「海か…静かなものだな…」

青い肌に二本の角を生やした魔族の男―魔王ディウスは灯台で海を眺めていた。
万物が生まれた場所であるとされる海を眺めながら、彼は考えに耽っていた。
もちろんこの殺し合いにおける戦略だ。この場ではいかにして考えて動くかが重要になる。


もっとも魔王はこの殺し合いに積極的に乗る気はなかったのだが。


確かにこの場には殺すべき人間がたくさんいる。が、この会場にいる人間全員を合わせても元居た世界の人口のほうが遥かに多いのだ。
こんなところで時間を潰している暇ははっきり言ってなかった。
なら皆殺しにして脱出すればいいかと言うと、そうでもない。自分の部下がこの場にいる以上、全員を殺して脱出と言う選択肢はない。
ワールドオーダーに反旗を翻すというのもあるが、それでは時間がかかりすぎる。

故にこの場における行動はただ一択。首輪の解除に専念する、ただそれだけだ。


色々考えた挙句、彼は虚空に右手を差し出した。

「Etag」
そのまま呪文を唱える。すると目の前に一つの扉が現れた。禍々しい色をしたその扉を眺めながら続いて呪文を唱えていく。

「NepO SseRdA NO ??????」
いよいよ人には聞き取れない言葉を紡ぎながら、魔王は魔力を込める。
すると扉はギギギと音を立てながら開いていく。その扉の先には見覚えのある部屋がある。
かつて尖兵―サキュバス―を送り込む際にも見た部屋だ。

「ま、魔王様!?えへへ、お久しぶりです」
ゲートが開いたことに気づいたのか、家主が魔王に問いかけてくる。
サキュバスは今から出かけようとしていたのか、服装を整えている。
それはいいのだが、さっきの自分を見た時の「やべ、親に見つかった」というような表情はなんなのか。

「おい、偵察任務してるんだろうな?」
「それはもちろん、きちんとこなしていますよ、えへへ」
してなさそうだ。少し小言を言いたくなったが、今は我慢して話を進めることにしよう。


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「サキュバス、お前今から出かけようとしてたんだよな、ならついでに頼まれてくれ」
「え、何をでしょう?」
「ああ、俺はしばらく旅に出ようかと思うんだが、せっかくなんでそっちに行ってみようかと思うんだ」
「えぇ!?いや、魔王様がこちらに来ることはないかと思いますが?」
「そういうな、でお前にはその世界の観光スポットを探ってほしいんだ」
「いやですから、来る必要は…え?」
「そうだな、具体的にはゆったり寛げるものが望ましい。そういうスポットを探し出して俺に提出してくれないか?」
「え?え、えぇそうですね、魔王様がそこまでおっしゃるならこのサキュバス、身をこの地に沈める思いで取り掛かることにします」
「そこまで本気じゃなくてかまわんよ、ではまた連絡するから、その時までに頼むな」
「わかりました、では」




 ○ ○ ○

「…な、なんだったんだろう、今の」
サキュバスは目の前で閉じる扉を見つめながら、そう呟いた。
その手には魔王様から頂いた手紙がある。表紙には『この場は合わせてくれ』という文字がでかでかと書かれている。

「いったい何を書かれていたのでしょう?」
もしかしてラブレターだったりしてー、などと思いながら読んでみたが至って普通の業務連絡であった。
がっがりしながらも読み進める。内容は下記のようなものだ。

『殺し合いに巻き込まれた、おそらくその世界の住人に協力者がいたはずだ。
 今はおそらくワールドオーダーの補助についているんだろうが、痕跡を完全に消すことなどできないはずだ。
 お前には、その痕跡を探り出してもらいたい。頼まれてくれ』

「ふーむ、なるほど…理解しました」
確かにサキュバスは偵察要員として派遣された。こういう諸作業が本来の役割ではある。
だがサキュバスは戦闘要員ではない。夢に誘うしか能のない低級魔族だ。
相手は魔王様すらも幽閉できる存在だ。はたしてこういったことに自分は役立てるだろうか。

「まぁでも、あの魔王様の頼みですし、無下にするわけにはいかないですよね」
ため息を漏らしつつも、サキュバスは意志を固めた。上手くいかないにしても、このまま立ち往生するわけにはいかない。
あの魔王は魔界の救世主なのだ。この場で失っていいお方ではない。
そうして手紙をもう一度見直す。そこには小さくこう記されていた。

