利用されない食べ物のカムイ
カムイたちは、ある意味では人間の国に来て酒や
木幣を受け取るのを目的としていると考えられる。しかし、一見食べ物に見えないがために、アイヌに利用されずじまいの食べ物のカムイたちは、一見妖怪的な振る舞いで自分の存在を知らそうと出現することがある。
オオウバユリ(トゥレプ)はざっくりアイヌの皆さんのソウルフードとなっており、これらは、普通に諸外国で見られる「食べ物へ感謝する話」であると思われる。
登別地方の伝承。裕福ではあるが子供のいない村長夫婦が、禿頭がかさぶたで覆われた女が、各地の村長の家を回ってはかさぶたをこそげて煮たものを食えと勧め、断ると
チャランケを付けて宝物を巻き上げているという話を聞く。いざとなったら守ってくれるよう各種のカムイにお願いをしておくと、やがて自分の家にも訪れ、やはりかさぶたを煮たものを食べろと勧める。村長はカムイの守護があるはずだから、悪いものであればこの女が罰を当てられるだろうと食べてみると、そのおいしさに驚く。女と歓談し、床に就くと夢に黒髪も美しい女が現れ、「自分は
国造りのカムイに作られたオオウバユリのカムイであるが、アイヌは食べ方を知らないため自分はカムイの国に帰ることもできず、加工法を編み出したがかさぶたのような見た目になるのでなおの事食べてくれない上、各地で侮蔑されてきた。あなた方は親切な上、カムイの守護も篤いので、加工法と子供の魂を授けよう」と言った。女が寝ていたところには山で良く見かける雑草があった。村長夫婦は加工法を広め、また子供も授かり幸せに暮らした。
違う地方では、オオウバユリのカムイはギョウジャニンニクのカムイを引き連れて現れ、器を借りてその中に脱糞しては食べるよう勧めたと語られる。
静内地方の伝承。老いた両親と暮らしている青年が、山向こうの村でたくさんの墓に囲まれた大きな家に住んでいる美女の話を聞く。美女は村人を家に招き入れようとするが、皆恐ろしがって近寄らないというので、青年は好奇心から美女の家を訪れる。
美女は青年を招き入れると、疲れているだろうから泊まっていきなさい、今食事の支度をする」といい、外に出て行く。青年がのぞくと、美女は墓を掘り返すと何かを篭に入れ、それを洗って煮たものを食べろと勧める。石ころのようなそれはとてもおいしく、青年と美女はよもやま話をして過ごす。
翌朝、美女は、「自分はアイヌが食べ物を困っているのを見て天から降りてきたジャガイモのカムイである。心がけのよいお前にイモを託そうと思って、このような振る舞いに及んだのである」と語り、青年に栽培法と種芋を授けた。
静内地方の伝承。品行方正な青年が暮らしている村に、十勝あたりから山のような大女が、各地の村長の家に一夜の宿を求めてはもてなし方が悪いと
チャランケをつけ、宝物を巻き上げているという噂が伝わった。
青年は、「恐ろしがることは無い、落ち度の無いように真心を込めて接客すればよいだけのこと」と、自分の家に招きいれ、手厚くもてなした。大女はとても喜び、床についたが、青年の夢に大女が現れて言うことには、「自分は天から降りてきたささげ豆のカムイであるが、特に心がけのよいものに授けようと各地を回ってきたが、年寄りやカムイを大事にするお前に任せることとする」といい、栽培法を教えた。
青年が目を覚ますと、大女が寝ていた場所にはさまざまな色の小石のようなものが山のように落ちていた。青年は皆に豆と栽培法を広め、幸福な一生を過ごした。
沙流地方の伝承。石狩に住む老夫婦の元に、あちこちの村で女が現れて、杯を借りてはその中に小便をして飲めと勧めるという話を聞く。老人の家にも現れ、やはり杯を借りて小便を飲めと勧めるが、どうやら酒のようなので飲むと女は喜び、「自分はアラモイ(地名)の村の酒である。村は流行病で滅び、交易にいった人たちが宝物や酒を持って帰ってきたが、病を得て死んでしまった。腐りゆくのが惜しいので、皆で村の宝物を分けて、村人の供養もして欲しい」と言う。老人は村を訪れ供養をし、宝物を分け合って裕福に暮らした。
加工法や栽培法はただ知らせればよいものではなく、精神のよいものに授けられなければならない。
カムイたちは人々の心がけを試すために、このような振る舞いに及ぶのである。
参考資料
『日本の食生活全集48 聞き書 アイヌの食事』
最終更新:2021年07月04日 15:54