Bの煌き/青く燃える炎 ◆qp1M9UH9gw
【1】
"名簿に自分の名――すなわち「
アンク」が「二つ」刻まれている"。
この事実は、アンクを動揺させるのには十分すぎる威力を有していた。
何しろ、自分以外に「アンク」を自称していたグリードは既に映司によって葬られているのだ。
奴がこの会場に――この世に存在している訳がない。
「この世にいない」と言えば、
カザリの名も当然のように名簿に書かれていたか。
真木に始末されたあの男も、本来此処に存在しえない筈だ。
(まさか真木のヤツ……コアメダルを復活させれるのか!?)
飛躍した発想だが、そう考えるしかあるまい。
何らかの方法でコアメダルの再生に成功した真木は、その技術を用いて二人を復活させたのだろう。
だが、ここで「何故グリードを復活させたのか」という疑問が生じる。
一度見捨てたグリードを、真木はどうして利用しようとしたのか?
そもそも、この殺し合いを開いた目的が不明瞭だ。
グリードの暴走を目的としているのなら、こんな大掛かりかつ回りくどいやり方をする必要があるのか?
考えれば考えるほど、どうにも釈然としない面ばかりが見えてくる。
どうやらこの殺し合い、一筋縄ではいかない「謎」が潜んでいるようだ。
しかし、何よりも優先すべきなのは、もう一人の「アンク」の抹殺だろう。
奴が存在する以上、自分はグリードとしての能力を何一つ発揮できないのだ。
何としてでも、真っ先に打倒しなければならない。
しかし、自分に支給された武器は、「シュラウドマグナム」なる赤を基調とした拳銃一つのみ。
これだけでは少々心もとない――いずれ現れるであろう敵に対抗できるだけの戦力が必要だ。
そう、例えば、アンクの目の前にいるサングラスをかけた男のような――。
【2】
D-2の大桜。
佐倉杏子が最初に出会った参加者は、「禍々しい」という単語が人の形を成したような存在だった。
まず目を引くのは、その身に纏った甲冑である。
底抜けに深い黒を有したそれは、およそ高潔な騎士のイメージからかけ離れていた。
さらにそれに上乗せされる形で、黒い瘴気らしきものが周囲に漂っている。
美しさの欠片もない、狂気すら感じさせる闇だけが、彼を包み込んでいるのだ。
桜が舞い散る風景とそれは、あまりにも似合わない。
さらにこの男、不思議な事に、姿をはっきりと認識できないのである。
まるで焦点のずれたレンズ越しに見ているかのように、甲冑が「ボンヤリ」しているのだ。
手にしている武器もこれまた不気味である。
それは見るからに強力そう、と言うわけではない。むしろその逆だ。
杏子の目に狂いがなければ、あれは一般家庭にも置いてあるステンレス製の長棒――つまり、竿竹だ。
勿論それ単品ならば、彼女が動じる事はないだろう。
しかしどういう訳だろうか、黒騎士が手にしているそれには、
竿竹を握っている手を起点にして、黒い筋がさながら葉脈のように絡み付いているのだ。
これを異様と言わずして何と言おうか。
流石の杏子とて、それを前にしては一抹の不安を感じざるおえなかった。
ソウルジェムの魔力探知からはそれと言った反応もなく、
そしてここ一帯には結界が張られていなかった事から、目の前の甲冑が「魔女」ではない事は確かだ。
では、この異様な生命体の正体は何なのだろうか。
今の杏子の知識だけでは、その謎を氷解するのは何時間掛けようが不可能だろう。
だが只一つ、確信できる事があるとすれば、それは――。
「~~~~~~~ッ!!」
――奴が見境なく人を襲う化け物である、という事だろうか。
黒騎士は外見からは想像もできないような速度で、杏子に飛び掛かってきた。
当然ながら、杏子がそれに対して棒立ちしている訳がない。
彼女はすぐさま「魔法少女」に変身し、瞬く間にその場を離れることで狂戦士の一撃を回避する。
長年「魔法少女」として命懸けの戦いに身を投じてきた彼女にとっては、この程度は造作もないことだ。
