いつかは今じゃないだろ ◆MiRaiTlHUI
巴マミは、魔法少女だ。
人々に希望を振り撒き、絶望を齎す魔女を駆逐する正義の使者だ。
今まで何人もの人々の命を救い、何体もの魔女をこの手で屠って来た。
これからもそんな日々は続き、自分は正義であり続けるのだろう、と。
つい先刻まで、マミ自身もそう思っていた。と云うよりも、そう信じていたかった。
だけれども、現実は非常だった。マミのそんな幻想は、つい先刻、マミの目の前で打ち砕かれた。
希望を信じて魔法少女となり、そして正義の為と信じて戦った
美樹さやかは――魔女になった。
魔法少女はいずれ絶望に負け、魔女に――化け物になる。
それを知った瞬間、マミを飲み込もうとした絶望は酷く深く、暗いものだった。
自分はいずれ化け物になる。誰かを呪い、誰かを傷付け、絶望を振り撒く悪になる。
最早確定された未来だ。どこまで抗おうとも、魔法少女はいつか魔女を産んで死ぬ。
人はいつか必ず死ぬ事と同じくらいに、それは覆しようのない事実だった。
だとするなら――
「魔法少女が魔女を生むなら、みんな死ぬしかないじゃない……」
そう呟いて、滂沱と涙を流す。
きっとここへ連れて来られるのが一瞬でも遅れていたら、マミはこの手で他の魔法少女を殺していただろう。
あの駅のホームに居たまどかと、ほむらと、杏子の三人を殺め、そして自分自身の命を絶っていた事だろう。
そうやって全てを終わらせる事が出来たなら、どれだけ楽だっただろう。
意思とは裏腹に自らの命を繋いでしまったマミは、この場へ転送されてからも何もする気が起きなかった。
ただ茫然自失といった様子で、目の前に拡がる大量のフィギュアや玩具類のショーケースを眺めるだけしか出来なかった。
別にフィギュア類に興味がある訳ではない。ただ、転送されたこのビル内の大半を、そういった専門店が占めているだけだ。
(また一人ぼっちになっちゃったわね……)
そして当然ながら、この場にマミ以外の魔法少女は居ない。
他を皆殺しにして自分も死のうと思っていたが、それを今一人でする気にもなれない。
最近はずっと仲間が居てくれて、一人ぼっちで寂しくなる事もなかった事を思えば、この現状が嫌に辛い。
絶望の真実を知らされ、目の前で少女を 二人も殺され、終いには一人ぼっちで転送されるなど、悪い冗談だと思いたかった。
ならばこれからどうするか。
デイバッグから名簿を取り出し、ぼんやりと眺める。
知っている魔法少女達の名前が……少なくとも四人分、そこには書かれていた。
ならば、他の魔法少女を探し出し、この会場内のソウルジェムを全て砕き、それから自分も後を追うか。
――否、この場でそんな事をすれば、それは実質この殺し合いに乗っているのと同義ではないか。
目の前で殺された二人の少女の事を思い出し、マミの中に確かな義憤が生まれる。
元来正義感の強いマミは、真木の非道を許すような人間ではない。
例え虚無感に苛まれてはいても、マミは状況をまるで理解出来ない無能では無かった。
(……でも、だからって戦う気にもなれないわ)
魔法少女のからくりを知った今、正義を行う事すらも、怖い。
ゾンビと化した今更、命が惜しいという訳ではない。
