D-9 草原。
そこには小柄な幼女が名簿を片手に呆然と佇んでいた。

「亦紅、ルピナス。二人も巻き込まれてしまったのか、この殺し合いに」
羅列された名前には幾つか見覚えのあるものが含まれていたが、幼女が真っ先に目を付けたのは友の名だった。
絶対に見たくない名が二つも連ねられている。まるで悪夢のような光景だ。
試しに頬を叩いてみるが、やはりその名は消えない。何故ならこれは紛れも無い現実なのだから。

「……ミルたちは三人まとめて目を付けられたというわけか。まったく。ほんとは真実から目を背けたい気持ちもあるけど、友がいるなら立ち向かうしかない」

そう言って手を掛けたのは自身の首に巻き付けられた首輪。
それを引っ張って強引に外そうとするが、幼女の微弱な力では微塵も動かない。
次に首輪の至る所を触れて抜け道を探す。当然、解除ボタンのような便利なものは一切付いていなかった。

「むー、やっぱりそう簡単に外せないか。成果といえばこれが科学の力で作られていることがわかったくらいなのだ」

一通り思いついたことをやり終えて、ミルは結論を出す。
この首輪は高度な科学技術で製造されている。まだ素材や構造を特定するまでには至っていないが、それだけは確かな自信を持って言えた。
当初の予定では更に様々なことを知るつもりでいたが、支給品を見たところそれに使えそうな道具が何一つない。

「亦紅! ……は、いないのだったな。いつもならすぐに必要な物を用意してくれるのに」

何かあると亦紅を頼ってしまうのはミルの悪い癖だ。
日頃から頼りにしていることもあって、つい名前を呼んでしまう。
不審者に絡まれた時も、ルピナスと喧嘩した時も、どんな面倒事でも亦紅が解決してくれた。
よく亦紅が『博士は私がいないとダメダメですね』と言っていたが、まったくもってその通りだ。

「亦紅ー! ルピナスー! はやくミルのところに戻ってほしいのだ! ひとりぼっちは寂しいのだー!」

少しでも亦紅を頼ろうとしたことがキッカケとなり、ミルの感情を揺さぶる。
強がってはいても、寂しいというのが本音だ。普段は亦紅かルピナスが必ず居たこともあって、ミルには孤独に対する耐性が全くない。
気付けば瞳からは大粒の涙が溢れていた。

「お、おう。確かにそーだよな、ひとりぼっちは寂しいもんな! ていうか、よくわからないけど大丈夫か?」

ミルの声に駆け付けたのは亦紅でもルピナスでもない、青色の瞳を持った茶髪の少女。
夜風に靡く蒼いマフラーはヒーローを彷彿とさせるが、その態度はどこか頼りない。
少女は涙を流すミルを見てあたふたとしながらハンカチを差し出した。

「ほ、ほらこれあげるから涙拭けよ! あたしは空谷葵。別にてめえをとって食うわけじゃないから泣くな!」

すかさず葵から渡されたハンカチで涙を拭うミル。
『泣き落とし』はミルもたまに使うが、本気で泣いている場面を見られたのは少し恥ずかしい。
だが、見知らぬ少女に慰められたことが嬉しいのもまた事実。このまま孤独でいればどうなっていたか、それはミルにもわからない。
そんな二つの感情があわさって、ミルの涙は止まらない。ミルは満面の笑みで涙を流す。

「な、泣くのか笑うのかどっちかにしろよ! ていうか人を見て笑うなバカ! あたしは本気で心配してるんだからな」
「葵の焦る姿が可愛くて面白いから悪い! ほら、ミルは泣いてないから勘違いしないでほしいのだ」

先程までの涙はどこへやら。
葵の頑張りもあってか、ミルは泣き止んでいた。
亦紅やルピナスでなくとも、誰かと共にいるということがミルにとっては何よりも心強い。
誰かが傍にいることで、彼女は明るく元気に振る舞えるのだ。

「それにしても葵、なかなか揉み心地の良いおっぱいだな! たまには貧乳以外も悪くは……」
「うわっ! いつの間にあたしの胸触りやがったんだてめえ!」

「下心丸出しで胸を揉むミルに葵の鉄拳が炸裂!
ミルに多大なダメージを与えた!」

「サラッと捏造するな!」
「細かいこと気にしてるとハゲますよって亦紅が……」
「人の胸揉んどいて何が細かいことだ! あたしまだ処女貫いてるんだからな、お嫁に行けなくなったらどうすんだ!」
「葵は処女なの? しょうがないにゃあ、ミルちゃんはこう見えて亦紅と何度もアッーしてるから優しく手解きしてあげても……」

