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桃ちゃん編 13 - (2008/10/06 (月) 23:46:58) のソース

 彼が卒業してから色々ありすぎてしまって、最近ではたまにしか思い出さなくなっていた。
卒業したての頃は、彼が『おうじさま』と書き、私が『おひめさま』と書いた写真を眺めては泣き続けた。
彼のいなくなった現場へ行くたび、いなくなった現実をつきつけられて寂しさが募った。
もう彼が帰ってはこないのだ、と。
それでも私がお仕事を続けてこられたのは、自分を必要としてくれる人がいてくれたおかげだと思う。
ファンレターに『桃子ちゃんの笑顔には励まされます』と書かれていると、私が人の役に立っていると単純に嬉しくなった。
彼も「桃子は人を癒す力があるよ」なんて真面目に語ってくれたこの言葉が、今の私を作っている。

「舞波ちゃんと桃ちゃんはどんな関係だったの?」

 舞波”ちゃん”か、懐かしい響きだ。
千聖は舞波を兄のように慕っていたくせに、男の子だと知ってからも呼び方だけは変わらなかった。
それは今も変わらないみたいで、舞波が近くにいる感じがして嬉しくなる。

「恋人っていうほどの関係ではなかったけど、デートはしたかな」

 今ではメンバーの誰ともプライベートでは会わなくなった私が、この頃はまだ気軽にメンバーと遊んでいた。
といっても、舞波ただ一人と。
私にも相談もせずにいなくなるとは思ってもいなかったから、次に会う約束なんかしていなかった。
毎日顔をあわせるのが当たり前だった私たちに別れが来るなんて冗談に思えた。

「ふぅん。舞波ちゃんと桃ちゃんならお似合いのカップルだよね。知ってれば、応援してあげてたのに」
「あんたの場合は応援どころか邪魔するだけでしょ。あんたが関わってくるといつもややこしくなるの」
「にゃははは、バレたぁ? でも、でも、舞波ちゃんと桃ちゃんなら応援したい気持ちになるよ。二人とも好きだもん」

 表情がコロコロ変わるもので、バレたぁと言ったときは苦笑いをしていたくせに、好きだもんと言ったときは真剣そのものだった。
真剣な表情の千聖につられて、応援してもらってもダメなときはあるんだよ、と喉元まででかかった。
こんな言葉を言ったら、桃ちゃん大人ぶるなよ、と笑い飛ばしてくれるだろうか。
また真剣に返されでもしたら、無理にでも空気を変えようとしたかもしれない。
でも、その可能性はなくなった。
私は応援してくれたかもしれない千聖に対して、

「好きかぁ~私もね、千聖と舞美が好きだよ。だから、是非ともうまくいってほしいんだよね」

などと話を逸らしてしまっていた。

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