アイノウタ ◆l.qOMFdGV.
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1.
誰が言ったか、愛は無限に有限だと、そういう言葉があるという。言われてみれば、与えることのできる愛は無限だがそれを与えることができる相手は有限で、
そして求める愛は無限であるのに得られるそれは有限だ。だから、なるほど確かに愛は無限で有限だ、とそれを聞いた
メズールはなんとなく納得していた。
メズールはその言葉が本来どのような思惑のもと生まれたのかを知らない。己の解釈が、言葉を考えた人間の思う定義に沿っているかどうかすらも知る所ではなかった。
だが、それは瑣末なことだ。問題は――。
「私が愛(それ)で自分を充たせるかどうか……それだけなのよね」
愛を与え、与えられ、求め、そして得て、その全てを我がものにせんとする欲望。それを充たすこと、それだけだ。
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グリードの視界は人のそれと違い、色や光といった彩が薄い。メズールが暗いドームの内から煌々と照りつける白日の下へ飛ばされた際に目が眩まなかったのは、
常に砂嵐のような靄に覆われたそれのおかげだろう。人のようなクリアな視界を欲するグリードがその正逆の視界に救われるとは何とも皮肉な話だと、メズールは鼻を鳴らした。
眼前には海が広がっていた。大気の蒼を写して広がる大海原。対岸には森に囲まれた、とある世界の学び舎が見える。海と呼ぶには少し小さいそれは、たったひとつの「問題」を除いて、概ね海だった。
「IS学園が見えるし……F-6の北西部ってところかしら」
俯瞰すれば一目瞭然であるし、こうして海岸線に立っていてもなお、この「問題」は把握できる。現在メズールが立つ大地とIS学園を含む海の向こう、それらがまるでコンパスで円を描いたかのような正確さで「繋がっていない」のだ。
無論物理的なものではない。ともかく、整合性が一切存在しないのだ。メズールが立つのはごく普通の市街地である。ビルがあり、家屋があり、人の町があり、そして海がある。
砂浜やら岩礁やらを挟まず、街と海が直に接している、これが「問題」の正体だった。「綺麗な円弧を描く、自然界には存在しない海岸線」、円形に切り取られた大地に、同じくくり抜かれたIS学園を含む海をむりやり当てはめたような、そんな風景だ。
人ならざる身であっても人の街は知っているし、この「問題」に対する違和感を得る程度にはそこになじんでいる。まったくいつ見てもおかしなものだ、とメズールは一人ごちた。
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呆けている暇はない。間もなく、メズールは支給されたデイバッグをあけた。そして迷わず何かを掴み取る。注視するまでもなく、メズールが広げたそれはただの紙束であると知れた。
支給された品でなく、地図でなく名簿でなく、ただ細かな文字が書かれた紙束を何故最初にとりだしたのか。答えはそれほど難しいものではなかった。
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――君たちに渡すものがあります。
と、真木が紙束を手にして言ったのは、宴の準備が整いグリードが最後に一堂に会したその時だった。
「……それは何? ドクター」
「参加者全員のパーソナルデータ、そして彼らの記録が記してあるものです」
「!」「……」
ウヴァが姿勢を変え真木を見詰め、
カザリは何も言わない。
「彼らの全てがそこにあります。どのように使うかは、君達の自由です」
欲望に従い好きに使え。そう締めくくった真木は、ひどく遠いところを見ていたようにメズールは思う。
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――ともかく、「参加者」のデータだ。
真木が説明したことに加え、バトルロワイヤルの会場に転送された時の初期位置まで記されていた安っぽい紙束を、メズールはちらりと見やった。自陣営の目ぼしい人間のデータは予め目を通してある。無論、彼らのスタート地点も把握済みだ。
そして、それに示されていなかった最後のピース……自分のスタート地点。それさえ把握してしまえば、メズールには迷うことなど何もない。
頭のなかで地図と己、そして目ぼしい「参加者」の場所を擦り合わせる。
目的地が決し、やがてメズールは駆け出した。目指すは目と鼻の先、E-6にあるBOARD社ビルのお膝元にある街だ。
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2.
