-CROSS LIMITED 3-
作者:本スレ 1-549様
162 名前:オリキャラと名無しさん 投稿日: 2013/03/18(月) 20:58:43
※1-941のキリアン視点
※エルさん(セリフほぼ無し)とβ2さん(名前のみ登場)と勝手にクロス
※全年齢。ぬるいBL。
勝手に続けて恐縮ですがよろしければお読みください
以下本文
162 名前:オリキャラと名無しさん 投稿日: 2013/03/18(月) 20:58:43
「明朝」
薄ぼんやりとした天井を見つめながら、目が覚めた。体中が痛い。ああそうだ。床で寝
たんだっけ。今更ながら、床の恐るべき汚さに気付いた。古新聞とか雑誌とか畳んでない
シャツはまだいいとして、乾麺のカケラとかちぢれた毛とかばっちい。
起き上がるとき何気なく床に手を付いて、クシャッという嫌な感触があった。俺の手の
下にはページの開かれた雑誌が放り出してあった。拾い上げると、陽気に微笑む彼女の谷
間で、茶色い虫が足をばたつかせながらぺしゃんこに潰れている。今までありがとう。涙
を呑んで、雑誌をゴミ袋にシュートした。
椅子の上に寝ていたダニーは、結局床に落ちている。椅子から落ちても爆睡してるとは
大した根性だ。おねしょはセーフだった。兄さんはもう活動しているのか、家の中に姿は
無い。
来客の彼は、ベッドの上ですやすやと寝息を立てている。ぐっしょりと寝汗をかいてる
けれど、容態は今のところ大丈夫そうだ。心の底からホッとした。汚いホテルですがゆっ
くりしていってください。
せめて換気して爽やかにしようと、立て付けの悪い窓を開けた。空はありがたいことに
晴天で、風もおだやかで砂埃も少ない。絶好のバイク日和だ。まぁ降る時はいきなり降る
からアテにならないが。裏手の井戸では、兄さんが水を汲んでいるところが見えた。
そうして俺は改めてベッドの方を向いた。エル君が寝ている。足の包帯は既に交換され
ていた。やわらかな水色の髪が額にかかっており、表情は穏やかだ。やはり美少年である。
何となく、アンティークドールを思い浮かべた。彼の華奢な手に触れてみると、もちろん
人形とは違う。確かに人の温もりがあった。
「……」
どうやら寝言らしい。エル君は柔らかそうな唇をわずかに動かしている。いや実際柔ら
かいんだけど。昨日はキッスすることになるとはな。未成年に手を出した件で、俺捕まん
ないよね?不可抗力だったし。何かドキドキしちゃったけど、エル君は許してくれるよね?
てか忘れててくれ。彼が目を覚ましたら、俺どういう顔をしてたらいいんだ?思い出すと
顔が赤くなる。
「う…ん………。β2……」
エル君の容態は随分マシになっているが、やはりまだ辛いのだろう。ずれた毛布をかけ
直して、俺はベッドを離れた。β2さんのことも気になるが、俺が気にしてどうにかなる
もんでもなかった。二人がどういう関係かは知らないが、お互い大切な人なのは分かる。
雨に濡れた昨晩の彼を思い出した。強い決意に満ちた目をしていた。簡単にくたばるタマ
ではないだろう。
そういやβ2さんがくれた依頼料あったな。一部を売り払って、エル君にはなるべくち
ゃんとしたもん食わせてやるか。運が良ければ、朝の市場に鶏卵とか野菜の缶詰とか出て
るだろ。ここしばらく仕事が入らなくて、俺らもまともなもの食ってない。やっと乾麺以
外にありつけると思うと、俺のテンションは上がっていた。
髪をセットし上着を羽織って、俺は玄関を出た。家の表でバイクの調子を見ていた兄さ
んが、こちらに顔をあげた。フードの奥で赤い目を光らせている。
「キリアン、出かけるのか」
「ああ、兄さん。ちょっと市場まで」
「分かった。…寄り道はせずに、極力早く帰って来いよ。早く帰るんだ」
「わーってるよ、子どもじゃないんだぜ」
兄さんは、エル君達が追われてることを心配してるんだろう。でも出かけるったって数
百メーターの近所だし、いいだろ。俺も気にはなるけど。すぐ帰って、家に篭って掃除で
もするさ。
俺はズボンのポケットから時計のベルトを取り出し、眺めた。家くらい余裕で買えそう
な重みのプラチナだった。件の紋章の部分は外してあるので、人目に触れても問題は無い。
追っ手があの有名な私設軍ねぇ。やっぱり関わりたくはない。チンピラ相手の喧嘩なら
勝つ自信あるけれど、軍隊の相手なんかゴメンだ。命がいくつあっても足りない。もしも
自分よりも強いやつと出会ったら、俺は逃げに徹する。
行こうとすると、買い物の気配を察したダニーがもそもそと玄関に出てきた。髪はぼさ
ぼさ、パジャマは脱げかけている。眠たげに目をこすっている。
「キリアン、あめちゃん買ってきて」
「市場にあったらな。ダニー、エル君の看病よろしく」
「イエス、マム!」
ダニーは寝ぼけながらもビシッと敬礼を決めた。そこはサーだろ。まぁいいや。言われ
たことはやる男だから看病はきっちりやってくれるだろう。…いや、むしろ外に遊びに行
かせた方がいいのか?ダニーの目の前でイチャイチャは教育上好ましくない。ダニー以前
に、エル君とまた何かなったらβ2さんに怒られる気がする。その辺は後で考えよう。
荒涼とした通りを歩き、俺は少し急ぎながら市場に向かう。市街に近づくにつれ、多少
は人通りが見られる。いつものようにすれ違う人たちにおはようと挨拶をして――知らな
い顔がちらほら混じっていることに気が付いた。
【END】
最終更新:2013年03月20日 22:09