第4話 「燃ゆるミッドウェイ」 1

483 : ◆hrBR6tpC7Y:2011/07/03(日) 10:46:58
【伊豆基地】
軍人A「申し上げます! 先刻、アイルランドのニューグレンジ研究所が何者かの仕業によって壊滅した……との報告が入っております」

アイルランドの北東部にあるニューグレンジ研究所。地球連邦軍直轄の念動力研究施設であり、TEXセカンドシリーズの開発拠点の一つである。エレナが乗っていたTEX-15 ブリューナクはそこで造られた機体であった。

軍人A「俄かに信じ難い話でありますが……これもジュワユーズの犯行による可能性が高いと思われます。ニューグレンジ研究所には宙間試験のために打ち上げられる予定だったTEX-17が待機していました」

TEX-17 クラウソラス。TEX-15と同じくティータン・システム搭載のセカンドシリーズ最新機。兄弟機のブリューナクとは対象的に近接戦闘性に特化している。

軍人B「よもやTEXの新型機の奪取を二つ同時に企んでいたとは……奴らを只のDC残党だと思ってはいなかったが……」

それだけではない。ここまで周到に、そして手早く事が運んでいるのである――


484 : ◆hrBR6tpC7Y:2011/07/03(日) 11:21:48
【太平洋・キラーホエール】
???『……こちら"白"。聞こえるか、“青”』
カホル「こちら"青"。作戦通り伊豆から槍は持ってきたぜ、ラバン。お前は“剣”を持ち出せたか?」
ラバン『ああ。少し手間取ってしまったが、“剣”に損傷はない。……現在、一緒に持ち出した輸送機で大西洋を渡り終え、これから“鯨”に乗り換えて其方に合流する予定だ。』

カホルは寝室で強化人間仲間のラバンと通信をしている。ラバンはアイルランドで特殊部隊を率いて、ニューグレンジ研究所を襲撃していたのだ。

ラバン『――しかし、もう一本の槍はしくじったようだな。お前らしくもない』
カホル「俺じゃねえ。あの糞ガキのサイダー坊やがモタモタしていたら……TEXチームのお頭が民間人を乗せやがったのさ。で、うっかりしてたら落とされてるんだぜ、あのガキ」
ラバン『――だが、それだけならお前の槍が傷だらけになったりはしないだろう……?』
カホル「チッ……ラバン、お前を誤魔化す事は出来ないか。敵さんのお守に厄介なのが居たのさ……あれは忌まわしのミロンガに似ていた。だが、おかしな話が……まるでTEXシリーズみたいな感じがしたんだ。」
ラバン『……TEXシリーズ……だと? だが、TEXは――そうか!』
カホル「どうした、ラバン?」
ラバン『TEXセカンドシリーズのロストナンバー、TEX-16……前からブリューナクとクラウソラスの間に存在するナンバーが気になっていたのだが、あの研究所のファイルに破棄されたプランがあったと書いてあってな。まさかと思うが……』

ニューグレンジ研究所にはTEXシリーズに関する資料が保管されていた。その中には開発が頓挫した機体のデータも残っていたらしい。


486 :1/2 ◆tL.I1Fkj/Y:2011/07/03(日) 18:41:57
【東京・地球連邦国会議事堂】


「……さて、もうそろそろ来る頃だと思うのだが……」

ホリゾントが伊豆基地上空に飛来したのとほぼ同時刻。
東京にある地球連邦政府国会議事堂の貴賓室では、一人の老人がSPを伴い客の来訪を心待ちにしていた。
老人の年の程は70過ぎ。矍鑠とした様子とは裏腹に、深く刻まれた皺は彼が歩んできた道程を強く物語っている。

「……副委員長、待ち人が到着したとの報告が入りました」
「おお、そうか! では、早速迎えを遣らねばならんな」

客の到着を秘書から伝えられた老人は、瞬きよりも早く秘書を案内役として任命し、客の元へと向かわせる。
程なくして、黒髪黒眼の見目麗しい女性が老人の秘書に連れられ部屋へと案内されてきた。

「夜分遅くの来訪感謝する……良く来てくれた、ディーエ君。呼び出した私が言うのもなんだが、まさか君が自ら出向いてくれるとはな」

通された客──R&Eコンツェルン情報統括部部長取締役、ディーエ・ヒュスタトン──の事を、老人は心からの笑顔で歓迎する。
そんな老人の言葉にディーエは極めて硬質な──そう、まるで機械のような──声で返答する。

