りんご飴は自身のデイパックに入れられたジョーカーのトランプと携帯電話を眺めていた。
ジョーカーは大富豪最強の『2』や革命中の『3』に勝てる唯一のカード。即ち切り札だ。
このカードを如何に上手く運用するかによって勝利が決まるといっても過言ではない。少なくともりんご飴はそう思っている。
だが、今この場に於いてジョーカーのカードはその意味を成さない。肝心なのは細かく端に書かれた電話番号だ。
彼は全ての解読を終えると携帯電話に入力。通話を試みる。

「こんばんは、革命者さん!こんなバカの一つ覚えみたいな仕掛けでこのりんご飴ちゃんを試すなんてナメた真似してくれるじゃねーか」
「うん。まあナメてはいないのだけれど、とりあえず話を聞いてね。
君はこの殺し合い以前から僕と関わりがあることに気付いているかな?
「関わりどころか見た覚えすらない」
「うん。だからその辺を含めた諸々を話すために君に電話をかけてもらうことにしたんだ。ご静聴を願うよ」

初めの言動こそ乱暴ではあったが後の対応は至って冷静。
常人ならば躊躇するであろう『主催者に電話する』という行為を迷い無く実行したようにりんご飴の態度はこの状況でも普段と変わらない。

「ある日の深夜のことだ。何かを革命しようと散歩していた僕は二丁拳銃の少女と黒服の男が戦っている場面に遭遇した。
  革命狂いやテロリストなんて呼び方をされている僕が言うのもあれだろうけど、制服姿の少女がマフィアを圧倒するという異様な光景だったよ」
「圧倒的に強い二丁拳銃の少女?それはりんご飴ちゃんのことを言ってるのかなぁ?」
「うん。結局その時は君が何処かに行ってしまったのだけど、いつの間にかりんご飴ちゃんは裏社会で有名な存在になっていたんだよね。
 そこで僕は自己肯定・進化する世界(チェンジ・ザ・ワールド)を使って君の情報を調べ上げた。余すところなく、徹底的にね」

自己肯定・進化する世界――
あの反則染みた能力ならば本人にバレることなく情報を集めるのも簡単だろうと得心する。
現実離れした常識外れの能力だが、彼は最初の演説で何の変哲もない少年をワールドオーダーに書き換えるパフォーマンスを披露している。
あれが現実である以上、起こったことをそのまま受け入れるしかないだろう。

「そして気付いたんだ。君はどこか僕と似た思想を持っている。
スリルを求めるという名目で不変の日常を変えたかったんだろう? 名前を改名したのも些細なことだけれどそれも立派な革命さ」
否定はしない。革命という大きな目標はなくとも平凡な日常に飽きて非日常に身を投じたのは事実だ。
りんご飴は無言で次の言葉を待つ。

「新たな革命家の誕生に喜んだ僕は一つのプレゼントを贈った。それが数多に存在する世界を繋ぐ能力。
 君がヒーローに勧誘されたり悪人たちと喧嘩している間に別個に存在していた世界は一つのモノへと変化していたのさ
 『りんご飴はあらゆる世界を渡り歩くことが出来る。りんご飴が訪れた世界は別の世界と繋がる』
 先輩から与えられた能力で強者たちと戦えて楽しかったかな? 僕は間接的に革命を手伝ってくれた君に感謝しているがね。
 大規模な革命と同時に君の進化も促せて一石二鳥だったよ」

ワールドオーダーから告げられた真実を前に、りんご飴は動じない。
自分が覚えていない一方的な関係という面から自分に何らかの能力が仕掛けられていることは察していた。
『世界を繋ぐ能力』にしても、以前から奇妙な違和感はあった。
そもそも殺し屋組織のような人間しかいない筈の世界に突如として怪人が現れました、だなんてまるで何かのフィクションとしか思えない出来事だ。
自分が原因だったことに対する驚きもあったが、それ以上に納得したという気持ちが大きい。