もしも誰かの為に戦ったとして、自分が魔女になったらと考えると、たまらなく恐ろしい。
この場で絶望し、自分が魔女になれば、きっと意思も無く人を殺すだけの殺戮マシーンになるだろう。
マミはそれが一番怖かった。
自分が率先して人を殺す悪になるなんて、何があっても絶対に嫌だ。
そうなるくらいなら、やはりここで死んでしまった方が――
「――うひょひょ……」
不意に、マミの思考を中断させる声が聞こえて来た。
誰かの笑い声だろうか。こんな状況で、何を笑っているのだろう。
場所もそう遠くは無い。恐らくは、マミが居るこのビル、同じフロアの別室からの声だ。
気になったマミは、先の事など考えもせずに、半ば反射的に声の方向へと歩を進めていた。
念には念を入れて、魔法少女に変身し、マスケット銃を携えて。
◆
桜井智樹は今、支給された宝物達の事で頭が一杯であった。
ページをめくる度、視界に拡がる健康的な肌色が、智樹の欲望を刺激する。
熱くなった股間は力強く脈打ち、脳内の妄想は無限大に拡がってゆく。
「うひょひょひょひょひょひょひょ!!!」
智樹の笑いは、下品なことこの上なかった。
元来智樹の性欲は、通常の男子中学生よりも圧倒的に強い。
暇があれば女子にエロい事をする妄想しかしていないくらいだ。
そんな智樹にエロ本を支給すればどうなるのかなど、想像に難くはない。
僅かなエロ要素ですら脳内で無限大に増幅させる智樹にとって、この支給品はまさに当たり。
そう、当たり中の当たりだ。よくわからんカードデッキなんかよりも、よっぽど有意義だと思える。
その上、幸いな事にエロ本は一度で読み切れる量を遥かに超えていた。
(ぐへへへへ……これだけあれば暫くはエロには事欠かないだろう)
智樹は、楽しみは後に取っておくタイプの人間だった。
全体の三分の一程を読み漁った智樹は、残りを丁重にデイバッグの中へと戻した。
一切の折り目を付ける事すらも許さず、だ。神が与えたもうた宝物を、こんな所で傷付ける事は許されない。
デイバッグに残りのエロ本をしまい込んだ智樹は、そのファスナーをゆっくりと閉めてゆき――
「……やっぱりあともう一冊だけっ!」
智樹は欲望に正直だった。
あと一冊。あと一冊だけだ。一冊くらいなら問題ない。
一度はデイバッグにしまったエロ本の一冊をもう一度取り出し、ページをめくる。
再び智樹の眼前に拡がるは、女神たちの豊満なおっぱい――!!
見れば見る程に、どの娘もいい乳をしているものだ。
――いけない。
こんなものを見ていると、いよいよこの欲望が抑えられなくなってしまう。
嗚呼、揉みたい。おっぱいを揉みたい。この手で、揉み次第てやりたい――!!
そんな馬鹿な事を考え、智樹がエロ本に顔を擦りつけて居た、その時だった。
(ムッ……後ろから、誰かの気配っ!?)
感じる。智樹を……否、この宝物を見詰める、何者かの気配を。
拙い。これは俺だけに与えられた神の宝具だ。それを迂闊に人に見せる訳にはゆかぬ。
一瞬でそこまで判断した智樹は、エロ本をさりげなく隠しながら、勢いよく振り返り――
「――うおぉぉぉおおおおっぱあああああああああああいっ!?」
そして、視界へ飛び込んでくる豊満なおっぱい――!
