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「野菜泥棒が畑仕事のお手伝いをしようと思い立ったようです」


作者: SS 本スレ 1-510様

348名前:オリキャラと名無しさん 投稿日: 2013/09/17(火) 00:12:56

1スレ目 510 ですがSS書いたのロダにうpってきました
設定スレ 2-037 のクロス設定で、牧先生んちの畑で盗み食いしたうちのヴォルグがとっても反省した結果、
うちのザックと一緒に牧先生んちに行って畑仕事を手伝おうとしてみるけど別に手伝ってない話です
絵茶で頂いたネタを反映させようとしてみたものの、よく分からん事になりました……

 ・登場人物は繊さん、零さん、ヴォルグ、ザック
 ・零さん繊さんをはじめ牧先生んち絡みの記述は勝手な妄想で書いてます。偽者臭強し
 ・健全ニアホモ程度。でも繊さん零さんが牧先生を好きなのは定理!ザックは単なるヴォルグ信者

+ ← ~勝手にあらすじ~(状況補足説明)
~勝手にあらすじ~
訪日早々に街を探索してたヴォルグとザックの2人でしたが、ヴォルグは天才的迷子癖によりザックとはぐれてしまいました
一人でうろついている内に、ヴォルグは超腹減り特殊体質の為にアカン飢え死にしてまう状態に陥ってしまいます。
そこに美味しそうな野菜を沢山実らせた畑が目に入り、何かもう腹減りすぎて頭がパーンしちゃって無断で食べてしまいました。
とっても美味しかったそうです。
でもちょっと腹が満ちて正気に返ってヤベェ!となったヴォルグは普通にピンポン押して、出てきた家主の牧先生に謝りました。
場合によっては切腹も辞さない覚悟でしたが、牧先生は超絶良い人だったので仕方ねーなぁで許してくれました。
そこへ丁度ザックもヴォルグ追尾機能(本能的な意味で)を駆使して合流しました。
とりあえず2人でごめんなさいしてその日は帰って上司に報告しました。上司は頭が痛かったそうです。
常識人ヅラした上司と一緒に後日改めて謝罪に訪れましたが、牧先生はやっぱり超絶良い人なので仕方ねーなぁで許してくれました。
でも同席してた金髪の子、零さんはひどくご立腹の様子です。牧先生が許してる手前、抑えてはいるようでしたが。
牧先生のおうちには零さん以外にもう1人住人がいるようですが、大事な野菜を食べられちゃったショックで不貞寝してるそうです。
申し訳ないと思いつつ、牧先生から「俺から言っとくから」的な事を言われたので普通に帰りました。
でもヴォルグはずっと気にしてるようです。

前提
 ・ヴォルグには謎の人外センサーがあって、魔人その他人食い系とか化け物系の人に近づくと鳥肌が立つ。苦手。
 ・繊さんは畑泥棒について牧先生から「そんなに怒ってやんな……」と言われた←大事
 ・ザックは零さんも繊さんも普通の人間だと思っている。

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『 野菜泥棒が畑仕事のお手伝いをしようと思い立ったようです 』

「畑仕事を手伝いに……?」

とある日の朝。
2人の部屋で朝食を摂っている時に切り出されたヴォルグの希望に、ザックは顔を顰めさせた。
即座に思い浮かんだのは先日のことだ。
色艶の良い野菜を沢山実らせていた畑で、ヴォルグが飢えを凌いだ件。
うっかり無断であったため一悶着はあったが、きちんと謝罪して先方とは和解した……
そう思ってすっきり忘れたザックと違って、ヴォルグはずっと気に病んでいたらしい。

「気にすんなよ。ヴォルグがそこまでする程の事じゃないって」

臆面なくそう言い切ったザックは、ヴォルグの空いた皿にピーナツバターをたっぷり塗ったおかわりのパンを乗せてやる。
枚数は数えていなかったが、まだ3斤目である。気落ちしているのか、ヴォルグはあまり食欲が無いようだった。
食後のコーヒーには砂糖をいつもの2倍入れよう。
そんな算段を付けつつ、ザックはあえて明るめの口調で続ける。

