アイヌの口承文芸
アイヌの口承文芸は、韻文のものと散文のものに大別される。例外はあるが基本的に主人公の一人称で語られる。
韻文の文学
韻文の文学は、一般の
アイヌ語ではない雅語「アトムテイタク(atomte-itak、飾った言葉)」で語られる。
一般に「ユーカラ」として知られているのがこれである。
胆振~日高・沙流地方では「ユカラ(Yukar)」、胆振~渡島では「ヤイェラプ(Yayerap)」、十勝・北見・釧路などでの「サコロペ(Sa-kor-pe、節持つもの)」、日高他での「ハウ(Hau、声)」、樺太での「ハウキ(Hauki、声)」の呼称が知られている。
内容は大同小異で、超人的な能力を持つ少年英雄の戦記ものである。短いものでも数千行、長いものでは2・3万行に達することも珍しくなく、語り終えるのに数日かかることもある。そのため断片的にしか伝承されていないことも多い。伝承者は基本的に男性であり、女性が語る場合もあるが節を付けて謡ってはならないとする地方もある。
主人公が巫術に優れた少女である点以外は英雄詞曲と変わらないが、女性のみが伝承してきたためか、語句が平易だったり心理描写が細やかであったりする。日高・胆振地方で伝承されてきたもので、「マッユカラ(Mat-yukar)」、「メノコユカラ(Menoko-yukar)」という。ともに「女性のユカラ」という意味である。
神謡は、日高の胆振・沙流地方では「カムイユカラ(Kamui-yukar)」、北海道中・東北部や樺太では「オイナ(Oina)」、釧路では「マッユカラ(Mat-yukar)」、美幌では「マッヌカラ(Mat-nukar)」や「サコラウ(Sakorau)」などと呼ばれる。主人公は
カムイたちであり、アイヌが名を付け利用したもので語られていないものは無いと言ってよいほど、多くの話が各地に伝承されている。神謡の特徴として、サケヘやサハと呼ばれる文句が必ず文の途中に挿入される。
聖伝は神謡の1ジャンルであり、特に人文神が主人公になるもので、天地創造や魔神との戦いを謡ったものを特に胆振・沙流地方で「オイナ(Oina)」として、神謡と区別して呼ぶものである。
散文の文学
主人公が人間か
カムイかで区別される。北海道西南部では「ウェペケレ(Wepeker)」、道北・道東では「トゥイタク(Tu-itak)」、樺太では「ウチャシコマ(Uchaskoma)」という。
カムイが主人公となって語られるものには神謡と内容の変わらないものも多い。人間が主人公となるものは、特に酋長などが若い頃の体験を語る、という形式になっているものもあるため、「酋長譚」とよばれる事もある。
特殊なものに「ペナンペ・パナンペ・ウェペケレ(Penampe Panampe wepeker、川下の者と川上の者の昔話)」があり、その多くは片方が行動を起こして成功し、もう片方がまねをして失敗するという滑稽譚である。「鳥呑み爺」「鼠浄土」など日本の昔話が輸入されたと思しき話もあり、「うちの爺と隣の爺」が主人公の場合もある。数あるアイヌの物語の中で、これらのみが三人称で語られる。
最終更新:2005年08月30日 23:18