「へえ……もうやる気十分ってワケかい」
挑発的な笑みを浮かべながら、杏子は自身の得物である槍を召還し、構えを取る。
そちらがやる気なら、こちらもそれ相当の処置――つまりは戦闘を行うまでだ。
黒騎士が杏子を見据えている。
その赤い双眸に宿るのは、全てを破壊し尽くさんとする殺意だけ。
上等だ――目に物を見せてやろうでないか。
【3】
「ディケイド、か。聞いた事がないな」
「そうか……どうやらアンタたちの世界には”滅びの現象”は起こっていないようだな」
来訪者は「
剣崎一真」と名乗った。
どうやらこちらに危害を加える気はないようなので、アンクの緊張感は僅かばかり解れている。
剣崎は危険人物の情報の提供したいと言ってきた。
その人物の名は
門矢士、またの名を世界の破壊者"ディケイド"。
正義の味方とされる仮面ライダー――アンクの世界ではオーズがそれに該当するらしい――を名乗ってはいるが、
その実態は仮面ライダーを狩り尽くさんと暴れまわる悪魔。
絶対に野放しにしてはならない――剣崎は言葉の一つ一つに怒りを込めながら語った。
剣崎の剣幕からして、そのディケイドとやらは相当な悪人なのだろう。
警戒はしておこう。尤も、本当にその男が剣崎の言うような悪魔なのかは、実際に確かめてみない事には分からないのだが。
「アンクと言ったな。お前、この殺し合いで何をするつもりだ」
剣崎がアンクにそう問いかけてきた。
答えは既に出てきているから、返答には全く時間はかからなかった。
念の為、その「アンク」は悪人であるという情報も付け加えておく。
相手に妙な勘違いをされたら、堪ったものじゃない。
アンクの目的を聞いた剣崎は、何とも言いがたい――彼の決断に悲壮感を感じているような――表情を浮かべたが、
承知してくれたようで、それに反対する事はしなかった。
「そうか……じゃあ、そいつを倒したら、お前は殺し合いに乗るのか?」
サングラス越しの目線に、若干ながらの警戒心を宿らせながら、剣崎は言った。
アンクにとって、この質問は予想外だった。
そこから先は彼もあまり考えていなかった――正式には考えたくなかったのである。
赤陣営を優勝に導くのも選択肢の一つとしてあるが、真木が素直に勝者達を返すとは思えない。
だからと言って、脱出できる可能性があるのかも不明瞭である。
それに、仮に脱出の道を選んだとすれば、また「アイツ」と手を組まなければならないのだ。
「それは――――」
言葉を紡ごうとした、その時。
さながら獣のような咆哮が、大気を揺らした。
【4】
結論から言っておくと、杏子は劣勢だった。
黒騎士の方はほとんど傷付いていないが、彼女の方は全身に竿竹による打撃の跡が残っている。
まさか、ここまでの手練とは思いもしなかった。
獣のような雄たけびをあげておきながら、奴の戦い方は熟練の戦士のそれだ。
あらゆる攻撃を寄せ付けず、しかし確実にこちらに傷を負わせてくる。
いくらベテランの魔法少女である杏子とて、彼の卓越した技量の前では凡兵も同然であった。
黒騎士の獲物である竿竹も、尋常ではない程の強度を誇っている。
ただの棒にしてはあまりにも硬すぎるのではないか――竿竹を侵食する黒い筋に秘密があるに違いない。
だがそれを知った所で、竿竹の強度に変化がある訳がない。
結局、録な対策も思い付かぬまま、杏子は竿竹による打撃に曝され続けていた。
当初は軽くあしらってやろうと思っていたが、何時の間にやらこのザマである。
こんな場所で、こんな早い段階で、しかも竿竹なんてしょうもない道具で命を落とすのは真っ平御免だ。
セルメダルはできるだけ温存しておきたかったが、命が関わっているのなら話は別――少しばかり、奮発しよう。
杏子は狂戦士の一撃を槍で食い止め、後方に退いて彼と間合いを取った。
狂戦士からの殺意をひしひしと感じながらも、杏子は彼の僅かな隙を探る。
が、熟練の兵士の如き技術を誇る相手に、そんなものは見つからない。
(だったら……!)