「そりゃ無断で食ったのは悪かったかもしれねーけどよ。
 向こうさんも、もう気にしてねぇだろ。野菜のことなんかさ」
「…………」

異常に燃費の悪いヴォルグの傍にずっといるザックは、食べ物においてはカロリーこそ至上とする思想が根付いていた。
ダイエットフードなんてクソ喰らえ、食べ物は高カロリーであればある程良い。
その点、ハンバーガーとフライドポテトとシェイクを組み合わせたファストフードは本当に素晴らしい。
低価格で高カロリー。しかも美味い。ノーベル賞ものだ。主にヴォルグの健康に大きく寄与した功績で評価に値する。
多分生理学賞とか平和賞とか、何かその辺だ。よく知らないが。とにかく偉大なのだ。
それこそ野菜なんかより、余程。
(あいつらもどうせ育てるならアボガド育てりゃ良いのに。あれなら割とカロリーがある)
自分の食事に手を付けながらそんな事に淡々と思いを巡らせるザックだが、微妙に浮かない顔で黙っていたヴォルグが口を開いた。

「可哀相だ」

――大切に育てていたであろう作物を突如奪われてしまった悲しみは、想像するに余りある。
幼少期より培った経験からヴォルグの一言を微妙なニュアンスと微妙な表情から瞬時に脳内で意訳したザックは、思わず目頭を熱くした。
(ヴォルグ優しい……これはガンジーを越えてるだろ)
胸が詰まって言葉の出ないザックに、ヴォルグは続ける。

「大変だ。尽くさねば」

――失われた野菜を再び実らせる事は容易ではないだろうが、出来る限りの手助けをする事でせめてもの贖罪としたい。
全自動で意訳された言葉を噛み締め、ザックは更なる感動に打ちひしがれる。
(……ヴォルグって実は地上に舞い降りた天使なんじゃねーかな)
単なる野菜泥棒に対し、ザックは自らをよく訓練した信者だった。

「まぁ、ヴォルグがそこまで言うなら……」

……そんな訳で、牧医院へ畑仕事を手伝いに行くことにした。

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人混みを避けて交通機関を使わずに徒歩で移動し、途中ヴォルグの得物(太刀)の事で警官に止められて時間を取られ、
飢餓対策にファストフード店でブランチを挟み。
何とか目的地に辿り着いた頃には太陽が天頂へ大分近付いていた。
まだまだ強い日差しの下、低木の垣根の向こうには青々と葉を茂らせた畑が宅地にしては拓けた面積で広がっている。
しかしどの畝の野菜も熟した様子はなく、小さな青い実を付けている他は実りの前兆である花弁が控えめに咲いているだけ。

「キュウリとトマトは、優しかった。ナス……素晴らしいが、悪い事をした……」

――キュウリとトマトは美味しく頂けたが、生のナスは美味しくなかった。せっかくの見事なナスだったのに、勿体無い事をしてしまって後悔している。

ヴォルグの言葉を意訳しながら、ナスを生で食うほど腹を減らしていたのか、とザックは痛ましく思った。
もう二度とそんな目には遭わせないと決意を新たにしつつ、ふと垣根と畑の奥に目をやると、縁側に黒髪の青年が一人腰掛けているのが見えた。
短パンにTシャツという至ってラフな服装をしているが、どこか周囲の景色に溶け込まないような、浮き世離れした雰囲気があった。
精巧に作られた人形のように端整な容姿をしている。
ここの住人なのだろうと思うが、ひとまずは畑の主である医者先生に断りを入れておくべきだろう。
差し当たり青年の事は置いて正門に周ると、医院の入口であるドアを開いた。
受付らしきカウンターで出迎えたのは、金髪の、少しか弱そうではあるがこれまたあまりそこらで見ないほどの美貌の青年。

「あ、こんにちは…って、」

受付らしきカウンターの向こうでやんわりと笑って来客を迎えた青年は、しかし2人の姿を視認した途端に豹変した。

「あんたたち…っ野菜泥棒!また来たのか!?」

繊細に整った目元を親の仇でも見るように吊り上げている。
お世辞にも歓迎ムードとは言えそうにない雰囲気。

「先生の畑を荒らすとか、オレ、許さないからな!絶対に!」

金髪の青年は、以前2人が上司と共に謝罪に訪れた時に医者先生の横に同席していた。ここの住人なのだという。
あの時も、あまり怒った素振りを見せない医者先生の代わりと言わんばかりに立腹した様子を見せていたが、それが未だ尾を引いているらしかった。
あまり気が長い方でもないザックは思わずムッとした。

