進化が止まらない!横浜特急天海沙弥香(序)
ー145km
昨季までの最速。
しかし、今年は一試合平均145kmに迫る。
「野手のレベルの上昇が顕著ですからね。少しでも遅くなったらスタンドへ運ばれてしまいます」
因に今年の最速は148km
「まだ出そうと思えば出せます。150は出せるようにしてますよ~」
本当にやるのか気になる。
ー気になった記事
「女子選手は打高」
見出しにはこれがあった。
「はぁ?となりましたね。何を見ているんだと」
憤怒したという。広瀬絵美(DeNA)、 今村恵(オリックス)と野手の方に目が行きがちなのもあるだろう。
その背景にはMLBで流行ったあれが関係している。
「日本にフライレボリューションが本格的に来たんだなと思いました。対策として配球を変えたり取り組みましたけど、基礎となる出力を上げることにしました」
この記事は他の投手にも大きな影響を与えたという。
「旧知の桃ちゃん(姫宮桃子/中日)が155km出したり、今年、150km投げる子がすごい増えました。中でも、 杉浦(杉浦真咲/熊本)さんの157kmは印象的ですね」
今年、何度も球場で試合を見てるが160km投げる日本人が二人も現れている。投高へのニューウェーブを感じた。
「フライレボリューションは京都の選手がそれに影響受けてましたね。私の中で印象に残ってるのは。初登板前だったので配球変える切っ掛けにもなりましたね」
ー現在地
今投げてる球は、最速148kmのフォーシーム、ツーシーム、スラット、ナックルカーブ、チェンジアップ。この他、SFF、カッター、スライダーなどを投じる。
特にスラット。今年はかなり効いている。
「ゴロを打たせたり、空振りとったり。すごく便利な球です」
それを裏付けるのはピッチトンネル。女性投手の中でもかなりのものだ。
「如何に直球と思わせるかですね。抜けたストレートと見せかけて空振り取れたときが一番気持ちいいです」
また、牽制も得意だ。なかなか走るのは難しい。
進化が止まらない!横浜特急天海沙弥香(上)
ープロ入りまで
小学校三年から投手を始め高校は親族の住む千葉へ。奇跡も重なり、甲子園にも出れた。
実は進学が最有力視されていたことはあまり知られてない。
「誘いは六大学だけでなく、東都などからも来てましたよ」
このとき、チームメートとなる眞下貴之(東海大望洋)は県内のライバルだった。
甲子園に出れてプロ志望に変わった。因みに、負けたら森士監督のU-18代表に選ばれてたかもしれない。
当時は144kmの直球とスライダー、抜群の制球力を強みとしていた。三浦大輔コーチの幻影を追うスカウトらには魅力的だったようだ。
ドラフトでは横浜ベイスターズ(当時)に指名された。同期には筒香嘉智(横浜高)、加賀繁(新日鐵住金)、先述の眞下貴之(東海大望洋)、梅宮拓海(天理)
ー悩んだ三年間
二軍では六月頃からローテーションに入り、着実に結果を残した。ファンの間からも、「救世主が現れた」と期待が寄せられていた。
そして、一軍昇格を果たす。初登板は阪神戦。お互い譲らずの展開で勝ち負けつかなかった。
その年は5試合投げて勝ちは無かった。
次の年にやっと初勝利を掴んだ。村田修一(現巨人コーチ)の本塁打が花を添えた。最初で最後のプレゼントだった。
好投しても勝ちがつかぬ、援護が少ない。これと平行して悩んでいたのは当時の環境もあった。
「信じられないことばかりでした。他にも自分の目指すとこと指導が一致しないなど苦しかったですね」
この年は2勝5敗、親会社が変わった次の年は7勝7敗。
本当の理想はもっとスピードつけて勝負したい。しかし、細かいコントロールで勝負を求められたり周囲が煩わしかった。
「言うことがバラバラで困りまってました」
それでも結果出せたのは個人の努力によるものも大きかった。
ー投手コーチよりも
当時現役だった篠原貴行(現DeNAスカウト)を頼ることも少なくなかった。
篠原はダイエーの時に中継ぎであわや二桁勝利と勝率10割達成目前だったリリーバーである。