隙が無いのなら、作るまで――硬直状態から動いたのは、杏子の方だった。
さらに後方に向かって跳躍し、同時に槍を柄の部分を分割させ、鞭の要領で狂戦士に振るう。
この手は既に数回行っており、そしてその全てが失敗に終わっている。
当然これも失敗に終わるわけで、狂戦士は空中に飛び上がる事で難なくそれを回避した。
そう――失敗するに決まっているのだ。だからこそ、この作戦は成功する。
「ar――――ッ!?」
狂戦士が驚くのも無理はないだろう。
「前方の斜め下から大型の槍が襲いかかってくる」なんて、誰に想像できようか。
杏子がこの魔法を彼に披露したのは、これが初めてである。
予想外の方向から、しかも回避困難な空中での一撃だ。
撃破――とまではいかなくても、攻撃によって吹き飛べば大きな隙が出来上がるだろう。
「……なッ!?」
……尤も、それは攻撃が「成功したら」の話に過ぎないのだが。
刺さるとばかり思っていた槍の先端は、鎧の僅か前で止まっている――止められている!
なんと狂戦士は、咄嗟の判断で竿竹を投げ捨て、両手を使って刃の直撃を防いだのだ。
「狂化」のスキルによるパラメータの底上げと、
卓越した武芸を可能とさせる「無窮の武練」のスキルがあるからこそ可能な芸当である。
見事攻撃を受け止めた狂戦士は、すぐさま攻勢へと転じる。
呆気に取られていた杏子では、猛スピードで迫る彼の拳を防御できず――。
「――がっ……!」
結果、拳は腹部に激突し、杏子の華奢な肉体を後ろに大きく押し飛ばした。
殴り倒された彼女の肉体を、激痛が蹂躙する。
とてもじゃないが、すぐに立ち上がるのは不可能だ。
しかし、痛みに耐え忍んでいる間にも、狂戦士はこちらに向かってゆっくりと歩みを進めている。
(……ふ、ざけんな……ここで終わり……だってのか……!?)
必死にあがく肉体とは反対に、意識は闇に落ちて行く。
よりにもよってこんな訳の分からない殺し合いで、正体不明の異形に殺されるのか。
こんな事になるのなら、最初から逃げていれば良かった。
しかし、今更そんな後悔しても時間が巻き戻るわけではない。
狂戦士が、一歩、また一歩と近づいてくる。
今の杏子にできる事と言えば、ほぼ確定した死への覚悟。
未練と無念が入り混じった表情を露にしながら、彼女は胸の十字を模したソウルジェムに手を当て――。
その時、数回の爆発音が耳に飛び込んできた。
何事かと顔をあげると、狂戦士は杏子ではなく、その真逆の方向に顔を向けている。
【5】
「ヤミー……ではなさそうだな」
バーサーカーを狙撃したアンクが、そう呟く。
そして、大して痛みを感じていない彼の姿を見据え、舌を打った。
シュラウドマグナムから発射される光弾は、並みの人間に直撃したらひとたまりもない威力を持っているのだが、
バーサーカーの場合は、身に付けてある鎧のせいで威力が殺されてしまい、深手を負わせられない。
「オイ剣崎、アイツが何か知ってるか?」
「いや、どの怪人とも特徴が合わない……あんなヤツは始めてだ」
剣崎の方も、あの謎の怪人の姿に動揺を隠しきれないでいる。