「……ピーピーうるせぇ」

ボソッとした小さな呟きだったが、眼前で吐かれたそれを金髪の青年はしっかりと聞き咎める。

「はぁ!?あんた何様だよ、野菜泥棒のクセに!」
「その件は前に謝った。ここの先生も許してくれただろ」
「それはっ……牧先生は、優しいから……」

声を落として伏し目がちになると、華奢な彼はいかにも弱々しく見えた。
医者先生が弱点か、とザックは追い打ちを掛けようと思ったが、ヴォルグにシャツの袖を引かれたので言い留める。
冷静になって見ると、待合室と思わしき室内から非難するような視線が幾つも注がれていた。
深い皺の隙間から覗く、老人たちの目だ。来院客なのだろう。
流石に居たたまれず、ザックは視線を逸らして黙り込む。

「すまない。俺だ。悪いのは俺が全て」

金髪の青年に向けて、ヴォルグが言った。
微妙におかしな文法だったが、何とか通じたらしい。

「オレは、別に……謝るなら牧先生に謝ってよ」

そう言って、金髪の青年は気まずそうに目を逸らした。
微妙な沈黙が降りる中、ザックは一つ咳払いをして気を取り直す。

「今日は、例の件の詫びって事で……畑仕事、手伝いに来たんだよ」
「畑仕事の手伝い?あんたたちが?」
「悪いかよ」
「そんな事は言ってない。けど……先生は診察中だから、今はちょっと」

青年は少し考える素振りを見せたかと思うと、窓から身を乗り出した。

「繊ー!野菜ドろ……野菜を食べちゃった人が、お詫びに何か手伝いたいって!」

室外へ向けて高めに張り上げられた声に、返事はなかった。
若干苛立った様子で青年が玄関から出て行くと、外から何やらキャンキャンと言い争うような声が聞こえてきた。
少しして、どかどかと歩調も荒く金髪の青年が戻ってくる。

「えーと……裏の方に回ってよ。そこに繊って奴がいるから、そいつに聞いて」

繊。
縁側に座ってた奴か、とザックは思い当たって頷いた。
言われた通り移動する。その最中、自分の少し後ろを歩くヴォルグが片手で腕をしきりに擦っているのが目に入った。

「どうした?」
「……あの子」
「金髪の?……名前なんだっけ」
「零くん」
「よく覚えてるなぁ」

ザックはここの医者先生の名前でギリギリだ。牧先生。看板が無ければ思い出せなかったかもしれない。
あの時は、またここに来る事になるとは思っていなかったのだ。
零、零、零。
ザックは今度こそ忘れないように何度か頭の中で呟く。

「あの子は、しゃわしゃわだ」
「………」
「稀だ」

流石のザックも、これはよく分からなかった。
とにかく零は“しゃわしゃわ”して、それは珍しいのだとしか。
今の直属の上司に初めて会った時も「ぎゅるぎゅるだ」とか何とか言っていた事があるが、未だに意味が分からない。
説明を求めても、ヴォルグ自身にも良く分かっていないらしかった。ただそういう奇妙な感覚がして、何となく上司の事は苦手なのだという。
考え込むザックに気付いた様子もなく、ヴォルグは続けて呟く。

「……ぞわぞわだ」

そして立ち止まった。
建物の壁沿い、すぐそこの角を曲がればあの黒髪の青年がいるはずの縁側に辿り着くのだが。
“ぞわぞわ”というのも何なのか。
よく分からないが、“しゃわしゃわ”よりは良くない語感な気がする。
“ぎゅるぎゅる”よりはどうだろう。分からない。
取り敢えず苦手なら苦手で、無理して近付くことはないだろう。
抵抗がある様子のヴォルグをその場に留めさせて、ザックは一人で先に進んだ。
辿り着いた縁側には案の定黒髪の……恐らくは繊という名の青年がいた。
ぼうっと座っていた先程と違って縁側に細身の体躯を大の字に広げて寝そべっている。
心なしか、不貞寝っぽいような。
そう思ったのも束の間、人が近付いてきたのに気付いたか、彼はそのままの体勢で気怠げな視線を寄越した。