「丁度移籍してきたタイミングと私のルーキーイヤーが同じでした。聞きたいことが沢山ありました」
左右の差はあるが、篠原をヒントにしてみようと思い聞いてみることにしたのだ。
「スライダーの握りを少し変えるのと、リリースポイントを前にするための工夫を一緒にやりました。篠原さんの復活と私の一軍定着のタイミングが奇しくも同じだったことも幸いしてます」
この人なら信じれる。
ー初の二桁
2013年はドラマチックな展開が多かった一年だった。3回の7点差逆転に象徴される何かが起きるシーズンだったのだ。
自身も勝ち星を重ね、9勝8敗とした。
しかし、二桁の壁に阻まれた。
炎上、無援護、無援護。「あぁ、9勝で終わる投手なのか…」そんな声も聞こえてきた。
そして、シーズン最後の登板を迎えてしまった。
何としても勝つ。その心意気で神宮球場へ乗り込んだ。
その試合は2008年から続く5季連続最下位脱出確定が懸かっている試合だったのだ。
そして、初の二桁勝利とチームの最下位脱出を決めたのだ。
9回投げ切って掴んだはじめての二桁勝利。
試合後、篠原から御祝いのメールが来た。
「おめでとう!よくやった!」
なおこの日、篠原の引退会見の日でもあった。
進化が止まらない!横浜特急天海沙弥香(27)中
ー初の二桁のあとに…
期待された2014年は開幕からあまり調子が上がらなかった。やっと上がった四月後半の阪神戦、勝ちが消えるという憂き目にもあったのだ。
抹消されなかったのは先発投手が足りなさすぎたことにもある。
後にボールの反発の基準が規定と違った事が発覚した。そのため、ボールに振り回されてたとも言える。しかし、文句は言わず自身の技量不足と認めた。
「篠原さんがそのまま一軍コーチになったのもあって色々聞きに行ったりしました。段々、感触がよくなりました」
その後、六月の西武戦、菊池雄星(マリナーズ)との投げ合いもあった。
最終的に8勝6敗。序盤に3連敗を喫し、初勝利は5月に入ってから。オールスター前までに3勝5敗。防御率は3点台後半だった。オールスター明け以後は勝ちを重ねるも、二桁に届かなかった。
翌年は前半戦の首位ターンに貢献とその後の失速の両方があった。11勝11敗。防御率は2点台だった。
ー川村丈夫以来の15勝
2016年はラミレス監督が就任した。チームは当初不振も徐々に調子をあげて最後には三位になった。
このシーズンは15勝あげ、チームとしては1999年に17勝した川村丈夫以来の15勝以上の投手となった。
ー日本シリーズ、最優秀防御率
2017年は勝ち星こそら減ったものの防御率は2.22。そして、日本シリーズ出場。昨年は防御率2.11で最優秀防御率に輝いた。
「ここ二年は勝ちが思ったよりついてないですけどね。その分、QS,HQS意識してます」
昨年は一昨年の日本シリーズの反動なのか、投手陣が振るわなかった。そんな中、彼女は最優秀防御率をとったのだ。
「今年就任した三浦コーチから、『少しでも回を稼いでほしい』と。そのため、少ない球数で長い回を投げられるよう心掛けてます」
2017年の日本シリーズは2戦目と6戦目に先発で登板し好投した。
「まさかとは思いましたけど、日本シリーズに出れただけでも奇跡でした。入ったときは夢にも思ってなかったです」
最下位が指定席だったあの時に入団し七年の月日が流れていた。
「優勝してないので…優勝してCS突破して日本一になる。今あるなかでの命題のひとつと思ってます」
進化が止まらない!横浜特急天海沙弥香(下)
ー大きな目標
「投手最大の栄誉の沢村賞の受賞です」
投手なら誰もが夢見るのが沢村賞の受賞である。かなり意識しているようで、「取れるチャンスのあるシーズンに取る」と意気込んでいる。
その為に、最高速度・平均球速の引き上げをテーマにオフを過ごしてきた。
「投げようと思えば150kmは出せますよ~」と語っている。しかし、身体との相談でその出力の確保と維持に止まっている。
ー150kmを投げる?
