崩れ、視界がぶれる。
 そして、“血が沸騰した”。
 視界の各所、血溜まりと化していた水面が震動以外の震えを持って泡立ち――飛び出した。
 真っ黒な魔手が、視界のあらゆる方角から噴出する。

「なっ?!」

 その数は数十? 否、数百? 否、千を超える数。
 まるで手で出来た津波のように、その黒き魔手がレンへと飛び掛る。

「このぉ!!」

 それがレンの身体を掴みかかる瞬間、先ほど手から放たれた白光が全身を覆った。そして、旋風の如くレンの手が舞い、剣が視界中の手を切り裂く。
 百にも達する手が、瞬く間に斬り飛ばされた。
 だがしかし、レンの抵抗もそこまでだった。
 足元の水面から飛び出した手が、足に絡みつき、そのまま胴を縛る。

「あっ!?」

 それに足が止まった瞬間、残った手がレンの身体を掴んだ。
 手を、足を、太ももを、胴を、胸を、首を、黒き縄で縛り上げられたかのようにレンの身体が高速されていく。
 プラーナを解放し、戒めを解こうにも多勢に無勢だった。
 視界が埋まっていく。
 真っ黒な闇に呑み込まれていくように、黒き手が全身を呑み込んでいく。
 死の恐怖が喉元まで込み上げてくる。
 薄れゆく視界の中で、大切な友人たちの姿を幻視し――最後に。

「蓮司くん……」

 柊 レンの姿が闇に消えた。
 膨れ上がる血の水面に、レンを飲み込んだ黒き魔手の籠が呑み込まれるように消えた。

 そして、戻り行く青き空の下には、たった一人の少女の姿はなかった。

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