「………別に、手伝いとか良いよ。やってもらうような事ねーし」

閉口一番そう言われても、ザックは困る。
このまま何もせずに帰っては、わざわざここまで来た意味が無い。
ヴォルグも気落ちしままだ。

「何でもいい。何かないか?」
「ない。今は収穫するもんも無いから、あんま手が掛からねーんだわ」
「……雑草取ったりとか」
「それはもう終わらせた」
「肥料は?」
「毎日やるもんじゃねーから」
「み、水やり」
「こんな日中にやったら根っこが腐るべ。やるなら夕方」
「………」

畑の事などさっぱり分からないザックは、それ以上思い付かず黙りこくる。
沈黙が降りるが、青年はふっと軽く息を吐くようにして小さく笑うと、身体を起こした。

「本当、もう良いからさ。茶でも飲んでく?……そっちの奴も。とりあえず座れば」

青年が視線を向けた方を見ると、ヴォルグが外壁の側でじっと佇んでこちらを見つめていた。
先程よりは近いが、まだ5m程離れている。どうやらあれが精一杯らしい。

「てか何この距離。何かあれ……野生動物みてぇな距離?」
「あー……」

ヴォルグは野生動物ではない。
断じて違うし普段なら怒るところなのだが、青年があまりにも自然体であっけらかんとした様子だったので、
ザックは怒るに怒れないまま何だか納得してしまった。
一定の距離を開けて、瞬きも少なく一心に対象を見つめる。身動きしない。
野生動物が仲間以外の何かと相対した時と確かに似ている。かもしれない。

「……あんたは何か“ぞわぞわ”なんだと」

意味不明に思われるのを承知でそう言ったザックだったが、黒髪の青年は言われた言葉に面食らったような顔をした。
そして苦笑する。

「……別に、取って食いやしねーのに」

それはあり来たりな台詞であったのに、何らかの実感がこもったような妙な迫力があった。
ザックは少し迷ったが、ヴォルグの元に歩み寄る。

「夕方になったら水やりの仕事があるっぽいけど、今はやる事ないんだと。
 で、あいつが茶でも飲んでくかって。どうする?」
「申し訳ない。出直す」

即答したヴォルグに、ザックは律儀で真面目で礼儀正しいなぁと内心で一通り褒め称えたてから、しかしせっかく来たのに出直すのは効率が悪いと思った。
それに。

「……せっかくだし上がってこうぜ?ここで帰ったら、ちょっとあれだし」
「?」

首を傾げたヴォルグへ、ザックは答える。

「あいつ、ヴォルグが怯えてんのかと思ってるかも。取って食ったりしねーってさ」
「…………」

ヴォルグは少し目を見開いて、ザックの顔面をじっと直視する。
驚いているらしい。
そりゃそーだ、とザックは思った。

「そんなの訳ねーのにな」

はははと笑うザックに対し、ヴォルグは視線を落として黙り込んだ。
ザックが「あれ?」と思ったのも束の間、ヴォルグは意を決したように顔を上げた。
壁から離れてすたすたと歩き出す。
そして縁側に腰掛けている黒髪の青年の足元に跪いた。
何事かと目を瞬かせる青年の、その手をおもむろに取る。両手で握りしめる。
青年も驚いているようだったが、ザックも驚いた。
ヴォルグだけが突飛な行動の割に、一人何事も無いかのように普段と同じ涼しい顔をしている。
青年の手を握ったまま、その目を真っ直ぐ見つめて話しかけた。

「失礼した。俺は傷付けないつもりだ」
「………はぁ?」
「茶を出すか?」
「……まぁ茶くらい出すけど。つーか、手……」
「ありがとう。嬉しい。すまない。許さないが、もう駄目なものだ」
「いや、だから手を……なぁ、こいつ何なの。日本語不自由なの?」

しっかりと手を握り込まれたままの青年に困惑顔で見上げられ、ザックは呆気に取られながらも何とかヴォルグの言葉を意訳して聞かせた。

『こちらの非礼に気分を害された事と思う。君を傷つける意図は無かったのだが、申し訳ない。
 それから、ご親切にお茶の申し出をありがとう。
 しかしお詫びに訪れた身で恐縮だから、気持ちだけ受け取らせてもらう。
 大切な野菜の件、本当に申し訳なかった。許してもらおうとは思わないが、もう二度とあのような過ちを犯さないと誓う』

