セシリア・ランクマートは、帝国北部の港湾都市アルトラン出身の女性で、連邦歴1123年から1130年にかけて活動した技術士官である。彼女は機械工学と情報制御技術の分野で高い能力を持ち、帝国軍における艦艇改修計画「グレイライン計画」の主任技術者として知られている。物語では、軍事と科学の狭間で葛藤する理性派の人物として描かれており、登場時点では中佐に相当する地位にある。直接戦闘にはほとんど関与せず、主に戦略補佐や装備開発、作戦支援の立場から物語に関わる。物語後半では、帝国の技術体系を根本から変える改革案を提唱し、政治的圧力の中でその実現を目指す姿が描かれる。
彼女の出身地アルトランは、かつて帝国と連邦の国境線付近に位置していた交易都市であり、文化や産業の交流が盛んだったが、戦争により衰退していた。セシリアは港湾整備技師の父と、航海士だった母のもとに生まれ、幼少期から機械や造船の技術に触れて育った。少年期には度重なる紛争の影響で都市の機能が麻痺し、避難民として帝都に移住することになる。この経験が、後の彼女の「人命を守る技術」の追求に影響を与えたとされる。帝都工科学院に入学後は、電子制御の分野で頭角を現し、卒業後は帝国軍の研究局に配属された。当初は兵器開発に関わることを避けようとしたが、技術の応用範囲が広がるにつれ、結果的に軍事システムの最適化に関与する立場となった。
物語の序盤では、帝国側の技術顧問として登場する。前線部隊が新型情報戦装備を導入する過程で、システム障害や暴走事件が発生し、その調査を担当するのがセシリアである。この調査を通じて、彼女は軍上層部が隠していた情報操作実験の存在を知ることになり、倫理的な葛藤を抱くようになる。その後、彼女は実験に関与していた情報将校アシュレイ・グロウヴァーと対立し、独自に証拠を集め始める。中盤では、暴走したAI艦艇「エルベ号」の制御を取り戻すために指揮を執り、通信回路の再構築を試みる場面が描かれる。この行動が成功したことで、前線の壊滅を防ぎ、同僚や部下からの信頼を得る契機となった。
後半では、セシリアは軍中央情報局から異動を命じられ、技術研究院の監査官に就任する。ここで彼女は、帝国が開発を進めていた「人工演算人格」計画の存在を知り、それが兵士の意思を制御する目的で進められていることを突き止める。物語はこの発見を契機に大きく転換し、彼女が内部告発に踏み切るか否かを巡って緊張が高まっていく。最終章では、彼女は匿名で内部資料を流出させ、帝国の技術倫理委員会による審査を誘発する。その結果、軍の一部機構が停止し、戦況にも変化が生じるが、彼女自身は責任を問われて拘束される。その後の消息は作中で明確に描かれず、結末では「行方不明」と記されている。
彼女と関係の深い人物として、前述のアシュレイ・グロウヴァーのほか、同僚の整備主任エミル・ノルドハイム、学生時代の恩師マリナ・フェルスが挙げられる。アシュレイとは信念の違いから対立しつつも、互いの能力を認め合う関係にあった。エミルとは共同開発を通じて信頼関係を築き、彼の死がセシリアの行動を変える転機となる。マリナは彼女にとって思想的な支柱であり、「技術は人を導くための手段であり、支配の道具ではない」という言葉が彼女の原動力となった。また、作中でセシリアがしばしば引用する「理性の灯火を絶やさぬことが科学者の義務である」という言葉も、マリナの講義からの引用とされている。
セシリアの人物像は、冷静で論理的な思考を持ちながらも、感情を抑えきれない一面を持つ点に特徴がある。自らの立場を明確に示すことを恐れず、時に上官に対しても意見を述べる姿勢が見られる。彼女の判断は常に「合理性」と「人道性」の両立を意識したものであり、そのために組織との摩擦を避けられなかった。個人的な利益には無関心であり、地位や名誉よりも技術の正しい運用を重視している。物語後半での孤立は、彼女が信念を貫こうとした結果として描かれており、その姿勢は登場人物の中でも一貫している。
作中におけるセシリアの存在は、技術と倫理の関係を象徴するものとして大きな意味を持つ。彼女の行動がなければ、帝国は情報制御技術の危険性を自覚することなく、さらなる暴走を招いていたとされる。また、彼女が残した研究記録は後の世代に引き継がれ、再編後の連邦技術条約の基礎資料として引用されている。物語の最終部で彼女が姿を消した後も、その理念は後継者たちによって受け継がれ、作中の科学観全体に影響を与えている。セシリア・ランクマートは、戦争と技術の狭間で「人の理性を信じる」という姿勢を貫いた人物として、長く語り継がれている。