執行委員の互助
極上生徒会管理棟内東棟5階、執行部室。
授業が始まる前の、朝7:30。
授業が始まる前の、朝7:30。
朝練の関係もあり、学生の外出は朝5時から認められている。
さすがに登校可能時間からいるわけではないものの、授業が始まるまでにやることがある学生は、この時間帯には多く居住区から出てきている。
この日の執行部室も、その例に漏れなかった。
最近備えつけられた3台目のデスクトップ(1台目は初春専用機。2台目はその他執行部員が使えるように設定ナシ)に陣取る少女が1人。
さすがに登校可能時間からいるわけではないものの、授業が始まるまでにやることがある学生は、この時間帯には多く居住区から出てきている。
この日の執行部室も、その例に漏れなかった。
最近備えつけられた3台目のデスクトップ(1台目は初春専用機。2台目はその他執行部員が使えるように設定ナシ)に陣取る少女が1人。
初春の本気速度に引けをとらない超高速ブラインド。
というか、指先が分身してるとしか思えないほどの速度で、一度としてキーボードを見ることなく彼女はただキーボードを叩き続ける。
そして―――少女が朝この執行部室にやってきてから一度も途切れさせなかったキータッチの音を、一際強くエンターキーを叩くことで終わらせた。
たんっ! と、強い音が響きしばしの静寂。
というか、指先が分身してるとしか思えないほどの速度で、一度としてキーボードを見ることなく彼女はただキーボードを叩き続ける。
そして―――少女が朝この執行部室にやってきてから一度も途切れさせなかったキータッチの音を、一際強くエンターキーを叩くことで終わらせた。
たんっ! と、強い音が響きしばしの静寂。
5秒ほどして、静かな部屋にがー、という無機質なプリンターの音がしばらく響き続ける。
数十枚の紙が吐き出されたのを確認し、少女は無表情のまま、紙の束を案件ごとにクリップで留める。
そしてそのまま、『風紀委員』の仕事をちょうど終わらせた初春と、その側で手伝いをしていたノーチェの方に持っていき、一言。
数十枚の紙が吐き出されたのを確認し、少女は無表情のまま、紙の束を案件ごとにクリップで留める。
そしてそのまま、『風紀委員』の仕事をちょうど終わらせた初春と、その側で手伝いをしていたノーチェの方に持っていき、一言。
「……昨日までの未処理案件提出用書類、26件分。完了した」
「あ、そーなんですかそこに置いておいてくださ……って、えぇええぇぇぇっ!?」
「あ、そーなんですかそこに置いておいてくださ……って、えぇええぇぇぇっ!?」
朝は少し弱いのか遅めにキーボードを叩いていた初春は、最近協力してくれるようになった少女に軽い礼を言いかけ―――
―――あっさりとそう告げた少女の言葉に、まだ寝ている人間を起こせそうな驚きの声を上げた。
―――あっさりとそう告げた少女の言葉に、まだ寝ている人間を起こせそうな驚きの声を上げた。
初春は立ち上がると、少女が抱えている重さを感じるほどの厚みをもった紙の束をひったくるように奪い取る。
ぱらぱらぱらぱらといくつか紙をめくり、少女と紙束の間で視線を往復させ―――デスクにどさりと紙の束を置いて、少女に抱きつく。
ぱらぱらぱらぱらといくつか紙をめくり、少女と紙束の間で視線を往復させ―――デスクにどさりと紙の束を置いて、少女に抱きつく。
「―――長門さん、愛してますっ!」
「わたくしも有希のこと大好きでありますっ!」
「わたくしも有希のこと大好きでありますっ!」
ぎゅう、と2方向から抱きつかれている中心の少女は、しかしあくまで無表情に呟く。
「ユニーク」
このヒューマノイド・インターフェース、つまるところの宇宙人に『百合』の概念を教えたのは誰だ。
閑話休題。
ノーチェと初春がどれだけ頑張っても、力及ばず少しずつ溜まっていった書類仕事をあっという間に終わらせた彼女の名は長門 有希(ながと ゆき)。
北高に通う高校生とは仮の姿。
実は世界を変える力を持ったとされる少女『涼宮 ハルヒ』を監視するため、情報統合思念体―――つまるところの宇宙人に派遣された派遣宇宙人である。
……正確には「対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース」というやけに長い名称の型の有機アンドロイドなのだが、派遣されたことに変わりはない。
ノーチェと初春がどれだけ頑張っても、力及ばず少しずつ溜まっていった書類仕事をあっという間に終わらせた彼女の名は長門 有希(ながと ゆき)。
北高に通う高校生とは仮の姿。
実は世界を変える力を持ったとされる少女『涼宮 ハルヒ』を監視するため、情報統合思念体―――つまるところの宇宙人に派遣された派遣宇宙人である。
……正確には「対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース」というやけに長い名称の型の有機アンドロイドなのだが、派遣されたことに変わりはない。
ともあれ、長門は北高が学園世界に転移した後もハルヒの監視を続行。
いつも通りの生活をしていたところ、ひょんなことから執行委員にスカウトされた。
所属するまでには至らなかったものの、熱烈な勧誘っぷりとハルヒへの手回しもあり、たまにふらりと手伝いに来てくれることになったのだった。
いつも通りの生活をしていたところ、ひょんなことから執行委員にスカウトされた。
所属するまでには至らなかったものの、熱烈な勧誘っぷりとハルヒへの手回しもあり、たまにふらりと手伝いに来てくれることになったのだった。
そんな、朝っぱらから悪ふざけながらも百合百合しい空気の溢れる執行部室。
そこに空気を読まずにやってきたのは、なにやら疲れた様子の青年―――柊蓮司だ。
彼は、戸を開けて3人の少女が絡み合っている光景を見て、半眼で呟いた。
彼は、戸を開けて3人の少女が絡み合っている光景を見て、半眼で呟いた。