「今回の一件はそれだけの理由があると我々は認識しています。ミツルギ副委員長」

その言葉に、ミツルギと呼ばれた老人──地球連邦安全保障委員会副委員長、マサト・ミツルギ──は大きく肯く。
ともすれば無礼に当たるディーエの応答も、何時もの事と割り切っているのかミツルギは表情一つ変えない。

「うむ、確かに君達からすればそうもなるか……まあとりあえずは着席なさい」
「……では、失礼します」

そのまま席に座るよう促すミツルギの言葉に従い、反対側の席に優雅に座るディーエ。
彼女が着席したのを見届けたミツルギは、本来の用件とは別の話題から話を切り出す。

「そうそう、ホリゾントの件では世話になったな。アサイラム財団だけではこうも早くあれを改修する事は出来なかっただろう」
「我々は貴方と交わした盟約に基づいて行動したまでの事です。それに──」

ミツルギからの礼に対して何処までも硬質な言葉で応じたディーエは、目を瞑り絞り出すように言葉を続ける。

「──彼等、TEXチームの事は最早我々にとっても他人事ではありませんから」

その言葉を聞き、ミツルギは僅かに目を細める。
成る程確かに彼女達にとってTEXチームは切り捨てる事の出来ない物へとなったのだろう。
今回の一件は、それほどまでに彼女達にとって……いや、自分達にとっても重大な事態なのだ。
何せ、彼女達にとって王将とも呼ぶべき存在がTEXチームへ出向しようとしているのだから。

「私としても彼女が自ら乗り込んで行くとは流石に予想していなかったのだがな」
「そうですね。これはある意味双方にとって予定の範囲外の出来事でした」
「ああ、全くだ」

双方をして予想外と言わしめた出来事……
例えば、異邦人トウジロウ・サナダと一般人藤村紫亜のTEXチーム編入の件。
例えば、TEXチーム全員での日ノ出食堂への(それも空いた時間帯での)来訪。
他にも数え上げれば幾つもあるであろうそれらの事態は、蝶の羽ばたきのように更なる状況を引き起こす。


487 :2/2 ◆tL.I1Fkj/Y:2011/07/03(日) 18:43:03
そもそも、この日このような時間に両者が同じ席に着いたのは、その発生した状況の調整を行うためだった。

「何にせよ、クレハ・マズミ……エルトロス・アイカテリネのTEXチームへの出向は承認された」

つまりはR&Eコンツェルンの副社長であるクレハ・マズミ……本名、エルトロス・アイカテリネのTEXチーム参入の件に関してである。

「感謝します。では契約通り、現時点よりR&EコンツェルンはTEXチームの全面バックアップを確約しましょう」
「うむ、了解した。しかしまあ……君達は本当に良いのか?」
「良いも悪いも、主の願いを叶える事は我々の至上目的であります故」

──それはここまでの対価を払ってまで進める価値のある事なのか?
ミツルギの言外の問い掛けにも、小揺るぎ一つせずディーエはただ淡々と言葉を紡ぐ。

「それに我等が主は身内を何より大切にします……彼女は既に主にとっては身内に等しいのでしょう」
「……まあ、あの嬢ちゃんなら解らなくもない、か」

極最近にも会って話をしたエルトロスの人柄を思い起こして、大きく肯くミツルギ。
しかしながらディーエの言葉は確かに一要素としては正しいが、それだけが全てと言う訳では無い。
リュコスの知り合いだというトウジロウ・サナダの事も合わせて気になるというのがまず一つ。
そして何より、あれだけの念動力者が1チームに固められているのがどうにも気になると言うのが何より大きな理由である。
彼等の行き着く先を見定めるためにも、エルトロスはTEXチームと行動を共にする事を心に決める。
そう、例えそれが……敵か味方か判別しかねる者のテリトリーに自ら飛び込む事になるとしても。

