誰もいない静まりかえった夜道を、一人の男が歩いている。

引き締まった肉体をライダースーツで包む彼の両目に燃える炎……人々に殺し合いを強いる怪人ワールドオーダーへの怒りの炎は
爆弾入りの首輪を着けられても些かも減じてはいない。
彼の名は氷山リク。もう一つの名をシルバースレイヤーという。

シルバースレイヤー・氷山リクは改造人間である。
彼を改造したブレイカーズは世界制覇を企む悪の秘密結社である。
シルバースレイヤーは人々の自由と平和のために悪魔の軍団と戦うのだ!


(……山くん)
「!」
夜道を歩くリクの耳が、幽かな人の声を捉えた。

(氷山くん)
それは改造人間である彼の耳にしか届かないような幽かな声。
しかし間違いなく彼の名を呼ぶ声だった。

リクは道を外れ、声のする茂みの中へと入っていく。

「誰かいるのか」

この声が自分を誘う罠だということも充分ありえる。
しかし万が一にもその声が助けを求めるものである可能性があるなら、見過ごすことは彼にはできなかった。

「氷山くん、こっちだよこっち」
果たせるかな、声のする場所にいたのは
いたずらっぽく笑う若い女性の姿だった。





「……なんだ、社長か」
「あー、その呼び方やめてよ。
 せめて総統閣下と呼んでほしいな」

リクの冷めた反応に、ロングウェーブの髪が特徴的な娘はわざとらしく頬を膨らませる。
その様子からは、彼女……雪野白兎が社員200人を抱える新進気鋭のベンチャー企業の社長とは
ましてや世界征服を目指す(自称)悪の組織の首魁だとは想像もつかないだろう。

シルバースレイヤー氷山リクと秘密結社ラビットインフルのボス雪野白兎。
彼等は過去に、他の組織が起こした事件を捜査する経緯で出会っていた。
主張的には相容れない同士だが、ラビットインフルの武力を使わず人を苦しめず平和的に世界征服するという方針のため
お互い戦いに到ることはなく、最近では腐れ縁的な知り合いとなっている。

「なんだかとんでもない事に巻き込まれちゃったねぇ。氷山くんはこれからどうするの?」
「決まっている。俺は人々を守り、ワールドオーダーと奴の仕掛けたこの殺人計画を叩き潰す。
 それだけだ。……そういう社長はどうするつもりだ?」
「ふーん、さすが正義のヒーローだね。
 ……ま、私としても人を誘拐して脅迫して殺し合いをさせるなんて腐ったやり方気に食わないし、乗るつもりはないけどね」
「そうか」
穏やかに、しかしその底に怒気を滲ませて答える白兎に、リクは安堵と同時に呆れたような目を向ける。

「しかし……とても悪の組織の首領とは思えんセリフだな。
 ……いい加減世界征服なんてやめて普通の企業になったらどうだ? 業績いいんだろ」
「あら、わかってないなあ氷山くんは。悪はロマンよ。
 氷山くんこそヒーローやめてうちに就職しない? 給料良くしとくわよ」
「お断りだ」






「ナハト・リッター……それにボンバー・ガールまで連れてこられたのか!」
ひと段落した後、リクと白兎はデイパックの中身、特に名簿を入念にチェックしていた。

「ナハトのおじさんと花火ちゃんもいるの?」
「ああ、不幸なことだが、彼らがいればこれほど頼もしいことはない。
 社長の方はどうだ。知ってる名前は――」
「うん……うちの社員の蓮ちゃんと……葵の名前がある」
「それって……佐野さんと空谷さんか!?」

その二人の事はリクも知っていた。
佐野蓮はラビットインフルの社員で陽気な巨漢だ。リクと同じくブレイカーズと深い因縁があるらしい。
空谷葵もラビットインフルでバイトしている時に顔を合わせている。たしか白兎の高校時代からの親友だったはずだ。

「はは……参ったね。二人とも簡単にやられるようなタマじゃないと思うけど」
「…………」
二人は仲間たちと同時に、恐るべき敵の名前も見つけていた。
「秘密結社ブレイカーズ大首領・剣神龍次郎……!!」