「……朝から何やってんだ、お前ら」
「おはようでありますよ、蓮司ー」
「吸血鬼から聞ける台詞じゃねぇよな、忘れがちだけど」
「おはようでありますよ、蓮司ー」
「吸血鬼から聞ける台詞じゃねぇよな、忘れがちだけど」
そんな軽口を叩きながら、柊が自分の首にかかっているタオルを月衣に放り込む。
初春はいそいそと長門から離れながら、柊の髪が濡れているのを見て取ると、咎めるように言う。
初春はいそいそと長門から離れながら、柊の髪が濡れているのを見て取ると、咎めるように言う。
「あ。朝から2階のシャワールーム使いましたね、ちゃんと掃除してくださいよ?」
「初春、学園都市から掃除ロボ一体まわしてもらえねぇ?」
「一風紀委員に何を頼んでるんですか。
柊さんは執行委員の中でも一番『極上生徒会』に近い位置にいるんですから、自分で『極上生徒会(うえ)』に陳情してくださいよ」
「つったってなぁ……俺は『極上』の一員の、輝明学園(ウチ)のトップから突然辞令受けただけで、他の生徒会の連中なんて3、4人しか顔合わせたことないんだっての」
「初春、学園都市から掃除ロボ一体まわしてもらえねぇ?」
「一風紀委員に何を頼んでるんですか。
柊さんは執行委員の中でも一番『極上生徒会』に近い位置にいるんですから、自分で『極上生徒会(うえ)』に陳情してくださいよ」
「つったってなぁ……俺は『極上』の一員の、輝明学園(ウチ)のトップから突然辞令受けただけで、他の生徒会の連中なんて3、4人しか顔合わせたことないんだっての」
柊蓮司は、この学園世界の揉め事を遊撃的に解決するのを『極上生徒会』から直接任じられた『特別執行委員』と呼ばれる肩書きを持っている。
偶然輝明学園近くまでやってきていた柊は、輝明学園の学園転移に巻き込まれてこの学園世界にやってきた。
その後、勝手に揉め事解決に駆け回っていたのをいくつもの学園の生徒に見られ、
『学生でもないのに学園世界にいて、好き好んで厄介事に首を突っ込む変わり者』という認識を全世界的に受けることになる。
そして発足された『極上生徒会』の構成員たちは、その『変わり者』を完全にコントロール下に置いて手綱を握るのは非常に難しいと判断。
命令を遵守する義務はないとした上で、『この世界で起こる危険を潰す』義務―――通称『調停執行義務』を課した。
偶然輝明学園近くまでやってきていた柊は、輝明学園の学園転移に巻き込まれてこの学園世界にやってきた。
その後、勝手に揉め事解決に駆け回っていたのをいくつもの学園の生徒に見られ、
『学生でもないのに学園世界にいて、好き好んで厄介事に首を突っ込む変わり者』という認識を全世界的に受けることになる。
そして発足された『極上生徒会』の構成員たちは、その『変わり者』を完全にコントロール下に置いて手綱を握るのは非常に難しいと判断。
命令を遵守する義務はないとした上で、『この世界で起こる危険を潰す』義務―――通称『調停執行義務』を課した。
事実。柊は命令をきかないことはあっても、後者を守らなかったことはない。
なんとも器用な任務のこなし方をする不器用な人間である。
なんとも器用な任務のこなし方をする不器用な人間である。
その彼に与えられる権利は、実質『東棟の所有権』くらいのものなのだったりする。
所有権と言っても、単に『生活するための場所として使っていい』くらいの権利であり、居住権みたいなものなわけだが。
しかし、その権利に対して柊は『極上生徒会』に本気で感謝した。
彼の反応は、これまで受けた任務で、ほとんどまともに休息をとれる場所を用意されたことがなかったことからくるわけだが……
そのエピソードを聞いて、『極上生徒会』の何人かが光るものを見せたのは秘密の話。
所有権と言っても、単に『生活するための場所として使っていい』くらいの権利であり、居住権みたいなものなわけだが。
しかし、その権利に対して柊は『極上生徒会』に本気で感謝した。
彼の反応は、これまで受けた任務で、ほとんどまともに休息をとれる場所を用意されたことがなかったことからくるわけだが……
そのエピソードを聞いて、『極上生徒会』の何人かが光るものを見せたのは秘密の話。
ともあれ。
数少ない権利に対し、義務は先に述べた『調停執行義務』だけではない。
東棟を所有する権利を与える代わりに課せられる、東棟の管理責任。
志願・スカウトなどで同じく『調停執行』を行う『執行委員』となる学生たちの管理責任。
『調停執行』が行われた際の『極上生徒会』への報告義務。
一応『執行部』は『極上生徒会』の下部組織となるため、活動報告会に参加する義務などなど。
数少ない権利に対し、義務は先に述べた『調停執行義務』だけではない。
東棟を所有する権利を与える代わりに課せられる、東棟の管理責任。
志願・スカウトなどで同じく『調停執行』を行う『執行委員』となる学生たちの管理責任。
『調停執行』が行われた際の『極上生徒会』への報告義務。
一応『執行部』は『極上生徒会』の下部組織となるため、活動報告会に参加する義務などなど。
彼の背負うことは山ほどあるハズなのだが―――正直な話、柊自身が行っているのは、『調停執行義務』の他には前二つくらいだ。
報告書の作成については彼が就任した後、あまりの適正のなさに、赤羽理事長代理がちょうどいいところに来た外部協力者を当てた。
そして、活動報告会に柊蓮司が参加したことはない。というか、『執行部』が参加したことはない。
そんなヒマがないと言った方が正しい。どんな活動環境なんだここは。
報告書の作成については彼が就任した後、あまりの適正のなさに、赤羽理事長代理がちょうどいいところに来た外部協力者を当てた。
そして、活動報告会に柊蓮司が参加したことはない。というか、『執行部』が参加したことはない。
そんなヒマがないと言った方が正しい。どんな活動環境なんだここは。
閑話休題。