昨年は先発として最速145kmだったが、今年は148kmまで上がってる。その上、平均球速も142.7→144.8と2km以上向上している。
「オフは瞬発力のトレーニングを大切にしました。そして、出力が上がったのが大きいですね」と語った。
速度を落として活躍する投手もいないことはない。しかし、最大出力が下がって翌年以降の不振に繋がるケースも少なくない。その対策として、最高出力の維持と確保をテーマとしている。
「それまでも最大出力は先発投手としての最高速度より3km上目安で確保してきました。その上で速球の再現性を高めてます」
その計算でいくと設計最高速度151kmとなる。今年のオープン戦で1回のみ投げたとき「暖かくなれば150は出ると思います」とコメントしていた。恐らく、どこかで出す、出せる可能性を示唆している。トレーニングも瞬発力を高めるトレーニングを増やした成果でもある。
ー目標はJV
JVとは、ジャスティン・バーランダーのことである。
「理想の投手はジャスティン・バーランダー(HOU)」
開幕前、こんなことをインタビューで答えていた。
「WBLCを経て世界に目を向けるようになりましたね。 魏鈴音さん(ATL)、(柳) 珠希ちゃん(NYM)と大会中互角に投げ合えたのは自信になりました」
アジア人女性投手として、先発として活躍する魏は台湾出身。田中将大(NYY)らと同い年の彼女は高校を出て単身渡米して活躍している。柳は大会当時は三星ライオンズに在籍していた。彼女は今、ニューヨーク・メッツでローテーションを張っている。
「また投げ合って勝つ自信はありますよ」
不思議と自信を覗かせていた。
「その為に、惑星最強の投手と思う選手を参考にしています。その投手がJVさんです」
バーランダーには鬼のようなスラット、直球などを生かす投球術もある。
少しでもバーランダーに近づきたい。その為にある驚異的な技術を身に付ける事にしたのだ。
ー神髄~ピッチトンネル
Twitterである画像が出回ってる。
「天海のピッチトンネルは驚異」
「これは早々打たれませんわ」
「右投手だと阪神のジョンソンと双璧」
など
実は天海の球は途中まで全く軌道が同じ。そして、急に曲がる、ブレーキかかる。打者は空振りか引っ掻けてしまう。
奪三振数がここまでキャリア最高ペースで来ている。以前は見逃し三振が多かったが、今年は空振り三振が上積みされ、記録にもきっちりと現れている。
「スライダーを毎年、少しずつ握りを変えてます。キャンプでこの握りがしっくりきた!が見付かったらほぼそれで行ってます」
篠原貴行から得たヒントは毎年、少しずつ変えながらも生きているのだ。
「得意な球は三年したら変わるものと思ってます。得意な球が変わっても、直球やその球の再現性は確実にしたいものです」
軌道が丸っきり同じ。ばらつきが少なく、再現性が高い。早々打つのは難しい。
ー栄光をつかめ!
昨年、変動相場制推定2.8億の四年契約+オプションの新たな契約を結んだ。FAは来年。球団が先手を打った形である。
「全盛期をベイスターズで過ごしてリーグ優勝と日本一をつかむ」
彼女はこれを選ぶことにしたのだ。苦難の時代に入団し、チームの上昇と共に歩んできた。何としても悲願を達成する。その為に毎年のスキルアップに励んでいる。無論、沢村賞の栄誉も狙ってる。
「日本のバーランダーではなく、一世一代の大エースとしてこれからの子供たちの憧れで居続けたい」
ー最後に
「リーグ優勝日本一沢村賞受賞プレミア優勝を達成に向けて頑張ります」
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