見れば見るほどに、バーサーカーの外見は異常だと言えた。
しかし、それに戦意を削がれる程「仮面ライダー」は臆病ではない。
「アイツの相手は俺がする……あの娘を保護してくれ」
「……俺に命令するな」
剣崎がバーサーカーと向き合う。
二つの敵意が交差したその瞬間、二度目の闘いの幕が切って落とされる。
先に動き出したのはバーサーカーの方だ。
一撃で剣崎を仕留めるために、疾風の如く大地を駆ける。
「変身」
――Turn Up――
しかし、彼の攻撃はその宣言と同時に発生した半透明の壁によって防がれる。
資格のない者が「オリハルコンエレメント」を通過しようとするのなら、
「弾き返される」という形で制裁を受ける事となるのだ。
半透明の壁が、今度は剣崎に迫る。
しかし彼は適合者――すなわち、資格のある者。
「オリハルコンエレメント」は彼を認め、黄金のブレイドアーマーを彼に装着させた。
これがブレイド最終形態「キングフォーム」。
"王"の名を冠する最強の武装に敵は無し――バーサーカーとて、それは例外ではないのだ。
【6】
黄金の騎士が、あの狂戦士を圧倒している。
狂戦士の手には例の竿竹が握られているが、それでも黄金の戦士の方が優位に立っている。
想像を絶する光景が、仰向けになった杏子の目前に広がっていたのだ。
「なんだこれ…………痛ッ……!」
体を動かそうとした瞬間、全身が悲鳴をあげる。
まだ狂戦士との戦いで負った傷が癒えていないのだろう。
あの無様な負け方がフラッシュバックで、思わず顔が顰める。
杏子のすぐ横には、金髪の青年が息を潜めている。
確か、狂戦士に銃を向けたのはこの男だったか。
……右腕が怪物のそれと化しているのが、かなり気になる。
「起きたか……お前、同じ組のクセしてなんで殺し合ってたんだ」
「……あっちが勝手に襲いかかってきたんだ。アタシは悪くないよ」
「そうか。ま、大方そんなことだろうと思ってたがな」
質問に答えたのにその反応はないんじゃないのか。
この金髪男、中々失礼な奴だ。
さらによく見るとこの男、左手にアイスキャンディーを持っているではないか。
「なあ、それまだあるだろ」
「……アイスは俺のもんだ、誰にもやらん」
「なっ……いいじゃねーかよ!一本くら――」
――Royal Straight Flush――
杏子が言葉を言い終えるその前に、電子音が辺りに響き渡る。
発生源は黄金の騎士の方だった。
彼の持つ大剣が、鎧に負けず劣らずの金色に光り輝く。
そして狂戦士と彼の間に出現する5枚のカード。
それらはどれも、やはり黄金の騎士と同様に高貴さすら感じさせる光を帯びていた。
「ハァァァァァァァァァ…………!」
黄金の騎士が構えを取る。大剣の光はさらに力強さを増していく。
彼の剣撃によって傷を負っていた狂戦士が、その攻撃に対応する事は不可能だろう。
既に射程圏内だ――間違いなく、命中する。
「ウェェェェェェェェェェェェェィ!!」
そして放たれる必殺の斬撃――「ロイヤルストレートフラッシュ」。
大剣から発射された衝撃波は、大桜ごと狂戦士の闇を切り裂いた――!