そんな柊の前に無表情のまま長門が近づき、目の前で止まる。
彼女はじっと柊を見上げる。そこには何かしらの感情があるわけではない。むしろ『観察』というのに相応しいガン見っぷりである。
人間、あまり凝視されるとちょっと気後れするものだ。
柊も例に漏れず、じり、と半歩退りながら意図を尋ねる。
そんな柊の前に無表情のまま長門が近づき、目の前で止まる。
彼女はじっと柊を見上げる。そこには何かしらの感情があるわけではない。むしろ『観察』というのに相応しいガン見っぷりである。
人間、あまり凝視されるとちょっと気後れするものだ。
柊も例に漏れず、じり、と半歩退りながら意図を尋ねる。
「な、なんだよ。なんか言いたいことでもあるのか?」
長門はその質問に答えることはなく。
しかし観察の結果気が付いたことを、淡々と答えた。
しかし観察の結果気が付いたことを、淡々と答えた。
「―――あなたに、大幅な疲労の蓄積が見られる」
「あ? あぁ、そりゃ郊外に際限なく沸き続ける『死者』ども相手に朝まで生バトルなんてしてりゃ疲れもするだろ」
こきこきと肩を鳴らしながら、こともなげにそう言う柊。
『死者』というのは、吸血鬼の一種『死徒』によって血を吸って殺されたもののうち、適正があったものが長い時間をかけて動くことができるようになったものを指す。
この学園世界に登録されている『死徒』は人を殺すような血の吸い方はしない以上、『学園世界の敵』の手の者だろう。
初春があぁ、と納得した。
『死者』というのは、吸血鬼の一種『死徒』によって血を吸って殺されたもののうち、適正があったものが長い時間をかけて動くことができるようになったものを指す。
この学園世界に登録されている『死徒』は人を殺すような血の吸い方はしない以上、『学園世界の敵』の手の者だろう。
初春があぁ、と納得した。
「だから朝からシャワーなんて浴びてたんですね」
「当たり前だろ。どこぞの飛び出しナイフ眼鏡みたいに斬っただけで消滅させるような無茶苦茶な力持ってないんだよ、こっちは」
「当たり前だろ。どこぞの飛び出しナイフ眼鏡みたいに斬っただけで消滅させるような無茶苦茶な力持ってないんだよ、こっちは」
ほとんど外傷はないと言っても、さすがに死体の血飛沫や腐った肉の汚汁からも完璧に避けるのは無理があったらしい。
昨日執行委員が全員帰宅の途についた後、すぐに発生したというその敵に夜明けまで付き合い続けた柊は、シャワーを浴びてから執行部室に直行したのだという。
朝まで際限なく沸く人外を斬り倒し続ける体力は無茶苦茶な力って言わないんですかねー、と独り言のように呟く初春の隣で、ノーチェが首を傾げた。
昨日執行委員が全員帰宅の途についた後、すぐに発生したというその敵に夜明けまで付き合い続けた柊は、シャワーを浴びてから執行部室に直行したのだという。
朝まで際限なく沸く人外を斬り倒し続ける体力は無茶苦茶な力って言わないんですかねー、と独り言のように呟く初春の隣で、ノーチェが首を傾げた。
「あれ? そういえば、その前の夜は朝まで『白駒』の群れを斬りまわってなかったでありませんか?」
『白駒』―――正式名称『白駒陵守(しらこまのみささぎもり)』。2m半ほどの高さの、人の形をした『神』の尖兵。
『天御門(あまのみかど)』と呼ばれる、『神』を名乗るオーバーテクノロジーを持った集団。彼らが地上世界へと侵略を開始した際に使った命なき殺戮の兵。
それを寸分違わず再現した代物だ。天御門はすでに存在していないため、何者か―――おそらくはこちらも『学園世界の敵』の仕業だと思われている。
斬り回ったってのも面白い表現だな、なんて言いながらノーチェの言葉をあっさり肯定する柊。
彼のリアクションを見て、初春が思い出す。
『天御門(あまのみかど)』と呼ばれる、『神』を名乗るオーバーテクノロジーを持った集団。彼らが地上世界へと侵略を開始した際に使った命なき殺戮の兵。
それを寸分違わず再現した代物だ。天御門はすでに存在していないため、何者か―――おそらくはこちらも『学園世界の敵』の仕業だと思われている。
斬り回ったってのも面白い表現だな、なんて言いながらノーチェの言葉をあっさり肯定する柊。
彼のリアクションを見て、初春が思い出す。
「柊さん、一昨日の朝に下級エミュレイターの群れが現れた月匣に突入して夜明けまで戦ってたって言ってませんでしたっけ?」
「そんなこともあったな、そういえば」
「そんなこともあったな、そういえば」
と、本人も今思い出したように頷く。
長門が淡々と報告する。
長門が淡々と報告する。
「今処理した書類の中には、さらにその前日に『悪魔』の群れを相手に、1人で前日午後9時から当日午前6時まで交戦していたという記録があった」
……執行部室に、なんだか微妙に言い表し辛い沈黙が流れる。
しばしの沈黙の後、初春が柊に尋ねた。
しばしの沈黙の後、初春が柊に尋ねた。
「……柊さん、一つ伺いますけど」
「なんだ?」
「寝てます?」
「なんだ?」
「寝てます?」
初春の強張った笑みを前に、溜め息をついて半眼になる柊。
「んなヒマあると思ってんのかよ。昼間は大抵どっかで起きてるケンカ止めに行ってんだぞ?」
あはははは、ですよねー。とごまかすように笑いながら……だんだん、その声が虚ろになっていき、やがて止まる。
再び落ちる沈黙。
その沈黙を破ったのは、先ほど柊に半ば答えがわかっていながら、答えが恐ろしくて聞き辛かった質問をした初春だ。
彼女は柊に向けて一歩踏み出しながら叫ぶ。
再び落ちる沈黙。
その沈黙を破ったのは、先ほど柊に半ば答えがわかっていながら、答えが恐ろしくて聞き辛かった質問をした初春だ。
彼女は柊に向けて一歩踏み出しながら叫ぶ。
「何やってるんですかっ! 四徹仕事漬けとかマズいにもほどがあるでしょうっ!?」
「労働基準法とかそういう話を、どこぞのミニ四駆アニメの弟機並みにカッ飛んで超えてるでありますよっ!
