「ねー、せんせい。せんせいがいちばんしあわせなときっていつ?」
「それはね、みんなと遊んでいるときよ。先生はみんなと一緒にいるだけで幸せなのよ」
「え?でもせんせい、いまはだかのおとこのひとのことかんがえてたよ?」
「ままー、このたいそうのおねえさん、おかねのことしかかんがえてないよ」
「あら、よく分かってるじゃない実花子。あなたのそういう鋭い所、私好きよ」
「わたしもおかあさんだいすき!」
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病院のとある一室で、一人の女子中学生が、名簿を読んでいる。
「双葉ちゃん、童貞、
詩仁恵莉、
斎藤輝幸、
尾関夏実。私の知り合いは5人か」
殺し合いの場でいながら、割と冷静なこの少女の名は
初山実花子。つまり私だ。
私の初期位置はこの部屋。意識が覚醒した私がやったことは、名簿と支給品の確認だった。
結局名簿に載っていた自分の知り合いは5人。
裏松双葉。クラスメイト。私のことを避けてる。
『男性恐怖症』という『嘘』をついている女の子。信用できない。
もし、この殺し合いの場で会ったらどうするか。
日常でも仲良くできない少女と非日常で仲良くできるわけがない。
殺し合いにこそ発展しないと思うがが、一緒に行動しないほうが賢明だろう。
尾関裕司。筋肉。こういう場ではあの体は頼りになるかもしれない。
でも、所詮中学生だからそこまで期待しない。
「ど、どどど童貞ちゃうわ!」ってこの前言ってたけど、あれ『嘘』だったから童貞は確定。
双葉ちゃんと比べて扱いやすそうだし、そこそこ仲は良いから合流するべきかもしれない。
詩仁恵莉。なんかやばい子。
よく電波みたいな独り言を呟いてるけど、全部『本当』だからたちが悪い。
できれば会いたくない相手。会ってもすぐ逃げる。
斎藤輝幸。違うクラスの男子。名前と顔は知ってるけど、喋ったことは一度もない。
あんまりいい噂は聞かない。
尾関夏美。童貞の姉。
童貞を半殺しにしたことがあるらしいが、あのマッチョマンをぼこるとはなかなかの剛の者だと思う。
そう、私にはある能力がある。
『他人の言葉の真偽がわかる程度の能力』
元々は言葉どころか心の内まで全てを読む読心能力だったのだけれど、年齢を重ねるにつれてだんだん劣化。
今ではただの人間嘘発見器だ。
まあ昔から周りの人間の心の声が聞こえた結果、私は周りの子供より冷めた性格になってしまったのだけれど。
幼稚園の頃から先生や友達のお母さんを通して大人の心の闇を見せられ続けられるのだ。
小学生高学年のころに能力が薄れてきた時は、逆に嬉しく思ったほど。
もちろん、学校や家では私は年相応の可愛らしい女の子を演じている。
親にも自分の能力は明かしていない。
名簿を確認した私は支給品の武器を構える。スパス12。それが私に支給された武器だった。
銃にはほとんど詳しくない私だけれど、一緒に配布されてた説明書を読むと、それが散弾銃だということがわかった。
なかなかの当たり武器。
他の支給品もわりと面白かったのだけれど、やっぱり他者にも脅威がわかるこの武器はつねに手元に置いておこう。
さて、私は今からどうやって行動するべきか。
せっかく散弾銃があるんだしこんなのはどうだろ。
とりあえず他者に会ったらこれを突きつける。
そして、『ゲームに乗っていますか?』と尋ねるのだ。
もちろん相手は『乗っていない』と答えるだろう。その状況で『乗ってる』なんて答える奴は馬鹿だ。
もしその言葉が本当なら、銃を下ろして一緒に行動。
私は可愛いから、正義感の強い人ならきっと守ってくれるだろう。
もしその言葉が嘘なら迷わず発泡。適当に足か腕に何発か当てて無力化して、支給品を奪って逃走。
「完璧ね」
まて、相手が銃でもどうしようもない化物だった場合。
さっきの大広間に居た鬼みたいな怪物なんかだ。
こういう相手はどうする。
決まってる、私の切り札を使えばいい。
「
ワールドオーダーの言葉の真偽」
そう、それが私の切り札。
さっきの開会式でのワールドオーダーの言葉にはいくつか『嘘』が紛れ込んでいた。
この情報は他の参加者にとって貴重なはずだ。
上手く使えれば、大きなアドバンテージになる。
「よーし、なんか生き残れそうな気がしてきたよ」
クラスで普段使っている口調で喋りながら、私は鞄を肩に下げ、スパス12を両手で持つ。
この部屋から出て、行動を開始しよう。
そういえばこの部屋はなんなのだろう。
最初から何故か電気が点いていたので名簿の確認はスム-ズに出来た。
殺風景な部屋だが、なぜか大きな冷蔵庫のようなものがある。これってなんだったっけ。
誰かの心の中で見たことがあるのだけれど、どんな用途だったのか思い出せない。
まあ、たいして重要じゃないしいいか。
部屋の外は、私にとって馴染みが深いわけではないが、何なのかは理解できた。
「ここって病院じゃん」
僅かに灯った非常灯。
長い廊下に点々と続くそれは、ホラー映画のワンシーンのようでどこか不気味だ。
私は、さっきまで自分がいた部屋を見てみた。外に掲げられているプレートにはこう書いてあった。
『霊安室』
ということは、あの冷蔵庫のようなものの中に入っていたものは……。え、まじで。
「びびってないわよ。私は殺し合いの最中なんだから、死体の一つや二つでびびるわけないじゃん」
そりゃあさっきまで死体のあった部屋に一人っきりだったって考えたらちょっと怖いけど、それだけ。
リアクションするまでもない。しようとも思わない。
こんなのでいちいち驚いてたら、先が思いやられる……。
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォン!
突如、霊安室の中から大きな音が聞こえた。
私は全力で駆け出した。
【C-5 病院/深夜】
【初山実花子】
状態:健康、現在動揺中
装備:スパス12(22/22)
道具:基本支給品一式、ランダムアイテム1~2
[思考・状況]
基本思考:生き残る。
1:きゃああああああああ!出たあああああああ!(霊安室から全力で遠ざかる)
2:誰かに会ったら銃を突きつけて質問する。
3:『ワールドオーダーの言葉の真偽』は上手く使う。
[備考]
※ワイルドオーダーの言葉にはいくつか嘘がありました。どの部分が嘘なのかは後続の書き手さんにお任せします。
※霊安室に『何か』います。
※霊安室は病院の地下2階にあります。
【フランキ・スパス12】
イタリアのフランキ社が設計した散弾銃。先端部のボタンを押しながらフォアグリップを切り替え位置にずらすことで、自動式(セミオート)から手動式(ポンプアクション)に切り替えることが可能。
最終更新:2015年07月12日 02:23