『次の連絡六時間後だからよろしく』

サキュバスは急いで、潜入を依頼された組織に向かって飛び立っていった。

 ● ● ●

「ここまでは予想通りだな」
ワールドオーダーはこう言った。エリア外に出ると首輪は爆発すると。
だが逆に言えば、それ以外の用途でなら異世界との扉を繋げたとしても御咎めはないということだ。
もともと異世界に渡る術を会得していたディウスにとって、この程度の呪文を唱えることは容易かった。

それに自分以外にもどうやら異世界とのリンクを獲得した者がいたようだ。
通信してる最中に、微かだが時空震を感じたので間違いない。
そいつはそのままその世界に帰って行ったようだが、まだ首輪がある魔王はそうはいかない。

―しかしこの短時間で首輪を外せるとは、恐ろしい奴もいたものだ

とはいえ、魔王も黙っているわけではない。
自分は首輪さえ外すことができれば、いつでもこの場から離脱することができるぞというアピールをしたのだ。
あとはサキュバスが上手く事を運んでくれればいいのだが、サキュバスだけが救いではない。

ここに来る前に受けていた彼女の報告には面白いものが多々あった。
ヒーローだの悪党商会だのさまざまな結社が動いているさまは聞いているだけでも楽しかったが、特に耳を傾けさせるような報告もあった。

藤堂兇次郎という男の話だ。彼はなんと改造手術を行うことで、人間を魔族に変えるらしい。
人間風情が魔族になるなど、おこがましいにも程があると思ったが、しかしその技術力は素晴らしいものではある。
そして、その友人であるミルという女子もまた科学者なのだそうだ。

さらにそのミルという人間はこの場に招かれている。この時点で魔王はこのミルに協力を仰ごうと思った。
人間などの手を借りなければならないのは業腹であるが、背に腹は代えられないのも事実だ。
幸い自分には世界を行き来する力がある。女性が首輪を解除して、自分が世界に連れて帰る。これほどwin-winな関係もそうないと思う。
そうして協力を持ちかけたミルに首輪を解除させた後は、この場にいる二人の部下を連れて元居た世界に帰る。これで終了だ。

この場に連れてこられている部下は、暗黒騎士ガルバインだ。
暗黒騎士もガルバインも優秀な部下だ。少なくとも人間にやられるようなことはないだろう。

となると、優先すべきはミルの方だろう。彼女は有能な科学者かもしれないが、弱い人間であることに変わりはないのだ。
目を離しているすきに、死んでしまわれては困る。


「Ylf」
魔王は空へと飛び立った。灯台を階段から駆け降りる手間を省くためだ。
それに人を探すなら空から探した方が確実に早い。
その分狙撃されるリスクも高まるが、そう簡単に撃ち落とされるほどヤワではないし、その前に見つけ出せばよいだけのことだ。
探すのは人間の女の子。情報量が圧倒的に少ないが、そう子供が何人も参加しているわけではないだろう。

「科学者を保護して、部下も助ける…やれやれ、勇者と戦うよりも難易度高いかもな」
そういって彼は空を飛んで行った。
彼はここまで自信満々に語っていたが、二つ思い至らなかったことがある。
一つは、彼の所業を知っている者がミルと合流していた場合、ミルは絶対に協力しないだろうという事。
もう一つは彼の側近である暗黒騎士はすでに斃れているということである。


そのことに彼が気づくのは何時になるのか、今はだれにも分からない。

【D-3 灯台付近上空/深夜】
【ディウス】
【状態】:健康、魔力消費(小)、飛行中
【装備】:なし
【道具】:基本支給品一式、ランダムアイテム0~3個
[思考・状況]
基本思考:首輪を解除して、元居た世界に帰る
1:ミルを探し出して、保護する。
2:暗黒騎士、ガルバインと合流する。
3:サキュバスに第一回放送後に連絡する。
※何者か(一ノ瀬、月白)が、この場から脱出したことに気づきました。
※ディウスが把握している世界のみゲートは繋げることができます


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最終更新:2015年07月12日 02:20