ていうかむしろもう生命維持的な意味でマズいであります! 赤い妖精さんとお話でもしたいのでありますかっ!?」
「労働基準法とかそういう話を、どこぞのミニ四駆アニメの弟機並みにカッ飛んで超えてるでありますよっ!
ていうかむしろもう生命維持的な意味でマズいであります! 赤い妖精さんとお話でもしたいのでありますかっ!?」
あまりに睡眠をとらないと幻覚作用が起きるのは医学的な事実である。
ていうかそんなことを吸血鬼が言うな。
ていうかそんなことを吸血鬼が言うな。
ともあれ。
口々に休めと言ってくる少女達を目の前にしながら、しかし当人はいつもと変わらぬ様子で頭をかきつつ答える。
口々に休めと言ってくる少女達を目の前にしながら、しかし当人はいつもと変わらぬ様子で頭をかきつつ答える。
「そうやって言ってくれんのは嬉しいけどな。その間の俺の仕事は誰がやるんだよ?
一日学校ないのなんて俺じゃなきゃノーチェくらいしかいねぇんだぞ。ノーチェは戦闘1人でこなせるほど火力があるわけじゃねぇしな。
『極上生徒会(うえ)』から頼まれてる以上、俺は基本的に授業中の生徒に手伝いは求められないことになってんだし、
『執行委員(お前ら)』じゃどうしても出動できない時間があるだろうが」
一日学校ないのなんて俺じゃなきゃノーチェくらいしかいねぇんだぞ。ノーチェは戦闘1人でこなせるほど火力があるわけじゃねぇしな。
『極上生徒会(うえ)』から頼まれてる以上、俺は基本的に授業中の生徒に手伝いは求められないことになってんだし、
『執行委員(お前ら)』じゃどうしても出動できない時間があるだろうが」
そう言われて言葉に詰まる2人。
ここにいたのが美琴やベホイミならば、有無を言わせず力づくででも寝かせるところだが、彼女たちはイマイチ押しが弱いところがある。
しかし、ここにいるもう1人は退かなかった。彼女もたいがい頑固な娘である。
長門は変わらず柊を見上げたまま、淡々と答える。
ここにいたのが美琴やベホイミならば、有無を言わせず力づくででも寝かせるところだが、彼女たちはイマイチ押しが弱いところがある。
しかし、ここにいるもう1人は退かなかった。彼女もたいがい頑固な娘である。
長門は変わらず柊を見上げたまま、淡々と答える。
「足りない分は『お手伝い』として人員を調達すれば、一日くらいは保(も)つ」
先も述べたように、この世界での柊の認識は『学生でもないのに学園世界にいて、好き好んで厄介事に首を突っ込む変わり者』である。
彼が特別執行委員となるまでに、ただのお節介で助けられたものが数多く存在する。
彼が特別執行委員となった後は、彼は『執行委員』の代表格のような存在となった。
そんな彼に―――また、執行委員たちに恩義を感じている人間も多くいる。
執行委員権限には『一般生徒による手伝いは、その生徒が了承した場合のみ可能とする』というものもある。
執行部にはもろもろの事情によっては入れないものの、手伝いならばできる、という人間を片っ端から当たればその穴も埋められなくはないだろうということだ。
長門は、やはり無表情のまま続ける。
彼が特別執行委員となるまでに、ただのお節介で助けられたものが数多く存在する。
彼が特別執行委員となった後は、彼は『執行委員』の代表格のような存在となった。
そんな彼に―――また、執行委員たちに恩義を感じている人間も多くいる。
執行委員権限には『一般生徒による手伝いは、その生徒が了承した場合のみ可能とする』というものもある。
執行部にはもろもろの事情によっては入れないものの、手伝いならばできる、という人間を片っ端から当たればその穴も埋められなくはないだろうということだ。
長門は、やはり無表情のまま続ける。
「以前見せてもらった報告書の束から計算すると、あなたはこの委員の発足から丸一日休息をとっていたことがない。
ノーチェ固有の情報集積式演算回路にアクセスした結果のあなたの世界の雇用条件から見ても違法性は明白」
「お前の涼宮の監視は365日体制じゃねーか」
ノーチェ固有の情報集積式演算回路にアクセスした結果のあなたの世界の雇用条件から見ても違法性は明白」
「お前の涼宮の監視は365日体制じゃねーか」
自分が悪いことをしているように感じたのか、少しむっとしたように長門にそう言い返す柊。
しかし彼女は淡々としたままに真正面からその視線に応じる。
しかし彼女は淡々としたままに真正面からその視線に応じる。
「家で休息はとっている。
それに、監視とあなたのする仕事では、消耗が比較にならないと考える」
それに、監視とあなたのする仕事では、消耗が比較にならないと考える」
それだけ言うと、長門は柊を変わらぬまま見る。見続ける。穴が空くほどに見る。それはもうじっくりと見る。
柊としてはなにか言い返さなければと思うのだが、実質不眠5日目に突入している頭がきちんと働くはずもない。
