帰国


 霧雨の中、静かに進む船の甲板には着物姿の男が坐っている。
諸国を巡りに巡り、その地で織られた羽織を纏った彼の行き先は、一度離れた故郷である。
しかし、そこでは御尋ね者として今なお馳せている。
彼の愛国心から来る思想は、国の皇を脅かし討ち滅ぼさんとする物であったが故にそうなったのだ。

 左手に握られた釖を鞘から抜き、空に向かって一振り、風を巻き込み霧を払う。
彼の愛する国、懐かしき故郷が姿を見せた。船は彼の地へ向けて静かに舵をとる。


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最終更新:2020年12月02日 23:12