【7】
轟音を立てながら崩壊する大桜。
命中の際の爆発によって周囲に火が付き、辺りを夕日の色に染め始めた。
あの威力だ、流石に生きてはいまい――一般人なら、そう喜ぶだろう。
しかし、長年闘いに身を置いてきた剣崎は違う。
その直感故に、彼は悟ってしまったのだ。
「どうしてだ……」
今起こった事が信じられないとでも言いたげな声色で、彼は呟いた。
爆炎に包まれた大桜から浮かび上がる、一つの影。
あれだけの攻撃を受けても、まだ立ち上がると言うのか。
「何故動ける……!?」
あのバーサーカーが、爆煙の中から姿を現した。
ブレイドの必殺を受けて爆散したとばかり思っていたバーサーカーは、まだ生きている。
確かにダメージは与えられているが、それでも即死級の攻撃を防いだ事に変わりはない。
如何にしてあの一撃を防御したのか――その謎は、バーサーカーの足元の煙が消える事によって氷解する。
彼の足元に散らばっているのは、機械の残骸。
残骸の一つに書かれた「Φ」の文字を見た瞬間、剣崎はバーサーカーに何が支給されたかを知る。
「オートバジン……!」
主の危機を察したオートバジンが、バーサーカーの身代わりとなったのだ。
手にしたものがあの黒い筋に侵食され、強度を大幅に上げる特性を利用すれば、威力を半減させられるだろう。
よりにもよって支給されたアイテムが護衛用ロボットだとは――キングラウザーを握る腕に、汗が滲む。
「ur……ar………………!」
怨念の篭った呻きをあげながら、バーサーカーが取り出したのは、一振りの西洋剣。
それを剣崎達の前に晒した直後、周りを取り囲んでいた闇が収束していく。
闇が取り払われた鎧は――恐ろしい位に、美しかった。
誰もがそれを見れば、名のある騎士の使ったものだ確信するであろう程の逸品。
現代の技術を結集させても、こうは上手く作れないだろう。
黒騎士が鞘から取り出したその剣もまた、鎧に負けず劣らずの名剣だった。
名は「アロンダイト」――「エクスカリバー」の兄弟剣であり、決して歯こぼれしないと言われた伝説の剣である。
切り札を手にしたバーサーカーが構えを取った。
それに対抗して剣崎もまた、キングラウザーをバーサーカーに向ける。
黄金の剣、そして漆黒の剣――相対する装備を手にした両者による、三度目の闘いが始まろうとしていた。
【8】
バーサーカーが、あのブレイドを圧倒している。
彼の手には漆黒の西洋剣が握られており、一方ブレイドは窮地に立たされている。
先程とは真逆の光景が、二人の目前に広がっていたのだ。
剣一つ変えるだけで、ああも勢力図は変貌するものなのか。
彼らが知る由もないが――バーサーカーの最後の宝具「無毀なる湖光(アロンダイト)」は、
手にした者のあらゆる能力を底上げする能力が秘められているのだ。
(まずくなってきたな……どうする)
アンクは思考する。
仮にブレイドに加勢したとしても、こちらに勝機があるとは到底思えない。
まだ死ぬわけにはいかない――彼には悪いが、ここは「逃げ」を選択するべきだ。
そう結論付けたアンクが逃走の体制に移った、次の瞬間。
「▂▂▅▆▆▂▅▆▂▅▆▇▇▇▇▇▅▆▆▆▇▇▇!!」
空を揺るがす程のバーサーカーの雄叫びが木霊し、ブレイドを切り伏せたのだ。
仰向けに倒れるブレイドからは、最早戦う為の気力は感じられない。
標的を撃破したバーサーカーが次に狙うのは当然、残された二人だった。
「次はアタシらってワケか……」
傷ついた体を震わせながら、杏子が立ち上がった。
その状態ではまともに戦う事はできない事は、彼女本人が一番知っている。
せめて最期は、憎き狂戦士に傷を負わせてやる――その執念が、杏子を動かしているのだ。
「……クソッ!やるしかねえのか!?」
アンクも懐からボムメモリを取り出し、それをシュラウドマグナムにセットする。
せめてこの一撃で、奴の動きを鈍らせられれば――そんな希望に縋りつく思いで、標準をバーサーカーに合わせる。