南中した太陽が陽光を落とし影を作る。遮るもののない市街地の道路の真ん中、身じろぎもせず立ち尽くすのは
セシリア・オルコットだ。陽炎ができる程の気温ではないのに、彼女の視界はゆらゆらと所在なく歪んでいた。
そんな中、短く伸びた影だけが強く視界に焼き付いていく。
光と熱を撒き散らす太陽は本来、希望や幸福といった類のポジティブな言葉でなぞらえうるはずのそれだ。ところがセシリアにとって太陽は最早、影を――闇を撒き散らす病原体に他ならなかった。
しじまに沈む街を充たす光は影を描き出す。
ビルの影。街路樹の影。路肩に駐車する車の影。人っ子一人いない街の影。
――訳のわからぬまま放り込まれた殺し合いという、闇(かげ)。
――躊躇なく他を終わらせることのできる真木清人なる人間という、闇(かげ)。
――認めがたい友人の「死」という、闇(かげ)。
――そしてその闇(かげ)の中より産まれ落ちた、「セシリア・オルコット」という名の、闇(やみ)――。
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国家代表候補のIS乗りとはいえ、その実は年相応の少女である。恋に恋して朴念仁に焦がれ、恋敵とは馴れ合うように競いあい、そしてその恋敵の突然の死など想像だにしない年相応の女の子、それがセシリア・オルコットだった。
そんな彼女がこの場――いずこと知れぬドーム状の建物に放り込まれて感じるものは、考えるまでもなく掛け値なしの恐怖だった。視界は閉ざされ周りは誰とも知れぬ人影ばかり。
不気味な人形を腕に引っかけた男は嫌悪感を催す無表情を崩さない。混乱と不安は気丈で芯の強い少女を恐怖の奈落に突き落とすには充分すぎるほどの代物で、セシリアの表情は奈落の底に滞留するそれに色濃く染まっていった。
じわりと音をたてて、恐怖という闇が心に染み込んでいく。
――そして、そんな闇を払うのは、いつだって強い光でしかありえない。
「殺し合い……!?」「一夏!?」
セシリアへの言葉ではなかった。ただ疑問の発露でしかなく、その声は彼女を向いてはいない。それでも、だった。
想い人の声は光明そのものだった。闇を打ち払い、己を導き温かい場所へと連れ出す頼りがいのある大きな男の手。それは確かに、セシリアの相貌から闇を拭い去ったのだ。
殺し合いをしろだなんて不穏当極まりないことを告げられたにも関わらず、それを意識の外におけるほど、その声はセシリアを引きつけて止まなかった。
(一夏さん……!)
未だ判然としない人影の中を駆ける。脇目も振らず、隣に立とうと顔を見分けることすら難しい人のなかを、ただ駆ける、駆ける、駆ける。
いるのだ、ここに。わたくしを恐怖から救ってくれるはずの男性が、あの人が!
あの人がいるし、わたくしもいる。不本意ながら先程聞こえた声によれば箒もいるようだし、そうなれば代表候補生はみないるのだろう。真木なる人物が何かは知らないが、わたくしたちを虚仮にしたことを必ず――
ぼんっ。
――? ? ??? ……?
つかの間の夢見心地は爆風に吹き飛ばされて、後に残るのはただひたすらに過酷な現実だった。事態はスムーズに進行してゆく。さながら予め定められた手順を踏む儀式だ。贄が捧げられることすらが予定調和の、悪魔の儀式――。
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少女が二人死んだ。あろうことか、うち一人は彼女の親友である。
ところが、ホールから街中へと飛ばされたセシリアにとって、それは問題たり得なかった。
彼女の心をもっとも乱すもの。それは彼女の内から生まれたもの。
一人目の少女が命を絶たれたその瞬間、確かに脳裏をよぎったその言葉。それは、まぎれもない闇(やみ)だった。
――そんなことより今は一夏さんを――
そんなことより今は一夏さんを、と。そんなことより――人がひとり、死んだというのに。
(わたくしはあの時、確かにそう考えた)
あまねく全ての死を悼む聖者を気取るつもりはないが、それでも人並みには死を畏怖し蔑ろにするつもりがなかったはずのセシリアにとって、それは大きな違和感だった。
……そしてそれが「違和感」でしかないうちに「次」が訪れたことは、おそらく彼女にとって最大の不幸だったのだろう。
「違和感」が拭われて、目前の死に正常な反応を示すことができていれば、或いは違う未来があったのだろうが、もしかしたらそうしたところで、避けられぬ運命だったのやも知れない。どちらにせよ、今となっては詮無いことだ。
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脳裏をよぎった言葉に、そんなことを考える己に戸惑い、呆けて立ち尽くすセシリアの視界のなか。激情に任せて飛びかかった友人、篠ノ乃箒が命を散らして。そして心をよぎる、決定的なその言葉。
(ああ……×ってしまいましたわ――)
クラスメイトが。日本の代表候補生が。友達が。箒さんが。――最愛の男を狙う、×き恋敵が。
(亡くなって……。いえ、……減ってしまいました――)
(――……♪)
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胃の腑が裏返ろうとこれほどの吐き気は訪れない。ビルの森のもとに立ち竦み記憶が再生するがままに任せていたセシリアは、腹腔を突き破らんと暴れまわる胃と、早鐘を打ち続ける心臓を両手で押さえて蹲った。
咄嗟に飲み込んだ吐瀉物の味が口腔にじわりと広がり、殺しきれなかった嗚咽が歯の隙間から零れていく。
「うそ、ですわ」
もはや声にもならない言葉は、許しを乞う罪人のそれだ。
「わたくしは」
強い光は必ず影を作り出す。それは、セシリアに「光」と形容された斑目一夏とて例外ではなく。
「箒さんが死んで」
強大な「光」こそが、闇を色濃く焼き付ける。
「…………よろこんだ?」
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3.