女神だけが持つ事を許された母性の象徴が、智樹の眼前で揺れていた。
智樹に叫ばれたおっぱい……もとい、少女の方も慌てた様子で一歩後方へ跳び退る。
魔法少女的なコスプレ衣装を着た少女は、特徴的な金髪のツインテールを縦に巻いた少女だった。
その両手には、一丁のマスケット銃が握り締められている。
歳の頃は、恐らくは智樹と同い年か一つくらい年上程度であろう。
「貴方、こんな所で何をしてるの……?」
「い、いや……これはですね……その、」
言葉に詰まる。明らかに智樹を訝る少女。
その視線が、智樹にとっては非常に辛かった。
元々学校中の女子からキモがられ嫌われていた智樹だが、わざわざ好き好んで嫌われたいとは思える程マゾではない。
――といっても、ただ嫌われるだけで女の子にエロい事が出来るのであれば、それもまた吝かではないのだが。
とにかく慌てふためいた智樹は、咄嗟にエロ本を掲げ、叫んだ。
「うおおおおおああああああっ!? 何だこれはああああっ!? こんな危険なもの始めて見たっ!!!」
「えっ……何!? 私にはそれが、そんなに危険なものには見えないのだけれど……」
「何故わからないんだ!? 裸の女が群れを成して男を誘惑する! きっとこれは誰かの陰謀だよ!」
「は、はあ? 貴方、さっきから何を言って……」
「いいからっ! これは俺が後で処分しておこう!」
そう言って、不自然なく智樹はエロ本を自分のデイバッグへとしまい込んだ。
これならばどんな人間も智樹を疑う事はあるまい。我ながら完璧な言い分だった。と思う。
だけれども、智樹の完璧な言い訳を聞いた少女はしかし、変わらず訝しげな表情で智樹を見るだけだった。
……これは拙い。疑われている可能性がある。今はとにかく、話題を逸らす事が先決だと思われた。
「……コホン。で、君は一体、こんなところで何をしているのかね?」
「それはこっちの台詞よ。笑い声が聞こえると思ったら、こんな所で、その……そんな物を読んでいるなんて、無防備過ぎるわ」
目の前のおっぱいの大きな女の子は、やや言い辛そうに視線を泳がせた。
どうやら智樹が読んで居たものがエロ本だという事は既に見抜かれていたらしい。
だが、今更後戻りなど出来まい。智樹は意地でもエロ本には触れずに話を進める事に決めた。
「何だ俺の事心配してくれたのかよ、ありがとな……えっと、」
「私の名前は巴マミ……君の名前は?」
「ああ、俺の名前は桜井智樹。よろしくな、マミ」
それから、マミの首輪のランプの色を確かめる。
一応広間での説明くらいは聞いていたのだから、この殺し合いが陣営戦だという事も把握はしている。
「陣営は……マミが黄色で」
「桜井君が白陣営。私達は敵同士って事になっちゃうわね」
「でもマミは、殺し合いに乗る気はないんだろ?」
エロ本を読むのに夢中になっていた智樹を殺す隙など、いくらでもあった。
だけれども、マミが智樹に攻撃を仕掛ける事はなく、今もこうして冷静に話が出来ている。
もしかしたら情報を聞き出してから殺すつもりなのかもしれないが、マミからはそんな気が感じられない。
第一、こんな素敵なおっぱいを持った女の子が殺し合いに乗っている訳がないではないか。
智樹はそう思ったのだが、問われたマミの表情は暗かった。
「どうかしら……私は、絶対に殺し合いに乗らないという保証は、ないわ」
「どういう事だよ。それなら、なんで俺の事は殺さないんだよ」
「大丈夫よ、安心して。少なくとも無関係な一般人を手に掛ける積もりはないわ」
そう言って、智樹を安心させる為に微笑んだのであろうマミの笑顔は、どこか虚ろだった。
そして気付く。智樹は、また貧乏くじを引いてしまったのだと。
この様子を見るに、どうやらマミも一般人では無い様子だ。
あのエンジェロイド達と同じ「未確認生物」の類であろうか。だとしたら、もううんざりだ。
だけれども、それでも目の前の人間を放っておく事など、智樹には出来ない。
というよりも、こんな素晴らしいおっぱいを持った女の子を放っておく事は、出来ない。
そうだ。智樹が心から尊敬する爺ちゃんも言っていたではないか。
――いいんじゃね? そこにおっぱいがあれば、いいんじゃね?
人間だろうが未確認生物だろうが殺し合いだろうが。
そこにおっぱいがあるのなら……それでいいんじゃね?