バーサーカーは怨念の篭った赤い双眸をこちらに向け、甲冑を軋ませながら、こちらに歩み始めた。
『MUGNET』
電子音が鳴った瞬間、バーサーカーの動きが止まる。
自分から行動を止めた訳ではない――後方から何かに引っ張られ、動きが鈍っているのだ。
「はや、く……逃げ、ろ……!こいつは……俺が、食い止め……る!」
喉から搾り出したような声で、剣崎が叫ぶ。
彼のこの行動に、アンクは愕然とした。
この男は満身創痍の状態にも関わらず、自身を囮に使うつもりなのか。
「……どういうつもりだ」
「俺は、いい……大丈夫、だ……だから、その娘、を……」
どうやら、まともに戦えない杏子を気にかけているらしい。
この状況で他人を優先させるとは、この男はつくづく――「アイツ」に似て、どうしようもない位にお人よしだ。
【7】
「マグネバッファロー」による特殊磁力の効力が切れた直後、
ブレイバックルに入った罅がいよいよ全体まで広がり、数秒も立たない内に砕け散った。
仮面ライダーブレイドは消滅し、そこに残されたのは剣崎一真だけ。
(逃げ切れたみたいだな)
二人が上手く逃げられた事に安堵する。
剣崎一真とは、元からこういう男なのだ――誰かの為なら、自分が犠牲になる事も厭わない。
この地でもその性格が災いし、結果として彼はこの地で終末を迎える事となる。
だが、少なくとも、あの二人は助けられたのだ。
この戦いは、この終わりは、きっと無駄ではない。
(そうだろ……みんな)
浮かぶのは、かつての親友達の姿。
彼らのお陰で剣崎は今まで戦ってこれた。
彼らの愛した世界を護るの為に、剣崎は心を鬼にしてディケイドと対峙した。
だが、その闘いもここで終わりだ。
共に戦ってきた仲間達の事を――始達の事を思うと、胸中が無念でいっぱいになる。
だからこそ、せめて最期くらいは、目の前の人だけでも護りたい。
剣崎にはもうブレイドの力はない。
だが、アンデッドとの過剰融合によって、人間の体と代償に手にしたアンデッドの力ならまだ残っている。
メダルの量も底が近づいているが、戦う為に必要な分だけならまだある。
「俺は……剣崎、一真!」
名乗り、そしてブレイドへの変身の構えをとる。
しかし彼が変身するのは、ブレイドではなく醜悪な怪人「ジョーカー」。
仮面ライダーとは真逆の、倒されるべき敵の姿。
しかしそれがどうしたと言うのだ。
姿形が違えど、その魂が正義で燃えていれば、それは「仮面ライダー」なのである。
「又の、名を……!仮面、ライダー……ブレイドッ!」
剣崎一真は「仮面ライダー」として、最期の闘いに挑む。
どうしようもなく無謀な闘いである事を知っていながらも、彼は地を蹴った。
【8】
剣崎に勝利がもたらされる事はないだろう。
恐らく、彼の変身アイテムは既に故障している。
アンクを足止めしていた頃はまだ完全に機能を停止させてはいなかったが、
火花を散らしながらそれが崩壊するのも、時間の問題だ。
武器のないようでは、奴と互角に戦うどころか、傷一つ付けられないだろう。
「剣崎一真が狂戦士に殺される」という未来は、最早避けようもない運命であった。
彼本人も勝利は不可能な事くらい、分かっていた筈だ。
命を捨ててまでアンク達を救いたかったとでも言いたかったのか。
「……クソッ」
助けてもらった側が言うのも何だが、腹が立つ。
アンクの脳裏に過ったのは、かつての協力者の影。
映司も剣崎と同じ状況に立たされたら、きっと進んで囮になっただろう。
奴はそういう男なのだ――「自分が傷ついてもいいから誰かを護りたい」という病的な信念が根底にある。
(映司……お前も来てるんだったな)
この会場には、元の世界でグリードに敵対していた者も数人連れて来られている。
かつて決別した
火野映司もその一人だ。
あの馬鹿と再び会ったのなら、今度こそ戦闘は避けられないだろう。
「…………」
迎え撃つ覚悟は当の昔にできている。
だが、所詮は「覚悟」だけだ。
実際に会ったのなら、その「覚悟」を最後まで崩さずにいられるか?