「でだ、肝心の嬢ちゃんは今何をしているんだ?」
「主は例の機体の最終点検中です。承認が下りた事は既に伝えていますので、これから出発の準備を始める所でしょう」

一体何時の間に報告したのか……そんな事は今更聞きはしない。何故ならば『それを聞く事自体が本当に今更』だから。

「そうか、では折角だから私からの言葉も伝えておいてくれ……ただ一言、『死ぬな』と」
「承りました」

ミツルギの言葉を聞いたディーエは、この会談で初めて笑顔を形作る。
その笑顔はこれまで浮かべていた作り物の顔と同じとはとても思えない、命の輝きに溢れる物であった。


488 : ◆OLze.DQMEw:2011/07/03(日) 20:15:38
「少佐、まもなくミッドウェイ基地です。」
モニターには100年以上前に無人島となり、人々の記憶から忘れられた島ーミッドウェイ島が映っていた。
キラーホエールが再び潜航する。潜航した場所には明らかに人工物であるゲートが存在した。
ゲートが開き、キラーホエールがその中に進入すると、そこは艦船ドックだった。
キラーホエールがアームによって固定されると、ドック内の海水がすべて排出された。

男がキラーホエールから降りると、上級士官が駆け寄ってくる。
「少佐、ご苦労様です。」
「例の男は?」
「待たせてあります」
「そうか……ブリーフィングルームに関係者を集めろ」
「ハッ!」
「あと、タカシロ曹長も来るように伝えろ」
「? ミツヤ・タカシロを……でありますか?」
「そうだ」
男はそう言うと会議室に向かって行った。


489 : ◆hrBR6tpC7Y:2011/07/03(日) 20:30:34
>>488
カホル「……外は眩しいな。それにニホンよりも暑い……」

彼は足早にキラーホエールから出て、わざとらしく軍服の首元のホックを外して、サングラスを装着する。

カホル「……サイダーをわざわざご指名するだなんて、彼も気に入られたものですねぇ、少佐?」

彼は平然とアルベルトに悪態をつく。技量の低いミツヤが特別視されているのが気に入らないらしい。

カホル「――話は変わりますが、アイルランドの件は無事に成功したようであります。彼女も現在、剣と共にこちらに向かっているとの報告がありました。では……」

そう言い終えると彼はアルベルトに敬礼をし、そのまま基地の奥に向かう。


490 : ◆gnI8YzVxOo:2011/07/03(日) 21:09:38
>>488
敗北とアルベルトから叱責を受けて半ば部屋に引きこもっていたミツヤだったが、来いと言われれば行くしかない。
「サイダーって呼ぶな……!」
静かに恫喝するが、如何せん迫力に欠けているためカホルは冷笑を返すだけだった。
報告を終えて退出するカホルの背に中指を立て、何もなかったようなそぶりでアルベルトに敬礼する。
「少佐、自分に何か?」
それは期待でもあり不安でもあった。


491 : ◆vGTe9D4z5Y:2011/07/03(日) 21:27:04
>>488
「ご帰還かな、アルベルト少佐」
会議室にいたのはいかにも屈強といった感じの男が一人、タバコに火をつけながらの発言だ
その眼光はどこまでも鋭く、見つめていたら射抜かれてしまいそうなほどのものであった
「特にこちらでは異常はなかった。通信の内容からすると、状況は十全…とは言えんか」
連邦に比べ、勢力の劣るDC側が主流機に損害を被るのは大きくマイナスになる
機体や兵士の練度が上でないと、相手すら勤まらない
勝つときは常に圧勝、そうでなければいずれジリ貧に追い込まれてしまうからだ


493 : ◆OLze.DQMEw:2011/07/03(日) 22:49:08
>>489、>>490
「うむ…TEX-17も手に入ったか」
そう返すとミツヤがキラーホエールから出てきた。
「タカシロ曹長、ついてきたまえ。」
男はミツヤを連れ、会議室に向かった。

>>491
「…予想していたよりもやるようだ、トウドウ少佐」
アルベルトと呼ばれた男は会議室の奥側に歩いていく。
「TEX-14を入手できなかった上、リオンを3機失い、アートルム、TEX-15をかなりの損害を受けた。
 TEX-17は手に入り、今、こちらに向かってきているようだが…」
アルベルトは話を続ける。
「連中がこの基地に来るのも時間の問題だ。
 すぐにでも対策をとらねばならん。例の男は?」