六道輪廻の真理にまで触れた智樹にとって、ここが殺し合いの場などという事は最早些細な問題だった。
目の前にか弱いおっぱいがあるのなら、智樹はそれを守る。いや違う、揉む。そうだ、揉みしだくのだ。
その為にも、この少女をこんな所で見捨てていいのか。答えは否だ。良い訳がない――!
「なら……なら、無関係じゃない奴は殺すっていうのかよ!?
お前、そんな辛そうな顔して、誰かを殺そうっていうのかよ!?」
「辛そうな顔なんて……」
「してるよ! お前、今にも泣きそうな顔してるじゃないか!」
「……っ!!」
図星を突かれた様子だった。
出会ったばかりのマミの身に何があったのか、智樹は知らない。
だが、少なくともまともな道を歩いて来た人間ではないのだろうという事はわかる。
そんな奴らを智樹は何人も見て来た。今更マミ一人が増えたくらい、どうって事はない筈だ。
「それはお前が本当にしたい事なのか? お前は本当に、それでいいのか!?」
「貴方は知らないでしょうけどね……私達魔法少女は、いずれ魔女っていう化け物になるの。
なら、魔女になって手がつけられなくなってしまう前に、みんな一緒に死ぬしか無いじゃない……!」
「何だよ、それ……魔法少女……!?」
それから、マミは簡潔に魔法少女の説明をしてくれた。
希望の力で変身し、魔女と呼ばれる化け物と戦う少女達を総称して魔法少女と呼ぶ。
だけれども、希望と絶望は等価だ。いつか魔法少女の希望は絶望に飲まれ、魔女となって消滅する。
マミの目の前で、ずっと一緒に戦ってきた仲間が一人、魔女になってしまったと、マミはそう言うのだ。
「……だから、私がいくら正義の魔法少女として戦っても、いつかは魔女になってしまうの。
そうなる前に、私は全ての魔法少女をこの手で倒さなくちゃならない……せめて、この場の誰かが犠牲になる前に」
それがマミの決意。
虚ろな笑顔の裏側に秘めた、悲しい決断だった。
マミはいつか魔女になる。だから、その前に、誰かに迷惑を掛ける前に死ぬ。
一見、魔法少女の運命に敗れた意思の弱い女に見えるかもしれないが、そうではない。
彼女は強い。一人でも自分の力で戦い抜き、正義を行おうとする彼女が、弱い訳がない。
大勢の命を尊く思うならこそ、マミの選択は正しいとも思える。
だが。智樹は、それを認めたくは無かった。
「……そんなの、絶対おかしいだろ……」
最初は、消え入るような小さな声だった。
無意識に拳を握り締め身体を震わし、しかし瞳はきっとマミを見据え。
「お前は、それでいいのかよ……そんな寂しい結果で終わって、本当にいいのかよ……」
「安心して。魔法少女以外には、こっちからは手を出す事はないわ」
「……そういう意味じゃねえよ! お前は、いつか死ぬからって、友達を殺して、ほんとにそれでいいのかよ!?」
魔法少女以外は殺すつもりはないから安全とか、そんな事はどうだっていい。
今重要なのは、こんなに優しい筈の女の子が、正義の為に友達を殺そうと言っている事、だ。
きっと辛い筈だ。そんな惨い事を望んでしたいと云う奴なんて、居る訳がない。
激昂した智樹は、マミの胸……ではなく、両の肩をがっしと掴んだ。
「そんなの、辛すぎるだろ……! お前、ほんとはそんな事したくないんだろ!」
「それでも……それが魔法少女の宿命なら、私がやるしかないのよ。貴方は何も知らないからそんな事が言えるだけよ」
「ああ知らないね! 俺は魔法少女も魔女も、お前らが体験して来た出来事も、これっぽっちも知らねえよ!