「あら、いたわね」
自己嫌悪と混乱のらせんに沈むセシリアには、その声の主の接近を察する余裕はなかった。十メートルと離れていない場所から、話しかけまでされなければ気付けなかったことに驚く間もなく、セシリアははじかれたように俯けていた顔を上げる。
声の主は、さきのドームで真木と共に立っていた、異形の女――!
「ひどい顔ねぇ。今にも死にそうって――」
虚脱しきっていた表情は即座に怒りに染まる。思考を満たしていた闇すら、瞬間に激しく燃え上がる怒りの炎で散々に吹き飛んだ。
「――顔してるわ……。でも、そんな元気は残ってるってワケねぇ」
怪物、グリードには表情が存在しない。それでもセシリアには、メズールが妖しく笑ったように見えたのだった。
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鼻で笑ったメズールの向こう、間髪いれずにISを展開したセシリアが距離をとる。
彼女が駆るIS『ブルー・ティアーズ』は基本的に中、遠距離における戦闘に長じているそれだ。独壇場に持ち込むためにとる行動として後退は当然の動きだった。
対してメズールは笑みの雰囲気を崩さないまま、ゆっくりと前進する。追い縋ろうとするでもなくただセシリアの軌跡をなぞるだけのようなその挙動は、混乱のさなかの接敵で正常な判断が難しくなっている彼女の神経を逆撫でるには充分だった。
「……っ、馬鹿にして!」
百メートルも後退しただろうか。セシリアはその瞬間、武装能力の制限、メダルと武装の使用との相関関係を全て忘れて、据え付けのレーザーライフル『スターライトmkⅢ』を構えた。
青く伸びる砲身が、死に直結する黒の銃口が、主人と同じ憎しみの視線を敵へと注ぎ込む。二重の殺意に晒されて、しかしメズールは動じない。
引き金が引かれ一瞬のタイムラグののち、日光の元であっても色褪せることのない光軸が空気を割いて疾駆した。メズールの破壊を求めたそれは、しかし、
「っ!?」
どこに着弾することもなく、メズールの直前の空間で掻き消える。
「どういうことですの……!?」
深く考えず、激情に任せて二度目の射撃。マルズフラッシュとほぼ同時に敵を打ち砕かなければならないそれは、またしてもメズールを射抜くことはなかった。焦燥に顔をしかめ、彼女はメズールを注視する。メズールは艶然と笑い、なおも歩みを止めない。
二、三度の射撃を挟み、仕掛けのタネはすぐに割れた。セシリアははっと目を見開き、すぐ険しい表情へ戻る。
「水……!」「ご名答よ、お嬢ちゃん?」
海洋生物のコアを持つグリードの十八番、水のシールド。それが絶対防御の正体だった。
光学兵器の問題点として、まず第一に挙げられるのが「大気や水分による威力の減衰」だ。波長が弱まり本来の効果が期待できなくなるこの問題点は、確かに光学兵器への防衛策として有効だろう。
しかし、腐ってもIS、英国の技術の粋を結集させた機体である。湖だとか海だとか、そういうものを突き破ろうとするならともかく、たかだか水の膜を透過した程度では多少の減衰はあろうと標的を射抜くはずなのだ。
ここに至ってようやく、セシリアは冷静さを取り戻した。
「これが制限……」
「それも正解、ご名答よ……お嬢ちゃんっ!」
歯噛みするセシリアに頓着せず、メズールは駆け出した。セシリアが混乱と観察に足を止めているなか、メズールがじわじわと歩を進めていたため、互いの距離はすでに二十メートルを切っている。
そしてそれは、人ならざるモノと人を上回るパワードスーツにとって、零距離にも等しい近距離だった。
「あああああッ!!」
セシリアは『スターライトmkⅢ』を打ち捨て、PIC――ISの駆動機関を全開に策も何もなく突撃する。近接戦闘用の武装は呼び出しに時間がかかる。その時間も惜しいという判断のもとの突撃だった。
「残念♪」
決死とも言っていいその体当たりは、しかしいとも容易くあしらわれた。メズールの能力は水を操ることだけではない。その身体を水そのものと化すことで、打撃を受けることなく背後に透かしたのだった。