495 : ◆vGTe9D4z5Y:2011/07/03(日) 23:15:55
>>493
「まあ、当然だろう。あのビアン総帥を倒した部隊の一部だ。そう簡単にいくならこんなことになってはいないさ」
トウドウもTEXチームのことを高く評価していた。逆に言えば、彼らを倒すことが出来れば、異星人どもへの勝機を得られることも理解している。だからこそ、ジュワユーズはTEXチームをつけ狙う。その点ではトウドウもアルベルトも利害は一致していた。
「ふむ、いざとなったらこの基地も破棄せねばならんかもな。いやはや」
くすりと笑い、冗談めかすが、実際のところ冗談ではないことはアルベルトには伝わっただろう。

「あぁ――例の男なら……」

494 : ◆gnI8YzVxOo:2011/07/03(日) 23:04:09
>>491>>493
ミツヤはおっかなびっくりアルベルトとトウドウの会話を眺めている。
そもそも自分がこの場に呼ばれた理由が全く分からなかった。

「例の男って、それは僕のことですか?」
場違いに陽気な声に、ミツヤは過剰に驚いた。
金褐色の髪の青年だ。深い青の瞳に悠然たる笑みを浮かべた美青年。
一瞬唖然としながら、ミツヤは自分が軍人であることを思い出して誰何する。
「な、何者だ?」
「僕は殺し屋でも軍人でもありません。セールスマンという名の使い走りですよ。強いていうなら、エージェント――申し遅れました。僕はレヴァン・メトロファネスと言います」
レヴァンはにこやかに、そして一息に言った。
「おはようからおやすみまで、無数の闇を越え明日へ立ち向かう皆様に現状を打破するための力をお貸しする組織――それが僕らの『カルテル』です」

497 : ◆OLze.DQMEw:2011/07/03(日) 23:38:47
>>493、494
「頼んでおいたミュルメコレオは来ているな?」
現れたレヴァンに対しアルベルトが聞く。
ミッドウェイの部隊は多くはない。TEXチームに対して苦戦を免れないだろう。
そのためにも少しでも多くの戦力が必要なのである。
ミュルメコレオは機体もパイロットも少ないジュワユーズにとっては都合がよい機体であった。
アルベルトはあまり好まないが。
「で、だ…用件とは何だ」
アルベルトはタバコをくわえ、火をつけた。


500 : ◆gnI8YzVxOo:2011/07/04(月) 02:29:01
>>497
「はい、数は揃えてあります。存分に使い捨てください」
レヴァンはにこやかに答える。スーツの仕立てといいなめらかな肌といい、この男の戦場には場違いな華やかさにミツヤは鼻白みそうになった。
「用件、ということもないのですが」
レヴァンは顎に指を添えた。何でもない仕草すら絵になるようだった。
「あなた方は、神出鬼没の3体の特機を知っていますか? テロ撲滅に血道を上げる、陸海空をゆく鬼神の如きスーパーロボットチームです。僕が以前周旋した組織がいくつか彼らの手によって潰滅しているのですが、そのことに関して何かご存知ではありませんか?」


550 : ◆OLze.DQMEw:2011/07/04(月) 21:36:18
>>500
「…元DCの兵という情報は手に入れている」
アルベルトはタバコの煙を吐きながら答える。

前大戦時、DCで開発されていたが、結局間に合わなかった機体…
3機の機体が合体、分離、変形をすることにより、様々な状況に対応し、
さらには他の機体を陵駕するパワーで敵を粉砕する…

「ただ、同士だった者であっても邪魔をするならば討つのみだ」
アルベルトの決意……それは何が起ころうとも決して変わらないものであった。
ビアン総帥の意志を継ぎ、異星人から地球を守る。自分を自ら勧誘しに来たあの偉大なる指導者の意志を……

アルベルトは短くなったタバコを置いてあった灰皿で消した。
「私はこれで失礼する。トウドウ少佐、彼のことは頼んだ。」

【ミッドウェイ基地 地下格納庫 最深部】
アルベルトは会議室を出た後、基地の最深部にある格納庫に来た。
「調整はどうなっている」
「ブラックホールエンジンは安定してきました。オリジナルよりも高水準です。」
アルベルトが見上げると、そこには漆黒の機体が佇んでいた。
見る者を圧倒する威圧感を放つ機体である。

(アイネイアス…私達の戦いはもうじきだ…)