けどな、お前が辛そうにしてるのは分かる! お前、友達を殺したくなんかないんだろ、助けて欲しいんだろ!?」
「そんな事……!」
「じゃあ、なんでお前は今、泣いてんだよ!?」
それからマミは、はっとして自らの頬に触れる。
見開いた双眸から滂沱と流れる涙で、マミの頬はしとどに濡れていた。
智樹は、せっかくの美人が台無しじゃないか、と胸中でぽつりと呟き、そして問うた。
「なあ……いつか魔女になるからって、お前は本当に、“今”ここで死んじまっていいのかよ?」
マミに掴み掛かった勢いで、気付けば智樹の視線は、マミを見下ろしていた。
そして、気付く。智樹の瞳からも涙が零れ――それは、マミの頬を伝って地面に落ちていた事に。
「人はいつか死ぬよ。でもな、だからって、生きたくても殺されたあの二人みたいに……
ほんとうに、いま、こんなところで死んでいいって言うのかよ、お前は!?」
最後に自分が犠牲になる前提の考えなど、智樹は絶対に認めない。
あの広場で殺された二人みたいに、こんな下らない殺し合いでマミが死ぬのは、嫌だった。
ここでこうして一緒に話している優しい少女が帰らぬ人になってしまうのは、絶対に嫌だった。
例え“いつか”は魔女になってしまうとしても、それでもそれは、その“いつか”は――
「いつかは今じゃないだろ……!」
少なくとも、今はまだマミは絶望していない。
そして、魔法少女として戦う力を、守る為の力を、マミは持っている。
何かを守りたくても、
イカロス達のような力を何も持たない智樹とは違うのだ。
「それにさ……俺、お前が魔法少女で良かったって、今は思ってるんだよ」
「えっ……?」
「お前には俺と違って、皆を……友達を守る為の力があるんだろ……?
お前はまだ戦えて、大切な友達を殺す為じゃ無く、守る為に戦えるんだろ……?
それなのに、その力を、お前が誰かを殺す為に使うっていうなら――」
意を決して、智樹は叫んだ。
「まずはここで俺を殺してから行けよ!」
それすらも出来ないなら、マミに友達を殺す事なんて不可能だ。
何よりも、智樹の目が黒い内は、そんな非情を行わせるつもりもない。
どうしても行きたいというのなら、ここで自分自身がマミにとっての壁になろう。
きっと力を持たない自分はすぐに殺されてしまうだろうが、そんな事は関係ない。
自分自身の信念は貫く。例えどんな時でも、これはエロと同じくらいに譲れない事だった。
「……負けたわ、貴方には」
刹那、マミの表情から緊迫感がすっと抜け落ちた。
それから柔らかく微笑んだマミは、智樹の頬を流れる涙を、片手で拭う。
「でも、貴方のお陰で思い出せたわ。私が何故魔法少女になったのか……」
「そっか。良かったら聞かせてくれよ、お前はなんで、魔法少女になったんだ?」
「……命を結ぶ為、よ」
それだけ言うと、マミは智樹の身体を押し退けた。
自分のデイバッグを抱えると、魔法少女の変身を解除する。
智樹の目の前で、何処かコスプレチックな黄色の衣装が霧散し、何処かの中学校の制服へと変わった。
それは、イカロスや
ニンフ達が戦闘体制へ移行する時の“変身”とよく似ていた。
本当にマミは魔法少女なんだなと、智樹は改めて思う。
「この殺し合いを打破しない限り、今も誰かの命が危険に晒されているかもしれないわ。
考え事は後にして、今は先に、私達に出来る事をしましょう、桜井君?」
どうやら吹っ切れたらしい。
マミは智樹に手を差し伸べ、智樹はそれを掴む。
マミの表情は、先程までよりもずっと明るくなっているように思う。もう大丈夫だろう。
キュゥべえの奴、今度とっちめてやるわ! などと言いながら、マミは頬を膨らませていた。
随分と元気になったように見える。ならば、智樹も起ち上がらぬ訳にはいくまい。
(……マミ、お前が戦うなら、俺も頑張るよ。この命の限りに――)
そして、決意を固める。
智樹の視線はマミの顔――ではなく、マミの悩ましげな胸にのみ注がれていた。
それは、男の欲望が、夢が、希望が詰め込まれたモノ。
マミの語る魔法よりも、智樹にとってはそっちの方がよっぽど奇跡の魔法だった。
奇跡があるのなら、智樹の目の前にそれがあるのなら、力の限り、智樹は戦う。
(嗚呼、そうだ……俺はこのおっぱいを揉む――絶対に、揉んでみせるッ!!!)