虚を突かれたセシリアは、突撃に費やした全力に振り回され、ISの姿勢制御もむなしく大きく転倒した。ISの転倒……これも制限の影響か――セシリアがそう考えたかは定かではない。
ともかく、姿勢を正そうと転がるように天を仰いだ彼女にのし掛かるようにして、その身を組伏せるメズールがいる。
小さく「くっ」と呻いて身をよじるが、体勢の不利もあって屈辱的な体勢を崩すことが出来ない。キッと睨み付けるが、どこ吹く風とばかりにメズールは動じない。
「勝負あったわね」
それだけが、結果だった。
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「ねえ、セシリア・オルコット。この会場には
織斑一夏がいるわ。それにお友達の四人も……あら? もう三人だったかしらねぇ?」
「……わたくしを殺すのではなくて?」
「説明を聞いてなかったのぉ? これは団体戦。私の部下を自分で殺すなんて……そんなおかしいグリードに見えるかしら? 私。ふふ」
「……」
「……ねぇセシリア」
「あなたのような化け物に呼び捨てにされる謂れはありませんわ」
「ふん……気丈もいいけどTPOは弁えるべきね――篠ノ乃箒が死んだの、そんなに堪えたかしら?」
「……っ! 箒さんを! 貴様らが……、その名前を呼ぶ権利はないですわっ!」
「どうしてそんなに怒るのかしらね……? ふふ、だって彼女、織斑一夏を狙ってたんでしょう?」
「……ッ、それは今は関係ないでしょう……っ」
「邪魔者がいなくなったのよねぇ……。喜ばしいことね? アッハハハッ」
「黙れ、黙りなさい!」
「織斑一夏は今頃何を思っているのかしらね……『守ってやれなかった』とか、そんなところかしら?」
「黙れ!」
「今ごろ篠の乃箒はそれはもう強く想われてることでしょうね。守りたかったとか、もっと話してやればよかったとか、……『もっと愛してやればよかった』とか……、かもね?」
「黙りなさい……!」
「愛って不思議よねぇ。あなたがいくら織斑一夏を愛しても彼はあなたを想わないし、あなたが織斑一夏の愛を欲しても彼はあなたの愛なんていらないかも……」
「……何が、仰りたいんですの……」
「――欲しくない? 彼の心」
――息が詰まる。指先に力が入らない。まるで水底にいるようだと、セシリアはぼんやり思った。――
「……!!」
「簡単なことよ。邪魔者を減らせばいいの、ただそれだけ。それだけであなたの欲は充たされて、そしてバトルロワイヤル(ここ)ならばそれはとても簡単なこと……」
「何を……馬鹿なことを!」
「篠ノ乃箒が死んで嬉しかったでしょう?」
――セシリアは絶句する。あっという間に舌は干からび、涸れた喉からは声になり損ねた音が小さく漏れた。
バレた。バレた。バレてしまった。否定してなかったことにしなければならない想いが、バレてしまった……!――
「あ……あ」
「ねぇ、図星でしょ? そうよねぇ、篠ノ乃箒は織斑一夏と幼馴染……強敵。それがなくなったんだもの」
「ち……違うっ。違う違う違う、違います!」
「彼の愛を得る人間が有限なら、それを受ける人を減らせばいい……。あぁ、本当に合理的よねぇ」
「違います! 嘘ですわ! そんなの……そんなのっ」
――雲散霧消したなんて、勘違いだった。闇はどんなに散らしたところで、光があれば消えようはずがない。怒りの炎はもはや風前の灯で、闇に抗う力など、とうに失われている。
メズールの言葉が、セシリアの心に無遠慮に踏み込み、一切の容赦なく侵略してゆく。――
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「篠ノ乃箒のISはね、織斑一夏のISと夫婦(めおと)のISとして設計されているのよ。決して離れることのない、つがいのIS」
「
シャルロット・デュノアも凰鈴音も
ラウラ・ボーデヴィッヒもそう……あなたの知らないところで、あなたの知らない織斑一夏を知って、味わって、愛して、愛されてる」
「ズルいと思わない? 織斑一夏の一番そばにいるのは、いつだってあなた以外の誰か……」