「てんちょー、死刑希望一名入りまーす」

流石に死刑まではしていないが、この後ミルが説教されたのは言うまでもない。

♂♀♂♀♂♀♂♀

「うう……今でも耳が痛いのだ。フォーゲルくんも居たなら葵の説教を止めてくれても良かったのに」

あれから情報交換を終え、支給品を確認していた。
そこで葵の見せた支給品の1つがフォーゲル・ゲヴェーア。ミルが発明した鳥型のロボットだ。
彼は亦紅やルピナスと違い参加者には数えられていないが、代わりに支給品として連れ去られていた。
当のフォーゲルはミルの言葉に対して『自業自得だろ』と言いたげな態度でそっぽを向いている。

「紳士なフォーゲルくんは胸を揉むような変態幼女は怒られて当然だって言いたいみたいだな!」
「そ、そうなの? でもでも、おっぱいを揉むのって紳士として当然の嗜みだとミルは……」
「へえ? じゃあ、あたしもミルの胸揉んでやろうか?」
「えっ、葵はそっちの趣味があったの? やだー、ミルちゃん幻滅しちゃうのだ」
「てめえが紳士の嗜みだって言うからだろ!」
「だってほら、ミルは元男だし? 紳士とロリの属性を兼ね備えてるから葵と違って健全なのだ」

自信満々に言い切るミルを見て葵は呆れ返っていた。
情報交換の時は元男と言ったのに、こっちがやり返そうとするとレズと言われる。
葵は『元男だというのは冗談だと思っているけど、それでもこの仕打ちは酷いだろ!』と心の中でツッコミを入れた。
声に出さないのは、大声でリアクションをしすぎて喉がそろそろ痛くなってきたからだ。

「よし、話題変えるぞ! なあミル、これからどうする? 名簿にはブレイカーズみたいな危ない奴らも載ってるけど」
「うーむ。ブレイカーズ、すっかり見落としていたのだ」

再度、名簿を確認すると『剣神龍次郎』と『大神官ミュートス』の名前があった。
亦紅とルピナスに気を取られて見落としてしまっていたが、確かに彼らはブレイカーズの大首領と幹部だ。

「バカ兇次郎が巻き込まれていない辺り、嫌な予感しかしないのだ」
「兇次郎? 誰のことだ?」
「ブレイカーズの科学者、藤堂兇次郎。研究のためならどんな犠牲も厭わないバカヤローなのだ。今まで多くの人々があのバカによって殺されてきた」
「それって、もしかして佐野さんの母親を殺したのも……」

佐野と親しかった葵は彼の母親がブレイカーズの実験で殺されていることを聞いていた。
普段は明るく、温厚な佐野があの時だけは怒りに満ちた表情をしていたからよく覚えている。
『いつかブレイカーズを潰し、復讐をする。母親を殺した科学者を■して、仇を討ちたい』
葵はたまに怖くなる。いつか佐野が復讐鬼に成り果ててしまうのではないかと。

「あのバカ以外に考えられない。それにしても母親を殺して、子供まで実験道具にするなんてとんでもない悪趣味ヤローなのだ」
「そいつはここから帰った後に、あたしと佐野さんでぶっ飛ばす必要がありそうだな。でもミル、佐野さんは実験道具になんてされてないと思うぞ」
「佐野以外にミルや葵も実験道具にされてる可能性はある。バカ兇次郎はブレイカーズに対しても忠誠心が皆無なのだ。ワールドオーダーに協力して、この首輪を作っていたとしても不思議ではない。
ほんとに迷惑極まりない存在なのだ。だからミルはあのバカが嫌い!」

正直、葵はこれまでミルの言葉をあまり信用していなかった。
ふざけている時のノリに加え、話す内容がぶっ飛びすぎて出鱈目な冗談を言っているようにしか聞こえなかったからだ。
しかし今、ミルが話していることを嘘だとは思えなかった。何よりも、彼女の瞳を見ればわかる。
兇次郎とミルがどんな関係であったかは知らないが、それでもこれは他人について語る時の表情じゃない。

「よしっ! もしその兇次郎ってやつがいたらミルとあたしと佐野さんで倒すか! 何ならタイマンでもいいぜ! そいつに言いたいこと、色々あるんだろ?」
「ありがとう、葵。でもタイマンなんてする必要はないのだ。バカ兇次郎が人々の命を弄ぶなら、ミルは絆の力で未来を切り開きたい!」
「よく言った! それじゃあチーム組もうぜ、ミル! 絆の力でバカな主催者共をぶっ倒すんだ!」

そう言って葵が取り出したのは桔梗の花の形をしたドクロマークのバッチ。『悪党商会のバッチ』と呼ばれる物だ。
6つあるうちの1つをミルに投げ、1つを自分の服に付けた。

「うむ! 絆の証、確かに受け取った!」
葵が付けたように、ミルも白衣にバッチを付ける。

「それじゃ、いっちょチーム名でもつけてみるか?」
「それはもう決まっている! チーム名は……ミルファミリー! 絆の力を尊重するなら、『家族』を意味するファミリーが最もチーム名に相応しいのだ!」
「おい、あたしの名前無しかよ! ……でもその由来は気に入った! だからミルファミリーで許してやるよ!」
「元々異論は認めないけど許してもらえたからまあいいのだ! 葵、次はアレやるのだアレ。チームが格好つける時のアレ」