「……と、言ってる」
「…………マジで?」
「オレには分かる。間違いない」

断言したザックに、青年は実に微妙な顔をしたが何も言わなかった。

「取り敢えず手、放せよ。……暑ぃし。もう分かったから。そもそも別に気にしてねーよ。野菜の件は別だけど」
「すまない」
「……まぁ、反省してんなら。今度から食いたかったらちゃんと言えよな」
「言う。素晴らしい。ありがとう」

ヴォルグはようやく気が済んだか、握っていた手を解放して立ち上がった。
そしてそのままするすると後退していき、今度は3m程の距離に立った。
寒気でもしたのかしきりに両腕を擦りながら、しかしじっと青年の方を見つめている。
青年は何だか唖然としていたが、ザックは野生動物が人に懐いていく過程を見た気分になって、それを打ち消そうと頭を振った。

「……あー、今のは通訳すると、」
「いいよ。分かんねーけど分からんでもねーから。……つーかノド渇いた。茶ぁ取って来る。コーラもあるけど、どっちがいい?」
「いや、オレたちは……」

気を取り直したらしい青年が立ち上がりつつ提案してくれるが、ヴォルグは頑なに遠慮したがっている。
そう思ってザックは青年を留めようとするも、それを遮ってヴォルグが言った。

「ありがとう。茶が好きだ」

えっ、とヴォルグを振り返るザック。
「あんたは?」と青年に尋ねられて咄嗟に「オレも茶で」と答えると、視線の先でヴォルグがうんうんと頷いている。
青年はその辺で適当に座ってるようにと言い置くと、ペタペタと裸足の足音を立てて室内に入っていった。
ザックは少々混乱した。

「……え、結局飲んでくのか?」
「駄目か」
「別に、ヴォルグが良いなら駄目じゃねーけど……」

何だか釈然としないものを抱えるザックを横に、ヴォルグは縁側の、先ほど青年が座っていた場所から最大の距離を取った位置に腰掛ける。
そしてじっと自分の掌を見つめた。
どうかしたのかとザックも近寄って上から覗き込むが、特に何もない。
肉は薄く指が細長い。だが皮が厚く、剣タコが多い。いつものヴォルグの手だ。

「ヴォルグ?どうした」

声を掛けると、ヴォルグはザックの方を見上げた。
視線がザックの顔に向かい、それからゆっくり降りていき、ザックの手で止まる。
そして先ほど、黒髪の青年にしたのと同じように両手でザックの右手を握り込んだ。
急な事に動揺したが、ヴォルグが何か考え込んでいるらしいので黙って好きにさせていると。

「……ぬるい」
「………」

呟かれた感想に、ザックは何だかちょっぴり傷付いた。
体温の話だろうし、平熱の高いヴォルグからしてみれば純粋にぬるく感じたのだろう。
しかし微妙だ。
あの青年の手はどうだったのだろうかと少し気になったが、あまり聞く気がしなかった。
冷たかろうが暖かかろうが、ぬるいよりはマシに思えてしまう。
未だ手を握られながらもちょっぴり拗ねたような気持ちでいると、

「次は、朝なら。早い朝」

ヴォルグが言った。
早朝に来れば手伝える事があるのだろうか、ということだろう。
テコでも畑仕事を手伝わなければ気が済まないらしい。

「早朝は、逆に迷惑なんじゃねーかな」
「………」
「いつ来たら手伝えるか、聞いてみるか?」
「……ありがとう、ザック」

いつも無表情なヴォルグがほんの微かに口の端を上げて笑った、ようにザックには見えた。
じーんと胸に熱く込み上げる何かにザックは打ち震え、全身全霊がくまなく満たされていくような幸福を感じた。
(野生動物っつーか、やっぱ天使だろ。……いや、むしろ神かもしれねぇ)
ヴォルグの手を両手で握り返しながら、ザックは何だか敬虔な気持ちでそんな事を大真面目に思った。

【終わり】

色々ありますが特に繊さんがあんまり怒ってなくて申し訳ありません
牧先生からあんま怒らないよう言われてる為だと思ってください><

創作物スレ 2-207 からの続き
※牧、繊の設定は、1-866
※零の設定は、創作物スレ 2-035



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最終更新:2013年09月22日 13:55