長門の無表情な視線にどこか責めるような色があるように感じ、根負けした。
柊は観念したように両手を挙げると、こーさん、と呟いた。
柊としてはなにか言い返さなければと思うのだが、実質不眠5日目に突入している頭がきちんと働くはずもない。
長門の無表情な視線にどこか責めるような色があるように感じ、根負けした。
柊は観念したように両手を挙げると、こーさん、と呟いた。
「……わかった。
実際そろそろ頭がまともに働かなくなってきてたとこだし、今日一日は休ませてもらう。
ただ、俺じゃないとなんともならなくなったりしたら叩き起こせよ。いいな?」
「それでいい」
実際そろそろ頭がまともに働かなくなってきてたとこだし、今日一日は休ませてもらう。
ただ、俺じゃないとなんともならなくなったりしたら叩き起こせよ。いいな?」
「それでいい」
そこだけ真剣な表情で尋ねた柊に、こくり、と頷く長門。
そんな彼女の背後から、長門さんすごーい! 有希が蓮司を負かしたでありますー!と再び抱きつく少女2人。
花畑娘とイタリア娘がハイタッチしながら長門を抱きしめる光景を見ながら、彼は溜め息。
そんな彼女の背後から、長門さんすごーい! 有希が蓮司を負かしたでありますー!と再び抱きつく少女2人。
花畑娘とイタリア娘がハイタッチしながら長門を抱きしめる光景を見ながら、彼は溜め息。
「んじゃ2階(した)で寝てるから、頼んだ。授業には遅れんなよ、あんまり時間ねぇぞ」
そう言って、柊は戸を開く。
一度信頼してものごとを頼んだ相手を、柊はけして疑わない。
彼の「信じる」という言葉は、確率などは丸無視で、「疑わない」のと同義なのである。
そのまま、彼は2階にある仮眠室へと向かう。柊が東棟の管理を任されてから、休息を取れる時はそこで眠っている場所である。
柊が執行部室から出て行き、階段を下りる音が響きだした頃、長門はノーチェと初春を振り返ると、呟いた。
一度信頼してものごとを頼んだ相手を、柊はけして疑わない。
彼の「信じる」という言葉は、確率などは丸無視で、「疑わない」のと同義なのである。
そのまま、彼は2階にある仮眠室へと向かう。柊が東棟の管理を任されてから、休息を取れる時はそこで眠っている場所である。
柊が執行部室から出て行き、階段を下りる音が響きだした頃、長門はノーチェと初春を振り返ると、呟いた。
「協力要請、手伝って」
その言葉に、2人の少女は笑顔で答えた。
***
授業のために学生のいなくなった居住区。
そこに、30体ほどの『鬼』が現れた。
ソレらは、負の想念を抱いた人間に憑き、心を食らって同化する精神寄生体にして同化した異形そのものの名。
ある世界においては、神威を宿す刃―――『神剣』を操る者達の手により、すでに全ての鬼の王とされるものの消滅が確認されている。
しかし、どう迷い込んだのか、彼らのいる世界からもう人には戻れない『鬼』が学園世界に紛れ込んだ。
彼らは最も近しい存在を食らった後、手当たり次第に人間を殺し、食らっていく。
『鬼』たちはまさしく人外と呼ぶに相応しい力を持っている。
彼らが戦闘力を持たない学校にでも到達してしまえば、そこには大きな被害が出るだろう。
そこに、30体ほどの『鬼』が現れた。
ソレらは、負の想念を抱いた人間に憑き、心を食らって同化する精神寄生体にして同化した異形そのものの名。
ある世界においては、神威を宿す刃―――『神剣』を操る者達の手により、すでに全ての鬼の王とされるものの消滅が確認されている。
しかし、どう迷い込んだのか、彼らのいる世界からもう人には戻れない『鬼』が学園世界に紛れ込んだ。
彼らは最も近しい存在を食らった後、手当たり次第に人間を殺し、食らっていく。
『鬼』たちはまさしく人外と呼ぶに相応しい力を持っている。
彼らが戦闘力を持たない学校にでも到達してしまえば、そこには大きな被害が出るだろう。
と。『鬼』の群れが歩みを進めるその先の角を曲がり、黒の学ランの少年が2人、顔を出した。
1人は黒髪つんつん頭、白いハチマキを巻いており、尻尾のように後ろに垂れており、一般的に「日本刀」と呼ばれる2尺ほどの白鞘を左手に持っていた。
もう1人はぐるぐるビン底眼鏡。茶髪の長い髪を束ねたどう見ても文化系に見える少年で、引き金はあるものの銃というにはやや難しい形状の道具を手にしている。
つんつん頭がよしっ、と拳を握りながら言う。
1人は黒髪つんつん頭、白いハチマキを巻いており、尻尾のように後ろに垂れており、一般的に「日本刀」と呼ばれる2尺ほどの白鞘を左手に持っていた。
もう1人はぐるぐるビン底眼鏡。茶髪の長い髪を束ねたどう見ても文化系に見える少年で、引き金はあるものの銃というにはやや難しい形状の道具を手にしている。
つんつん頭がよしっ、と拳を握りながら言う。
「『鬼』の群れ発見っ、ドンピシャじゃん!」
「ほら、だから言っただろ?