それが新たに出来た、智樹の揺るがぬ野望だった。
この欲望が叶うまで、智樹は何としても死ぬ訳には行かない。
最早智樹の視線は、マミのおっぱいにしか向けられてはいなかった。
【一日目-日中】
【D-7/ラジオ会館二階】
【桜井智樹@そらのおとしもの】
【所属】白
【状態】健康
【首輪】120(増加中)枚:0枚
【装備】龍騎のカードデッキ@仮面ライダーディケイド
【道具】大量のエロ本@そらのおとしもの、ランダム支給品0~1
【思考・状況】
基本:殺し合いに乗らない
1.いつかマミのおっぱいを揉んでみせる。絶対に。
2.マミと一緒に何処かへ移動する。
3.知り合いと合流したい。
4.……変身って何?
5.残りのエロ本は後のお楽しみに取っておく。
【備考】
※エロ本は三分の一程読みましたが、まだ大量に残っています。
※名簿等はまだ確認してません
【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】黄
【状態】健康
【首輪】95枚:0枚
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品、ランダム支給品0~3
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。極力多くの参加者を保護する。
1.智樹と共に行動する。
2.他の魔法少女とも共存し、今は主催を倒す為に戦う。
【備考】
※参戦時期は第十話三週目で、魔女化したさやかが爆殺されるのを見た直後です。
マミが語った通り、魔法少女はいつか魔女になる。
どれだけ正義を行おうとしても、いつかは人を喰らう悪となるのだ。
それがどう頑張っても避けようのない事実だという事も、少女は既に知っている。
だけども、それでも尚も立ち止まる事をせず、誰かの為に戦い続けた少女が、そこには居た。
「私……まだ、生きてるんだね」
鹿目まどかは、自分自身の両の手を眇めながら、ぽつりと呟く。
キュゥべえの語る夢や希望は、全て絶望を対価とするまやかしだった。
それを知ったさやかは魔女になり、マミは他の魔法少女を道連れに無理心中を図ろうとした。
もううんざりだった。まどかはそんなマミを自分の手で殺し――そして、ほむらと二人、ワルプルギスに挑んだのだった。
まどかの記憶に最後に残っているのは、ほむらの銃が、自分のソウルジェムを撃ち抜くその瞬間。
魔女になるのだけは嫌だから、せめて最期は友達の手で、人間のまま死にたいと、まどかは願ったのだ。
結果、ほむらの慟哭と共に放たれた銃弾は確かにまどかの魂を砕き、まどかは完全に死んだ筈だった。
だというのに、その次の瞬間には、訳の分からない殺し合いの真っただ中である。
状況は分からないが、それでもこうして考える事が出来る様になってから、まずまどかが口にしたのは――
「ごめんね……ほむらちゃんには、辛い事、させちゃったよね」
――最後の最後でようやく名前を呼んでくれた友への謝罪だった。
暁美ほむらは、大切な友達を守る為に遥か時を越えて来たと云うのに。
最後にはその友達の願いで、自ら守りたかった人の命を絶たねばならなかったほむらが、どれ程辛かった事か。
まどかにはきっと、真の意味でほむらの心の痛みを計り知る事は出来ない。
ほむらがどれだけ心を病んで、どれだけの決意を胸にもう一度時間を遡ったか、まどかは計り知る術がない。
だけども、最期の瞬間に見たほむらの涙と慟哭は、まどかの脳裏に焼き付いて離れようとはしない。
そんな、決して強くはない女の子に、自分はきっと相当に辛い願い事を頼んでしまったのだ。
「ほむらちゃん、今度こそ私達を救ってくれたのかな……」