「井の中の蛙は一人の革命家によって大海を知り、道化師となった。
 今の実力では異形に勝てるかどうかもわからないヴァイザーにすら及ばない君がスリルを追求する一心で強敵に挑む姿は滑稽な道化という他ないだろう。
 まあ僕は君のそういう所も買ってるんだけどね。万全の対策や作戦を練ってから戦うなんて人間臭くていいじゃないか。
 そういうことで君にはこの殺し合いで道化師(ジョーカー)としての役割を担ってもらいたい。
 了承してくれるなら特別に参加者の詳細名簿や強力な装備をあげよう」

「やだね。つーか、どこの組織(スート)にも属さない切り札(ジョーカー)に爆弾内蔵の首輪なんてつけて何言ってるんだお前。
 首輪付けたから従順な犬になれって言いてえのか? でも残念、生憎とりんご飴ちゃんは狂犬なんだよ。あまりナメてると噛み付くぜ。
 それにヴァイザーは最強の男だ。このりんご飴ちゃんを燃え上がらせた至高の悪人なんだよ。
 お前如きがペラペラと偉そうに語りやがって、ふざけてんのか? 表舞台にすら上がれない裏方野郎が粋がってるんじゃねえ!」

宿敵と定めたヴァイザーへの侮辱とも取れる発言。己を道化師と蔑まれても感情を露わにしない彼が怒ったのはそんな些細な言葉だった。
初めて全力で挑み、圧倒的な力の差を思い知らされ、最高のスリルを体験させてくれた人物。
スリルに満ち溢れたあの刹那を再び味わいたい――――
そんな願いを抱き始めたのはいつからだろうか。

「彼を侮辱したつもりはないんだけど、誤解されたかな?
 君の言う通り僕は裏方の人間だ。決して表舞台に上がることは出来ないし、上がってはならない。
 代わりにもう一人の僕を表舞台の役者として用意してあるけどね。君がその気なら僕と戦ってみると良い。
 ジョーカーの件については忘れてくれて構わないよ。君が乗ってくれないことも予測していたからね。
 魅せてくれ、殺し屋狩りの道化師。僕と踊って人間の可能性を――」

ぐしゃり。
相手が話終える前に携帯電話を踏みつけると、りんご飴は口元に不敵な笑みを浮かべた。
聞きたいことは聞き終えた。これ以上話しても時間の浪費でしかないと結論付ける。

「しょうがないにゃあ……いいよ。
 そこまでりんご飴ちゃんとヴァイザーくんの行為を邪魔したいならお望み通りぶっ潰してやるよ、間男がァ!」

ジョーカーのカードを空中に投げると支給された銃で射撃。狙いを定めて発射された弾丸が道化師の絵柄を撃ち抜くと力無く地面へ落下。
この宣戦布告を以ってりんご飴はワールドオーダーと敵対することを決意した。


【B-10 廃村/深夜】
※壊れた携帯電話と道化師の絵柄が撃ち抜かれたジョーカーが放置されています
【りんご飴】
[状態]:健康
[装備]:ベレッタM92改(残り14発)
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム1~2(確認済み)
[思考・行動]
基本方針:殺し合いの中でスリルを味わい尽くす。優勝には興味ないが主催者は殺す
1:参加者のワールドオーダーを殺す。ヴァイザーとはその後に遊ぶ
2:ワールドオーダーの情報を集め、それを基に攻略法を探す
※ロワに於けるジョーカーの存在を知りましたが役割は理解していません
※ワールドオーダーによって『世界を繋ぐ者』という設定が加えられていました。元は殺し屋組織がいる世界出身です
※ジョーカーのカードと携帯電話はランダムアイテムに含まれていません。

【ベレッタM92改】
殺し屋組織御用達の銃。弾数15発。
通常のベレッタM92と違い反動がない。剣をも受け止めることも出来る程に頑丈な作り 。

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最終更新:2015年07月12日 02:12