地図見る限りこっち側通るってさ。まったく、留美奈(るみな)はもう少し人の言うこと聞いた方がいいよ」
「ほら、だから言っただろ?
地図見る限りこっち側通るってさ。まったく、留美奈(るみな)はもう少し人の言うこと聞いた方がいいよ」
留美奈、と呼ばれた少年は茶髪の少年にそう諭されてぐ、とうめくものの、ともかく、と刀の柄に右手を伸ばし、構える。
「んなこと言ってる場合じゃねえだろうが、ほら行くぞ銀之助!」
はいはい、とその言葉に応じながら茶髪の少年はビン底眼鏡を外して学ランの胸ポケットにしまう。
お約束の一つというべきか、眼鏡を外した少年はとんでもなく美形だ。もうお前ずっとコンタクトで通せといいたくなるくらいには美形だ。
少年―――銀之助は懐からもう一つ同じ形の道具を取り出すと、それぞれのトリガーに指をかける。
それは『練氣銃』と呼ばれる代物で、彼らの世界に存在する『能力者』と呼ばれる者たちの能力を封じ込めた付け替え可能なカートリッジ弾を打ち出す道具だ。
お約束の一つというべきか、眼鏡を外した少年はとんでもなく美形だ。もうお前ずっとコンタクトで通せといいたくなるくらいには美形だ。
少年―――銀之助は懐からもう一つ同じ形の道具を取り出すと、それぞれのトリガーに指をかける。
それは『練氣銃』と呼ばれる代物で、彼らの世界に存在する『能力者』と呼ばれる者たちの能力を封じ込めた付け替え可能なカートリッジ弾を打ち出す道具だ。
そして―――銀之助に声をかけた少年、留美奈は能力者の1人。
その上、到底『鬼』に食われてやるようなかわいらしい性格をしていない。
彼らはそのまま啖呵を切る。
その上、到底『鬼』に食われてやるようなかわいらしい性格をしていない。
彼らはそのまま啖呵を切る。
「ちょっとした借りを返さなきゃならねえからな。ほら、ちゃっちゃと片付けてやるから来いよ!」
「『一日執行委員代行』浅葱 留美奈(あさぎ るみな)と五十鈴 銀之助(いすず ぎんのすけ)、お仕事開始します!」
「『一日執行委員代行』浅葱 留美奈(あさぎ るみな)と五十鈴 銀之助(いすず ぎんのすけ)、お仕事開始します!」
言って彼らは己の能力を解放し、引き金を引く。
能力者唯一の『風使い』と、その友人の『化学者』は、同時に一歩を踏み出した。
能力者唯一の『風使い』と、その友人の『化学者』は、同時に一歩を踏み出した。
***
ノーチェは水晶玉に次々と映し出される学園の状況に頭を抱えつつ処理をしていた。
「D-0541居住区内近くの『鬼』の集団への派遣が完了。
学園都市所属『打ち止め』が『神獣・ポン太』を拉致して一緒に姿をくらませた件については選抜委員にさりげなーく匿名で情報提供完了。
それから……輝明学園生とリオフレードの生徒がメイドのことで口論になって衝突を開始っ!?
方やウィザード方やカオスフレアでありますかっ!? そんな無茶を止められるのは―――っ!」
学園都市所属『打ち止め』が『神獣・ポン太』を拉致して一緒に姿をくらませた件については選抜委員にさりげなーく匿名で情報提供完了。
それから……輝明学園生とリオフレードの生徒がメイドのことで口論になって衝突を開始っ!?
方やウィザード方やカオスフレアでありますかっ!? そんな無茶を止められるのは―――っ!」
即座にデスクトップで情報を検索。つい先ほど2限目の授業を終えた中学生の女の子の名前を発見し、即座に連絡。了承を得て向かってもらう。
人の心を動かす―――むしろ操る―――歌声を持つ彼女ならばそんな馬鹿共を止めることも可能だろう。彼女自身の任侠道のためにも。
あぁもう、とノーチェには珍しく悪態をつく。
人の心を動かす―――むしろ操る―――歌声を持つ彼女ならばそんな馬鹿共を止めることも可能だろう。彼女自身の任侠道のためにも。
あぁもう、とノーチェには珍しく悪態をつく。
「なんでこんな時に限って蓮司向けの仕事がバリバリ起こってくるのでありますか―――っ!?
飾利ー、有希ー、早く帰って来てぇぇぇえええっ!?」
飾利ー、有希ー、早く帰って来てぇぇぇえええっ!?」
……まぁ、その、頑張れ。
***
その頃の柊蓮司。
―――泥のように眠る。
―――泥のように眠る。
***
『えー? 止める、までしかやっちゃいけないの? それじゃちょっと暴れ足りなくなりそうなんだけど』
「わたしたちはそれが仕事なんですよっ。執行委員はケンカ屋じゃないんです、お手伝いしてくださるならそこは守ってもらいませんと」
『えー? 止める、までしかやっちゃいけないの? それじゃちょっと暴れ足りなくなりそうなんだけど』
「わたしたちはそれが仕事なんですよっ。執行委員はケンカ屋じゃないんです、お手伝いしてくださるならそこは守ってもらいませんと」
初春が、協力を要請した『一日執行委員代理』相手に対して説明を続ける。
ぶーぶー、と電話の先の彼女は文句を続ける。
ぶーぶー、と電話の先の彼女は文句を続ける。
『なんでだよー、烈火とみーちゃんは化け物退治に行ってるんだろー。
風子ちゃんと愉快な仲間たちはそっちに行っちゃダメなわけ?』
「人手が足りないんですっ。
今度近くに怪物が出てきたらお願いしますから、とりあえず目の前の魔法学術都市アリアドネーとエルクレスト・カレッジの学生の小競り合いをなんとかしてください!」
風子ちゃんと愉快な仲間たちはそっちに行っちゃダメなわけ?』
「人手が足りないんですっ。
今度近くに怪物が出てきたらお願いしますから、とりあえず目の前の魔法学術都市アリアドネーとエルクレスト・カレッジの学生の小競り合いをなんとかしてください!」
言われ、電話の先の相手は少しばかり不満そうではあるもののそれに了承の言葉を出す。
『わかった。引き受けた以上は文句言わずにやりますか』
「やってくれるんですか? 助かります。すぐにエリーさんも着きますから、彼女が来たらその指示に従ってくださいね!」
『それまでは暴れていいってことだよね? じゃあ―――火影忍軍紅一点、『風神使い』の霧沢 風子とその他3名!