「……クソッ!」
もう一度、悪態をついた。
こんな事で一々悩んでいても仕方ない。
今はもう一人の「アンク」を滅ぼす事だけを考えるべきだ。
ここは大桜から少し離れた民家だ。
よほどの騒ぎを起こさない限り、バーサーカーがここに辿りつく事はないだろう。
ほとんど動けない杏子を此処までおぶるのは骨が折れた。
少しばかり、ここで休みを取るのも悪くはない。
デイパックからクーラーボックスを取り出し、その中にあるアイスキャンディーの一本に手を付けようとする。
が、まるで宝石見るかのような杏子の目を見て、アイスへと伸びる手が止まる。
そこまで食いたいのか、つくづく食い意地の張ったガキだ。
「……食うか?」
別に剣崎の情が移ったわけではない。
これは、ほんの気まぐれだ。
【一日目-正午】
【D-2/民家】
【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】赤陣営
【状態】ダメージ(大)、疲労(中)、全身に殴られた跡
【首輪】所持メダル「70」:貯蓄メダル「0」
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式、不明支給品1~3
【思考・状況】
基本:???
0:……いいのか?
※参戦時期不明
【アンク@仮面ライダーOOO】
【所属】赤陣営
【状態】健康、疲労(小)、迷い?
【首輪】所持メダル「98」:貯蓄メダル「0」
【コア】タカメダル「1」
【装備】シュラウドマグナム+ボムメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、大量のアイスキャンディー、不明支給品0~1
【思考・状況】
基本:アンク(ロスト)を排除する。その後は……?
0:……食うか?
1:佐倉はどうするべきか。
2:映司は――――。
※カザリ消滅後~映司との決闘からの参戦
【9】
戦場に立っていたのは、バーサーカー唯一人だった。
剣崎の姿はそこにはなく、代わりに一枚のカードが地に伏している。
それはつまり、彼が戦闘に敗北し、「封印」の運命を受け入れた事を示していた。
正義の味方は邪悪の前に斃れた――その事実だけが、無慈悲に横たわっているのである。
バーサーカーがその勝利に愉悦を感じる事はない。
「狂化」のスキルによって理性が押しつぶされた彼にとっては、
勝利なんてものは道端に落ちていた小石を除けた事とほぼ同義だった。
彼にはもう、「勝利」も「敗北」もありはしない。
纏った鎧の奥に潜むのは、あらゆる物を焼き払わんと燃え盛る憤怒のみ。
憤怒は「"破壊したい"という欲望」に直結するが故、首輪のメダルも増殖していった。
漆黒の狂戦士は進む。
全てに行き場を失った怒りをぶつけながらも、唯ひたすらに進み続ける。
目指すべきはたった一人――騎士王「アルトリア・ペンドラゴン」。
彼女の元へ向かうまで、彼の暴虐は終らない。
【剣崎一真@仮面ライダーディケイド 封印】
【一日目-正午】
【D-2/大桜跡地】
※バーサーカーのデイパック(基本支給品一式、不明支給品0~1)、剣崎のデイパック(基本支給品一式、不明支給品1~3)、
ラウズカード(ジョーカー)が放置されています。
※大桜跡地にて火災が発生しました
【バーサーカー@Fate/zero】
【所属】赤陣営
【状態】ダメージ(中)、狂化
【首輪】所持メダル「110」(増加中):貯蓄メダル「0」
【装備】なし
【道具】無毀なる湖光(アロンダイト)@Fate/zero(封印中)
【思考・状況】
基本:▅▆▆▆▅▆▇▇▇▂▅▅▆▇▇▅▆▆▅!!
※参加者を無差別的に襲撃します。
但し、
セイバーを発見すると攻撃対象をセイバーに切り替えます
最終更新:2017年03月02日 20:49