552 : ◆vGTe9D4z5Y:2011/07/04(月) 21:55:33
>>550
「では、予定通りこの若造は私が預かる、ということで良いな」
ミツヤの方をちらりと見ながら、アルベルトに返す。
「なに、とって食うようなことはせんさ。よろしく頼むよミツヤ曹長」
にやりと豪快な笑みを浮かべる。
「……使い物になるようには鍛えるつもりだがね」
これからミツヤを待っているのは、トウドウによる地獄の特訓であった……。


553 : ◆gnI8YzVxOo:2011/07/04(月) 22:06:45
>>550
退出するアルベルトの背を見送るレヴァン。
どうせなら詳細な資料も欲しいところだったが、こちらから切り出す訳にも行かない。

「え、あ、アルベルト少佐?」
部屋に置いてけぼりにされたミツヤは哀れっぽい声でアルベルトを読んだ。無論返事はない。

>>552
「ど、どういうことですか! アルベルト少佐!」
アルベルトがもはや振り向かないことを知っていても、叫ばずにはいられないミツヤだった。
トウドウの方を向くと、豪快、というか猛々しい笑みを浮かべている。
「あら、大好きなアルベルト少佐に捨てられたの、サイダー君?」
ミツヤの耳にはレヴァンの揶揄も届いていない。彼の脳裏は真っ白になっていた。


554 : ◆vGTe9D4z5Y:2011/07/04(月) 22:43:27
>>553
「ミツヤ曹長、君はアルベルトを崇拝しすぎている。そのような考え方では萎縮してしまい実力の半分も出せない」
トウドウのパイロットとしての戦歴はすでに20年を経ている。連邦軍でも教官を務めていたこともあり、観察眼は尋常ではない。
手柄を焦る気持ちが、失敗を産む。
「だから、私のところに回された。捨てられたからではない」
おそらく自分の元でこのことを理解できなければ、ミツヤは死ぬことになる。トウドウはそう考えていた。
「やれやれ、厄介なことだ」
そういうと新しいタバコを手にとり、火をつけた。


563 : ◆4XE5C9HT4s:2011/07/05(火) 00:29:04
TEXチームが新たな仲間を迎えたのと同じ頃。
さる海域の奥深く、光及ばぬ静寂の底を這う、巨大な艦艇の姿があった。
「ヒヒヒ、連邦め。ご自慢の最新鋭機を2体も奪われたようじゃのう。
ああ痛快、気分爽快! のう、マリよ!」
その艦橋と思わしき空間では、痩せさらばえた老人が、外見不相応の精力的な所作で、バチバチとコンソールを叩いていた。
「お父さん、喜んでる場合じゃないでしょ? 結局そいつら、ジュワユーズの手に渡っちゃったんだし」
傍らの計器の前で眉を潜めているのは、どうやら彼の娘らしきポニーテールの少女だ。
その凛とし佇まいやホットパンツから除くすらりとした脚線は、怪物じみた老人の姿とはおよそ似つかない。
「だが、伊豆とニューグレンジ、どちらにも手出しをせずに静観した甲斐はあったようだ」
「うむうむ。お前の目星が当たったようじゃの。シン」
シンと呼ばれた男は、二人の後ろに位置する、恐らくは艦長席に深々と体をもたれた態勢のまま、
やたらと長い自らの前髪を目掛けて、ふうっと白煙を吐き出した。
「両基地からの撤退経路から、合流予測地点を割り出せた。奴らの根城の一つは間違いなく……」
「ミッドウェイか。懐かしいもんだぜ」
昇降用エレベーターのモーター音と共に、艦橋に新たな人影が現れる。
ボロボロの野戦ジャケット超しにも感じ取れる筋肉質の体躯と、手入れとは無縁のボサボサの長髪が、いかにも荒くれ者といった風体を形成している。
「ああ。明朝、奪った2機の搬入を狙って奇襲をかける」
「これまでにない、大規模な戦いになりそうね。
連中、近頃は妙に戦力が充実してるようだし、どれだけの防衛網を敷いてることか…」
そんなマリの言葉を、男は鼻息ひとつで一蹴してみせた。
「虫ケラが何匹沸こうが、纏めてぶっ潰してやるまでよ」
「ヒヒッ、その通り! それでこそジョウじゃわい!」
「はぁ、まったく…」

万能移動要塞、トランザーベースは人知れず海中を往く。

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最終更新:2011年07月13日 16:26
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