行くよっ、土門、かおりん、葵っ!』
「やってくれるんですか? 助かります。すぐにエリーさんも着きますから、彼女が来たらその指示に従ってくださいね!」
『それまでは暴れていいってことだよね? じゃあ―――火影忍軍紅一点、『風神使い』の霧沢 風子とその他3名!
行くよっ、土門、かおりん、葵っ!』
ぶちん、と携帯の切れる音。それを聞いて盛大に溜め息をつく初春。
片っ端から連絡をつけ続けたはいいが、なんだか執行委員を勘違いしている協力者もいる気がしてきた彼女である。
傍らのノーチェもまた忙しそうだ。
片っ端から連絡をつけ続けたはいいが、なんだか執行委員を勘違いしている協力者もいる気がしてきた彼女である。
傍らのノーチェもまた忙しそうだ。
「はい、そうでありますっ! 合流地点には『陰の者』に詳しい真神学園の生徒が5人いるはずでありますから、その中の龍麻に聞いてほしいのでありますよ。
ってわけで、あとはお任せするでありますね。ちゃんとカズキと斗貴子を案内するのでありますよベホイミ!」
『りょーかいッス!』
ってわけで、あとはお任せするでありますね。ちゃんとカズキと斗貴子を案内するのでありますよベホイミ!」
『りょーかいッス!』
ベホイミへの通信を終えると同時、0-Phone の短縮を押して次の番号にかけている。
お昼休みのこの時間、執行部室にいるのはノーチェと初春だけである。
長門は昼休み開始と同時に北高近くの転送陣からすぐに執行部室まで来て即『少しの間席を外す。すぐに戻る』と言ってすでに10分ほど経っている。
『一日執行委員』として、ある学園の生徒に協力を求めてなにやらやっているようだ。
何をしているかまではわからないが、長門が無責任なことをする娘ではないと知っている2人は文句も言わずに状況を処理し続ける。
少しばかり疲れた表情で、初春がノーチェに言う。
お昼休みのこの時間、執行部室にいるのはノーチェと初春だけである。
長門は昼休み開始と同時に北高近くの転送陣からすぐに執行部室まで来て即『少しの間席を外す。すぐに戻る』と言ってすでに10分ほど経っている。
『一日執行委員』として、ある学園の生徒に協力を求めてなにやらやっているようだ。
何をしているかまではわからないが、長門が無責任なことをする娘ではないと知っている2人は文句も言わずに状況を処理し続ける。
少しばかり疲れた表情で、初春がノーチェに言う。
「ま、まさか柊さんがいないだけでこれだけ忙しくなるとは……。ちょっと甘く見てましたかね、これは」
「短時間で片付けるためには、普通それ相応の人手を要するでありますからなぁ……。
その点、蓮司は火力特化な上機動力があるので、短期決戦にこれ以上向いた人材はいないくらいでありますよ。
少し時間がかかっても、本人は学業がないでありますから問題ないでありますし」
「この世界にとっては、本当にありがたい人なんですねぇ……」
「短時間で片付けるためには、普通それ相応の人手を要するでありますからなぁ……。
その点、蓮司は火力特化な上機動力があるので、短期決戦にこれ以上向いた人材はいないくらいでありますよ。
少し時間がかかっても、本人は学業がないでありますから問題ないでありますし」
「この世界にとっては、本当にありがたい人なんですねぇ……」
はぁ、と溜め息。
大事なものの価値は、それがなくなった時に気が付くものだ。
今現在2階で眠っている人間の、この世界における重要性を改めて思い知る。
大事なものの価値は、それがなくなった時に気が付くものだ。
今現在2階で眠っている人間の、この世界における重要性を改めて思い知る。
ともあれ、そんなことに感慨を抱いていられないのが現状だ。
ナビゲートが終われば、今度は報告書・始末書の作成に追われるのがデスクワーク担当である。
再びモニターを見るために体を起こす。
初春は真剣な表情でモニターを睨んで仕事をこなしだす。
ナビゲートが終われば、今度は報告書・始末書の作成に追われるのがデスクワーク担当である。
再びモニターを見るために体を起こす。
初春は真剣な表情でモニターを睨んで仕事をこなしだす。
「―――頑張りましょう、ノーチェさん。約束は破りたくないですからね」
「で、ありますな。わたくしも同感であります」
「で、ありますな。わたくしも同感であります」
苦笑しながら答えるノーチェも、腕まくりをして気合を入れる。
そして、タイピングの音だけが執行部室に響きだす。
そんな中で、ノーチェは内心小さく首を傾げた。
そして、タイピングの音だけが執行部室に響きだす。
そんな中で、ノーチェは内心小さく首を傾げた。
***
その頃の柊蓮司。
―――死んだように眠る。
―――死んだように眠る。
すでに呼吸音すら聞こえないほど深い眠りについている模様。
***
『初春さんですか? こちら工具楽屋―――『こわしや』です。ご依頼の仕事、完了しました』
「はーい……國生さーん、お疲れさまですー……」
「はーい……國生さーん、お疲れさまですー……」
舞台は変わらぬまま執行部室。
午後4時過ぎ。