ジェスチャーで懸命に説明しているミルを見て、葵の口から笑みが零れる。
終いにはノートに台詞を書き記して葵に差し出した。
多少照れ臭いが、こういうのはノリでやるものだ。それを知っている葵はミルのノリに乗ることにした。
お互い知り合って間もないが、こうして絆を結ぶのも悪くはない。

「ほらよ。そんじゃ、いくぜ!」

互いの掌を重ねる。
伝わる温もり。種族は違えど、それは人間も吸血鬼と相違ない。

「あたしは吸血鬼と人間が共存する未来のため――」
「ミルは大切な友を守り抜き、もしかしたらいるかもしれないバカの根性を叩き直してやるため――」

「「バカな主催者共を倒すことをここに誓う! 死人は出させない! 意地でも生き抜いてみせる! だから待っていろバカ共! 我らの絆で貴様の腐った野望など、必ず打ち砕いてみせる!」」

♂♀♂♀♂♀♂♀
「葵ー、ミルは歩き疲れたのだ! だからおんぶプリーズ! おんぶプリーズ!」
「イマイチ締まらねえな! ていうかどうしてあたしがミルをおんぶする必要が……」
「トマトジュースあげるから! おねがいなのだー!」
「と、トマトジュース!? そ、それなら仕方ないな。ほら、おんぶしてやるよ」

ミルが葵にトマトジュースを渡すと、それをデイパックに入れてからミルを背負った。
吸血鬼にとっては苦にならない重さだ。口だけは偉そうだが、やっぱり幼女なんだなと実感する。

「護衛のためにフォーゲルくんを渡したのはいいけど、やっぱあたしも何か武器いるよなぁ。それにしても支給品のバッチもフォーゲルくんもミル持ちってすごい状況だ」
「む?」
「なんでもねーよ。あたしの独り言だから気にするな! それで、次はどこ行く?」
「葵に任せるのだ! ミルは首輪を外すためにがんばるから、葵も歩くのがんばれなのだー」

【D-9 草原/深夜】
【ミル】
[状態]:健康、疲労(極小)、葵におんぶ
[装備]:悪党商会メンバーバッチ(1番)
[道具]:基本支給品一式、フォーゲル・ゲヴェーア、悪党商会メンバーバッチ(4/6)ランダムアイテム0~2
[思考・行動]
基本方針:ミルファミリーで主催者の野望を打ち砕く!
1:亦紅とルピナスを探す!葵の人探しにも手伝ってやるぞ♪
2:首輪を解除したいぞ。亦紅、早くいつもみたいに必要な道具を持ってきてほしいのだー
3:ミルファミリーの仲間をいっぱい集めるのだ
※ラビットインフルの情報を知りました
※藤堂兇次郎がワールドオーダーと協力していると予想しています
※どこに移動しているかは後続の書き手さんに任せます

【空谷葵】
[状態]:健康、ミルを背負い中
[装備]:悪党商会メンバーバッチ(2番)
[道具]:基本支給品一式、トマトジュース(5/5)、ランダムアイテム0~1
[思考・行動]
基本方針:ミルファミリーで主催者の野望を打ち砕く!
1:ミルはあたしが守る!
2:亦紅、ルピナス、リクさん、白兎、佐野さんを探す
3:ミルファミリーの仲間を集める
※ルピナス、亦紅、藤堂兇次郎の情報を知りました
※ミルを頭の良い幼女だと認識しています。元男は冗談だと思っています。ただし藤堂兇次郎についての情報は全面的に信用しています
※どこに移動しているかは後続の書き手さんに任せます

【フォーゲル・ゲヴェーア】
空谷葵に支給。
ミルが発明した鳥型のロボット。高度なAIを搭載している。
仲間と認識した者が指示をすることで銃に変化。周囲の風を弾丸のように撃ち放つ。
風を溜めることも可能で、溜めれば溜めるほど威力が高まる。

【悪党商会メンバーバッチ】
空谷葵に支給。
悪党商会の一員である事を示すドクロマークが描かれたバッチ
桔梗の花の形をしている。
通話機能も備えており固有のバッチ番号を知っていれば通信できる

【トマトジュース(3リットル5本セット)】
ミルに支給。
文字通りトマトジュース。
3リットルなので撲殺にも使用可。
いつもキンキンに冷えているので打ち身を冷やす手段としても有効。
吸血鬼の皆さんにどうぞ。

023.俺の知ってるバトルロワイアルと違う 投下順で読む 025.殺し屋二人とどうしようもない悪党(戦闘員)
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最終更新:2015年07月12日 02:25