トレイ・リンは、都市国家「ネオ・キョウト」を舞台にした物語に登場する人物である。かつては治安維持局の特殊実行部隊「ファントム」に所属していたが、物語開始時点では組織を離れ、フリーランスの情報屋として活動している。彼女の主な役割は、裏社会で得た情報や技術を使い、様々な依頼をこなすことである。物語の中では、主人公であるカイと出会い、彼を導く役割を担うことが多い。同時に、政府組織と反政府組織のどちらにも完全には属さず、独自の目的で行動するため、物語の展開に予測できない影響を与える存在でもある。
リンの出身は、ネオ・キョウトの外縁部に位置する「セクター7」地区である。この地区は工業汚染が深刻であり、特にサイバネティクス技術の副産物による「クロム汚染症」が蔓延していた。リンは幼少期にこの公害病によって家族を失い、孤児となった。スラム街で生き延びるため、彼女は独学で高度なサイバーハッキング技術を習得した。その技術が治安維持局の目に留まり、半ば強制的な形でスカウトされることとなる。彼女は、過去の犯罪歴を抹消するという条件を受け入れ、特殊実行部隊「ファントム」に入隊した。隊員時代、彼女は優れた能力を発揮し、部隊のエースとして多くの任務をこなした。しかし、ある特定の任務において、治安維持局が隠蔽していた「クロム汚染症」に関する不都合な真実の一端に触れてしまう。この出来事をきっかけに、リンは組織に対して強い不信感を抱き、偽装工作によって自身の死亡記録を残して除隊した。公式には殉職扱いとなった彼女は、以降「ストレイ・リン」という偽名を使い、ネオ・キョウトの裏社会で情報屋としての活動を開始した。
物語の序盤、リンは治安維持局に追われていた主人公カイと偶然出会う。彼女はカイが持っていた謎のデータチップに興味を持ち、彼を一時的に保護することを決める。これが二人の関係の始まりであった。リンは自身が拠点とするセーフハウスで、カイに情報屋として必要な技術、裏社会で生き抜くための知識、そして基本的な護身術を教え込んだ。カイが追われる理由であるデータチップの解析を進める中で、リンは反政府組織「アルゴス」と接触する。データチップの内容がネオ・キョウトの根幹を揺るがす情報であると判断したリンは、アルゴスのリーダーであるアリアと交渉し、利害の一致から一時的な協力関係を結ぶ。しかし、リンの生存と活動は、かつて所属していた「ファントム」にも察知されることになる。中盤、リンとカイはファントムの精鋭部隊による追跡を受ける。特に、リンのかつての同僚であったゼクスが執拗に彼女の前に立ちはだかった。リンはカイを安全な場所へ逃がすため、単身でゼクスとその部隊の足止め役を引き受け、この戦闘で深手を負うことになる。負傷から回復した後、リンはデータチップの情報を基に、ネオ・キョウト全域を管理する中枢AI「オラクル」の調査を本格化させる。彼女は、オラクルがセクター7で発生した「クロム汚染症」の情報を意図的に隠蔽しており、その汚染症自体が人為的な実験の結果であった可能性に気づく。物語の終盤、リンはカイと共にネオ・キョウトの中枢タワーへの潜入を敢行する。彼女の目的は、オラクルのメインシステムに直接アクセスし、隠蔽された全てのデータを白日の下に晒すことであった。最終決戦において、オラクルの防衛システムが暴走を始めると、リンはカイの活路を開くために行動する。彼女は自らの神経系を旧式のインターフェースでシステムに直結させ、防衛システムのバックアップルートを強制的に確保した。この行動によりカイはオラクルのコアへ到達できたが、システムからの過剰な負荷を受けたリンは、カイの成功を見届けるように通信が途絶え、その後の消息は不明となっている。
リンの活動は多くの人物と交差する。主人公のカイは、リンにとって保護対象であると同時に、自身の技術と思想を託す後継者のような存在である。リンはカイに対し、厳しい態度を取りながらも、実の弟のように接する場面も見られた。治安維持局「ファントム」の隊員であるゼクスは、リンのかつての同僚であり、作中ではライバルとして対立する。ゼクスはリンの実力を高く評価しているが、組織への忠誠を優先し、除隊したリンを追跡する任務を遂行する。二人の戦闘シーンは、互いの過去を知る者同士の複雑な感情が描かれている。反政府組織「アルゴス」のリーダーであるアリアとは、複雑な協力関係にある。アリアはリンの過去や目的をある程度理解しており、共通の敵である治安維持局を倒すために手を組む。しかし、両者は互いに全てを信用しているわけではなく、目的達成のための現実的な取引相手として関係を維持している。
ストレイ・リンという人物は、非常に冷静沈着であり、感情を公にすることは稀である。皮肉めいた言動が多いが、それは彼女が経験してきた過酷な環境や裏切りから身を守るための仮面のようなものであった。本質的には、自分と同じように体制や組織によって人生を奪われる弱者を見過ごせない優しさを持っている。彼女の価値観は徹底した個人主義と現実主義に基づいている。組織や権威といったものを信用せず、自らの「実力」と「情報」だけを頼りに行動する。彼女の行動原理となっているのは、セクター7での家族の死と、ファントム時代に直面した組織の暗部である。そのため、ネオ・キョウトのシステムが隠蔽する「真実」を追求することに強い動機を持っている。「情報は力であり、同時に呪いでもある」という言葉は、彼女の信念を象徴している。情報を手に入れることで状況を有利に変えることができるが、同時に危険な真実を知ることで新たな敵を作ったり、重い責任を負ったりすることになると彼女は考えていた。
リンの存在は、物語全体に大きな影響を与えている。もしリンがカイを保護しなければ、カイは物語の序盤で治安維持局に捕らえられ、物語は始まらなかった可能性が高い。カイが情報や戦闘技術を身につけ、精神的に成長できたのは、リンによる指導があったからである。また、物語の核心である「オラクル」と「クロム汚染症」の謎は、リンの卓越したハッキング技術と情報網がなければ解明できなかった。彼女は、当初は中立的な情報屋として振る舞っていたが、カイとの出会いをきっかけに、徐々にネオ・キョウトの体制そのものと対峙する立場へと変化していく。このリンの行動の変化が、膠着していた治安維持局とアルゴスのパワーバランスを崩す要因となった。最終的に、リンが自らの危険を顧みずに行ったシステムへの介入が、オラクルの機能停止とネオ・キョウトの隠蔽体質の崩壊につながった。彼女の行動は、ネオ・キョウトという都市国家が新たな段階へ進むための礎となったと言える。