千夜一夜Ⅰ

千夜一夜Ⅰ
長い旅の末、あなたはアラビアに向かった。

終わりの見えない退屈な砂漠を渡り歩き、バグダッドに辿り着いたあなたは国王の下へ訪れ、
疲れ果てた身体を少し休めさせてください、と頼んだ。
他国の人間を信頼しない国王は最初はあなたを警戒したものの、
次第にあなたが聞かせていた数々の武勇談の虜となり、休む事を許した。

国王の許しと潤沢な金貨の入った贈り物を受け取ったあなたは、
宮殿を出ようとした時、一人の女性と出会う。

もの悲しげな表情で立っている女性の姿に、あなたは何かに惹かれたように近づいて行った。
彼女は見慣れない出で立ちのあなたを警戒するが、

「自分は国王から来賓客として迎えていただいた」

というあなたの言葉を聞き、すぐに疑いの視線はなくなった。

「私はセラザードと申します。」

「セラザード、なぜ貴女はそこまで悲しそうな顔をしているのですか。
よろしければ私にその理由を話してくれませんか?」

一度はあなたの言葉を断ったセラザードだったが、真摯に迫るあなたに負けてしまい、
彼女は心の奥底にある悩みを話しだした。

彼女の声はとても落ち着いていたが、話が進むにつれ、あなたの顔は驚きに満ちていく。

国王の怒りが原因となり三年もの長き間、王国中の若き女性達が犠牲となっていたとは・・・
国王の怒りに同情はするが、国王が行った蛮行はあまりにも愚かで残酷な話しだった。

「だから、他の人々の犠牲を少しでも止めるために自ら希望した、と?」

セラザードは何も言わず頷いた。今年成人になった彼女は王の条件を満たす事ができるのであった。
父親の権力で逃れられることもできたにも関わらず、死にゆく他人のために自ら志願したのである。
だが、今夜を過ぎると彼女も死から逃れることはできない・・・

「命は惜しくないのです。覚悟はできています・・・ 私を最後として国王が、
心を取り戻せさえしたら・・・ただ神の恩寵を願うばかりです」

「・・・・・・」
最終更新:2013年03月06日 20:00