「欲しなさい。想って想って想い続けて、それでも手に入れることが叶わなかったあなたに、これは当然の権利よ」
「敵を減らし、私の陣営を勝利に導き、そして全ての欲望を充たす権利を手に入れる……これがあなたが織斑一夏の愛を得る方法」
「戦いなさい、セシリア・オルコット」
「あなたの欲望を充たすために」
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「…………。……」
(一夏さん)
「……………………………………………………」
(あなたが悪いんですのよ)
「……わたくしを見ないから……」
(ごめんなさい)
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――ひとつ、条件がありますわ……――
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空の向こうに青い機体が消えていく。航跡を残さないISが視界から消えてしまえば、まるで最初からいないと思えるほどだった。
腰に手を当てて、メズールはセシリアが最後に要求し、自身が呑んだ条件を口の中で繰り返す。
「シャルロットと鈴音とラウラの居場所を教えろ、ね」
グリードたちには真木により、かなりの情報アドバンテージを与えられていることは前述のとおりだ。有効活用できるかはグリードによりけりだが、――
ガメルはもちろん、今の状態の
アンクでも厳しいだろう――これはそれを利用した結果だった。
「織斑一夏……四人の、いえ五人の愛情を一身に集める男」
愛情。ああ、なんて甘美な響き。本来であるなら彼も女どももまとめて囲って愛の様を観察したいところであったが、事情が事情だ。
「せいぜい踊って、私に愛を見せてねぇ……ねぇ、セシリア?」
盲目の恋する乙女とは、つまるところ信仰のために全てを無為にできる狂信者である。他の一切を価値なしと、その死すら思慕するに値しないと、立ちふさがるのであれば排除するまでと断じて視界の外に追いやることは、これ以上ない程の強欲だ。
強欲……グリードに唆された少女は、狂わんばかりの欲望に衝き動かされて、往く。
人影のなくなった路上、妖しく笑う愛欲の化身が一体。ソレは愛を求めて、再び進み始める。悪魔の囁きに従い、ひどく歪んだ道を進み始めた青い涙を流す少女が一人。その先に求める愛が真に求めるものかは、もはや言うまい。
愛をめぐる物語は、始まったばかりだ。
「それにしてもあの娘……私に声が似てたわねぇ」
【一日目-日中】
【E-6/BOARD社以南の市街地の路上】
【メズール@仮面ライダーOOO】
【所属】青
【状態】健康
【首輪】80枚:0枚
【装備】なし
【道具】基本支給品、ランダム支給品1~3(未確認)
【思考・状況】
基本:青陣営の勝利、全ての「愛」を手に入れたい
1.次はどこに行こうかしら?
2.余裕があればセシリアの動向を追う
【備考】
※参戦時期は本編終盤からとなります。
【???/遥か上空】
【セシリア・オルコット@インフィニット・ストラトス】
【所属】青
【状態】肉体的な疲労(中)、精神的な疲労(大)、びしょ濡れ、一夏が欲しい
【首輪】60枚:0枚
【装備】ブルー・ティアーズ
【道具】基本支給品、ランダム支給品1~3(未確認)
【思考・状況】
基本:一夏さんが欲しい
1.一夏さんが欲しい、そのために行動しますの。
2.シャルロットさん達に会ったら、わたくしは……
【備考】
※参戦時期は不明です。
※水になったメズールの身体を通り抜けたためびしょ濡れです。飛行を続ければ乾きそうです。
※向かう先はメズールに聞いた凰鈴音、シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒの三人のうち、誰かのスタート地点です。地理的に最短の場所に向かっています。
※飛んでいる高度は一般的な人間の視力で色と形が判別できる程度の高度です。
※制限を理解しました。
最終更新:2017年03月02日 20:49