授業終了までえんえんとノーチェが根性で1人デスクワークと『調停執行』のために人を派遣していたところ、ほぼ同時刻に初春と長門が執行部室に帰還。
助かったー、と思ったところで、長門がノーチェを捕まえて耳打ち。
それに同意したノーチェを、長門はドナドナしながら初春に一言。
午後4時過ぎ。
授業終了までえんえんとノーチェが根性で1人デスクワークと『調停執行』のために人を派遣していたところ、ほぼ同時刻に初春と長門が執行部室に帰還。
助かったー、と思ったところで、長門がノーチェを捕まえて耳打ち。
それに同意したノーチェを、長門はドナドナしながら初春に一言。
『少しの間席を外す。すぐに戻る』
またですかっ!? と文句を言う暇もなく、初春は1人で執行部室に取り残されることとなったのだった。
そろそろ違う執行委員もやってくる時間帯ではあるのだが、『一日執行委員代行』達で学園同士のいさかいを調停させるのは非常に危険である。
違う学校の生徒同士のいさかいの仲裁の場合、執行委員が『極上生徒会』の下部組織であるという世界的認識と、
執行委員個々人の類稀な能力に『逆らったらマズイ』という認識があるからこそ調停が上手くいく場合もある。
昼間もエリーがいなかったらトラブルになっただろう。
話しあいのできる交渉力のある彼女がいてくれたのは、あの場において僥倖と言えた。
そろそろ違う執行委員もやってくる時間帯ではあるのだが、『一日執行委員代行』達で学園同士のいさかいを調停させるのは非常に危険である。
違う学校の生徒同士のいさかいの仲裁の場合、執行委員が『極上生徒会』の下部組織であるという世界的認識と、
執行委員個々人の類稀な能力に『逆らったらマズイ』という認識があるからこそ調停が上手くいく場合もある。
昼間もエリーがいなかったらトラブルになっただろう。
話しあいのできる交渉力のある彼女がいてくれたのは、あの場において僥倖と言えた。
閑話休題。
本当に疲れた様子の初春の言葉に、電話の相手は調子を変えないまま気遣いの言葉を口にした。
本当に疲れた様子の初春の言葉に、電話の相手は調子を変えないまま気遣いの言葉を口にした。
『初春さん?
非常に疲れていらっしゃるようですが、大丈夫ですか?』
「だいじょうぶ、とは言いがたいですけど頑張ってますよ~?」
『……そうですね、言葉から把握できます』
非常に疲れていらっしゃるようですが、大丈夫ですか?』
「だいじょうぶ、とは言いがたいですけど頑張ってますよ~?」
『……そうですね、言葉から把握できます』
そう答えるのは國生 陽菜(こくしょう はるな)。
御川高校に通いながら、解体業者兼『こわしや』の唯一の秘書をやっている女子高生である。
具体的には執行委員にスカウトしたいくらいの処理能力を誇る書類仕事適正がある。
しかし社員4人とはいえれっきとした企業の秘書をしている人間をスカウトすることはできなかったわけで。
初春はそれでもなんとか話を続けた。
御川高校に通いながら、解体業者兼『こわしや』の唯一の秘書をやっている女子高生である。
具体的には執行委員にスカウトしたいくらいの処理能力を誇る書類仕事適正がある。
しかし社員4人とはいえれっきとした企業の秘書をしている人間をスカウトすることはできなかったわけで。
初春はそれでもなんとか話を続けた。
「と、ともかく~……國生さん、ありがとうございました。工具楽さん、いえ社長さんにもよろしくお伝えください……」
『……わかりました。では、今回の件はわたしが業務日報と一緒にそちらの提出用の報告書も作成しておきます。
初春さんの携帯電話に添付メールを送っておきますので、どうぞ受け取ってください』
「ホントですかっ!? あ、ありがとうございます~……!」
『持ちつ持たれつです。なにかの折には工具楽屋をどうぞよろしくお願いします』
『……わかりました。では、今回の件はわたしが業務日報と一緒にそちらの提出用の報告書も作成しておきます。
初春さんの携帯電話に添付メールを送っておきますので、どうぞ受け取ってください』
「ホントですかっ!? あ、ありがとうございます~……!」
『持ちつ持たれつです。なにかの折には工具楽屋をどうぞよろしくお願いします』
では、という言葉と共に通話が切れる。
國生の気遣いに感謝しながら涙する初春であった。
そして彼女はモニターに顔を戻し―――ふと気づく。
國生の気遣いに感謝しながら涙する初春であった。
そして彼女はモニターに顔を戻し―――ふと気づく。
そういえば、異界からの『敵』の進入報告がなくなっているような……?
今日はやけに『敵』の進入報告が多い日だったけど、それがぱたりと止まっている……?
今日はやけに『敵』の進入報告が多い日だったけど、それがぱたりと止まっている……?
と、そんなことを考えているとでまた地図に赤い光点が生まれる。
またどこかの誰かがケンカを始めたようだ。溜め息をついて彼女はデータベースを漁りだした。
またどこかの誰かがケンカを始めたようだ。溜め息をついて彼女はデータベースを漁りだした。