「氷山くん、これって……」
「あいつも連れてこられたのか、それとも自ら望んで参加したのか……。
 いずれにせよ危険だ。あいつは……自分の尺度で弱者と、劣っていると決め付けた者を容赦なく踏み躙る。
 その上、大幹部の大神官ミュートスまでいるとはな……。藤堂博士やその部下のアンドロイドがいないのがせめてもの救いか。
 それにこの森茂、半田主水近藤・ジョーイ・恵理子という名前は――」
「悪党商会ね。悪党と正義のヒーローに居場所を与えることを目的として活動する老舗犯罪組織。
 その活動内容から一部ではヒーローショーの劇団なんて揶揄されてるけど」
「ああ……だが奴等はその『ヒーローショー』の過程で何の罪もない人々を苦しめる。
 巻き添えで死んだ人間や正義と悪のバランスをとるという名目で暗殺されたヒーローも少なくない……。
 ブレイカーズとは別の意味で危険な連中であることは間違いないぜ。
 ――というか社長、よく知ってるな。悪党商会の目的なんて連中の身内ですら知らない奴もいるのに」
「ふふふ、同業者の情報はちゃーんと調べておかないとね。
 うちみたいな新参は特に。秘密の情報網とか使って――」
「秘密の情報網?」
「おっと!ここから先は企業秘密だよ。
 氷山くんがうちに来てくれるのなら教えてあげてもいいけど」
「お断りだ」

「俺はこの近くで人の集まりそうな場所を探ってみるつもりだ。社長も一緒に来いよ」
「こんな時にデートのお誘い? 意外と積極的なのね。葵が妬くわ」
あいかわらず茶化すような笑顔の白兎に、リクは仏頂面で応じる。
「馬鹿な冗談言うな。あんたを保護するためだ。
 俺の使命は人を守り悪を倒すこと。……殺し合いをする意志がないならあんたも保護対象だ」
「あら、私だって悪の秘密結社の総統よ。
 ヒーローに守ってもらうほど――」

一瞬、白兎の纏う空気が変わる。
そして次の瞬間、改造人間であるリクが反応するよりも早く
白兎の拳が彼の顔の前に突き出されていた。

「――やわな鍛え方はしてないわ」

「……ふん、ならば何故俺をここに呼び寄せた?」
顔の前で寸止めされた拳にも動じず、リクが無愛想なまま話を続けると
白兎はニッと笑って突き出した拳を開く。

「つまりこういうこと」
「は?」
「共闘」
「共闘?」
「そう。このむかつくバトルロワイアルを破壊するまで
 正義のヒーローと悪の総統、立場を超えて協力しようってこと。束の間の握手」
「……成る程な」
リクは半ば呆れた、半ば感心したような顔をすると、差し出された手を握った。





こうして正義と悪、異なる道を歩く二人の若者が
並んで闇夜の道を歩き始めた。

彼らの行く先にあるのは光の未来か。
それとも絶望の闇か――――


【I-6 道路/深夜】

【氷山リク】
状態:健康
装備:なし
道具:基本支給品一式、ランダムアイテム1~3(確認済み)
[思考・状況]
基本思考:人々を守り、バトルロワイアルを止め、ワールドオーダーを倒す。
1:雪野白兎と共に人の集まりそうな施設に向かう。
2:剣正一火輪珠美、佐野蓮、空谷葵と合流したい。
3:ブレイカーズ、悪党商会を警戒。
※ブレイカーズ、悪党商会に関する知識を得ています。

【雪野白兎】
状態:健康
装備:なし
道具:基本支給品一式、ランダムアイテム1~3(確認済み)
[思考・状況]
基本思考:バトルロワイアルを破壊する。
1:氷山リクと共に人の集まりそうな施設に向かう。
2:佐野蓮、空谷葵、剣正一、火輪珠美と合流したい。
3:ブレイカーズ、悪党商会を警戒。
※ブレイカーズ、悪党商会に関する知識を得ています。

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最終更新:2015年07月12日 02:13