ポムニット・アイリは、架空世界「セレノア年代記」に登場する登場人物である。作中では中央都市国家レヴィオンに所属する研究士官として描かれ、異文明の遺物を解析する任務に従事している。物語の主要登場人物の一人であり、戦争や外交よりも知識と記録を重んじる立場から、主人公たちの行動に理知的な視点を与える存在となっている。彼女は科学と歴史の中間に立つ研究者として設定されており、技術的な遺物の管理を通じて、過去の文明の真実を探る役割を担う。
アイリの出身地はレヴィオン北部の都市群の一つ、アイゼン地区である。幼少期から高い記憶力と観察力を示し、中央学院への進学を推薦されたとされる。学院時代は歴史学と機構工学の両方を専攻し、特に「記憶装置における情報保持の倫理的側面」という論文で高い評価を受けた。卒業後、研究士官として中央資料庁に配属され、古代遺跡で発掘された装置の再現実験を担当することとなる。この頃から、失われた文明に関する研究が彼女の生涯の中心的な課題となった。
やがて物語の序盤で起こる「トルア遺跡封印事件」において、アイリは技術顧問として調査団に参加する。封印の解除過程で発生した事故によって多くの研究員が消息を絶つ中、彼女だけが意識を保ったまま生還する。この出来事は彼女の研究観に大きな変化を与え、「記録を守る者は、同時に記録に縛られる」という信念を形成するきっかけとなった。中盤では、国家間の緊張が高まる中で、アイリは情報の独占を防ぐために資料庁の機密を部分的に公開し、結果として政府上層部から一時的に解任される。しかし、彼女の行動が新たな交渉の糸口となり、後に再任されることになる。
物語後半では、主人公一行が追う「光記録体」の解析を担当することになる。この装置は過去の映像と音声を再生できるもので、古代文明の終焉を直接的に示す証拠を含んでいた。アイリは装置の安全な起動方法を導き出すが、その過程で自身の精神にも過去の記憶の断片が重なり、現実と幻覚の境界を見失いかける場面が描かれる。彼女は最終的に装置を封印する判断を下し、「記録とは知るためではなく、忘れないためのもの」という言葉を残す。この行動は物語の終盤における重要な分岐点として扱われ、他の登場人物の決断にも影響を与えている。
アイリと関係の深い人物として、現地調査隊長のアレン・ヴェルノー、資料庁の監査官リア・スフィア、そして主人公リセル・フロートが挙げられる。アレンとは同僚として長年協力関係にあり、彼の現場的判断と彼女の理論的分析が対照的な関係を形成している。リアとは思想的な対立が多く、情報の統制と公開の是非を巡って複数回の論争が描かれる。一方でリセルに対しては師弟関係に近い立場で接しており、知識を伝える者としての責任感を示す描写が多い。また、彼女が時折言及する「北の友人」と呼ばれる人物が存在するが、作中ではその正体が明かされていない。
性格は沈着で理性的だが、感情を抑え込みすぎる傾向があると周囲から評されている。会話の際には慎重に言葉を選び、即断を避ける姿勢が特徴的である。研究においては記録を重視し、観測結果よりもその過程を丁寧に記すことを信条としている。思想面では「人は記録によって自らを保存する」という観点を持ち、歴史や技術を単なる過去の遺産ではなく、未来を形づくる情報資源として理解している。この考え方は彼女の研究姿勢全体に影響しており、古代の遺物を再現することよりも、そこに込められた意図や経緯を読み取ることを重視している。
アイリの思想は物語全体にも大きな影響を与えている。彼女の判断により封印された「光記録体」は、真実を求める登場人物たちの目的を一時的に阻むが、その行動が結果として悲劇の連鎖を止める要因となる。また、彼女の理念は次世代の研究者たちに受け継がれ、続編では彼女の理論を基にした「開示協約」が登場する。この協約は、情報の共有と保護を両立させる制度として機能し、物語世界の知識体系そのものを変化させる契機となった。さらに、主人公リセルが最終章で選ぶ行動の根拠には、かつてアイリが語った「記録は責任である」という言葉が引用されており、彼女の思想が物語の結末にまで影響していることが示唆されている。
物語外の設定資料によれば、アイリは当初脇役として構想されていたが、作品世界における思想的中心人物として再構成された経緯がある。そのため、戦闘や政治の描写よりも、記録や記憶といった抽象的なテーマに深く関わる登場が多い。作中の描写を通して、彼女は「知ること」と「残すこと」の違いを問い続ける存在として描かれており、読者や視聴者の間では作品全体の象徴的人物とみなされている。
ポムニット・アイリという人物は、直接的な行動よりも思考と選択によって物語を動かす存在である。彼女の静かな態度や中庸を重んじる考え方は、戦いや対立を中心とする物語の中で異質な印象を与えるが、その冷静さが他者の暴走を抑える役割を果たしている。作品全体を通して、アイリの存在は過去と未来、記憶と現実をつなぐ象徴として機能しており、彼女が残した記録は、後の時代における物語の基礎資料として位置づけられている。