それこそが、まどかが託した、本当の最期の願い。
過去に戻って、キュゥべえに騙される前に、自分達を救って欲しい。
もしかしたら、ほむらは今もまだ、別の時間軸で悲しい運命と戦っているのかもしれない。
だとするなら、自分に出来る事は何だろう。
ほむらちゃんにそれだけ辛い運命を背負わせてしまった自分に出来る事は。
現状が殺し合いだという事を思い出し、まどかは名簿とルールブックに目を通した。
知っている参加者は――五人だ。
魔法少女の四人と、何の関係も無い一般人の友達が、一人。
どうして魔女になった筈のさやかや、自分が殺した筈のマミが居るのだろうか。
もしかしたら、ほむらと同じく、別の時間軸の彼女たちなのかも知れない。
ともあれ、まどかのやる事は決まっている。
「こんな私にも、誰かを守る事が出来るのなら……私、戦うよ」
まどかは魔法少女だ。
例えいつかは魔女になってしまうとしても、今はまだ、魔法少女だ。
魔法少女は希望を振り撒き、人の命を救う為に戦う存在だと、まどかは信じている。
自分が戦う事で、殺し合いに乗った人から、力の無い人を救えるのなら、こんなに上等な事はない。
それは昔からずっと、誰かの役に立ちたいと願い続けて来たまどかにとっては当然過ぎる考えだった。
例えさやかが魔女になったとしても、マミが味方殺しに走ったとしても、最後は自分だけになったとしても。
どんな絶望にも抗って、まどかはこの魂ある限り「誰かの為に」戦ってみせよう。
――否、本当は、誰かの為なんかじゃないのかもしれない。
ただ誰かを救いたいという、自分自身の願いの為に、まどかは戦う決意を固めたのかも知れない。
誰に願われた訳でもなく、誰に求められた訳でもなく、ただ自分自身が誰かを救いたいから。
皆の平凡な暮らしを守りたい。幸せな人々の笑顔を、こんな事で曇らせるのは、自分自身が嫌だから。
誰かの為という大義に縋るのではなく、自分の為に誰かを救いたいと強く願えるのだから、まどかは強い。
(ある意味、それが私の欲望なのかもね)
真木は言った。自分自身の欲望を満たす事で、メダルは増幅すると。
意味はよく分からなかったが、自分の願いの為に戦うのなら、それはまさしく自分の欲望となる。
自分の為に、誰かを……この手の届く限りの全ての人を、自分自身のこの手で守り抜きたい。
さやかの「正義の為に」や、マミの「命を結ぶ為」とは、根本的に違う強い欲望だった。
それはある意味で、人がそう簡単に持ち得る事の無い、強い欲望の形であった。
「じゃあ、そろそろ行こっか」
何はともあれ、まどかの行動方針は決まった。
かつての悲劇を思い出させる駅のホームに背を向けて、まどかは歩き出す。
決して揺るしようのない決意を胸に、心優しき魔法少女はここに起ち上がった。
全ては誰かを守る為に/自分自身の欲望の為に。
【一日目-日中】
【D-7/秋葉原駅】
【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】白
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品、ランダム支給品0~3
【思考・状況】
基本:この手で誰かを守る為、魔法少女として戦う。
1.まずは誰かと合流、力の無い参加者ならば保護したい。
2.マミさんがもし他の魔法少女を殺すと云うなら、戦う事になるかも知れない……
3.ほむらちゃんやさやかちゃんとも、もう一度会いたいな……
【備考】
※参戦時期は第十話三週目で、ほむらに願いを託し、死亡した直後です。
※まどかの欲望は「自分自身の力で誰かを守る事」で刺激されると思われます。
最終更新:2014年05月14日 02:28